春には花好きの貴女の為に、野山に咲き乱れるかぐわしい花の香りを集め、貴女の柔らかい耳元で「元気でね」と囁きましょう。
夏は暑がり屋の貴女の為に、森深い沢のせせらぎの音を携えて貴女の白い首筋に心地よい涼風を送り続けましょう。
秋には夕日に燃える色艶やかな紅葉を集め、豪華絢爛の愛の踊りを舞い続け、淋しがり屋の貴女の心を少しでも癒してあげましょう。
冬、木枯らし吹けば風の仲間に呼びかけて、私の大事な人だから優しく通り過ぎてくれと頼み、西に寒気の渦あるときは「今夜は凍れるから早く家に帰って暖かくしてお寝み」と貴女の手の甲に雪一片をそっと置いて知らせましょう。
顔合わせては優しい言葉の一つ掛けられない私の不器用さ、自分でも呆れる程ですが、風になれば何のてらいもなく本当の私の気持ちを素直に伝えられそうで、とても気が楽になりました。
昌子さん本当にありがとう。愛と感謝の意を込めて、それでも少しは照れながら愛する貴女へのラブレターを、四季折々の風に乗せて送り続けられる日が楽しみです。
谷口さんは還暦を迎えてまもなく、ALS(筋萎縮性側硬化症)という難病に倒れ、入院中に妻の昌子さんあてに書いたラブレターです。
貴女の疲れ切った顔を見て「もう何もしなくていいよ」と口では言えても、貴女に替わって庭の草一つむしる事も出来ないこの手が悔しくて涙が出て来ます。
だから今度生まれ変わって来る時は、常に貴方の側に居ても僕だと気付かれず、貴女を優しく見守ってあげることの出来る“風”になろうと真剣に願っています。風になってあなたを必ず守りたい。
そう言って谷口さんは、このラブレターを書き「60歳のラブレター」に応募しました。
このことは娘の悠子さんにだけ打ち明けられ、昌子さんには秘密にされていました。そして次の年の七月十六日に亡くなりました。
昌子さんが編集部からの連絡でこのことを知ったのは、その死から二週間後のことでした。「主人はもう亡くなっていましたし、最初はどうしようかと迷ったんですが、娘が仏壇の前で泣くんです。それで、あの手紙を本に掲載させていただくことにしました」
昌子さんは今でも時々ラブレターを読んでみることがある、と言っているそうです。
住友信託銀行が募集した「60歳のラブレター」には様々なエピソードに溢れた、心をゆするラブレターがたくさんあります。
2006.08.12
夏は暑がり屋の貴女の為に、森深い沢のせせらぎの音を携えて貴女の白い首筋に心地よい涼風を送り続けましょう。
秋には夕日に燃える色艶やかな紅葉を集め、豪華絢爛の愛の踊りを舞い続け、淋しがり屋の貴女の心を少しでも癒してあげましょう。
冬、木枯らし吹けば風の仲間に呼びかけて、私の大事な人だから優しく通り過ぎてくれと頼み、西に寒気の渦あるときは「今夜は凍れるから早く家に帰って暖かくしてお寝み」と貴女の手の甲に雪一片をそっと置いて知らせましょう。
顔合わせては優しい言葉の一つ掛けられない私の不器用さ、自分でも呆れる程ですが、風になれば何のてらいもなく本当の私の気持ちを素直に伝えられそうで、とても気が楽になりました。
昌子さん本当にありがとう。愛と感謝の意を込めて、それでも少しは照れながら愛する貴女へのラブレターを、四季折々の風に乗せて送り続けられる日が楽しみです。
-谷口 富さん(65歳)「60歳のラブレター」から-
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谷口さんは還暦を迎えてまもなく、ALS(筋萎縮性側硬化症)という難病に倒れ、入院中に妻の昌子さんあてに書いたラブレターです。
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貴女の疲れ切った顔を見て「もう何もしなくていいよ」と口では言えても、貴女に替わって庭の草一つむしる事も出来ないこの手が悔しくて涙が出て来ます。
だから今度生まれ変わって来る時は、常に貴方の側に居ても僕だと気付かれず、貴女を優しく見守ってあげることの出来る“風”になろうと真剣に願っています。風になってあなたを必ず守りたい。
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そう言って谷口さんは、このラブレターを書き「60歳のラブレター」に応募しました。
このことは娘の悠子さんにだけ打ち明けられ、昌子さんには秘密にされていました。そして次の年の七月十六日に亡くなりました。
昌子さんが編集部からの連絡でこのことを知ったのは、その死から二週間後のことでした。「主人はもう亡くなっていましたし、最初はどうしようかと迷ったんですが、娘が仏壇の前で泣くんです。それで、あの手紙を本に掲載させていただくことにしました」
昌子さんは今でも時々ラブレターを読んでみることがある、と言っているそうです。
住友信託銀行が募集した「60歳のラブレター」には様々なエピソードに溢れた、心をゆするラブレターがたくさんあります。
2006.08.12