ろうけつ染の帯
これは私の大好きな帯である。
母は私が小さい頃、淡い色の上品な色柄を好んで着せたがっていたが、
父はと言えば、ショッキングピンクに白いウサギが描かれたスカートを買って来て
「こんなの下品」と反対する母と喧嘩しながらも私に着せる有様だった。
父ははっきりした色柄でないと「子供らしくない」と言う考えのようだった。
高校の時だが、私が買ってきたベージュのワンピースを見るなり、父は言った。
「こんなぼんやりした色はダメだ。返して来なさい!」と。
「いまさら恥ずかしくて返せないよ!」すると「お父さんが返して来る」と言って
本当に返して来てしまった。
そして代わりに、緑と若緑と白の流水模様のような柄のワンピースを買って来て
「これを着なさい」と手渡すのであった。仕方なく着てみたら意外と似合っていた。
父は「お父さんは、お前に似合うのがわかるんだ」と嬉しそうに笑ったのであった。
そんな父のDNAと影響を受けて、今の私の好みが作り上げられたようである。
父は亡くなってもういないが、この帯を見せたら何と言うのだろうか、、、
父と着物談議をしたいものだ。
手挽き 玉繭紬
高校の時に買ってもらった緑のワンピースが似合っていたことから、それ以来私は
緑のものに目が行くようになった。
結婚が決まった時に、叔母までが緑の着物を贈ってくれるほどだった。
今までどれほど緑の服を着たか、、子供達からも「お母さんは緑のおばさん」と
からかわれるほど、、
そして今回も、性懲りもなく緑の着物である。
この着物は、玉繭(たままゆ)と言って、二匹以上の蚕(かいこ)が一緒になって
一つの繭を作ったもので、この繭から手で糸を引き出した{手挽き}糸で織られている。
この玉繭から取った糸で織られたこの着物には、所どころ節があり独特の味わいがある。
そして市松と鱗の二種類の織りを入れて、緑の濃淡で引き染めをしている。
地味ながら、とても手の込んだ着物だといえるだろう。
地味な着物にカラフルな帯、帯揚げはクッキリと黄色。
そして、仕上げの帯締めは「帯の中の一色」と無難にしないで、ここでも緑、赤、白の
三色で、賑やかさの上に賑やかさで遊んでみた。
着物の楽しみって、本当に無限だと思う。
人それぞれに似合う色や柄があって、それがその人の個性と魅力を引き出してくれる。
何時ぞやは「着物は日本の文化」と通りすがりのおじ様に言われたことがある。
ウイーンフイルのニューイヤーコンサートの会場で、時々着物姿が映されることがある。
喜ばしいことだ。存分に着物の魅力を発信して来て頂きたいものである。