市橋達也という男の名前を覚えておられるだろうか。2007年に英国人女性リンゼイさんを殺害し、長期逃亡を続けた後逮捕された殺人犯人です。
今は獄中にいる彼が自身の筆で書いた「逮捕されるまで」という本が、図書館の棚にあったので借りて読んでみた。これが実に奇想天外なストーリーで、面白くて一気に読んでしまった。。
随分昔のテレビで、「逃亡者」という米国発のドラマが放映されていた。主人公の医師リチャード・キンブルが無実の罪に着せられて、逃亡を続けるというドラマです。その緊迫した展開に、毎週ハラハラしながら見ていたものでした。
市橋達也の「逃亡記」もそれに比類するような内容で、実録であるだけにドラマを上回る迫力と緊迫感があった。彼は逮捕の現場を逃れた後、北は青森から南は沖縄まで各地を転々と彷徨い逃げ回った。四国ではお遍路姿になり、沖縄の離れ小島では自給自足のサバイバル生活で身を隠した。
大阪の飯場で土方となり逃走資金を調達、そのお金で顔の整形手術を受けたのが仇となり、最後は大阪港のフェリーターミナルから沖縄へ逃亡するところを逮捕され、2年7カ月にも及ぶ長い逃亡生活を終えた。
緊迫した逃亡の連続に、逮捕間際のシーンでは思わず市橋達也のサイドに立ち、「今逃げなきゃ捕まるぞ」と思わず彼を擁護してしまうほどだった。
この本を読んで感じたのは、市橋達也という人間の並外れた体力、気力、生活力です。殺人を犯したのだから精神的な問題を抱えていたのでしょうが、もし罪を犯していなければ、彼は一角の人物として人生を歩む資質があったのではと伺えます。
現在無期懲役囚としては服役している市橋達也ですが、いつの日か出所できる日はあるのだろうか。もし娑婆に出たとしても、彼に陽の当たる人生を送る資格は無い。
しかし市橋達也の並外れた能力を、刑務所に埋もれさせたままというのも惜しいような気がする。彼が人生の最期に罪を悔いて社会に何がしかの貢献をすれば、被害者や迷惑を掛けた関係者への幾ばくかの償いになるのではないだろうか。