「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

心子の誕生日

2006年02月21日 10時25分10秒 | 「境界に生きた心子」
 
 今日は心子の誕生日です。

 そして、「境界に生きた心子」の発刊1周年になります。

 彼女のバースデイ記念日出版です。

 拙著は心子の生まれ変わりでもあります。

 心子も生きていれば42才。

 どんな女性になっていたでしょうね。

(相変わらず子供っぽいかと (^^;))


 この1年、読者の方々から手紙やメールをいただき、感動したとか救われたと言ってくださった方も多く、拙著を書いてやはりよかったと思っています。

 インターネットで検索すると、拙著を読んでくれた人がHPやブログに感想を書いていたり、あちこちで取り上げてくれています。

 一方でボーダー本人の方が読まれると葛藤もあり、勉強になりました。

 昨年末からはブログも始め、色々な人たちとのつながりもできました。

 ネットの時代ならではのありがたいことですね。

 心子も喜んでいるだろうと思います。


 今後も「境界に生きた心子」が人々に伝わり、そしてマンガや映像になることを夢見ています。 (^^;)

 境界性人格障害への理解が広がることを。

 では、これから心子のお墓参りに行って、報告とお祝いをしてきます。 (^^)
 
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「境界に生きた心子」の裏話

2006年02月01日 08時55分43秒 | 「境界に生きた心子」
 
 「境界に生きた心子」は初め、心理関係のドキュメントとして小さな出版になる予定でした。

 新風舎の人たちも当初は、「境界性人格障害」というものを知らないような時期でした。

 ところが編集の段階で、境界性人格障害のテーマが再評価され、企画が拡大されることになりました。

 特に営業の人が、ボーダーは重要なトピックスだということを、編集会議で強く推してくれたそうです。

 また、最初の担当編集者の人が産休のために交代したとき、新しい担当の人は拙著を 「ラブストーリー」として読んでくれ、若い女性読者もターゲットにという軌道修正もされました。

 発行部数も増やされることになり、文字組みなども漸次グレードアップされていきました。

 テレビでもおなじみの心療内科医・海原純子さんの推薦文をいただくこともできました。

 また表紙は最初、僕は以前絵を描いていたので自分で描こうと思っていたのですが、やはりうまくいかなかったこともあり、プロのデザイナーに依頼することにしました。

 それも企画の拡大に従って、ランクが上のデザイナーに何回か依頼しなおし、最終的には相当格の高いイラストレーターの方に頼むことができました。

 林真理子さんや唯川恵さんの本の表紙を描いている人で、この人にやってもらえたのは「奇蹟だ」と編集者が言ったほどでした。

 そして現在のこの表紙ができたわけで、僕はとても気に入っています。

 発行部数のほうも、結果的に当初の予定とひとけた異なる数字になりました。

 お陰で少しでも多くの読者の目に触れることができ、本当にありがたいことだと思っています。

 これからも皆さん、「境界に生きた心子」をどうぞよろしくお願いいたします。
 
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高橋尚子の言葉

2006年01月21日 20時37分38秒 | 「境界に生きた心子」
 
 女子マラソンの高橋尚子が怪我で走れなかった時、高校の恩師の先生が教えてくれたという言葉があります。

『何も咲かない寒い日は、下へ下へと根をのばせ。やがて大きな花が咲く』

 誰の人生でも沈み込むことがあります。

 でもそういう時こそ大事であり、きっとまた花を咲かせることを信じたいと思います。

 心子が引きこもっていた時に、メールで伝えたことのある言葉でした。


 はばかりながら、拙著「境界に生きた心子」に書いた文章も引用させてもらいます。

 僕がかつて精神的な大挫折をした体験の中から見出してきたものです。

『最も苦しいとき、誰にも見えない所で、誰にも分からない豊饒なものが、暗黙のうちにうごめいている。

 日も当たらない地べたの底に埋もれた種は、いつしか芽吹く日のため人知れず息づいているのだ。

 人は、苦しいときこそ真に豊かなのである。』
 
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あとがき(3)

2006年01月20日 20時38分49秒 | 「境界に生きた心子」
 
 苦しみのない人生は、人生の名に値しない。

 涙のない人生は、生きるに値しない。

 笑顔がなくては生きていけない。

 心子はそれらを一心に刻み込んでいったのである。

 心子は、小さいけれども、深く重い足あとを、くっきりと、いくつも残していった。

 この足あとを誓って消すことなく、いかにたどっていくか、それは僕が与っている務めだと思う。

 我々の心神のテーマを見つめ、愛情というものがどんなに大切であるかを知り、実践していくことが、心子の命に応えることになるだろう。


 僕の部屋には今、父母の遺影の隣に心子の笑顔が並んでいる。毎朝三人に手を合わせ、お祈りをするのが日課だ。

 月に一度、心子の墓前へ会いに行くのも楽しみな習慣になっている。

 今は穏やかに、平和に暮らしているだろう心子に、この本を捧げたい。


 二〇〇四年十月

                                稲本 雅之
 
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あとがき(2)

2006年01月19日 15時45分56秒 | 「境界に生きた心子」
 
 心子をはじめ、表面的には解しにくい境界例の人の内面を思いなしていただけるよう、境界例について解説の章を巻末に設けた。

 しかし境界例全般に渡る説明は素人である僕の領分ではないので、必要限度内の記載に留めた。

 境界例や人格障害を詳述した本は、一般向け,専門書とも多数出ている。

 拙著を読まれた方が境界例に関心を持たれ、それらで理解を深めていただけるとありがたい。


 拙著は心子という一人の女性が、この世に生きた証を残すことが第一の役割だと思う。

 心子の足取りを書き記すことによって、彼女の生と死をより意義あるものにしていきたい。

 僕自身は彼女の真の苦しみを知ることはできず、傍らの立場から語らせてもらうだけだが、それが僕にできることだと愚考する。

 ご意見,ご感想をいただければ幸いだ。もし某かでも胸に感じていただけるものがあったら、望外の喜びである。


 人のために身を献じることをいささかも厭わなかった心子も、境界例の人たちが受け入れられる一里塚となることができれば、きっと心底から喜んでくれるに違いない。

 心子は、精神科医になって心の病に苦しむ人をたった一人でも救えたら、自分は死んでも構わないと悲願していた。

「あたしは、患者さんが心を休めていってくれる木陰になりたい。

 患者さんが癒されてそこを離れて行ったら、あたしのことなんか忘れていいの」

 それが心子の本望なのかもしれない。

(続く)
 
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あとがき(1)

2006年01月18日 21時48分50秒 | 「境界に生きた心子」
 
 二〇〇一年一月十七日、心子は逝った。


 それから三年半余りの間、本稿に加筆を重ねてきた。

 書くという作業が僕にとって、心の整理をすることに役立ってくれた。

 そしてやっと少し、心子のことを客観的に描けるようになったのかもしれない。


 当時はまだ、心子を充分に把握して包み込むことができていなかった。

 嵐の只中にいるときは暴風雨をしのぐのに目一杯で、嵐の成り立ちや治め方を学んだり、落ち着いて考え合わせる余裕がなかった。

 境界例の知識についても、彼女が世を去ってから出版された本が多々あり、あとになって知ったことも少なくない。

 僕には遅すぎる情報だった。

 もっと早く手にできていれば、彼女にまた新たな対応を試みることもできたのだろう。

 何が最善のやり方かは今でも分からないが、別の可能性もあったのかと思うと、誠に無念でならない。


 そういう意味でも、境界例に関する理解が少しでも早く広まることを、心から望むばかりだ。

 境界例の人と連れ行く人たちやこれから出会う人たちが、境界例に心を用いることによって、お互い無益ないさかいができるだけ減っていくことを切望している。

 そしてこの先も境界例の治療研究が進み、臨床の経験が積み上げられていくことを衷心より祈っている。


 今後も増えるであろう境界例の人が身近にいたら、本人の責任ではない生育歴によって心に傷を負っているのだということに、どうか思案を巡らせていただきたいと思う。

 境界例の人が親からふさわしい愛情を手に入れられなかったのだとしても、その親自身もまた適切な境遇で育ってくることができなかったのかもしれない。

 その悲劇の連鎖のシナリオを書き換え、境界例の人および境界例的素質を共有する我々自身が、問題にどう向かい合えばいいのかということを宿題にしていきたい。

 境界例の人と実際に行き来するのはなかなか大変だとしても、双方が幾らかなりとも生きやすい社会になっていくよう願ってやまない。

(続く)

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Amazon のレビュー事件

2006年01月10日 16時13分15秒 | 「境界に生きた心子」

 ネット書店Amazon に「境界に生きた心子」も掲載されており、読者によるレビューがあります。

 実は拙著の出版後、明らかに同一人物によると思われる、低劣な誹謗中傷がいくつも書き込まれ続けていました。

 これでは、せっかく拙著を読もうとAmazon にアクセスしてくれた人が、多数の酷評を見て買うのをやめるということに繋がってしまいます。

 知り合いの弁護士にも聞きましたが、偽計業務妨害・名誉棄損に当たりうる犯罪です。

 拙著のような小さな本にとって、ネット上の顔とも言えるAmazon のレビューは、甚大な影響力があると思います。

 危機感にかられて知人たちに、不評を補うレビューを書いてもらうようお願いし、何人かが書いてくれました。

 出版元の新風舎を通してAmazon にも問い合わせ、対処してもらうよう要請しました。

 しかしネット上では法整備も遅れており、当初なかなか適切な処置を取ってもらえませんでした。

 一時は連日のように、また一日に二つも酷評が書き込まれたりし、全く異常な事態でした。

 しかしそれをピークにその書き込みが止まり、胸をなで下ろしていました。

 ところがその3ヶ月後、再び同一人物の悪評が立て続けに複数アップされてしまいました。

 新風舎の人の意見で、今度は僕から直接Amazon に文書で要請しました。

 その文書はAmazon のカスタマーセンターに転送され、今までの不適切なレビューを規約違反と判断して、全て全面削除してくれました。

 そしてAmazon から速達で、著者に不快な思いをさせたことの謝罪など、丁寧な挨拶もありました。

 長い間苦しめられた懸案にとうとう決着が付き、やっと枕を高くして眠ることができたのでした。

 今後も同様なことがあればAmazon は対処してくれるので、もう悪行は通用しません。

 ネット上ではこういう恐ろしい災厄が起きてしまいますが、被害が最小限に食い止められるようにしていかなければと思います。

(Amazon 「境界に生きた心子」のページ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797439130/)

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頑張る心子(2)

2005年12月19日 20時42分31秒 | 「境界に生きた心子」

 そして心子は、そんな自分を抱き締めることができませんでした。

 心身打ちひしがれて息も絶え絶えのときでも、心子は這うようにバイトに行こうとしました。
 自分自身がコンディションを崩していても、知人から悩みの相談があるとカウンセリングの約束をしてしまいます。
 我が身の苦境より相手の急場を放っておけないのです。
 自分自身が誰より苦しみを知っているからです。

 不調なときは休養してくれと、僕は再三心子に伝えました。
「激しい運動をすると筋肉はボロボロになるでしょ。
 でも充分休息を取ることで、筋肉は『超回復』といって元よりも強くなるんだよ」
「心もそれと同じだって……?」
「休むことも『仕事』なんだよ」
「休むことも仕事……休むことも仕事……」
 心子は何遍もつぶやきながら、その文言を聖書の裏表紙に書き込みました。

「マー君が教えてくれた」
 そうして心子はようやく休むことを覚えていったものでした。

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脚本家・清水喜美子さんが「境界に生きた心子」を読まれて

2005年12月11日 20時51分43秒 | 「境界に生きた心子」
 12月3日に書いた脚本家の清水喜美子さんが、「境界に生きた心子」を読んでご自分のブログに記事を書いてくださいました。

http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_6a74.html
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_4dbd.html
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_e221.html
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_a326.html
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_d40f.html
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_52e7.html
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/12/post_2e17.html

 清水さん自身、心子と同じように「愛が欲しい」という欲求に苛まれながら、苦しい人生を送って来られたそうです。
 しかしある時、挫折のどん底で自分で自分の存在を認めることができ、
「今まで、よく頑張ってきたね」
 と、自身に言うことができたのだそうです。

 そして長いトンネルを抜け、心がとても楽になったといいます。
 一種の“悟り”の体験だったのでしょう。

「いつかきっとトンネルを抜ける時が来る」
 と信じ、カウンセリングの普及を望んでおられます。

 心子は、トンネルの中に光明を見たと思っても、その翌朝には再び暗闇の地獄に落ちたりしていました。
 自分自身に慰謝の言葉をかけることはできませんでしたが、今は静かで安らかな眠りについています。

 しばらくはゆっくり心を休めて、次はもっと生きやすい人生を生きていってほしいと願っています。


〔追伸〕
 この記事をアップしようとしたとき、清水さんはさらに新しい記事を書かれていました。

 いま苦しんでいる人たちに対して、出口もはけ口もなく辛く苦しいのは分かる
「でも、死んじゃだめだよ
 死にたいと思うエネルギー以上に、心は生きたいと叫んでいるはずだから」
 と、先輩として訴えています。

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「境界に生きた心子」HPのフラクタル画像

2005年12月10日 20時17分31秒 | 「境界に生きた心子」

 出版元・新風舎の「境界に生きた心子」のHP(クリエーターズワールド)には、オープニングムービーやレビューのページなどに、フラクタル画像を使用しています。
http://www.creatorsworld.net/shinko/flash/

 インターネットのWebページから借用したもので、作者の方々はどなたも快諾してくださいました。

 「フラクタル」というの数学の幾何学を応用した画像です。
 「混沌」「不規則」「壊れる」などの意味があり、心子の心を象徴するものだと思います。
 視覚的にも彼女のように鮮烈で、ダイナミックに錯綜,多彩に変幻するというイメージを表わしています。

 クリエーターズワールドのトップページには、拙著のアニメーション・バナーも設定されています。
 ページを開いたとき上に表示されますが、順番に出てくるので、拙著のバナーまで時間がかかります。(・_・;)
 インパクトがあり、とても美しい画像なので、良かったらご覧になってみてください。

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自閉症児のお父さん

2005年12月04日 16時27分30秒 | 「境界に生きた心子」

 知り合いの人がご自分のブログで、「境界に生きた心子」の感想を書いてくれました。
 以前パソコン通信で知り合ったシナリオライターの人で、自閉症のお子さんを持つお父さんです。

 今はシナリオライターをやめ、自閉症児の施設「つくしんぼ」を運営して、ブログやホームページも開設しています。
 下記が、拙著の感想のページです。
http://bokuumi.cocolog-nifty.com/blog/2005/03/post_1.html

 ブログではお子さんのことや「つくしんぼ」のことも書かれています。
 こちらもどうぞご覧になってください。

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脚本家・清水喜美子さんの自己愛性人格障害の話

2005年12月03日 20時59分01秒 | 「境界に生きた心子」

 シナリオライターの清水喜美子さんが、「境界に生きた心子」を紹介してくれました。
 清水さんとは、インターネット上のシナリオライターのグループ「プラネット・ラボ」の会員として知り合いました。

 清水さん自身が自己愛性人格障害の人の取材をされており、拙著に関心を持ってくれました。
 下記のページで紹介されています。
http://see-saw.way-nifty.com/diary/2005/05/post_c334_1.html

 実に多岐に渡る話題を掲載しているホームページです。

 そして、清水さんは自己愛性人格障害の人の話のシナリオを、書き下ろしでネット配信しています。
 下記のトップページから携帯(au)で見られるようです。
(僕はauを持っていないので見られないのがとても残念です。)
http://www.iyashi-web.com/dorama_hp/kyakuhon.html

 色々な新しい媒体による作品が出てきています。
 ネットワークが広がっていくといいと思います。

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エピローグ(4)

2005年11月24日 20時54分14秒 | 「境界に生きた心子」

 自分が死んでも皆すぐ忘れると言っていた心子。
 生きてる意味なんかないと言っていた心子。
「あたしの存在なんて、そこにあるゴミよりもっとちっちゃい、こーんなちっちゃいもんだよ」

 けれど心子は僕の中でこんなにも大きく、そして、永遠に生きている。
 心の中の真実こそ、人にとって無上に貴重なものである。
 心子の愛嬌のある笑顔,辛辣な怒り,悲しく切ない涙が、昨日のことのように目の前に浮かんでくる。
 今となっては心子とのあらゆるでき事が、懐かしくもいとおしい想い出として振り返ることができる。
 辛い体験を苦しくなく想い出すことができるようになったとき、人は苦しみを乗り越えたと言われる。
 心子とのどんな過酷だった経験も、今は豊かな追憶である。

 きっと今ごろ心子は天国で、平安な生活に一息ついていることだろう。
 静かに、静かに暮らしたいと言っていた心子。
 苦しみばかり多かった現世から少し抜け出して、悲しみも痛みもない世界で、とこしえに魂を休めているだろう。
 お父さんとも再会し、今は愛情に満たされているに違いない。

 僕の父も心子と同じ年、ホスピスで安らかに息を引き取った。
 心子は僕の父と母にも会ってくれているはずだ。
 僕の実家では一緒に暮らせなかったけれど、そちらでうんと甘えて、肩でも揉んであげておくれ。
 そちらばかりが賑やかになって、こちらは寂しいけれど……。
 僕のことを、いつでも見守ってくれていると信じてるよ、しんこ……。

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エピローグ(3)

2005年11月22日 20時51分57秒 | 「境界に生きた心子」

 心子が帰らぬ旅に出る半年前に、こんなメールを受信していたのを見つけた。
 心子が僕にきついことを言ったあと、それを泣いて後悔し、謝ってくれて仲直りしたときのものだ。

 <私のこと許してくれてありがとう。またすぐ逢えるといいなぁー。お互い一番大切な存在になりたいね>
 <あなたと一緒にいて時々想います。このまま、このまま私の心臓が止まって、雅之の心の中で永遠に生きたいと>
 <私はなぜ神に創造されたのか、わからないまま生きて、もしかしたら死によってその本当の意味を知り、救われるのかも>

 何と暗示的な言葉だろう。
 心子の気持ちは常々移ろっているとはいっても、胸にこんな想いがあったのか。
 心子は今、自分の生の意味を知っただろうか? 
 命と引き換えにしなければ、それを知ることができなかったのだろうか? 
 そして、神の下で救われているだろうか? 
 僕は信じている。
 必ずや、神の御胸に抱かれていると。

(続く)

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エピローグ(2)

2005年11月21日 09時59分18秒 | 「境界に生きた心子」

 人の人生はドラマである。
 いかに笑い、いかに怒り、いかに泣き、苦しんだか、それがその人の終生の意義である。
 長さはさしたることではない。
 どんなドラマを演じ、残していったかが、人の生きた証だ。
 人間の愛情,純粋さ,怒り,悲しみ,喜び--それらを心子は最も先鋭的に体現し、走り抜いていった。
 心子は紛うことなく濃密な、奥深い生をあやなしていったのだ。

 心子は、あまたの謎と課題を置き土産にして逝った。
 人間の真実とは何か?
 幸せとは何か?
 生きる意味とは何なのか? 
 心子の生涯はそれらを僕に問いかける。
 心子は光と影の双方を強烈に焼き付けていった。
 正のエネルギーが段違いな分だけ、負のエネルギーも圧倒的だった。
 しかし人は、どんな負の体験からも正の意味を学び取ることができる。
 マイナスをプラスに転換していくことができるのが人間である。
 負の絶対値が大きいほど、正に転じたときの価値もまた大きいのだ。

(続く)

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