「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「無意識の彷徨」 (11)

2007年04月23日 21時25分45秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46997596.html からの続き)
 

○同・捜査一課

  なつみと友辺・田所、テーブルを挟んで
  座っている。
田所「(煙草をくわえて)困るんだよねぇ、
 勝手なことばっかりされちゃ」
友辺「(なつみに)必要なのは事件当時の記
 憶なんだ。初動が肝心なんだよ。子供のと
 きのことばかり調べてて捜査が遅れては…
 …」
なつみ「彼は恐らく子供のころ、何か強いシ
 ョックを受けるような体験をしたのではな
 いかと思います。彼がなぜ記憶をなくすよ
 うになってしまったのか、その原因を突き
 止めなければ本当の解決にはならないと思
 うんです」
田所「うちらの仕事はね、ホシを吐かせるこ
 となんだ。奴の口を割らせることもできな
 いってんじゃ、心理屋さんよ、あんたの腕
 も怪しいもんだな」
  友辺、ムッとするのを抑える。
なつみ「真実を知るには、彼の心の奥を理解
 しようとする姿勢が基本です。信頼関係が
 必要なんです」
田所「かッ! くちばしが黄色くなってるぜ。
 捜査のトーシローが口を挟むんじゃない
 !」
なつみ「(カチンとくる)でも、例えば事件
 当時の彼の精神状態が正常でなかったと分
 かれば、刑事責任は問えない可能性だって
 あるんですよ!」
田所「そのときはそのときだ! 何をやらか
 したのかって事実が先だろう!?」
なつみ「彼が無意識に行なった事実だけを突
 きつけて、後は放り出すなんてことをした
 ら、彼の心がどんなずたずたにされるか分
 かりますか!?」
田所「ここは警察だ! 心理屋は言われたこ
 とだけやってりゃいいんだよ!」
友辺「田所さん……!」
なつみ「………!!(憤慨)」

○街景/夕方

  走る電車--遠景。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/47053023.html
 
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「無意識の彷徨」 (10)

2007年04月22日 20時12分09秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46975546.html からの続き)

 
○警察署・留置場/夜

  目覚める裕司。
  震える息を吐く。
  手で顔を覆う裕司。
  

○同・心理課

  裕司,なつみ,友辺。
なつみ「お母さんの顔が見えない……?」
裕司「(不安そうに)……同じ夢を、何度も
 見るんです……」
なつみ「お母さんとの間に何か特別なことが
 ありましたか?」
裕司「(考えて)……分かりません……」
なつみ「どんなお母さんだった?」
裕司「(言いにくそうに)……あまり、覚え
 てないんです……」
なつみ「そう……好きだったとか嫌いだった
 とかは?」
裕司「………それも、よく……」
友辺「………(不思議な思い)」
裕司「(恐る恐る)………母のこと、好きじ
 ゃなかったから、知らないうちに忘れよう
 としてるんでしょうか……?」
なつみ「そうとは言えないけど……お母さん
 とのことで何か漠然とした印象っていうか、
 心に引っ掛かっているような感じはないで
 すか?」
裕司「………何だか、母のことを置いていっ
 たような……見捨てたような、そんな感じ
 が……(辛そうに)」
なつみ「見捨てたような感じ……」
友部「………(怪訝)」
裕司「(急に顔を手で覆って)……自分の母
 親のことを覚えてないなんて、僕は異常じ
 ゃないんですか……!?」
なつみ「(包容するように)人の心の働きに
 はね、必ずそれが必要だったっていう理由
 があるの。それをゆっくり見ていきましょ
 う」
裕司「……僕が異常な理由をですか……?
 どうでもいい……! 僕は病気なんでしょ
 う!? だから人を傷つけても分からないん
 です……!!(自虐的)」
なつみ「裕司くん……(共感に努める)」
裕司「(取り乱して)……僕は異常なんだ、
 病気なんだ……!! うう……!!(泣き伏
 す)」
なつみ「………(心痛)」

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/47026933.html
 
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「無意識の彷徨」 (9)

2007年04月21日 21時59分39秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46947072.html からの続き)

  
○街景

  友辺の車が走っている。
 

○車の中

  運転している友辺。
  助手席になつみ。
友辺「尋常じゃないな、あの驚き方は」
なつみ「過去に何か、ああいう音に関わるシ
 ョッキングな体験があったのかもしれない。
 光が印象に残ってるっていうのも気になる
 し」
友辺「俺も子供のとき、古くなった牛乳をカ
 ルピスと間違えて飲んでピーゴロんなって
 さぁ、それからカルピス飲めなくなったな
 (笑)」
なつみ「彼は母子家庭だったね。子供に一番
 大きく影響するのはふつう親との関係だけ
 ど……」
友辺「その母親も西脇が9才のときに亡くな
 って、今の伯父夫婦に引き取られた。でも
 夫婦の話では、西脇は母親の死のことを覚
 えてないそうなんだ」
なつみ「9才で……不自然ね」
友辺「それ以前の母親の記憶もあまりないら
 しい」
なつみ「ふーん、母親との関係に何か問題が
 あったのかな」
友辺「(思いを馳せるように)……自分の過
 去の一部を覚えてないなんて、どんな感じ
 なんだろうね?」
なつみ「………(思案)」
  車は踏切に差しかかり停車する。
  カンカンと警報機が鳴り遮断機が降りる。
  警報機が赤く点滅する。
  電車が音をたてて滑り込んでくる。
 

○闇

  点滅する赤い光(前のシーンから続い
  て)。
  カンカンという音が被さる。
  後ろ姿の則子が漂うような感じで歩いて
  いる。
裕司の声「………お母さん……」
  ゆっくりと振り向く則子。
  顔がぼやけて誰だか分からない。
裕司の声「お母さん……?」
  点滅する光と音。
  則子は何かを求めるようにこちらへ手を
  差し伸べる。
  則子の体が遠ざかっていく。
  苦悶しているように見える。
  光と音が大きくなる。
  則子、懸命に求めるがどんどん遠ざかり、
  電車の轟音にかき消されるようにふっと
  消えてしまう。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46997596.html
 
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「無意識の彷徨」 (8)

2007年04月20日 19時10分43秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46929659.html からの続き)
 

○警察署・心理課

  なつみが裕司の面接をしている。
  友辺も同席している。
なつみ「(笑み)いいですよ……もう少し前
 の記憶に戻ってみましょうか。
 (友辺に)あれを」
  友辺、紙袋の中から裕司が着ていたTシ
  ャツを出す。
  目を背ける裕司。
なつみ「辛いでしょうけど、見てもらえます
 か。何か思い出すことは?」
裕司「(表情を歪め、自分の記憶と戦う)…
 ……血……赤い血……」
なつみ「………(じっと見守る)」

○インサート

  血を流して倒れている被害者(顔はよく
  見えない)。

○心理課

裕司「……血が出てる……(ゆっくりと記憶
 を呼び起こし)人が、殴られて……」
  友辺、被害者の写真を出して裕司に示す。
友辺「この人か?」
  恐る恐る写真を見つめる裕司。
裕司「………(顔をしかめる)」

○インサート

  拳を食らい鼻血が吹き出る被害者。

○心理課

裕司「(辛そうに)……そうかもしれません
 ……」
なつみ「あなたが殴った?」
裕司「……何かをした、気はします……でも、
 他にも人がいたような……」
友辺「西脇、しっかり思い出すんだ。肝心な
 ところなんだぞ!」
なつみ「(友辺を制して)友辺さん、無理強
 いしないで。あくまで彼のペースでやるの
 が大事なの」
友辺「………(憮然)」
なつみ「(裕司に)大丈夫、うまくいってま
 すよ」
裕司「………(心ここにあらずという感じ
 で)」
なつみ「裕司くん?」
裕司「……え……?(我に返る)」
なつみ「大丈夫?」
裕司「あ……分かりません……ぼうっとして
 て……」
なつみ「今も気持ちがどこかへ行きかけたの
 かしら?」
裕司「………(困惑)」
  友辺、机の上の煙草を取ろうとしてうっ
  かり金属製の灰皿を床に落とす。
  カンカンと音をたてて、灰皿か床に跳ね
  返る。
裕司『はッ!?……(異常に反応して身をすく
 める)』
友辺「?……(訝る)」
  体を硬直させる裕司。
なつみ「どうしたの?」
裕司「(青ざめて)……き、嫌いなんです…
 …こういう音……」
なつみ・友辺「?………」

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46975546.html
 
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「無意識の彷徨」 (7)

2007年04月19日 23時21分02秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46897458.html からの続き)
 

○警察署・心理課

  なつみ、裕司の書類を読んでいる。
なつみ・『伯父夫婦の話では、過去にも2回
 意識をなくして記憶を失ったことがある…
 …時間が経つと元の記憶は戻るけど、無意
 識の間の記憶はないまま、か……(ペンを
 噛む)』
  ドアをノックする音。
なつみ「どうぞ」
  友辺が裕司を連れて入ってくる。
友辺「西脇裕司だ」
  不安そうな裕司、ぺこりと会釈する。
なつみ「(立ち上がり笑顔で)こんにちわ、
 麻生なつみです。心理課の仕事をしていま
 す」
裕司「………(なつみを見る)」
友辺「取り調べじゃない、安心しろ。優しい
 お姉さんだ」
  優しく微笑むなつみ。

   × × × × ×
  
  なつみと友辺、テーブルを挟んで裕司と
  向かい合って座っている。
裕司「………(緊張している様子)」
なつみ「(優しく)自分が誰か、分かります
 か?」
裕司「………(なつみを信用できるかどうか
 顔色を窺う)」
  なつみ、裕司を受け入れる態度。
裕司「(おもむろに)……僕は……西脇、裕
 司です……」
友辺「え!? 思い出したのか?」
裕司「……伯父と伯母に話を聞いて、自分の
 こと、少し思い出しました……」
なつみ「そう、よかった(笑む)記憶が戻り
 はじめたんですね」
友辺「(気負って)事件のとき何をしたか分
 かるか?」
なつみ「友辺さん、あせらないで」
友辺「ん……」
なつみ「(和やかな雰囲気で裕司に)ここの
 留置場で気がついたんですね? その前の
 ことで何か頭に浮かぶことはありますか?
 どんな小さいことでもいいから話してみて
 くれます?」
裕司「………」
なつみ「つじつまが合わなくても、意味が分
 からなくてもいいんですよ」
裕司「(しばらく考え込んで)………光……
 光が、見えたような……」
なつみ「光?」
裕司「(少しずつ思い出そうとしながら)…
 …急に目の前がまぶしくなって……赤い光
 が、ぴかぴか点滅して……」
なつみ「刑事さんに捕まったときですね?
 パトカーのライト。そのときどんな気持ち
 がしたか、覚えてますか?」
友辺「………(見入っている)」
裕司「……何だか、とても恐かった気がしま
 す……わけが分からなくなって……無我夢
 中で……」
なつみ「(頷き)それで暴れたのかしら?
 どうしてそこにいたのかは分かりますか
 ?」
裕司「(ゆっくり思い出しながら)……どこ
 かから、逃げてきたみたいな……誰かを、
 置いて……」
なつみ「誰かを置いて? 何か悪いことをし
 たっていう感じがする?」
  友辺、身を乗り出して裕司の答を期待す
  る。
裕司「………そんな、感じもします……でも、
 恐かった……」
なつみ「逃げだしたい、忘れたいことがあっ
 たのかな?」
裕司「(一生懸命思い出そうと)……何かが
 あったことは分かるんです……でも、それ
 が何だったのかが思い出せなくて……(は
 がゆい)」
  友辺、残念そうに舌打ちする。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46947072.html
 
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「無意識の彷徨」 (6)

2007年04月18日 19時36分42秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46766123.html からの続き)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46929659.html  

○同・捜査一課

  電話している友辺。
友辺「……ええ、西脇裕司です……確かにお
 宅の同居人ですか?……いや、落ち着いて
 ください、保護されてるんです……そうで
 すか……ええ、ご足労ですがお出でいただ
 きたいんです、はい……」
 

○同・面会所

  透明の衝立を挟んで、裕司と和信(伯
  父)・俊子(伯母)が向き合っている。
和信「裕司、伯父さんだぞ(裕司に顔を近づ
 ける)」
俊子「伯母さんよ、分かる?(心配そうに見
 つめる)」
裕司「(辛そうに目を伏せる)……すみませ
 ん、分からないんです……」
俊子「……仕方ない、あんたのせいじゃない
 よ、裕司は病気なんだから……」
裕司「……病気……?(不安)」
和信「……とうとう警察のお世話になるなん
 て……悪いことはしてないんだろうな?
 お前を信じてるぞ」
裕司「(うなだれて)……覚えてません……
 でも、目撃者の人が言うのなら、何かした
 のかも……」
和信「(頭を抱えため息をつく)どうしてこ
 んなことが何度も……」
裕司「“何度も”……? 今までにも記憶喪
 失になったことがあるんですか……?(当
 惑)」
俊子「……大丈夫よ、また元に戻るわ(明る
 く振る舞ってごまかす)」
裕司「教えてください、どうして僕はこんな
 ことに……!?」
和信「裕司、落ち着いて……!」
裕司「僕は一体誰なんです……!? 親は来て
 くれないんですか!?……」
和信・俊子「裕司……(困惑)」
裕司「……自分のことが分からないなんて…
 …!(手で顔を覆う)」
 

○街景・夜
 

○警察署・留置場

  膝を抱えて座っている裕司。
  格子窓から月を見つめている。
裕司「………」

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46929659.html
 

コメント (1)
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「無意識の彷徨」 (5)

2007年04月13日 20時55分58秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46646983.html からの続き)
 

○同・心理課(回想終わり)

  部屋の隅の机に箱庭(砂の入った平たい
  箱に色々なミニチュアが並んでいる)が
  置いてある。
  棚には箱庭療法に使う様々な人形やミニ
  チュアなどが並んでいる。
  友辺、箱庭のミニチュアを何気なく手に
  取って箱庭に置いたりしている。
友辺「田所さんは、よくある芝居だって言う
 んだ」
なつみ「(コーヒーを入れながら)詐病--
 つまり嘘をついてる場合もあるだろうけど、
 記憶に障害をきたすのは実際にもあること
 よ、生活史健忘とか」
友辺「(椅子に座る)記憶はそのうち戻るも
 んなのかね?」
なつみ「(カップを勧める)それはいろんな
 ケースがあるけど」
友辺「なつみ先生の腕で記憶を戻すことはで
 きない相談かな? 本人が覚えてないこと
 には捜査が進まないし、上からも要請され
 てるんだ」
なつみ「とにかく会ってみないとね。心理テ
 ストや鑑別診断もあるから」
友辺「俺にはどうも奴が嘘をついてるように
 は思えないんだよ」
なつみ「その人を信じたのね。一応合格点
 (笑)」
友辺「(苦笑)心理士の相方としてか?」
  くすっと笑うなつみ。
  

○同・面通しの部屋

  マジックミラーの向こうに立っている裕
  司と数人の男。
  マジックミラーの手前になつみ,友辺,
  田所がいる。
  なつみ、男たちの顔を見比べる。
  なつみに注目する友辺と田所。
  身の置き所がない様子の裕司。
友辺「(なつみに)昨日の男、この中にいる
 かい?」
なつみ「(裕司を見て慎重に)……左から二
 人目の人だと思う、暗かったんだけれど…
 …」
友辺「よく見て、重大なことだから」
なつみ「(しっかりと)……ええ、あの額の
 傷痕、間違いない」
田所「決まりだな、血痕の血液型もガイシャ
 のと一致したし」
  不安そうな裕司。
なつみ「………(裕司の表情や様子をじっく
 り観察する)」
 
(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46897458.html
 
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「無意識の彷徨」 (4)

2007年04月09日 11時16分05秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46599520.html からの続き)

  
○警察署・心理課

  心理課のプレート。
  友辺がドアにもたれて待っている。
  徹夜した様子で、襟とネクタイを緩め、
  不精髭が覗く。
  やって来るなつみ。
なつみ「あ、友辺さん、おはよう」
友辺「(なつみに視線だけ向けて)もう来る
 かと思って(口許で笑う)」
なつみ「徹夜? 朝からひげづらで」
友辺「(髭をさすりながら)シブい?」
なつみ「(苦笑)ブルース=ウィルスならね
 (バッグからキーを出しドアの鍵を開け
 る)」
友辺「(ドアから体を起こして)男が見つか
 ったよ。本人は無傷だ。服に付着してた血
 痕は被害者の返り血かもしれない」
なつみ「その人が加害者だったの? 本人は
 何て?(ドアを開け中に入る)」
  部屋の中にはなつみの机、面接用のテー
  ブルと椅子。
  本棚に並んだ心理関係の本。
友辺「(苦い顔をして)それが……(なつみ
 の後から部屋に入る)」
なつみ「うん?(机の上を簡単に整理しなが
 ら)」
友辺「……覚えてないんだ」
なつみ「え?」
 

○回想/同・取調室の中

田所「記憶喪失ぅ?(愚弄するように)」
  身を固くして椅子に座っている裕司。
  机を挟んで大きな態度で座っている田所。
  友辺は立って見ている。
田所「『ここはどこ? 私は誰』ってかぁ
 ?」
裕司「………(萎縮して)」
田所「(すごんで怒鳴る)ふざけるんじゃな
 い! お前みたいな芝居を打つ奴はよくい
 るんだ! 記憶喪失なんざ作り物のドラマ
 ん中だけの話だ! 20年間刑事やってて、
 本物にお目にかかったことはないんだよ
 !」
裕司「(頭を抱えて)……でも……何も分か
 らないんです……!」
  友辺、裕司の学生手帳を裕司の前の机に
  ポンと投げる。
友辺「(暗唱して)……西脇裕司、21才…
 …」
裕司「………(こわごわ手帳を手に取って見
 る)」
友辺「東院大学経済学部3年。住所は足立区
 北千住……」
  裕司、ぎこちない手つきで手帳のページ
  をめくり、自分の顔写真に見入る。
友辺「………」
 

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46766123.html  
 
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「無意識の彷徨」 (3)

2007年04月07日 15時59分27秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46579724.html からの続き)


○河川敷近くの路上/夜

  パトカーがゆっくり走っている。
  助手席に友辺、運転席に警官。
  前方に裕司がうずくまっている。
  友辺と警官、それを認める。
  パトカーを裕司に近づけ、友辺,警官、
  降りてくる。
友辺「(裕司を覗き込み)もしもし、どうし
 ましたか?(裕司の体を軽く揺する)」
  動かない裕司。
  警官が裕司の体を懐中電灯で照らす。
  Tシャツに真っ赤な血。
警官「どうしたんです? これは」
  小さなうめき声を上げる裕司。
  友辺のほうに虚ろな顔を向ける。
  裕司の視線は宙を漂っているかのようで
  ある。
  額に傷痕がある。
  それを確認する友辺。
  警官、懐中電灯で裕司の顔を照らす。
  光が裕司の目に当たる。
裕司「(光に激しく驚き)ぅあッ……!?」
  顔を上げた裕司の目に、パトカーの赤い
  ランプの点滅が飛び込んでくる。
裕司「ああ~~………!!(ひどく怯えて逃げ
 だす)」
友辺「待て!」
  友辺,警官、裕司を抑えようとする。
裕司「わあぁ~~……!!」
  錯乱して友辺の腕を振り払う裕司。
友辺「おとなしくしろ!」
  死に物狂いの裕司、やたらに手を振り回
  し一発が友辺の顔を見舞う。
友辺「く……ッ!」
  友辺、裕司を組み伏せる。
  手錠を取り出して素早く裕司の腕にガチ
  ャリと掛ける友辺。
友辺「公務執行妨害だ……!」
  痙攣するように震えている裕司。
 

○警察署・外景/翌朝
  

○同・正面入口

  なつみが出勤してくる。
なつみ「(警備の警官に)おはようございま
 す(笑顔)」
  敬礼して返す警官。
  なつみ、入っていく。
  

○同・廊下

  なつみ、すれ違う顔見知りの職員に軽く
  笑顔で会釈しながら歩いていく。
掃除のおばさん「やあ、おはよう、女刑事さ
 ん」
なつみ「おばさん、あたし刑事じゃないって
 ば。何回言ったら分かってくれるの?(
 笑)」
おばさん「あ、先生だっけ? ま、似たよう
 なもんでしょ?(あっけらかんと笑う)」
なつみ「先生でもないんだけどなぁ・……
 (苦笑)」

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46646983.html
 
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「無意識の彷徨」(2)

2007年04月06日 20時39分36秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46546835.html からの続き)


○走るパトカーのサイレン
 

○民間の駐車場

  傷害事件の現場。
  停車したパトカーと救急車の赤いランプ
  が闇夜にきらめく。
  友辺,田所の姿も見える。
  警官たちが辺りを調べている。
  救急隊員が怪我した中年サラリーマンを
  担架で救急車に運び込む。
田所「(被害者を横目で見送り)オヤジ狩り
 か……酔っぱらい狙いの強盗だな」
  友辺、メモを取りながら目撃者のOLに
  聴取している。
OL「(興奮気味に)3人くらいであの人
 (被害者のほうを指さし)を襲ってたんで
 す……殴ったり蹴ったり……!」
友辺「犯人の年格好は?」
OL「……二十歳くらいで……そう、ゴーグ
 ルをかけてる人がいました……」
  手帳に書き込む友辺。
  赤く瞬くランプ。
 

○なつみのマンション・寝室

  パジャマに着替えているなつみ。
  電話が鳴る。
なつみ「(受話器を取る)麻生です」
友辺の声『俺、友辺。悪い悪い、さっきは。
 田所さんにいきなり電話切られて』
なつみ「(電話機を持ってベッドに座る)そ
 うじゃないかと思った(苦笑)」
友辺『あのあと何ともなかったか?』
なつみ「うん、大丈夫。事件?」


○事件現場

  携帯電話をかけている友辺。
友辺「河川敷の近くで傷害があったんだ。な
 つみが見た男、服に血が付いてたっていう、
 何か関係があるかもしれない。どっちの方
 向から走って来た?」
なつみ『線路の北の方』


○なつみの寝室

友辺『男の特徴は?』
なつみ「(寝ころんで)ええと……二十歳く
 らいで……Tシャツにジーパン……」


○インサート

  車窓の光に照らしだされた裕司の顔。


○なつみの寝室

なつみ「あ……額に傷痕があったと思う、小
 さいけど……」


○事件現場

友辺「(メモしながら)そうか、細かいとこ
 までよく見てたな。一応合格点だ(笑)」
 

○なつみの寝室

なつみ「刑事の相方として? おあいにく、
 あたしはあたしですから(笑み)」
  
(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46599520.html
 
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「無意識の彷徨」(1)

2007年04月05日 13時38分07秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
 昔、某シナリオコンクールに応募した シナリオを連載します。
 臨床心理士を主人公にした話です。


------------------------------

登場人物

 麻生 なつみ(29才・臨床心理士)
 友辺 孝浩(34才・刑事・なつみの恋人)
 西脇 裕司(21才・学生)
 田所 克夫(49才・刑事)

 西脇 則子(34才・裕司の母・故人)
 岡本 和信(56才・裕司の伯父)
 岡本 俊子(52才・裕司の伯母)

   *   *   *

○河川敷上の路/夜

  帰宅途中のなつみ。
  辺りに人けはない。
  前方に鉄道の高架橋。
  その下の暗がりから、よろよろと走って
  くる人影が現れる。
  男(裕司)は茫然と我を失ったようであ
  る。
なつみ「?………(訝る)」
  裕司が近づいてくると、Tシャツが真っ
  赤な血に染まっているのが見える。
なつみ「!?……(驚)」
  一瞬ひるむなつみ。
  裕司、なつみの目の前まで来る。
なつみ「(裕司を止めるように)……どうし
 たんですか……!?」
  そのとき高架橋を電車が轟音を立てて通
  過する。
  電車の車窓の明かりに照らしだされた裕
  司の顔が、一瞬なつみの目に飛び込んで
  くる。
  裕司の額には小さな古い傷痕がある。
  電車の音と光に驚いて反応する裕司。
裕司「わあ……!!(思わずなつみを突き飛ば
 す)」
なつみ「あ……!(道端に倒れる)」
  裕司、頭を抱えるようにしてよろよろと
  走り去る。
なつみ「待って……!(立ち上がろうとす
 る)あ、痛……!!(足首に痛みが走り再び
 うずくまる)」
  なつみは突き飛ばされたときに軽く足を
  痛めたようだ。
  裕司の姿が闇に消えていく。
なつみ「………」
  

○警察署・捜査一課

  デスクで新聞を読んでいる友辺の携帯電
  話が鳴る。
  携帯電話を取る友辺。
友辺「はい、友辺です……ああ、なつみ(顔
 がほころぶ)」
  隣の席の田所がじろりと視線を送る。


○路上

  足をさすりながら携帯電話で話している
  なつみ。
なつみ「友辺さん、今ね、不審な男の人とぶ
 つかったの……服が血で汚れてて……よろ
 よろと走り去っていってしまったんだけど
 ……」
友辺『なつみ、怪我は? 今どこだ?』
なつみ「大丈夫……河川敷の線路の下だけど
 ……」


○警察署・捜査一課

友辺「迎えに行こうか?」
なつみ『あたしは心配ない……それよりその
 人の様子がおかしくて……』
  田所の電話が鳴り、受話器を取る田所。
田所「捜査一課……」
友辺「(なつみに)どんな男だった?」
なつみ『うん……何か茫然としたような感じ
 で……』
友辺「負傷してたのか?」
  田所、受話器を切り、いきなり友辺の腕
  を掴んで立ち上がらせる。
田所「行くぞ、事件だ!」
友辺「(驚いて)田所さん……!?」
田所「のんびり女と話してる場合じゃない!
 (友辺の携帯のスイッチを切ってしまう)」
友辺「あ……!?」
  田所に無理やり連れられていく友辺。


○路上

なつみ「(いきなり切れて)?……」
  溜め息をついて電話を切るなつみ。
  
(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/46579724.html
 
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エピローグ

2006年12月20日 11時26分14秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43391733.html からの続き)

 身体障害者,がんの告知,ハンセン氏病,エイズなど……、

 かつて タブー視されていたものが、

 次第にオープンにされ 偏見が取り除かれつつある。

 今や 精神障害者の番である。

 精神障害者の人権を守ろうという マスコミの配慮が 逆に、

 今まで 彼らの存在を覆い隠し、偏見を 生んでしまったのかもしれない。

 精神障害者の移送という、一見スキャンダラスにも 見えそうな仕事を、

 決して 際物として捉えるのではなく、

 人の心の絆を見つめなおす きっかけとしたい。
 

 少年の凶悪事件が続発し、引きこもりの若者が増え、

 家庭が崩壊していると 言われる現代、

 家族のあり方という 今日的な問題が 立ち表れる。

 物質的豊かさを求めて 盲進してきた 20世紀後半だが、

 その結果 人間性が疎外されてきてしまった。

 人間の幸せとは?

 生きる意味, 目的とは……?

 新しい世紀を迎えて、我々はそれを 問いなおすときが

 来ているのではないだろうか。

(以上)
 
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精神障害者に対する 社会の理解とサポートを (2)

2006年12月19日 10時02分41秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43359978.html からの続き)

 今日もまた 精神障害者に関する 悲しいニュースが報じられる。

 そのたびに 押川氏は思う。

 一般に 精神障害者たちは 優しく繊細で、

 物事をごまかせずに 真面目に生きている人が多い。

「決して 嘘をつかない人たち」。

 押川氏は 彼らのことを そう言う。

 精神障害者の本当の姿を もっと身近に知り、

 普通の人たちとして 付き合っていくことが望まれる。

 彼らの発する サインを受け止め、

 必要なときには 適切な医療に 結びつけられるように しなければならない。

 もしも 精神障害者が事件などを 起こすことがあるとしたら、

 それは 彼らのことを知らずに 敬遠してきた 我々社会全体の責任だ。

 引きこもりや 自傷他害などの行為は、

 救いの手を求める 彼らの必死の叫びなのだと、押川氏は訴える。
 
 

 押川氏によって 医療に繋がり、退院後も 彼と関わりを 続けている家族もある。

 押川氏の目的は 患者を病院に 連れていくことではない。

 患者と家族が 絆を取り戻すことなのだ。

 かつて 患者が幻聴や幻覚に 苦しめられたことさえ、

 笑って話せる関係が そこにはできあがる。

 それが 彼が求めている 本来の人間の姿なのである。

 そんな 押川氏たちの笑顔がまぶしい。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43425852.html
 
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精神障害者に対する 社会の理解とサポートを (1)

2006年12月18日 11時31分39秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43326786.html からの続き)

 押川氏が 移送に関われる患者は、

 それを必要としている人たちの 氷山の一角に過ぎない。

 行き場もなく 困惑している 精神障害者や家族は、

 実は 目に見えない所に あふれるほど存在している。

 自らを傷つけたり 事件を起こす寸前の、

 一刻の猶予もできない状況で 患者と家族はあえいでいる。

 しかし 多くの精神障害者の家族は、移送業の存在さえ知らない。

 また、細い糸をたぐるようにして 押川氏のもとを訪れても、

 ヒヤリングの結果 条件が整わず、

 移送の契約にまで 至らなかったケースが 圧倒的に多い。

 事務所に山積みされた 実現できなかったファイルを見ながら、押川氏はそう語る。

 精神障害者と家族の 切羽詰まった現状を理解し、もっと受け皿が増え、

 患者と家族を サポートする体制が 整ってほしいと、彼は切望している。

 1999年の 精神保健福祉法 改正により、移送が法律的に 明文化された。

 また、2002年4月には 精神障害者 居宅生活 支援事業が 施行される。

 そうした状況を 踏まえて押川氏は、

 行政や企業に向けて 移送のコンサルティングも 精力的に行なっているのである。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43391733.html
 
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精神障害者の心をつかむ 説得術 (2)

2006年12月17日 10時29分19秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43307536.html からの続き)

 押川氏の 説得のノウハウは 全く独自のものだ。

 彼は 心理学や精神医療の 専門的な勉強をしたことはないという。

 学問的な知識や マニュアルではなく、幾多の現場を踏んだ 経験から培った勘と、

 研ぎ澄まされた感性で 患者の心に入り込む。

 ヒヤリングを通して 患者が何をしてほしいのかを読み取り、

 それをぶつけることによって 一気に患者の心をつかむのだ。

 一般に 心理の専門職は、時間をかけて 患者を受容することによって 理解していく。

 しかし 押川氏の場合は それとは逆に、

 彼の熱い想いを 患者のほうが理解するのである。

 感情をぶつけることを恐れず、ときには 声を荒らげることもあるが、

 患者を好きなんだ という押川氏の本心が 相手には伝わっていく。

 今まで 誰からも置き去りにされてきた 精神障害者たちは、

 本気で体当たりしてきてくれることを 内心望んでいるのだろう。

 最後は言葉ではない。

 彼らのSOSのメッセージを 全身で受け止めるのだ。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/43359978.html
 
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