昨日の北極航路調査船の新造についての文中、ロシア北部のカラ海、バレンツ海における油田・ガス田の採掘本格的事業への中国資本算入、温暖化によるロシア沿岸の北東航路の航行可能期間拡大を書いたが、本日は、それらの情勢変化に伴って生じる日本への影響である。
諸資料を概観したところでは、2019(2018)年の北極海北東航路の運航回数は、総航行数 87(60)航行、北極海航路内寄港航行55(31)航行、トランジット航行32(29)航行となっており、いずれの航行形態でも増加している。(注:トランジット航行とは、ロシアに寄港することなくベーリング海峡から欧州への直行便をいう)。特に北極海航路内寄港航行が大きく増加したのはロシア・ヤマル半島のLNG液化施設が2017年12月に本格稼働したことによるもので、積出拠点のサベッタ港に寄港する運航が2018年の15航行から2019年には30航行と倍増しており、30航行中29航行がLNGタンカーとなっている。仕向け地の詳細は調べることができなかったが、国交省の資料に記載された日本関連の航行では2019年18件とされているが、積み荷は原油やLNGではないので、サベッタ港を利用した29航行の大半はヨーロッパ向けと中國への輸送ではと考える。
日本も、商船三井が砕氷型LNGタンカーを保有(3隻)しており、そのうちの1隻「ウラジミール・ルサノフ」が2020年6月にはサベッタ港から8万トンのLNGを東京ガスの扇島基地(横浜市鶴見区)に輸送しており、2020年の資料では大きく変化しているのではと思う。
ヤマル半島周辺の資源開発と北極海航路の活用が拡大することによる日本への影響であるが、経済活動に対する影響はさておいて、中国タンカーの往来拡大による影響が大きくなるものと思われる。サベッタ港から中国本土のルートを考えれば、ロシア沿岸~ベーリング海峡~オホーツク海~三陸東方海域~八丈島周辺~沖縄周辺海域が中国のエネルギー・シーレーンとなり、北朝鮮への支援を公然とする事態ともなれば、前記に宗谷(津軽)海峡・日本海にまで広がることが予想される。既にアラスカ沿岸では中国船による領海内での不法行為も報告されているので、海洋汚染など意に介しない中国船舶の無法行為に手を焼くことになるのは間違いのないところと危惧するものである。さらには、シーレーンにおける中国船の保護と称して海警部の公船を常続的に配備するような事態ともなれば日本の周辺海域は緊張を強いられることとなる。
中国に加えて韓国も北極海航路の活用を拡大させており、その場合は航路短縮のために日本海・宗谷(津軽)海峡の航路を使用するものと思われるので、大和堆周辺の漁場における海難事故の発生も懸念される。
昨日は、北極海における日本のプレゼンスを示すためにも、砕氷型調査船の早期実現を期待するとしたが、実情はヤヤ手遅れの感も否めない。ロシアがヤマル半島周辺の共同開発を持ち掛けた時点(2012年若しくは2016年)に着手するのが最良であったのだろうが、より注力すべき尖閣問題を抱えていることを考えればやむを得ないものと思わざるを得ない。既に観測船の基本設計が終了していることをこそ評価しなければならないのだろう。