来年度以降、北極海調査を行うための砕氷観測船を新造することが報じられた。
既に今年度に基本設計費用を計上していることから、青写真は出来上がっているものと思う。新造船が砕氷船であるか氷海航行能力強化船であるかは不明であるが、北極海域でのプレゼンスを獲得するために実現させて欲しいものである。
観測船の新造には、ロシア北部のカラ海、バレンツ海における油田・ガス田の利用も視野に入れているものと思いたいが、同海域の資源開発については既に中国資本は参画しているものの、日本は2016年以降ロシアからの共同開発提案に対して、北極海航路を使用できる期間が短いことによって採算が採れないとの理由で参加を見送った経緯があるが、ロシアからの情報では、近年の急速な温暖化によってロシア沿岸の北東航路は年間90日程度の船舶運航が可能となっており、数年後には200日程度まで航行可能期間が延びる可能性があると考えられる。
新造船の建造を考えると、2021年に着工できたとしても就役・稼働は早くても2014年頃になるのではと考えるので、計画を早めるために退役した「初代しらせ」の活用は出来ないものかと調べて見た。「初代しらせ」は2008年7月に退役後、記念館としての活用等が検討されたものの多額の維持費がかかることから、結局ウェザーニューズに売却されて「SHIRASE」と改名され、2013年以降はウェザーニューズの関連団体であるWNI気象文化創造センターの持舟となっていることを知った。さらに2015年12月には三菱重工横浜ドックで定期検査修理を受けていることから、未だ船舶として可動状態にあるものと思われる。国が「SHIRASE」を買い戻して、改修する方が期間短縮・経費節約になると思うのだが、民間企業の業務との兼ね合いで、そうもできないのであろうか。
一般的に艦船(軍艦)を退役させるのは、船体・機関が過酷な戦術航行に耐えなくなる以上に兵器システムが時代遅れとなる場合が多く、このことはプロペラ機対応空母として1945年就役した空母ミッドウェーが、数度の改修工事でジェット艦載機空母に生まれ変わり1992年まで47年間も第一線で使用されたことに示されている。閑話休題。
かって米英には、退役した艦船、航空機、武器の再活用に備えてそれらをモスボール保管していた。ネバダ砂漠の航空機の墓場や、チエサピーク湾の旧式艦艇係留、朝鮮戦争後の1955年に退役した戦艦「ミズーリ」が31年後の1986年に近代化工事後に再就役して北ベトナムを砲撃したことはよく知られていると思う。戦闘艦のモスボール保管は、機関の主要部分に潤滑油を充満させて腐食を防止するとともに、区画を密閉して窒素ガスを封入する等の手段が採られるとされてきた。しかしながら保管工事と保管状態維持に多額の軽費を擁すること、少数ながら乗員が必要なこと、艦底塗料の剥落による海洋汚染、等々の観点から順次解体されたり漁礁として海没処分され、現在もモスボール保管されている艦艇は無いように思われる。
政府の援助も受けられない中、砕氷能力もない船で南極点到達を企図した「白瀬矗(のぶ)中尉」の壮挙が、以後の南極条約で日本が一定の地歩を得る下地となったと理解している。こう考えれば、費用対効果最のみ重視するあまり、政府の先進的な取り組みの全てを否定する日本人の感覚と現状は、決して児孫の時代に好結果を残すものとは思えない。コロナ給付金を1週間で配布した欧米に比し3か月以上を要した日本、コロナワクチン開発に後塵を拝した日本、MRJを飛ばせなかった日本、我々世代の拝金第一・将来施策への銭惜しみの幼児的発想を考え直す時期に来ているのではないだろうか。西郷隆盛は「児孫のために美田を残さず」として自分の蓄財には無縁であったが国の将来や国民の国家観育成には多くの事績を残したと思うが、現在の風潮は、日本の児孫(将来)には美田を残さないものの、自分と自分の児孫には美田を渇望することに狂奔しているようにしか思えないと慨嘆するものである。
最後に、前述の白瀬中尉が陸軍中尉であることには、元海上自衛官として忸怩たるものを覚えるところである。