もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

海上幕僚長のコロナ罹患に思う

2020年12月26日 | 自衛隊

 海幕長の感染判明と前後して海幕副長の感染も判明した。

 中國コロナの潜伏期間が長いため、両者の感染機会・経路は不確かであるが、両名が揃って出席した送別会が原因ではと疑われている。細心の注意を払っても感染は完全には防げないことから感染自体はやむを得なかったとしても、大人数の飲み会に出席したことは糾弾されてしかるべきである。岸防衛大臣も指摘していることであるが、部隊指揮官と次席指揮官が庁舎内以外で同席したことの方が問題であると思う。
 両名が罹患したのは感染症であり直ちに指揮中枢がマヒするものでは無いが、もし送別会がテロの標的とされた場合には直ちに海上幕僚監部の運営が混乱することが考えられる。
 民間でも同じであると思うが、特に軍事組織では指揮官と次席が同じ場所に存在することを極力避けることが常識で、幕僚長が酒席に出る場合に副長は素面で待機することが常識であり、幕僚長も副長の参加を制止するのも常識である。
 極めて限られた指揮官にしかポケベルが配布されなかった時代の経験であるが、それらの幹部は固定電話の場所を離れる場合には、必ずその旨を当直幕僚に連絡してきたし、その場合にも指揮官と次席が同時に固定電話を離れることは無かった。しかしながら、携帯電話の普及に伴って「携帯で連絡を保っていたので問題はない」との主張が市民権を得た感がある現在では、軍のトップですら甘い認識に陥っているのだろうかと危惧するものである。固定電話と携帯電話の通信強度に差異は無いとする意見もあるであろうが、海幕のしかるべき階層には基地局やNTT回線に依存しない通信手段があると思うので、やはり高額の武器と多くの隊員、それにもまして国民の安全を守るという気概を忘れてしまったの感が拭えない。

 報道では、今回のことについて「海上自衛隊の№1と№2が感染」と報じられている。確かに「海上幕僚監部」という組織についてはその通りであるが、階級的な№2は横須賀地方総監であり、例えば東京が混乱した場合や海幕長厄災の場合には、横須賀総監が幕僚長となって防衛相を補佐することになると思われる。これもトップと№2は距離的に離すという典型で、2.26事件では海軍省の混乱と情報錯綜、とりわけ皇居防御を懸念した横須賀鎮守府長官米内光正大将は直ちに独断で艦隊を東京湾に集結させて騒擾拡大を防いだことは、№2を遠隔地に置いて緊急時に備えることが効果を発揮した好例であるように思える。
 山本五十六元帥を始めとする往年の提督には「常在戦場」を所信として掲げる人が多かったように思う。海上幕僚長を始めとする提督諸官におかれたは、時代がどのように変化しようとも、武人として心に留めて欲しい言葉であるように思える。