産経新聞の特集記事で、無戸籍である老婦人が衰弱死(餓死)したことを知った。
さらに夫人の最期を看取った49歳の息子(無戸籍)も衰弱しており、保護される1カ月程前からは水と食塩だけで過ごしていたともされている。
夫人は長崎県の五島列島出身で無戸籍となった理由は不明とされているが、無戸籍であるために母子ともに就学の機会も与えられず、さらには年金・医療等の公的扶助もなく生活していたのであろう。
現在、日本の無戸籍者は、法務省の推計で900人、民間支援団体の推計では1万人に上るとされているが、公的扶助が受けられない生活は我々の想像の及ばないものであるだろうと思われる。
無戸籍となる理由は、
①親が離婚後300日以内に出産したが、民法規定で前夫の子供とされることを忌避して、出生届けを提出していない。
②親が無戸籍者。
③事情によって出生証明書がなく、その後の手続きをとらなかった。
④親の宗教観。
⑤失踪宣言等で戸籍が消された。
⑥海外で出生し日本国籍以外を取得した場合で、国籍留保を怠った、もしくは日本へ出生届をしていない。
等々が挙げられているが、一番多い理由は①で、無戸籍者の7~8割がこのケースであるらしい。
現在では民法規定も緩和され、戸籍作成の手続きも整っているが、それでも手続きには多くの証明書を作成したり裁判費用負担等の障碍があり、無戸籍者の解消・根絶には至っていないようである。
冒頭の事案でも、息子から母親死亡の通報を受けた自治会長が「無国籍とは寝耳に水」「知っていれば何らかの支援ができたかもしれない」と語っているように、「日本に住んでいるので戸籍は当然持っている」とする認識を略全ての人が持っていると思うので、困窮を知った場合でも、生活保護の申請を勧めるくらいしか思いつかないのが実情ではないだろうか。生活保護は無戸籍でも受給できるようであるが、長年、無戸籍を恥じて・社会的庇護を受けられないことを当然として、市井にひっそりと暮らしている人は、それが公に扱われることすら躊躇して窓口には並ばないだろう。
老婦人のケースを考えると、隣人の動向に無頓着な都市と違って五島列島では学校にも通わずに生活している子供は注目を浴びたであろうし、死別した内縁関係の夫の遺産相続等でも、無戸籍是正の機会があったのかも知れないが、縦割り行政、隣人の無関心、本人の生き方、等々の要因から悲劇的な結末に至ったように思われる。
コロナ禍の現在、休業補償を寄こせ。マスクしないで感染しても公費で治療、が大手を振っているが、無戸籍の故に全てから取り残されている人がいることを知って、暗澹たる思いに包まれた朝であった。