対ロ経済制裁が思うほどの成果を上げていないようである。
自分は経済制裁の効果は短期には限定的と書いて来たが、長期的に観ても不安材料が多いようである。
不安材料の一つが、インドの動向が定まらないことである。
インド軍の主要装備はロシア製であり軍事的にはロシアとの結びつきが強く、政治的には国境を接する中国を牽制するためにQUADに参加している。インドの腰が定まらないのは、ウクライナ危機で中露が急接近したために、近国(中国)を攻略(牽制)するために遠方の国であるロシアとは軍事的に日米豪とは政治的に結ぶ遠交近攻が破綻しかかっていることであるように思える。それを防ぐためにはロシアとの紐帯をロ・中以上に維持する必要があることから、国連でのロシア非難決議に棄権して決定的な断絶の回避に努めるとともに、ロシア産原油輸入に転舵する動きも見せている。
不安材料の二つ目は、ロシア産の原油・天然ガスのサプライチエーンにEUや日本が組み込まれている現状である。
EUはヤマルガス油田への依存度が高く、特にドイツにとっては火力発電燃料のほぼすべてがロシア産天然ガスを利用するシステムとなっているために、輸入を継続しなければならない構造は急速に変更できない。日本も、燃料資源安保のためにサハリン1・2事業への投資継続を選択せざるを得ない状況である。G7はロシア産原油・天然ガスのルーブル決済拒否で協調しているが、ルーブル決済であれドル決済であれロシアに戦争継続資金が供給され続ける構図には変わりがない。そのような状況からであろうか、一時半減したルーブルの価値は事変前の水準に戻り、懸念されたデフォルトは回避され続けている。
インドが遠交近攻策の維持に苦慮していると書いたが、同じく遠交近攻策で中朝を牽制している日本も、将来の危うさはインドと同じように思える。かって大東亜戦争の引き金となったABCD包囲網は米(A)・英(B)・中(C)・蘭(D:Dutch)を指していたが、米中関係が劇的に変化・蜜月化した場合には、対日包囲にEU・韓国(K)・豪(A)・加(C)も加わることは確実であろうので、その場合はA2BC2EK包囲網とでもなるのだろうか。
遠交近攻についておさらいした。
戦国時代の中国、魏を追われた范雎は敵国秦に逃れて昭襄王に遠交近攻策を説いた。この策を有効と判断した昭襄王は范雎を宰相に抜擢し、遠国の斉・楚と同盟して近国の韓・魏・趙を攻めて勝利し、結果的には秦が六国を平定して中国大陸始めての統一王朝を樹立したとなっている。自分が読んだ遠交近攻の下りには、范雎を追った魏が結果的に范雎に滅ぼされるという皮肉に焦点を当てて、有意な人と意見を見いだせない指導者を諫めていたと記憶している。