川崎重工業が海自に提供したとされる十数億円が所得隠しと認定されて、追徴課税の対象かと報じられた。
海自に提供されたとされる金品の詳細については報じられていないが、造船所での検査修理を経験した自分には思い当たる点が少なくない。
かって艦船修理費は、艦齢に比例して減少する仕組みであったために、老朽艦になれば部内規定で定める検査項目すらクリアできないことがしばしばであった。また、修理のために必要なボルト類などの消耗品は、各艦艇ごとに年間で定められた金額の中で賄わなければならないために、需要が急増する修理期には不足するというようなケースもあった。自分が、海士であった頃には現場で働く工員さんに頼めば2・30本入りの箱ごと貰えたが、造船不況以降は工員さんですら必要本数を申告して受け取ると変わったようで気楽に頼める雰囲気ではなくなったものの、同じ現場で作業するうち仲良くなった工員さんに都合付けて貰うこともあった。また、検査の過程で判明した損耗部品については、本来官給すべきものであるが部品購入費が無く造船所が手配して艦船修理費で決済するようなケースも有ったかもしれない。自分を含めて乗員は、査定・契約・決済の業務にはタッチしないために、目の前で行われている造船所工事の金額が如何ほどか、どの予算で行われているか等は知らないし、おねだりしたボルトがどのような形で処理されているかなどは知りもしなかった。いや、朧気には何らかの形で官が支払っているだろうとは思っていたが、今回の川重のケースから考えると、乗員に与えた便宜を官には請求できずに、裏金を作って凌いでいたようである。
修理期間中の乗員宿舎についても、官請求分を超える部分は裏金で補填していたともされるが、次に述べる自分のケースでも造船所が簿外の補填をしてくれていたのかもしれない。
昭和から平成となった頃、新造艦の艤装員を命じられた。造船所が手配してくれた子会社が運営・管理する寮に泊まって造船所に通う訳であるが、月額2万円強と記憶している艤装員手当てから寮費を払い朝夕2食の賄い食と昼食の仕出し弁当を採れば、艤装員手当てをオーバーした。同じ寮に商船の艤装員もいたが、こちらは寮費・食事(晩酌付き)は会社持ち、造船所への往復もタクシーであった。我々隊員の懐を知っている造船所は、おそらく寮費や食事代も原価を切って提供してくれていたのだろうし、子会社の経営を圧迫するわけにもいかないので差額は本社が負担したであろうと思うが、補填には何らかの会計操作が必要であろうことは想像に難くない。
川重の裏金・所得隠しの実態は、これから明らかにされるだろうが、最大の原因は「海上自衛隊の艦船修理費や部品購入費が足りない」ことであると思う。艦艇の建造・修理を担って艦艇の可働率維持に自衛官と志を同じくする造船所にあっては、修理予算欠乏と乗員窮状の側面が今回の誘因としてあるのだろうと考えると、申し訳ないの一言しか言葉が出ない。