促進ネット発足広がる関心
後継者難や人手不足に悩む農業分野で、精神障害者や知的障害者を積極的に雇用する動きが始まっている。障害者は、栽培や動物との触れ合いで心身の癒やしを得る「園芸療法」を経験した人が多く、農業には比較的身近な人たち。農家が雇用した場合の助成制度もあり、昨年3月には、取り組みを進める法人など18団体が集まり「岡山地域農業の障害者雇用促進ネットワーク」が発足するなど、関心も広がりつつある。<農と福祉の連携>の現場を訪ねた。(竹上史朗)
岡山市中心部から車で約1時間。同市東区谷尻の農園で、若者たちが草取りに励んでいる。ポーチュラカやマリーゴールドなどの花を育てており、経営するのは同ネットワーク会長の尾崎勝さん(60)。ここで精神障害や知的障害のある24人が働き、明るく声を掛け合いながら作業している。
15年前、福祉作業所の知人の依頼で受け入れ始めた。「草取りなど単純作業はできるだろうという程度の認識だった」と振り返るが、徐々に思いは変わっていった。「僕は車の運転が好き。配送もさせてほしい」。積極的な要望が次々と寄せられた。
今では、土作りや水やり、配送など様々な仕事を分担。美作市や兵庫県佐用町のホームセンターまで届けに行く人もいる。4人はフォークリフトを運転するため自動車教習所で講習を受けている。
室内だけの作業に比べ、青空の下で汗を流す作業は気持ち良いと好評で、週1回のペースで通院していたのが月1回にまで減らせるなど、体調が良くなった人が多いという。統合失調症を患い、長年無職だった女性(50)は「今は仕事にやりがいがあり楽しい。前は食事も取れなかったのに、今はご飯がおいしいんですよ」と笑顔だ。
体調次第で仕事量が減ったり、半日だけしか出勤できなかったりする日もある。それでも尾崎さんは、これまで主に息子と2人だけだった作業を振り返り、「(経営者として)おおらかさが必要。でも、今は彼らがいるから、農園も明るくなり、私も助かっている」と話している。
吉田裕一・岡山大農学部フィールド科学センター長は「新たな農業経営のビジネスモデル。農業は懐が深く、障害者は高齢者の労働をカバーしていく存在になりうる」と評価。「仕事について丁寧に分かりやすく説明したり、障害者の能力を発揮させたりと、経営者に求められるハードルは高い。そのハードルを超えられれば、得られる果実も大きい」と話している。
(2010年8月27日 読売新聞)
後継者難や人手不足に悩む農業分野で、精神障害者や知的障害者を積極的に雇用する動きが始まっている。障害者は、栽培や動物との触れ合いで心身の癒やしを得る「園芸療法」を経験した人が多く、農業には比較的身近な人たち。農家が雇用した場合の助成制度もあり、昨年3月には、取り組みを進める法人など18団体が集まり「岡山地域農業の障害者雇用促進ネットワーク」が発足するなど、関心も広がりつつある。<農と福祉の連携>の現場を訪ねた。(竹上史朗)
岡山市中心部から車で約1時間。同市東区谷尻の農園で、若者たちが草取りに励んでいる。ポーチュラカやマリーゴールドなどの花を育てており、経営するのは同ネットワーク会長の尾崎勝さん(60)。ここで精神障害や知的障害のある24人が働き、明るく声を掛け合いながら作業している。
15年前、福祉作業所の知人の依頼で受け入れ始めた。「草取りなど単純作業はできるだろうという程度の認識だった」と振り返るが、徐々に思いは変わっていった。「僕は車の運転が好き。配送もさせてほしい」。積極的な要望が次々と寄せられた。
今では、土作りや水やり、配送など様々な仕事を分担。美作市や兵庫県佐用町のホームセンターまで届けに行く人もいる。4人はフォークリフトを運転するため自動車教習所で講習を受けている。
室内だけの作業に比べ、青空の下で汗を流す作業は気持ち良いと好評で、週1回のペースで通院していたのが月1回にまで減らせるなど、体調が良くなった人が多いという。統合失調症を患い、長年無職だった女性(50)は「今は仕事にやりがいがあり楽しい。前は食事も取れなかったのに、今はご飯がおいしいんですよ」と笑顔だ。
体調次第で仕事量が減ったり、半日だけしか出勤できなかったりする日もある。それでも尾崎さんは、これまで主に息子と2人だけだった作業を振り返り、「(経営者として)おおらかさが必要。でも、今は彼らがいるから、農園も明るくなり、私も助かっている」と話している。
吉田裕一・岡山大農学部フィールド科学センター長は「新たな農業経営のビジネスモデル。農業は懐が深く、障害者は高齢者の労働をカバーしていく存在になりうる」と評価。「仕事について丁寧に分かりやすく説明したり、障害者の能力を発揮させたりと、経営者に求められるハードルは高い。そのハードルを超えられれば、得られる果実も大きい」と話している。
(2010年8月27日 読売新聞)