1年前の8月15日、盲導犬を連れた視覚障害の男性が地下鉄のホームから転落して亡くなりました。痛ましい事故を二度と繰り返さないために何が必要なのか。男性の妻が取材に答えてくれました。
それは去年の8月15日のことでした。品田直人さん(当時55)は、盲導犬と共に、職場から帰る途中、東京メトロ銀座線「青山一丁目」の駅のホームに転落しました。妻・直美さんは、それを会社からの連絡で知りました。その日は直人さん55歳の誕生日でした。
「ちょうど私は娘たちと一緒に、主人の誕生会、誕生を祝うために買い物をしてた。その日に限って不思議と会社出る前に電話が入った本人から。これから帰るよーっていう電話が入って、私はびっくりした。それが最後の会話でした」(直人さんの妻 品田直美さん)
直人さんは、入ってきた電車にひかれ亡くなりました。
「最初の頃は夢の中を歩いているような感じ。突然いなくなったということを頭では感じていても、どうしても心で受け止めきれない部分があったり」(直人さんの妻 品田直美さん)
妻の直美さんと子ども4人の6人家族。40歳の頃、視野が狭くなる難病にかかり、ほとんど見えなくなりました。
「中途失明なので、私には想像しきれないほどの葛藤があったと思う。どうしても家にいることが増えていたが、盲導犬が与えられたことで外に出やすくなりました」(直人さんの妻 品田直美さん)
なぜ、直人さんは転落したのか。数か月後、直美さんは、東京メトロから事故の説明を受け、当時の映像を見せてもらいました。直人さんは、ホームの端、白線の外側を歩いていました。そこで駅員が「白線の内側に下がってください」とアナウンス。直人さんは左手で何かを触ろうとしますが、そこには何もなく転落してしまったのです。
「(普段は)必ず乗るときに左手をあげてドアを確認しながら乗っていた。事故当日も同じ形でした。改札を通るときに反対側の電車入ってきた音が、 自分の乗る電車が入ってきたと間違って聞き取ってしまったのではないかと」(直人さんの妻 品田直美さん)
反対側のホームに入ってきた電車の音を聞いて、自分がいるホームに電車が来たと勘違いしたのではないかと直美さんは言います。ホームドアはありませんでした。
全日本視覚障害者協議会の理事長をつとめる田中章治さん。品田さんの事故を受け、青山一丁目駅に調査に行きました。ホームドアが無いこと以外にも、2つの大きな問題点があるといいます。
「点字ブロックを地下鉄の柱がふさいでいて、それが8本くらいあった」(全日本視覚障害者協議会 田中章治理事長)
日本で最初につくられた銀座線は設計が古く、ホームの幅も3メートルほどしかありません。このため、柱が後からつけられた点字ブロックを一部で遮っているのです。
「盲導犬は50センチぐらいのところまでずっと線路に近づいてまわりこんだということがあって、かなり我々にとっては危ないなと」(全日本視覚障害者協議会 田中章治理事長)
そして、もう1つ感じたのが「反響音」の大きさです。天井が低い上に狭いためか、他の路線よりかなり大きな音がしたといいます。
「あれだけひどい反響音はないですね。駅のアナウンスがありますが、電車が入ってきた瞬間にかき消されて、何を言っていたか分からないようなことが起こりうる」(全日本視覚障害者協議会 田中章治理事長)
メトロでは7月末時点で、ホームドアが設置済みなのは179駅中88駅とおよそ5割。事故を受け、計画を一部で前倒しし2025年度までに全駅での設置を目指しています。
「ホームドアが急速に増えていることを見たし、声掛けをしていきましょうというポスターが貼られたり、主人が天国でそれを見て喜んでるんじゃないかなと感じています」(直人さんの妻 品田直美さん)
一方、全国の鉄道会社に目を向けると、設置の目安となる利用者数1日10万人以上の駅での設置率は3割強にとどまるなど対策が急務です。
視覚障害者の田中さんは、ホームドア設置とあわせて、ソフト面での対策の充実を求めています。
「(駅員は)『そこの盲導犬の方止まってください』と、危険が迫っている場合は的確な指摘をしていただきたい」
(全日本視覚障害者協議会 田中章治理事長)
(2017/8/15日 BIGLOBEニュース )