前回の記事で話題にした芥川賞作家の田中さん。 記者会見を観た時から、どんな小説を書くのか興味深々。次のお休みには是非、読んでみたい!と書きました。 なんと、自宅にいながらにして、実現しました。いともあっけなく! 昨日の毎日新聞にショートショートが掲載されていたのです。 なんという素早さ! 作品名は、『竹やぶ』 このタイトルから、芥川龍之介の作品、『藪の中』を連想します。一つの『出来事』について、それぞれがまるで違う『証言』をする。 何が真実で誰が嘘をついているのかなぁ、なんて、子供の自分は思ったりしましたが、その後、社会へ出て「一つの出来事」について語る多くの微妙に、或いはまるで違った「実話」に驚く場面が増えてきます。 人によって、受け止め方は様々です。解釈の仕方も違う。 だから『藪の中』のようなことになってしまうんですよね。 歴史認識だってそう。違うサイドから見れば全く違うストーリー。 そのことを小説の中で分かりやすく見せてくれた芥川龍之介の『藪の中』 。『羅生門』と並んで好きな作品の一つです。 さて。 田中さんが書いた「竹やぶ」はどのような小説なのだろう。タイトルだけで、これだけのことを思いめぐらせました。 これだけで「成功」ですね。 そして実際に読んでみて…恐れ入りました。 現代の『芥川』の再来です。まさしく『芥川賞受賞』にふさわしい!
最初に新聞に掲載されていることに気がついたのは父でした。 「あの酔って会見していた作家の作品が載っている!」というのです。母も「え?そうなの?それじゃ私も早く読みたい」 夕食後、父の隣に座っていた私がまず、読み始めました。そんな私を固唾をのんで見守る母。新聞から顔を上げた私に、「で? どうだった?」
「凄いわ。まさしく芥川賞やね。 芥川の「藪の中」って小説があるでしょ? あれの現代版って感じ。 それに会見の印象から きっと まどろっこしい文を書くのだろうって思ったけど、簡潔明瞭で分かりやすい。読みやすい文章だよ。 だから読み始めから最後までさっと読める。短編なら村上春樹作品より良いかも!」
待ちかまえたように次に読み始めた母。 顔を上げた母の感想は、「なんてことはない。ただ、読み始めた本に挟まっていた紙を見つけて、それには女の名前と住所がメモされていて、気になってその住所を訪ねたら、竹やぶだったってだけの話じゃない。 田中氏は、外へは出て行かない人らしくて、田中氏の家の前に住んでいる人ですら彼の事、全く見かけたことなかったんだってよ。顔もテレビで初めて見たって取材で言ってた!」
「最近、小説の内容そのものは、ほんの日常的なもので、大したこと無いものが多いね。だから慎太郎さんがあんなこと言うのかも。太陽族とか、当時の自分達にとっては、それこそ何処の世界の若者の話? へえ?? な世界だったから」
父に関しては何の感想もありませんでした。 我が家の家族3名だけが読んでも、それぞれに感想も印象も全く異なるものでした。それこそ、「藪の中」であり、「竹やぶ」です。 芥川龍之介が掲げたテーマは現代に生きる作家にも、お茶の間にも受け継がれています、確実に!!