今月に入り、金融庁発の「公的年金の他、老後資産が概ね 2000万円必要」との報告が国民的波紋を描いている様だ。この数字は、現役を退いたご夫婦が 仮に共に 95歳までご存命だった場合の大体の不足額を表したものとされ、計算方法によっては 1500万円~3000万円という幅を持たせた見方もある様だ。麻生副総理・財務大臣はこの報告書を「正式な書面として受理せず」との判断をされ、これを問題視した諸野党が 同大臣の不信任案などで対抗したのはご存知の通りだろう。
元々年金制度は「自助、共助、公助」の言葉通り、自己責任の人生なるも、加齢などで稼得が思うに任せられなくなった方々向けに 現役時には年金保険に強制加入で一定の老後資金を補佐すべく積み立てさせ、既に引退した世代向けに給付する 所謂「賦課方式」で成り立ち、運用してきたものだ。本来は、現役時に保険金で積み立て 引退後に分割して受け取る「積立て方式」が最も健全な理想なのだが、今の国民年金制度が発足した 1961=昭和36年頃が高度経済成長期と重なり、好景気が前提の云わば「甘い」制度設計と、与党政治家向けの選対の意味もあって 前述の賦課方式が取り続けられてきたものとされる。
留意すべきは、この制度が今問題視される 長寿と高齢化を意識し想定したものではなかった事だ。前述の国年制度発足当時は、満55歳から支給で十分回った。当時の平均寿命は男で60代半ば、女性でも70歳に届いていなかったのではないか。つまり、当時の標準だった 55歳定年に達すると同時に年金生活入り→ 10年も受給すれば生を終える時代の産物だったのだ。それに比して今はどうか。平均寿命は実に 20年近くも延び、年金支給開始年齢も 60歳、又 65歳と繰り下げられはしたが、それでも支給期間はほぼ倍増しているのだ。加えて高齢人口の増加。これでは一定年金保険料を引き上げた所で「焼け石に水」だし、平成期に開始された消費税を一定引き上げたとしても、とても賄いきれるものではなかろう。
金融庁の報告書は、嘘を書いたものでない事は分かる。しかしながら、その表現や世間への発表については 明らかに慎重さを欠いたのではないか。麻生副総理・財務大臣の「受け取らない判断」も それは拙劣な印象が付き纏うものだったが、そうならばこそ 事前に担当大臣と省庁の官僚勢力、それに所謂ワーキング・グループを構成する面々が公表にあたり入念に打ち合わせ、飛行機の軟着陸ソフト・ランディングを心がけるが如く、国民市民向けの衝撃を和らげる努力をした上で公にすべきものだったのではないか。その意味で、麻生副総理・財務大臣の監督不行き届きの責任は やはり免れない事だろう。
野党の問題視点も大外れだ。日共などは「減らない年金」などと大情宣を繰り広げている様だが、明らかな財源の裏付けなきデマレベルのもので 到底信ずるに足りない。何よりも、与野党共に 金融庁の資産根拠となった「95歳」なる高齢には全く触れていないではないか。年金もだが、今後若い人口が大きく減る情勢では医療予算も逼迫し、これまでの高度な医療を誰でもが受けられる状況ではなくなって来る事が予想される。加えて事件事故などの不慮の落命や、自ら命を絶つケースも少なくないだろう。
最近では著述家だった西部 邁(にしべ・すすむ)さんの例が知られるが、若い頃はとも角、一定以上の高齢に達し 人生面の目途もついた者は、自ら「死の選択」をしたって差し支えないと拙的には想う。此度の所謂「2000万円問題」は、確かに政治家、官僚の双方に慎重さを欠いた結果の産物であったが、今の我国内情勢をもう一度精査し、例えばご夫婦で 85歳まで存命のケースとかの「顔を洗って出直す」的な再試算発表への努力がされても良いものだと心得る。今回画像は JR名古屋駅の西方で見かけた、往年の近畿日本鉄道・主力特急車「スナック・カー」最後の頑張りの様子を。