はなこのアンテナ@無知の知

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キーワードはPolitical Correctness

2016年11月10日 | はなこのMEMO
 一昨日夜のニュースでNHKが報じていた今回の米大統領選のキーワード"Political Correctness"(ポリティカル・コレクトネス)

 Political Correctness(略称:PC)とは、「政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のことで、職業・性別・文化・人種・民族・宗教・ハンディキャップ・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現を指す。」(wikipediaより)

 今回の大統領選はBBCの分析によれば、若者、ヒスパニック、女性の多くはクリントン候補に、白人の中高年の多くがトランプ氏に投票したとのだとか。

 つまり、今回の選挙は、Political Correctnessを推進したが為に、"白人にとっては不公正、不公平な社会"になってしまったことに対する、「古き良きUSを懐かしむ」白人の不満が爆発した結果だと言うのです。

 マイノリティや女性など構造的に差別されて来た集団に対し、雇用、教育などを保障する特別優遇政策Affirmative acitionにより、優遇措置を受けるマイノリティや女性と競合する枠で、辛酸を舐め続けたと考える白人男性。

 橘玲氏の近著にもありましたが、統計上も大学で同じ成績の白人男性と黒人男性とでは、より高年収の職業に就く確率は黒人男性の方が高い、と言う現状に不満を燻らせている白人は少なくないようです。

 彼らは「これは白人に対する逆差別だ」と憤っているのです。

 NHKのインタビューに応えていた熱烈なトランプ支持者の白人中年男性は、IT企業の経営者で年収も2,600万円。目の前に湖が広がる豪邸で、美しい妻や「ミスコン荒らしの美人姉妹」で知られる2人の娘と共に、何不自由ない暮らしを送っている人でした。

 その人がカメラの前で躊躇うことなく言い放ったのが、「そもそも人間が平等であるわけがない。醜い者と美しい者が平等であるわけがない。」でしたbikkuri

 えーbikkuri(どうせ、日本人しか見ない日本のニュースだからと思っているのだろうけれど)そんな差別的なこと、臆面もなく言っちゃうんだーbikkuribikkuri

 剥き出しの差別感情に、思わず引いてしまうase

 「USは俺たち白人の物」と言わんばかりの態度で、移民に対して嫌悪感モロ出し。

 しかし、USは移民立国なんだよね? さまざまな国々から、新天地での成功を夢見て来る人々を受け入れ、彼らの懸命の努力を活力にして発展して来た国だよね?

 そもそもUSはネイティブ・アメリカンの土地と尊厳を奪って成立した国だよね?

 かつて自身も移民であったであろうヒスパニック系女性も「もうこれ以上の移民は要らない」と言う。彼女が「NO」を突きつけた対象はイスラム教徒でした。しかし、「白人優越主義者」の白人から見れば、哀しいかな彼女も差別すべき対象。

 
 先の男性の身も蓋もない発言は、元々あった「白人優越主義」の差別感情に、「行き過ぎた格差社会」の現状が合わさって、競争社会の「勝者」の傲慢さが助長され、弱者への優しさは切り捨てられてしまった結果のようです。
 
 尤も競争社会では「勝者」も未来永劫勝者で在り続けられる保証はありません。常に転落への恐怖に怯えながら、日々競争に駆り立てられるのです。

 その心の余裕のなさが、「理性ある人間としてのプライド」を失わせてしまったのかもしれません。

 苛烈な競争社会がもたらした「行き過ぎた格差」が、人心を荒廃させているのは紛れもない事実でしょう。「勝者」は「敗者」を蔑み、忌み嫌い、「敗者」はルサンチマンでアンモラルな行動に出たり、犯罪に手を染めて、社会を混乱に陥れる。両者の姿が際立って見えているのが、今のUS社会。

 ここまで来ると、USもいよいよお尻に火がついて、もはや大国としての矜持を失ってしまったのだなあと思う。もうヨソのことなんか構っていられない。自分達のことで精一杯。

 USは良くも悪くも、世界の中で人間社会の在りようの先端を行く国でした。日本は戦後、間違いなく、その後追いを続けて来ました。

 しかし、自身の醜い姿を隠そうともしない人々が過半数を占める今のUSに、倣う価値はあるのでしょうか?(これはもしかして、日本がUSから真に自立する、またとない機会と言えるのでしょうか?)

 新大統領のトランプ氏は彼らに燻る不満の受け皿として票を集め、政治経験も全く無いまま、今後USの舵取を始めようとしています。

 選挙期間中、中傷合戦に明け暮れ、次期大統領としての「崇高な理念」(崇高でない独善主義的発言はあった。具体策は示さずに抽象的イメージで目指す国について語ることはあった)をついぞ示すことのなかったトランプ氏が、USを今後どう導こうとしているのか、世界は固唾を飲んで(おっかなびっくり)見ています。

 接戦の中、劇的勝利を得たトランプ氏。勝利の美酒の酔いから覚めた彼は、果たして最初に何を思うのでしょうか?家族総出の勝利宣言の檀上で、晴れ晴れとした表情の父親の背後でひとり不安げな表情を見せていた幼い(小学生くらい?)息子さんの姿が、ちょっと気になりました。


 一昨日のTBSの報道で初めて知って驚いたのですが(私が単に無知なだけなのかもしれませんが)、米国には元々戸籍制度がなく国民は居住する市町村に住民登録をするのみで、大統領選への投票参加も、お金を払って有権者登録をしないといけないのだそうです。

 さらに投票環境にも、富裕層が多く住む都心部とヒスパニックなどの移民が多く住む郊外とでは大きな差があり、都市部には十分な数の投票所に数多くのスタッフが配置され、投票用の機械も最新式のものが数多く取り揃えられ、正に至れり尽くせりなのに対し、移民が多く住む郊外には投票所そのものの数が少なく、スタッフの数も十分でない上に投票用の機械も古く数が少ないので、毎回投票所の前には長蛇の列が出来、投票するのに1時間以上待つこともザラなんだそうです。

 投票日も日曜日はキリスト教の安息日の為、伝統的にその翌々日の火曜日と決まっているそうで、日雇いやなかなか平日に休みの取れないヒスパニック系住民は有権者登録をしたとしても、仕事が休めずに投票に行けない人が多いのだとか(今回は史上最多の期日前投票数を記録)

 この為、有権者登録をしたヒスパニック系住民の内、40%程度の人しか実際に投票しないらしい。対して、白人の投票率は60%なんだそうです。

 こうした投票格差も、トランプ氏には有利に働いたのかもしれません。

 先のUKのEU離脱に関する国民投票でも、下馬評を覆してUKにEU離脱の結果をもたらしたのは、白人かつ中高年層の投票行動であったと言います。

 ここ日本でも、社会の中で多数派となった中高年層の投票行動が、選挙のキャスティングボードを握っているのは周知の通り。しかも、ただでさえ数で劣る若者達は、政治や社会への関心を持つ機会もなく、その多くが選挙の投票には行かない。

 先進国の間では世界的規模で、実際にその社会でより長い年月を生きることになる若者達の声が、政治に反映されにくい社会になっているように思います。

 この傾向は、果たして社会の在り方として、正しいのでしょうか?

 
 そう言えば、テレビに映し出された、どの州でどの候補が勝利したかを示すUSの色分け地図を見て分かったのは、東西海岸部はヒラリー氏の勝利、内陸部はトランプ氏の勝利ということでした。

 そこで思い出したのが、10年近く前に、リタイアしたおじさん達に混じって受講した市民講座での、東大教授の言葉でした。詳細は忘れましたが、雑駁に言えば「米国は都市に暮らすスノッブなインテリの国ではなく、額に汗して働く開拓者、労働者、田舎者の国なんだ」と。「主に内陸部に住む彼らの投票行動は侮れない」と。「だから、テキサスの石油会社経営のブッシュ・ジュニアやピーナッツ農場経営のカーター氏が大統領に選出されたりしたんだ。」と。

 ドナルド・トランプ氏は生粋のニューヨーカーで富裕な不動産業者の二代目(四男坊なんですね)ですが、父から受け継いだ事業をさらに拡大させた経営手腕は高く評価されているようです(何度か浮き沈みも経験はしているようですね)

 ただ、都会出身のセレブリティにしては下品な発言が多く、洗練された人物とは言い難い。そこに、かつての開拓時代の男性像に通ずるような「粗野な男らしさ」を感じる人もいるのかもしれません(人に対して細やかな気遣いをしない人だから、経営では素早い決断ができるのかもしれませんね。利益の為に冷徹になれる)

 マスメディアからは早くも、既存の政治にうんざりした有権者が、政治の垢に染まっていない、政治家としては素人のトランプ氏に変革を託したとの分析も出ています。

 来年は年明け早々波乱含みの展開が待ち受けているような気がしますが、USも官僚機構はしっかりしているので、心配するほどの政治的混乱はないのかもしれません。トランプ氏が、どれだけ優秀なブレインを、その周辺に確保できるかにかかっているのでしょうね。

 最後に、昨日の夜、クリントン候補の熱烈な支持者だった歌手で女優のレディ・ガガさんが、かの有名なトランプタワーの前に車を止めて、「Love Trumps Hate」(愛は憎しみに勝つ)と言うプラカードを掲げたようですね。「勝つ」にトランプ氏の名前を掛けたところに、ガガさんのウィット・センスの良さを感じます。

 その後、警察に注意されてその場を立ち去るのですが、直前の彼女は、これまで見たことのないような思い詰めた表情が横顔からも見て取れて印象的でした。

ヒラリー・クリントンさんのこと】

 ヒラリー・クリントンさんはユダヤ系の富裕な企業経営者の娘として生まれ育ち、幼い頃から才女の誉れ高く、ロースクール修了後は弁護士として活躍し、さらにファーストレディとして地位も名誉も富も得た女性です。

 その彼女が自身の後半人生の12年もの歳月をかけて目指した「US史上初の女性大統領の夢」は、結果的に突如登場した伏兵トランプ氏によって打ち砕かれました。これは彼女にとって人生最大の挫折であったと思います。

 しかし、見方を変えれば、「元ファーストレディ」としてのみならず、「US史上初の女性大統領」を目指してチャレンジし続けた女性として、彼女の名はUSの歴史に名前を刻まれたのです。このこと自体凄いことだと思うんですよね。

 彼女は確実に、後に続くであろう挑戦者に、「US史上初の女性大統領」への道筋を作ったと言えると思うのです。

 その成否に関係なく、人生におけるチャレンジに、無駄なことはひとつもないのです。それを身を以て体現してくれたのが、ヒラリー・クリントンさんでした。


結局、日本は10年以上前から、こうだったのね…

 そして未だ、何の解決策も見出されていない。

 chain「斜陽期に入った日本」
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