
あいにく見たのは途中からだったので、詳細は残念ながらここではご紹介できませんが、聞いた限りでは、写真を撮る際に氏が最も大切にしていることは「現在性」とのこと。対象の、今、生きている、或いは存在している、この瞬間の姿を捉えたい。それを写真に残したいと思ったら、否、頭がそう思うより先に、勝手に指がカメラのシャッターを押しているんだそうです。そこにも氏の命への畏敬の念と言うか、生命賛歌、人生賛歌の思いが見て取れます。おそらく氏の写真家魂に染みこんだ思想とも言うべきもの。
「今撮りたい女性は?」と言う視聴者からの質問に、(スタジオの観覧者に視線を向けて)「この人達を撮りたいね」と答える荒木氏。にわかに色めき立つ観覧者達。60代前後の女性達でしたが、確かにそれぞれの生き様が刻まれた皺が、活き活きとした表情を形作っており、キレイはキレイなんだけれど、誰もがセオリー通りの同じようなメイクアップの若い女性に比べたら、皆さん個性的で、被写体としては魅力的かもしれません。
面白いのは、死ぬ間際どころか、死後棺桶に入って、自分の葬儀に来てくれた人々の顔も、棺桶の小窓?から手を伸ばして写真に撮りたいなと言う、氏のカメラ小僧魂。茶目っ気たっぷりで、元気いっぱいで、氏と言葉を交わしただけで、氏の話を聞くだけで、こちらまで元気になる、あのパワーは凄いですね。昨年、前立腺がんを患って生還された氏ですが、このパワーには病も恐れをなして退散するでしょう。しかし、がん再発予防の為に(ザクロは女性ホルモン様の物質を分泌することから)ザクロを食べ過ぎたせいか、最近胸に腫瘍が出来たとかで、前日、除去手術を受けたのだといきなり上着を捲ったのにはびっくり。胸には手術痕を覆う大きな白いガーゼ?が貼られて、見るからに痛々しかった。
写真は御年22歳、人間ならば優に100歳を超えるのではないかという愛猫チロの話題に及んだ時のもの。チロは夫人ご存命の頃から飼っている猫で、夫人が撮られたという、ソファに寝そべる荒木氏とチロの写真も紹介されました。「凄くイイ写真だよね」と荒木氏。「僕より長生きしそうなんで、(愛猫のチロに)弔辞を仕込んでいるところなんだ」「僕はエロからチロに変わったね」と氏の口からはダジャレも飛び出す始末(笑)。本当に愛すべきキャラクターの天才アラーキーです。