はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

テーマ読書:日本の階層社会化現象について

2005年12月08日 | 読書記録(本の感想)


ここ数年、新聞・テレビ報道等で取り沙汰されている、日本の階層社会化について興味があります。

普段の生活では別段意識することがなくても、日本社会には遙か昔から階層は存在していたのであり、それが最近になって顕在化した、クローズアップされただけなのかもしれません。

私は映画を見ることが好きで、映画を通して関心の幅を広げることも少なくありません。映画はただ楽しむだけでなく、かつてシェイクスピアが「芝居は時代を映す鏡」と言ったのと同じく、映画も時代を映す鏡で(つまりは時代を経て、表現媒体が変わっただけのこと)、作り手が発信するメッセージ、映画が映し出す映像、映画の中で描かれる物語の背景等に社会の在り方がしっかりと反映されているのを感じます。

例えば今年公開映画のヒット作のひとつに挙げられる『チャーリーとチョコレート工場』。一見子供向けのファンタジーの体裁をとりながら、描かれているのは、産業革命時代以降の大量生産、大量消費、効率重視、拝金主義の社会なのだと見てとることができる。

原作者ロアルド・ダールはイギリス人で、グラマースクール(英国の公立高校にあたる)を卒業後、18歳でシェル石油の社員としてアフリカに渡り、第2次世界大戦では戦闘機のパイロットとして活躍。戦後はアメリカに渡り作家としてデビューし、O・ヘンリーやサマーセット・モームと並び称される短編の名手として名を馳せた人らしい。

公立のグラマースクールを卒業後すぐに就職ということは、彼が比較的下の階層の出身者であることを意味します。その彼がイギリス時代に経験したこと、見聞きしたものは、まさしく『チャーリーとチョコレート工場』の主人公チャーリーが見たものだったのではないか?

中東駐在時代、たまたま友人夫妻がイギリスに駐在しており、飛行機で5時間程で行ける距離であったことから、我が家はイギリスへ数度渡航し、ロンドンとエジンバラを拠点に、イギリス各地を旅しました。あくまでも旅行者としての滞在でしたから、見たものはイギリス社会のごく表層的なもの。一旅行者の目には、大英帝国の遺産で豊かな文化を有した国と映りました。

その英国が階級社会の最たる国であることは有名な話。そこで、日本社会の急激な階層化が今後社会の在りようにどのような変化をもたらすかを見るケース・スタディとしてイギリスの階級社会について知ることが一番の早道だと考え、書店で見つけたのが以下の本。

何か新しいことを学ぼうと思ったら、とっかかりとしては、今百花繚乱の時代を迎えた新書が入門書としては最適。それぞれの分野の一線で活躍する書き手が、万人向けに平易な文章で著してくれています。値段が比較的安価でコンパクトなことも嬉しい。

●『しのびよるネオ階級社会~”イギリス化”する日本の格差
(林信吾、平凡社新書、2005)
在英10年以上に及んだジャーナリストの著者が見聞し、体験したイギリス階級社会の実相。在英日本人の実態にも容赦ない観察は興味深い。
以下芋づる式に、関連図書を読み漁って行きました。

●『下流社会~新たな階層集団の出現
(三浦展、光文社新書、2005)
●『「家族」と「幸福」の戦後史~郊外の夢と現実
(三浦展、講談社現代新書、1999)
●『若者が社会的弱者に転落する』
(宮本みち子、洋泉社新書、2002)
●『行儀よくしろ』(清水義範、ちくま新書、2003)

この10年間、特に子供をターゲットにした、社会的弱者(社会全体で守らなければならない存在)を狙った犯罪が後を絶たない。これは現代日本社会が抱えた病理とも言えます。

かつてアメリカ映画「羊たちの沈黙」の中で描かれた猟奇的殺人事件に衝撃を受けましたが、それが今、現実のものとして私達の社会に突きつけられている。

こうした事件の数々も、社会の在り方の反映なのです。人間が社会的動物であるということは、凶悪事件を引き起こした犯人達を育んだのもまたこの社会なのだと、言わざるを得ないのではないか?その犯罪の原因をただ単に、犯人の生い立ちや特殊性に帰納するのではなく、私達が帰属する社会の在り方から見直さないことには、個人の自助努力による自己防衛には限界があり、根本的解決には至らないような気がします。

特に注目するのは、1962年以降出生の世代の閉塞感。埼玉の連続幼女殺害事件の宮崎被告、新潟少女拉致監禁の佐藤被告は共に1962年生まれ。某教団?の上祐も然り。彼らが生まれ育った時代以降の一体何が問題なのか?

しばしば日本の従来の価値観が根底から覆された契機として、第二次世界大戦の敗戦が挙げられます。現代の日本が抱える病理の原点はどこにあるのか探る手だてとして、この時代をまず見直してみたい。そこで、以下の本を買ってみました。

●『あの戦争は何だったのか~大人のための歴史教科書
(保阪正康著、新潮新書、2005
●『国家の品格』)(藤原正彦著、新潮新書、2005)

(了)
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