はなこのアンテナ@無知の知

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映画『ロード・オブ・ウォー』

2024年12月20日 | 映画(2005-06年公開)
2006年6月30日初出記事の再掲です。


 本作の製作・監督・脚本を全て一手に引き受けたのが、ニュージーランド出身のアンドリュー・ニコル調べてみたら、この人、凄い人なのだ。

 97年に自らのオリジナル脚本「ガタカ」で監督デビュー。ジム・キャリー主演の「トゥルーマン・ショー」の脚本も手がけ、アル・パチーノ主演の「シモーヌ」でも製作・脚本・監督を担当。さらにスピルバーグ監督の「ターミナル」の原案を書き、制作総指揮まで執っている、才能豊かな人物。

 その彼が次に着目したのは武器商人。別名「死の商人」とも呼ばれる彼ら。

 こういう目の付け所の鋭さには脱帽。武器商人は例えばトム・クルーズ主演の『M:I』(最近見た『M:I:Ⅲ』のディヴァインも死の商人)の中にしばしば登場したりと、従来の作品で主人公の敵役として登場することはあっても、彼らを真正面から取り上げた作品はなかったのではないか。

 主役の武器商人を演じるのはニコラス・ケイジ。彼の脱力系の、人を小馬鹿にしたような飄々とした風貌が、今回は、主人公の謎めいた人物像にピッタリ嵌っている。

 これは見応えあります。ニコル監督の処女作『ガタカ』で好演したイーサン・ホークも友情出演。

 自分の仕事がもたらす多くの死に良心の呵責を一切感じない、いかにも体温の低そうなキャラクター、その冷徹さと引き替えに、主人公自身の普通の人間としての幸福を奪っている。

 その運命を何の屈託もなく受け入れている主人公の姿に、これまで映画の中で幾度となく描かれて来た死の商人達に通底する、ある種独特のメンタリティを感じた。

 おそらく世の中には通常の理解を超えた、このような人物が少なからず存在するのだ。

 「だから戦争はなくならない」と言ったら、言い過ぎだろうか?

『M:I:Ⅲ』でもこんな台詞がある。「ディヴァインのような人物は必要なのだ。たとえ彼が死んでも、また別の人間が出てくる」


 主人公ユーリー・オルロフ(ニコラス・ケイジ)は、ウクライナ系移民2世の米国人。同じウクライナ移民が多く住む街で、ある日、彼は銃撃戦に巻き込まれる。そこで銃に恐怖心を抱くどころか、「この銃によって自分は成り上がれるかもしれない」と考えついたのが彼の武器商人としてのスタートだった。

 彼は世界の紛争当事国の軍人や独裁者に巧みに取り入り、法の網を難なく掻い潜って、武器の闇取引で「武器商人」としてのし上がって行く。


 そのやり口は実に巧妙だ。オルロフの仕事は間接的に虐殺に加担するもので、倫理的にはけっして許されるものではない。だが彼の明快な主義主張とアメリカの現実には、必要悪としての彼の存在を認めざるを得ない説得力がある。

 実は主人公のオルロフは実在する特定の人物をモデルにしたのではなく、世界の紛争で暗躍する複数の武器商人達を一人の人間に集約したキャラクターらしい。

 作品は登場人物の言葉を借りて、戦争の真実の一面を語る。

戦争・紛争で亡くなる人の9割は銃で殺害される。最終兵器とは核ミサイルではなく、銃なのだ」(因みに世界で最も流通しているのは旧ソビエトで設計・製造された自動小銃AK、通称カラシニコフ<設計者の氏名>、つまり、人類史上、最も人間を殺傷した銃)

「世界の主な武器輸出国は米・英・露・仏・中の5カ国。すべて国連の常任理事国」(つまり、自らが戦争ビジネスで巨利を得つつ、国連では常任理事国の特権である「拒否権」を度々発動して、紛争終結には最も消極的な、恥知らずなマッチポンプ諸国)

 脚本の脱稿がイラク戦争開戦一週間前という最悪のタイミング、政権批判に繋がりかねないメッセージ性の強い作品に、米国内の資金が集まるはずがない。この作品の制作費はすべて米国外の資本で賄われたという。2005年12月公開。

ロード・オブ・ウォー公式サイト

【追記】

数年前に国際交流SNSで知り合った、いかにも人の良さそうな米国人女性の夫は、英国発祥の軍需産業のアジア担当マネージャーでした。

おそらく月の家賃が200万円は下らない、都心の地下鉄駅に直結するセキュリティも万全なタワマンに在住ながら、殆ど日本にはおらず常にアジア中を出張で飛び回る人物でした。

妻である女性も日本を拠点に、しばしば親族を招いては、日本国内は元より、アジア各国への旅行を楽しんでいる様子でした。

そう言う彼らの豪奢な生活の財源の幾ばくかが、他国の紛争によりもたらされているのだと想像したら、目の前で屈託なく笑う女性を見ながら心境は複雑でした。斯くいう自分も偽善者なのかもしれませんが…

(了)

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