クレプトクラシー(kleptocracy、泥棒政治)という言葉がある。泥棒政治家なら kleptocrat である。
ベルリンに本部がある国際NGO・トランスペアレンシー・インターナショナルによると、世界の泥棒政治家のワースト10は①インドネシア大統領だったスハルト②フィリピンの元大統領マルコス③ザイールの元大統領モブツ④元ナイジェリア国家元首アバチャ⑤元ユーゴスラビア大統領ミロセヴィッチ⑥元ハイチ大統領デュヴァリエ⑦元ペルー大統領フヒモリ⑧元ウクライナ首相ラザレンコ⑨元ニカラグア大統領アレマン⑩元フィリピン大統領エストラーダだそうだ。スハルトは何兆円もの金を国から掠め取り、エストラーダは80億円ほど盗んだと推定されている。その他のクレプトクラットが盗んだ金額はスハルトとエストラーダの中間。(詳しい資料は
https://www.transparency.org/whatwedo/publication/global_corruption_report_2004_political_corruption
でGlobal Corruption Report 2004 を開いて13ページに進むと読むことができる)
クレプトクラシーという用語はもっぱら20世紀になって使われ始めた。合法的支配という考え方が広く支持されるようになったせいである。旧体制のカリスマ的支配や伝統的支配が行き渡っていた時代には、国家の多くは家産制の形をとり、そもそもクレプトクラシーを問題にするような人はきわめて少なかった。
豊臣秀吉の醍醐の花見のような規模の催しは、ルイ14世のヴェルサイユ宮殿造営に比べれば可愛らしい無駄遣いだが、今日の目で見ればクレプトクラシーの一種である。なにしろルイ14世は「朕は国家なり」とのたもうたとされているので、その当時のフランスでその支出の正当性を疑う人はすくなかったことだろう。
そのヴェルサイユ宮殿を借りて結婚披露宴を催し、賃借料をルノーに肩代わりさせた疑いでフランス司法当局の調べが進んでいるカルロス・ゴーン氏への容疑など、フランスが合法的支配を掲げる現代国家なったことの証だ。
さて日本では、ゴーン氏の弁護士が、ゴーン氏の独白録画を4月9日東京で記者たちに披露した。画面のゴーン氏は「私は無実」「日産の陰謀」を主張した。
ゴーン氏がCEOだった時代に日産やルノーから会社の金を私的な目的で流用したと疑われている事件の黒白は裁判を待たねばならない。
もしゴーン氏が「黒」の判定を受けることになれば、CEO の「E」は extortion のEということになる。ゴーン氏が「黒」ということになれば、長年にわたってたかり屋のCEOにしたい放題のことをさせてきた歴代の日産取締役の職務怠慢も厳しく責められることになる。同時に、世界的企業のCEOがたまたまたかり屋になったのか、たかり屋がたまたたま世界的企業のCEOになったのか、ノンフィクション『ゴーン一代記』の出版も待たれる。
(2019.4.9 花崎泰雄)
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