道の駅
鳥取に父方の親戚がある。周囲を深い山に囲まれた田舎町だった。ちょいちょい用事で出掛けた。峠を越えて山の中を延々と車で走ると、ようやく到着する。途中休憩する施設など皆無で、疲れを抱えたまま往復した。
今は峠を越えずに済む快適な道がついている。そして、路線に道の駅が何か所か出来た。おかげで、楽しみが生まれた。
地元の野菜や特産品が所狭しと並べられた道の駅。飲食も個性的なメニューを楽しめた。行きも帰りも立ち寄るようになった。
数年前に亡くなった母は同乗すると、道の駅に寄るのを楽しみにしていた。母の大好きな豆腐竹輪が道の駅で買えたからだった。鳥取の名産品が手近に手に入るようになったのは、道の駅のおかげだった。
高齢の母には不自由な体でも、好きなモノを買い物できる道の駅に出会えたことは、幸せだっただろう。道の駅に立ち寄ると、豆腐竹輪をせがむ母の笑顔を思い出してしまう。
読書タイム?
病院に入院した時、家族へ最初に願ったのは、本の差し入れ。毎日なにかしらの本を読まないとおられない活字大好き世代である。昔なら嵐が丘とか水滸伝など、かなりな長編の世界に没頭したものだが、最近は肩の凝らない推理小説。勧善懲悪なのがお好みだ。
なかでも大沢在昌作品が最近の愛読書だ。差し入れられたのは『北の狩人』。秋田から上京した若者、雪人と新宿の佐江刑事の痛快無比な活躍を描いている。父の死の真相を求めて東京をさすらう雪人の強さは、今も昔も私の憧れそのもの。手に汗を握り、喚呼する。
テンポのある文体に引き込まれてしまった。いつしか主人公になっている自分に気付く。昔、東映の映画を見た後、主役になり切ったまま家路についたのを思い出した。
スティーブン・セガールの映画を見るような快感だった。一気に読み終わり、爽快な読後感に満足した。病気も憂さも一気に飛び晴らせたようだ。本の力は侮れない。
娘のハッピーシーン!
「お父さん、これ……」
躊躇しながら娘が差し出したのは一枚の写真。よく見ると、娘が彼氏と底抜けの笑顔でポーズを取っている。
「式場の下見で、係の人が写してくれたの」
「もう決めたんか?ここに」
「あと一つ、彼の推す式場を見に行くの」
照れ気味に答える娘だが、幸せいっぱいの顔をしている。素直に喜んでやる場面だが、不器用な父親は、やはり仏頂面で、
「ええとこに決まったらええのう」
「ありがとう」
30年以上父と娘だったのだ。父親が内心で相好を崩しているのは、お見通しだろう。
「素直じゃないんだから」
妻に図星をつかれるのはいつも。でも、そう簡単に性格は変えられない。しかし……?
待ちかねた娘の華燭の典が、もう秒読みに入った。さすがの仏頂面も、そろそろかなぐり捨てる時期が迫って来ているようだ。
夜行バスさまさま
四十年ぶりの東京行き。ある公募に佳作となり、その表彰式に招待された。会場は東京。交通費は新幹線利用で計算されたものの六十%が支給される。これを逃したらもう二度と東京には来れないだろう。なんとか交通費を安くしたいと、ネットで検索。安くできれば、東京で遊べる費用が捻出可能だ。
せこい考えで調べた結果、高速夜行バスが一番格安だ。すぐさま予約した。
夜行バスは片道八時間ちょっとかかる。それで平日四千円台。かなりなお得感だが、その分我慢の旅程だ。夜行バスは窓をカーテンで遮って外部と遮断が決まりらしい。そして早い時間から消灯される。そう簡単に寝られない分、退屈すぎて辛い。足を存分に延ばせない狭い席で辛抱の道中だった。
帰りも同じ。家に帰ると、ドーッと倒れこんだ。旅の思い出は夜行バスのしんどさだけ。
もし次の機会があれば、節約も程々に、新幹線か飛行機で快適な道中を過ごしたい!
老化現象イヤ!
「もう!なんて恰好してるの。何でも着ればいいわけじゃないでしょ。体裁ってものがあるのよ。買い物で一緒に歩けないわ」
久しぶりに妻と買い物へ一緒に行こうと誘われたのに、もう言いたい放題である。
確かにあるものを手当たり次第に重ね着したが、寒い思いはこりごりって理由だけ。
「これ見てごらんなさい。」
妻が出して来たのは古いアルバムである。開いてみると、えらくスマートな男女の写真が貼ってある。結婚した当時の私と妻の写真である。しまった体つきはともかく、着こなしもすっきりと整っている。我ながらほれぼれする男ぶりではないか。思わずニヤリ。
「わかった?私の結婚相手はこんなに素敵だったのよ。それが……あ~あ~」
妻のこれみよがしな悲嘆ぶり。でも、どうしようもない。自分のポッコリおなかを見る。
「これじゃー、いくらおしゃれしてもなあ」昔は簡単に諦めはしなかったけど……。
鳥取に父方の親戚がある。周囲を深い山に囲まれた田舎町だった。ちょいちょい用事で出掛けた。峠を越えて山の中を延々と車で走ると、ようやく到着する。途中休憩する施設など皆無で、疲れを抱えたまま往復した。
今は峠を越えずに済む快適な道がついている。そして、路線に道の駅が何か所か出来た。おかげで、楽しみが生まれた。
地元の野菜や特産品が所狭しと並べられた道の駅。飲食も個性的なメニューを楽しめた。行きも帰りも立ち寄るようになった。
数年前に亡くなった母は同乗すると、道の駅に寄るのを楽しみにしていた。母の大好きな豆腐竹輪が道の駅で買えたからだった。鳥取の名産品が手近に手に入るようになったのは、道の駅のおかげだった。
高齢の母には不自由な体でも、好きなモノを買い物できる道の駅に出会えたことは、幸せだっただろう。道の駅に立ち寄ると、豆腐竹輪をせがむ母の笑顔を思い出してしまう。
読書タイム?
病院に入院した時、家族へ最初に願ったのは、本の差し入れ。毎日なにかしらの本を読まないとおられない活字大好き世代である。昔なら嵐が丘とか水滸伝など、かなりな長編の世界に没頭したものだが、最近は肩の凝らない推理小説。勧善懲悪なのがお好みだ。
なかでも大沢在昌作品が最近の愛読書だ。差し入れられたのは『北の狩人』。秋田から上京した若者、雪人と新宿の佐江刑事の痛快無比な活躍を描いている。父の死の真相を求めて東京をさすらう雪人の強さは、今も昔も私の憧れそのもの。手に汗を握り、喚呼する。
テンポのある文体に引き込まれてしまった。いつしか主人公になっている自分に気付く。昔、東映の映画を見た後、主役になり切ったまま家路についたのを思い出した。
スティーブン・セガールの映画を見るような快感だった。一気に読み終わり、爽快な読後感に満足した。病気も憂さも一気に飛び晴らせたようだ。本の力は侮れない。
娘のハッピーシーン!
「お父さん、これ……」
躊躇しながら娘が差し出したのは一枚の写真。よく見ると、娘が彼氏と底抜けの笑顔でポーズを取っている。
「式場の下見で、係の人が写してくれたの」
「もう決めたんか?ここに」
「あと一つ、彼の推す式場を見に行くの」
照れ気味に答える娘だが、幸せいっぱいの顔をしている。素直に喜んでやる場面だが、不器用な父親は、やはり仏頂面で、
「ええとこに決まったらええのう」
「ありがとう」
30年以上父と娘だったのだ。父親が内心で相好を崩しているのは、お見通しだろう。
「素直じゃないんだから」
妻に図星をつかれるのはいつも。でも、そう簡単に性格は変えられない。しかし……?
待ちかねた娘の華燭の典が、もう秒読みに入った。さすがの仏頂面も、そろそろかなぐり捨てる時期が迫って来ているようだ。
夜行バスさまさま
四十年ぶりの東京行き。ある公募に佳作となり、その表彰式に招待された。会場は東京。交通費は新幹線利用で計算されたものの六十%が支給される。これを逃したらもう二度と東京には来れないだろう。なんとか交通費を安くしたいと、ネットで検索。安くできれば、東京で遊べる費用が捻出可能だ。
せこい考えで調べた結果、高速夜行バスが一番格安だ。すぐさま予約した。
夜行バスは片道八時間ちょっとかかる。それで平日四千円台。かなりなお得感だが、その分我慢の旅程だ。夜行バスは窓をカーテンで遮って外部と遮断が決まりらしい。そして早い時間から消灯される。そう簡単に寝られない分、退屈すぎて辛い。足を存分に延ばせない狭い席で辛抱の道中だった。
帰りも同じ。家に帰ると、ドーッと倒れこんだ。旅の思い出は夜行バスのしんどさだけ。
もし次の機会があれば、節約も程々に、新幹線か飛行機で快適な道中を過ごしたい!
老化現象イヤ!
「もう!なんて恰好してるの。何でも着ればいいわけじゃないでしょ。体裁ってものがあるのよ。買い物で一緒に歩けないわ」
久しぶりに妻と買い物へ一緒に行こうと誘われたのに、もう言いたい放題である。
確かにあるものを手当たり次第に重ね着したが、寒い思いはこりごりって理由だけ。
「これ見てごらんなさい。」
妻が出して来たのは古いアルバムである。開いてみると、えらくスマートな男女の写真が貼ってある。結婚した当時の私と妻の写真である。しまった体つきはともかく、着こなしもすっきりと整っている。我ながらほれぼれする男ぶりではないか。思わずニヤリ。
「わかった?私の結婚相手はこんなに素敵だったのよ。それが……あ~あ~」
妻のこれみよがしな悲嘆ぶり。でも、どうしようもない。自分のポッコリおなかを見る。
「これじゃー、いくらおしゃれしてもなあ」昔は簡単に諦めはしなかったけど……。