『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。それにザラザラしたものが手のひらにくっつきました。
(お願いだよ。『ゆるぎ岩』、揺れてよ。ぼく、ズーッといい子でいたんだから。これからも、もっともっと頑張っていい子になるんだから)
リューゴは自分の手に二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ手を当てました。
「うん。よーし!じゃあ押してみろ」
お父さんが大声で言いました。自分が押しでもするように手をゲンコに握り締めています。
「よいしょ!」
リューゴは掛け声をかけて、力いっぱい押しました。
「いいぞ、リューゴ、もっと押し続けろ」
お父さんの声が、リューゴの頭の後ろからかかりました。
「うん、わかった、お父さん。よいしょ、よいしょ、よいしょーっと」
「よいしょ、よいしょ、よいしょーっと!」
リューゴの掛け声に合わせて、お父さんも同じように掛け声を掛けます。お父さんは、もう嬉しくて嬉しくてたまらないのです。
「よいしょ!」
「よいしょ!」
リューゴは期待いっぱいで上を見上げました。お父さんも同じように見上げました。
(さあ、揺れろ……1、2、3……!)
リューゴは心を込めて号令をかけました。『ゆるぎ岩』がリューゴの願いに応えて、ゆらーっと揺れやすいように……。
「あれ?」
「う?」
『ゆるぎ岩』は揺れません。ちっとも揺れる気配はありません。どうして?リューゴがこんなに懸命になっているのに、一体どうなっているんでしよう?
リューゴは(アッ!)と思いました。やっぱり心配した通りになったのです。リューゴは『ゆるぎ岩』にいい子だと認めて貰えないみたいです。リューゴはガッカリしました。体中の力が抜けてしまいました。くにゃくにゃとお父さんの腕の中に身を任せました。
「おい、大丈夫かい?」
お父さんはしっかりリューゴを抱きとめました。
「……お父さん…ぼく、ぼくって……悪い子なの?」
「何だって?」
お父さんはリューゴに思いがけない質問をいきなりされてビックリしました。
「……ぼくさあ、ダメな子なの?いけない子なの?」
リューゴは悲しくてたまらない顔つきでお父さんを見上げました。涙が胃尼にもこぼれそうです。お父さんはすっかり戸惑ってしまいました。
「だって…だって…動かないよ、揺れてくれないよ、『ゆるぎ岩』が。ちっとも揺れない……」
(ハハーン!)
お父さんはやっと分かりました。きれいでよい心の持ち主でないと、『ゆるぎ岩』は絶対に揺れないんだ。そうお父さんが話したのを、リューゴはたやんと覚えていたのです。だから、『ゆるぎ岩』が全然揺れなかったので、自分は悪い子なんだと、ひどくショックを受けているのです。何とかしないと……。
「ああ、ちょっと待てよ、リューゴ」
お父さんは首をひねって見せました。
「なに?お父さん、どうしたの?」
「うん。いま思い出したんだ。そうだそうだそうだったんだ。お父さんが初めて『ゆるぎ岩』を押した時のことだ」
「揺れたの?」
リューゴはお父さんの話をひと言も聞き漏らすまいと、ちいさな体を乗り出しました。
「そうなんだ。揺れたから、もう嬉しくてたまらなかったよ」
リューゴはお父さんの言葉にガッカリしました。
(ぼくが押しても揺れなかったのに、お父さんの時は揺れたんだ。やっぱり、ぼくは悪い子なんだ……)
リューゴがしょぼんとすると、お父さんは頬笑んで、こう言ったのです。
「お父さんひとりで揺らしたんじゃないんだ」
「え?」
「実はな、お父さんのお父さんが、一緒に押してくれたんだ」
「おじいちゃんが…一緒に、押したんだ」
「そうさ。リューゴと同じ一年生の頃のお父さんは、もうイタズラばっかりしてさ、そんなお父さんが『ゆるぎ岩』を押しても揺れないだろうと心配したおじいちゃんが、お父さんの手を取って一緒になって岩を押してくれたんだ」
「へえ」
「そしたらな」
「うん」
「揺れたんだ、あのでっかい『ゆるぎ岩』がゆらゆらと揺れたんだ!」
お父さんは笑って大声を上げました。
「そうか。おとうさんも……揺れなかったんじゃないか。おじいちゃんの手助けがなかったら……」
リューゴはホッとしてお父さんを見ると、お父さんの目とぶつかりました。次に『ゆるぎ岩』を見ました。また、お父さんを……キョロキョロとリューゴの目は動き続けました。
「よーし!今度はお父さんと力を和え褪せて、一緒に『ゆるぎ岩』を押してみようじゃないか」
「うん!」
リューゴは元気いっぱい返事をしました。 (続く)
(1994年8月創作)
(お願いだよ。『ゆるぎ岩』、揺れてよ。ぼく、ズーッといい子でいたんだから。これからも、もっともっと頑張っていい子になるんだから)
リューゴは自分の手に二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ手を当てました。
「うん。よーし!じゃあ押してみろ」
お父さんが大声で言いました。自分が押しでもするように手をゲンコに握り締めています。
「よいしょ!」
リューゴは掛け声をかけて、力いっぱい押しました。
「いいぞ、リューゴ、もっと押し続けろ」
お父さんの声が、リューゴの頭の後ろからかかりました。
「うん、わかった、お父さん。よいしょ、よいしょ、よいしょーっと」
「よいしょ、よいしょ、よいしょーっと!」
リューゴの掛け声に合わせて、お父さんも同じように掛け声を掛けます。お父さんは、もう嬉しくて嬉しくてたまらないのです。
「よいしょ!」
「よいしょ!」
リューゴは期待いっぱいで上を見上げました。お父さんも同じように見上げました。
(さあ、揺れろ……1、2、3……!)
リューゴは心を込めて号令をかけました。『ゆるぎ岩』がリューゴの願いに応えて、ゆらーっと揺れやすいように……。
「あれ?」
「う?」
『ゆるぎ岩』は揺れません。ちっとも揺れる気配はありません。どうして?リューゴがこんなに懸命になっているのに、一体どうなっているんでしよう?
リューゴは(アッ!)と思いました。やっぱり心配した通りになったのです。リューゴは『ゆるぎ岩』にいい子だと認めて貰えないみたいです。リューゴはガッカリしました。体中の力が抜けてしまいました。くにゃくにゃとお父さんの腕の中に身を任せました。
「おい、大丈夫かい?」
お父さんはしっかりリューゴを抱きとめました。
「……お父さん…ぼく、ぼくって……悪い子なの?」
「何だって?」
お父さんはリューゴに思いがけない質問をいきなりされてビックリしました。
「……ぼくさあ、ダメな子なの?いけない子なの?」
リューゴは悲しくてたまらない顔つきでお父さんを見上げました。涙が胃尼にもこぼれそうです。お父さんはすっかり戸惑ってしまいました。
「だって…だって…動かないよ、揺れてくれないよ、『ゆるぎ岩』が。ちっとも揺れない……」
(ハハーン!)
お父さんはやっと分かりました。きれいでよい心の持ち主でないと、『ゆるぎ岩』は絶対に揺れないんだ。そうお父さんが話したのを、リューゴはたやんと覚えていたのです。だから、『ゆるぎ岩』が全然揺れなかったので、自分は悪い子なんだと、ひどくショックを受けているのです。何とかしないと……。
「ああ、ちょっと待てよ、リューゴ」
お父さんは首をひねって見せました。
「なに?お父さん、どうしたの?」
「うん。いま思い出したんだ。そうだそうだそうだったんだ。お父さんが初めて『ゆるぎ岩』を押した時のことだ」
「揺れたの?」
リューゴはお父さんの話をひと言も聞き漏らすまいと、ちいさな体を乗り出しました。
「そうなんだ。揺れたから、もう嬉しくてたまらなかったよ」
リューゴはお父さんの言葉にガッカリしました。
(ぼくが押しても揺れなかったのに、お父さんの時は揺れたんだ。やっぱり、ぼくは悪い子なんだ……)
リューゴがしょぼんとすると、お父さんは頬笑んで、こう言ったのです。
「お父さんひとりで揺らしたんじゃないんだ」
「え?」
「実はな、お父さんのお父さんが、一緒に押してくれたんだ」
「おじいちゃんが…一緒に、押したんだ」
「そうさ。リューゴと同じ一年生の頃のお父さんは、もうイタズラばっかりしてさ、そんなお父さんが『ゆるぎ岩』を押しても揺れないだろうと心配したおじいちゃんが、お父さんの手を取って一緒になって岩を押してくれたんだ」
「へえ」
「そしたらな」
「うん」
「揺れたんだ、あのでっかい『ゆるぎ岩』がゆらゆらと揺れたんだ!」
お父さんは笑って大声を上げました。
「そうか。おとうさんも……揺れなかったんじゃないか。おじいちゃんの手助けがなかったら……」
リューゴはホッとしてお父さんを見ると、お父さんの目とぶつかりました。次に『ゆるぎ岩』を見ました。また、お父さんを……キョロキョロとリューゴの目は動き続けました。
「よーし!今度はお父さんと力を和え褪せて、一緒に『ゆるぎ岩』を押してみようじゃないか」
「うん!」
リューゴは元気いっぱい返事をしました。 (続く)
(1994年8月創作)