新しい年を迎えると、神棚へ祭る鏡餅の前に祝い袋を並べる。晦日に家族の名前を丁寧に書いておいたものだ。
擦った墨を筆に含ませて書きあげる。家族一人一人の顔を思い浮かべながら幸せを手にする作業である。
祝い箸の出番は元旦の朝。家族が顔をそろえて頂く雑煮が初箸となる。続くおせち料理も祝い箸はきちんと役割を果たしてくれる。丸みを帯びて削られたシンプルな箸だが、家族の健康と幸せを祝う場にはぴったりの趣き。
「あいつら帰って来るかな?」
「仕事じゃ無理いえないからね」
昨年のみそか。妻となんとも寂しい会話を交わした。
「祝い箸、いくつ用意しとく?」
「決まってるでしょ。我が家は六人家族なの」
「うん……そうやな、六人や」
複雑な思いを飲み下して、子供たちの名前を書き上げると、なぜかウルっと来た。
子供は四人。数年前までは家族六人、食卓はいつも賑やかで楽しかった。もちろん正月の朝は、自分の名前が書かれた祝い箸を、競い合うように手にしたものである
名前の書かれた箸袋は、誰もが大切に扱った。三が日は洗った箸を収める大事な役を務めてくれる。口に出さなくても、家族はみんな、顔をそろえて新しい年を迎える意味を心得ていた。祝い箸はその象徴だった。
数年前から新年を祝いあう家族は少なくなった。名古屋のほうで働く息子二人は正月もなく忙しい職場。結婚した長女は嫁ぎ先で新年を祝うのが当然だった。それでも我が家の祝い箸は、必ず六膳用意を欠かさない。
「今年もわが家族に平穏で幸せな暮らし、頂かせていただきます」
神棚に礼をささげ、家長から順次祝い箸とお供えの干し柿などを押し頂いた。厳かな心を味わうひと時だった。妻が続き末娘が〆る。
「今年も三人家族やな」
「ううん、ちゃんとあの子らも一緒に正月を祝ってくれるよ」
テーブルに並ぶ祝い箸は六膳。子供らの名前は、はっきりと読めた。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
新年のあいさつを済ませて、自分の祝い箸を手にする。箸袋を外して、真新しい白木の優しい形状の箸を手にすると、目を閉じた。瞼の裏に賑やかしい家族団らんの図が蘇る。その手に祝い箸が踊っていた。
擦った墨を筆に含ませて書きあげる。家族一人一人の顔を思い浮かべながら幸せを手にする作業である。
祝い箸の出番は元旦の朝。家族が顔をそろえて頂く雑煮が初箸となる。続くおせち料理も祝い箸はきちんと役割を果たしてくれる。丸みを帯びて削られたシンプルな箸だが、家族の健康と幸せを祝う場にはぴったりの趣き。
「あいつら帰って来るかな?」
「仕事じゃ無理いえないからね」
昨年のみそか。妻となんとも寂しい会話を交わした。
「祝い箸、いくつ用意しとく?」
「決まってるでしょ。我が家は六人家族なの」
「うん……そうやな、六人や」
複雑な思いを飲み下して、子供たちの名前を書き上げると、なぜかウルっと来た。
子供は四人。数年前までは家族六人、食卓はいつも賑やかで楽しかった。もちろん正月の朝は、自分の名前が書かれた祝い箸を、競い合うように手にしたものである
名前の書かれた箸袋は、誰もが大切に扱った。三が日は洗った箸を収める大事な役を務めてくれる。口に出さなくても、家族はみんな、顔をそろえて新しい年を迎える意味を心得ていた。祝い箸はその象徴だった。
数年前から新年を祝いあう家族は少なくなった。名古屋のほうで働く息子二人は正月もなく忙しい職場。結婚した長女は嫁ぎ先で新年を祝うのが当然だった。それでも我が家の祝い箸は、必ず六膳用意を欠かさない。
「今年もわが家族に平穏で幸せな暮らし、頂かせていただきます」
神棚に礼をささげ、家長から順次祝い箸とお供えの干し柿などを押し頂いた。厳かな心を味わうひと時だった。妻が続き末娘が〆る。
「今年も三人家族やな」
「ううん、ちゃんとあの子らも一緒に正月を祝ってくれるよ」
テーブルに並ぶ祝い箸は六膳。子供らの名前は、はっきりと読めた。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
新年のあいさつを済ませて、自分の祝い箸を手にする。箸袋を外して、真新しい白木の優しい形状の箸を手にすると、目を閉じた。瞼の裏に賑やかしい家族団らんの図が蘇る。その手に祝い箸が踊っていた。