こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

いまもむかしも子はかすがい~~かなあ?

2023年05月21日 10時27分14秒 | 日記
モルック・ラジオ体操と雨で中止が続くので、 
思いたって、
ロフト状態のライブラリーアトリエを片付けることにした。
自宅の基礎下エリアをイベントができるように開放するのだ。
きのうから取り掛かったが、かなり大変。
しかも孫の来訪と重なり、期間も限られてしまった。
いやいや、孫相手が優先なのは間違いない。
子供が巣立った我が家の新たなかすがいなのだから。
相手をする妻の笑顔が何より物語っている。
きっと私の顔もだらしなく綻んでいるのは確かだ。

かすがいを初めて感じた、
40数年前に書いた原稿を読み返した。
親になったばかり、30代のわたしがそこにいる。
読み進めると、
知らず知らず顔が綻んでしまった。

やはり子はかすがい



「愛情がないんだ、最初から。お互いに憎しみ合ってるから、別れるしかない。でも、子どもだけはかわいいから、困ってる」

 今にも泣きそうに訴えて来る。最近知り合った20歳の若者である。彼の言い分だと、結婚なんかしたくなかったが、子どもができてしまったので。男らしく責任を取ったのだとなる。それが、新婚生活一か月にもならぬ危機を迎えている。

(バカヤロ!カッコつけるなら、最後まで責任を取り続けてみろ!)と怒鳴りつけたいところだが、ややこしいのは避けて、あやふやに頷いてみせる。

 それを相づちと思ったのか、自分の立場を正当づける弁舌に弾みがつく。同い年の妻は、飯は作らない、掃除・洗濯はしない、たえず出歩くなどなど言いたい放題。まるで悪妻のモデルではないか。

「僕らに、もう家庭はない。飼えるのも嫌で、最近は一晩中、呑みまわってやってる」

 なんともご大層な結論付け。聞いてるだけで反吐が出そうになる。なぜそこまで無理に結婚する必要があったのか。

 確かに妊娠は大きな理由だが、それならそれで、なぜその子どものために、いい家庭を作ろうとしないのだ。結局、身勝手なご都合主義としか言えまい。だから収まるものも収まりゃしない。

 子どもは愛玩物じゃない。だのに、子どもはかわいいと言うだけ、ほかはそっちのけで、互いの自己弁護にきゅうきゅうとしているなんて、親失格だ。「子はかすがい」は、もはや新人類世代の辞書から削られてしまった言葉なのだろうか。

 恥ずかしながら、かくいう私も、子どもが出来てしまって、結婚を急いだ口なので、あまり強くはいえないが、、「子はかすがい」は、私たち夫婦には、ちゃんと生きている。どんなひどい喧嘩中でも、「おとうちゃんとおかあちゃん、いじめっこしてる」と、4歳の長女に見つめられ、どちらからともなくニヤリ、そのまま仲直りなんてのはしょっちゅうだ。

 既に結婚生活も5年目。社会生活を長く経験する機会もなく嫁いでしまった妻には、試練の毎日が続いている。実家に間借りの状態だから、姑や兄嫁への対応に苦慮しているさまは分かっているのだが、ご多聞に漏れず雑事われ関せずで亭主面の私。

「いいわね、のんびりできて。でも、子どもが手を離れたら即離婚ってはやってるらしいわよ」

 きっと煮えくり返る腹を抑えるのに四苦八苦しているのだろうが、明るく皮肉で返す妻に掬われいる。

 それにこちらもいたって楽天家。

「じゃあ、子どもがいる間は大丈夫か。まあ、社会に子どもらが出るころは、おれも使い物にならなくなってる年だ。いいよ。新しい相手を見つけな。その方がおれもひと安心して死ねるよな」

 余裕十分に冗談で受ける。これで、険悪な二人はどこかへ行ってしまう。子どもが無邪気な顔で私と妻の手を握ってニッコリ頬笑むと、それであの幸せな家庭が帰って来る。

 夫婦は互いに自己を確立している人間同士だから、行動や意見が食い違うのは当たり前。でも、その度に本気の喧嘩をして憎しみ合えば、これはもう夫婦じゃなくなる。

 やはり、ある部分は我慢して認めてやれる包容力をお互いに持てなければ。かわいい子どもの存在がそれを助けてくれるはず!……とは、旧人類世代の思い込みなのかな、さて。


きのう孫が帰った後からロフトの片付けを再開。
雨が降れば、
ここで「モルック」などはやれるだろう。
結構広いスぺースが取れそうだ。
天井はもともと高く作ってある。
よし、頑張るぞ!
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雑草を活かす野菜作り

2023年05月20日 01時41分18秒 | 日記
雨が降る前に畑一枚分の草刈りで奮闘。
しばらく続いている暑さも、
雨を呼ぶ雲の広がりで日差しが遮られて、
ベストコンディションだったのです。
実は隣り合った知人の畑の草刈りを引き受けたのです。
わが家の畑で実行している野菜の有機栽培に、
かなりの草が必要だからです。
公民館のプログラム「有機栽培の講座」で、
妻が学んだ野菜作りに利用するからです。
一般的な黒マルチに変わる雑草マルチで畑を覆ったり、
緑肥に使ったりと多様に使える重宝な雑草といえます。
ただ納得いくには結構な量がいるのです。
タイミングよく隣の畑は一休み中。
生え放題の雑草が目に留まりました。
刈り取った雑草を頂くことで引き受けた草刈りですが、
それなりに広い圃場、2日がかりになりました。
刈り払った雑草を集めて、
わが家の畑へ運ぶ作業も妻とふたりがかり。
しかし連なる小山に積んだ、
雑草の山を目の前にすると、
疲れも忘れてしまいます。

妻の有機栽培の学習が効果を奏し始めた今年、
種子から育てた玉ねぎは立派なものが収穫できました。
露地イチゴも甘くて美味しいのを今も収穫中です。
ほうれん草、ニンジン、大根……、
いやーみんな満足満足の出来具合です。
2メートル近く育った、
緑肥用のライムギも畑を守ってくれています。
その向こうにキャベツとブロッコリーも元気です。
種子から育てた夏野菜の苗も、
やっと植え終わったところです。

乾燥させた雑草を、
活用する場面を思い浮かべるだけで、
目の前で雑草の山は輝いて見えます。
もうたからものといっていいのかも。

となれば、もう草刈りは苦になることがないだろうな。(ウン)
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雨うつつ

2023年05月19日 10時33分40秒 | 日記
17日(水)「レッツウォーキング」に参加。
ホムチベの井戸までのショートウォーキング。
年配者にはいい感じで楽しめるウォーキングで、
毎月参加するのを楽しみにしています。
今回は10数人の参加者が歩きました。
実はホムチベの井戸は、
実は23日予定の「畑ライブラリー」のプログラム、
「畑町ぐるりんこ大2回ウォーキング」のコースに入れていました。
というわけでリハーサルのつもりで歩きました。
暑い日でしたが、
何とか無事に歩き終えました。(ほっ)
7月になると、9月にかけて、
ウォーキングはどこもお休みです。
それに代わるイベントを、
「畑ライブラリー」でやれればと頭を捻っています。

そんな中、
19日に予定していた「体験モルック広場」は、
またしても雨に見舞われて中止です。
モルックは「畑ライブラリー」でやりたいのですが、
4月5月と二度とも雨天中止となってしまいました。
6月には必ず実施したいなあと考えますが、
梅雨に入るので微妙なところです。
ただ諦めず気長にチャレンジするつもりです。
実施が実現した時は、
モルックをみんなで楽しみたいものです。(待ち遠しいことです。笑)
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地元のお話作り

2023年05月18日 02時38分03秒 | 日記
きのうは一日中ばたばたしっぱなし。
早朝から入った急用で「ラジオ体操」はドタキャンに。
暑くなったので朝7時開始に決めたばかりだった。
結局いまは疲れでダウン寸前。
明日は6時起きということで、
もう寝ることにします。
そこでまた古い原稿のお世話に。
40年前の作品です。
 



 リューゴの住んでいる村は、豊かな山々に囲まれた盆地にあります。春、夏、秋、冬と季節が変わるたびに、いろんな表情を見せて楽しませてくれる、深い森がいっぱいの山々です。その山には、ズーッと昔からある神社とか、伝説の場所とかいろいろあるのです。

 リューゴは山の中腹にある『ゆるぎ岩』が大好きでした。小さい頃から、お父さんにしょっちゅう連れて行って貰っています。お父さんは山歩きが大好きなのです。

 リューゴは今年から小学一年生になりました。小さな胸がドキドキしっ放しだった入学式も終わって、リューゴがお母さんと家に帰ってくると、お父さんが待っていました。ニコニコしてリューゴを迎えてくれました。

「おめでとう。リューゴもやっと一年生になったんだな」

「うん。ぼく、一年生なんだ」

 リューゴは得意そうに胸を張って言いました。

「よーし、それじゃ、あの約束を果たしてやろう」

「本当。じゃあ、服着がえてくるからね。待っててよ」

「ああ、いいよ」

 お父さんはポンとリューゴの頭に手をやりました。

 慌てて服を着がえたリューゴは、お父さんと一緒に山へ登りました。もちろん、『ゆるぎ岩』のある山です。でも、きょうはいつもとちょっと違って、楽しいことが待っています。そうですお父さんとの約束が実現するのです。一年生になったら(ゆるぎ岩をお父さんと一緒に揺すってみようか)との約束でした。

『ゆるぎ岩』は四メートルもありそうな、大きな岩がふたつ並んで寄り添っているのがそうです。ひとつは三角おにぎりみたいな形だけど、もうひとつの岩は随分不思議な形をしています。卵を縦に立てたのと同じで、いまにも倒れてしまいそうなぐらい根元が細いのです。でも、絶対倒れたりしません。

「さあ、リューゴ、よく見てろよ」

 お父さんは『ゆるぎ岩』を前にして立つと、リューゴをチラッと見て言いました。

「うん」

 リューゴはちょっぴり緊張気味で返事をします。

 お父さんはパンパンとかしわ手を打って、さあいよいよです。お父さんは『ゆるぎ岩』の表面に描かれてある手形へ手を伸ばしていきます。白いペンキで輪かくだけの手形です。ペッタリとお父さんの手は手形に合わさりました。

「それ!」

 お父さんは掛け声とともに『ゆるぎ岩』を押しました。

 リューゴは固唾を呑んで『ゆるぎ岩』のてっぺんを見つめます。力いっぱい小さなコブシを握り締めました。

 一回、二回、三回……お父さんは『ゆるぎ岩』を押し続けます。

「アッ!」

 リューゴが驚きの声を上げました。

「ゆれてるよ、ゆれてる…お父さん!ゆれてるよ」

 リューゴはもう夢中で歓声を上げています。

 お父さんはリューゴを振り返ると、ニヤリと笑いました。

「お父さん、今度はリューゴの番だよ。ちゃんと約束してたんだからね」

「ああ」

 お父さんは大きく頷きました。

 そうなんです。お父さんは去年の夏に約束してくれたのです。

「リューゴが一年生になったら、『ゆるぎ岩』を思いっきり押させてやるぞ!でも、ちゃんといい子にならないと、この岩は絶対に揺れてくれないからな。よーく覚えておけよ、忘れないように」

 だから、リューゴは一生懸命に優しいいい子になろうと頑張って来たのです。

「この『ゆるぎ岩』には、お父さんがまだ子どもだったころよりズーッとズーッと昔から不思議な言い伝えがあるんだ」

 約束をした日、お父さんはこう話しだしました。リューゴ化お父さんの目を見つめて真剣に聞きました。

「もう何千年も昔のことだ。とても偉いお坊さんがこの村にやって来たんだ。空海ってお坊さんだけどな、この村にとても不思議な力で、すごい奇跡をいろいろ与えてくれたんだ」

「へえ、不思議な力?奇跡って?どんな?」

 リューゴは目を真ん丸に見開いて、お父さんをジーッと見つめたまま尋ねました。 

 お父さんは嬉しそうに説明してくれました。

「お坊さんは村の人たちにこう言ったんだ。この岩は、いい心の持ち主ならば、ちょっと押すだけで揺れるが、悪い心の持ち主は、どんなに力をこめて押そうとも決して揺れない。びくともしないだろうってね」

「フーン。不思議な力なんだ」

「そうなんだ。だから、村の人たちはいつ押しても岩がちゃんと揺れてくれるように、いつも心がきれいで優しくいられたんだってさ。おしまい」

 お父さんの話はリューゴの心の中にしっかりと残りました。それで、いつも優しくきれいな心でいようと努力をしてきたのです。だから『ゆるぎ岩』は揺れてくれるはずです。

 でも、実はリューゴには不安もあります。だって、お母さんのお手伝いをしなかったり、駄々をこねて困らせてみたりと悪い子の時の方が多かった気がします。

(もしも『ゆるぎ岩』が揺れなかったら、どうしよう?)

 リューゴは小さな胸をドキドキさせました。

「さあ替わろうか。こっちへ来てごらん」

 お父さんは『ゆるぎ岩』から手を離して言いました。

 リューゴは緊張してコチコチになりました。だから「うん」と返事をしたつもりなのに、実際は声が出ていません。

「うん?リューゴ、どうかしたのか」

 お父さんもリューゴの様子がいつもと違うのに気がついたようです。

「……お、お父さん…?」

 やっと声が出ました。

「ぼく……もう押さなくていいから……」

「あんなに楽しみにして待っていたじゃないか」

「で…でも……きょうはいいんだ、もう」

 お父さんは「ハハーン」と気が付きました。

「リューゴ、怖いんだろ?もし揺れなかったら、悪い子だってばれちゃうって」

「怖くなんかないよー!ぼく、一年生なんだぞ。それに…それに、ぼく、悪い子じゃないからね」

 リューゴはむきになって言い返しました。

「そうだそうだ。リューゴはもう一年生だもんな。それに、そんなに悪い子じゃない」

 いい子っていうところをお父さんは少しふざけて言いました。そして急に真面目な顔になりました。

「実はな、リューゴ。お父さんも子供の頃、そうだ、ちょうどリューゴと同じ一年生だった。初めて『ゆるぎ岩』に連れて来て貰ったんだ。『ゆるぎ岩』を前にしたら、なぜかブルブル震えだして手がだせなくなってしまったんだ」

「ほんとう?」

「ほんとうさ。いまにも倒れてきそうな気がしたし、押しつぶされたらどうしようって思ったんだ。足元だって、崖になってて、なんか目がクラクラしてさ……」

 リューゴはがっかりしました。

(ボクが怖いのは、いくら懸命に押しても『ゆるぎ岩』がびくともしないで……動いてくれなかったら、ぼくは悪い子になっちゃうんだぞ)

「よーし!お父さんがリューゴの身体を支えといてやるから大丈夫だ、な。さあ安心して思い切り押してみろよ」

 お父さんはリューゴの肩にそーっと手を置きました。

 仕方ありません。こうなったらやるしかないようです。

 リューゴは勇気を出して一歩前に足を踏み出しました。目の前にゴツゴツした岩肌が迫ります。思わずリューゴは目をつぶりました。

「よし!さあいくぞー!

 お父さんはリューゴの腰に手を当てました。お父さんの力強さが伝わってきます。

 リューゴは目を開けました。もう覚悟は出来ました。両手を岩肌に向けて突き出しました。岩肌の感触が……!

「いいぞ。よしよし、いいか岩肌にペンキで書いてある手阿多に掌を合わせてごらん」

 リューゴにもう迷いはありません。『ゆるぎ岩』は絶対に揺れてくれるんだと信じました。あんなに頑張っていい子になってきたんだ。『ゆるぎ岩』はきっと知ってくれているはずです。偉いお坊さんがプレゼントしてくれた奇跡の御神体なのだから。

 リューゴは手を前に突き出しました。

『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。それにザラザラしたものが手のひらにくっつきました。

(お願いだよ。『ゆるぎ岩』、揺れてよ。ぼく、ズーッといい子でいたんだから。これからも、もっともっと頑張っていい子になるんだから)

 リューゴは自分の手に二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ手を当てました。

「うん。よーし!じゃあ押してみろ」

 お父さんが大声で言いました。自分が押しでもするように手をゲンコに握り締めています。

「よいしょ!」

 リューゴは掛け声をかけて、力いっぱい押しました。

「いいぞ、リューゴ、もっと押し続けろ」

 お父さんの声が、リューゴの頭の後ろからかかりました。

「うん、わかった、お父さん。よいしょ、よいしょ、よいしょーっと」

「よいしょ、よいしょ、よいしょーっと!」

 リューゴの掛け声に合わせて、お父さんも同じように掛け声を掛けます。お父さんは、もう嬉しくて嬉しくてたまらないのです。

「よいしょ!」

「よいしょ!」

 リューゴは期待いっぱいで上を見上げました。お父さんも同じように見上げました。

(さあ、揺れろ……1、2、3……!)

 リューゴは心を込めて号令をかけました。『ゆるぎ岩』がリューゴの願いに応えて、ゆらーっと揺れやすいように……。

「あれ?」

「う?」

『ゆるぎ岩』は揺れません。ちっとも揺れる気配はありません。どうして?リューゴがこんなに懸命になっているのに、一体どうなっているんでしよう?

 リューゴは(アッ!)と思いました。やっぱり心配した通りになったのです。リューゴは『ゆるぎ岩』にいい子だと認めて貰えないみたいです。リューゴはガッカリしました。体中の力が抜けてしまいました。くにゃくにゃとお父さんの腕の中に身を任せました。

「おい、大丈夫かい?」

 お父さんはしっかりリューゴを抱きとめました。

「……お父さん…ぼく、ぼくって……悪い子なの?」

「何だって?」

 お父さんはリューゴに思いがけない質問をいきなりされてビックリしました。

「……ぼくさあ、ダメな子なの?いけない子なの?」

 リューゴは悲しくてたまらない顔つきでお父さんを見上げました。涙が胃尼にもこぼれそうです。お父さんはすっかり戸惑ってしまいました。

「だって…だって…動かないよ、揺れてくれないよ、『ゆるぎ岩』が。ちっとも揺れない……」

(ハハーン!)

 お父さんはやっと分かりました。きれいでよい心の持ち主でないと、『ゆるぎ岩』は絶対に揺れないんだ。そうお父さんが話したのを、リューゴはたやんと覚えていたのです。だから、『ゆるぎ岩』が全然揺れなかったので、自分は悪い子なんだと、ひどくショックを受けているのです。何とかしないと……。

「ああ、ちょっと待てよ、リューゴ」

 お父さんは首をひねって見せました。

「なに?お父さん、どうしたの?」

「うん。いま思い出したんだ。そうだそうだそうだったんだ。お父さんが初めて『ゆるぎ岩』を押した時のことだ」

「揺れたの?」

 リューゴはお父さんの話をひと言も聞き漏らすまいと、ちいさな体を乗り出しました。

「そうなんだ。揺れたから、もう嬉しくてたまらなかったよ」

 リューゴはお父さんの言葉にガッカリしました。

(ぼくが押しても揺れなかったのに、お父さんの時は揺れたんだ。やっぱり、ぼくは悪い子なんだ……)

 リューゴがしょぼんとすると、お父さんは頬笑んで、こう言ったのです。

「お父さんひとりで揺らしたんじゃないんだ」

「え?」

「実はな、お父さんのお父さんが、一緒に押してくれたんだ」

「おじいちゃんが…一緒に、押したんだ」

「そうさ。リューゴと同じ一年生の頃のお父さんは、もうイタズラばっかりしてさ、そんなお父さんが『ゆるぎ岩』を押しても揺れないだろうと心配したおじいちゃんが、お父さんの手を取って一緒になって岩を押してくれたんだ」

「へえ」

「そしたらな」

「うん」

「揺れたんだ、あのでっかい『ゆるぎ岩』がゆらゆらと揺れたんだ!」

 お父さんは笑って大声を上げました。

「そうか。おとうさんも……揺れなかったんじゃないか。おじいちゃんの手助けがなかったら……」

 リューゴはホッとしてお父さんを見ると、お父さんの目とぶつかりました。次に『ゆるぎ岩』を見ました。また、お父さんを……キョロキョロとリューゴの目は動き続けました。

「よーし!今度はお父さんと力を和え褪せて、一緒に『ゆるぎ岩』を押してみようじゃないか」

「うん!」

 リューゴは元気いっぱい返事をしました。

 リューゴとお父さんは手をつないで『ゆるぎ岩』の前に立ちました。

「リューゴはお父さんよりもいい子だぞ。だから本当は片手でも大丈夫なのに、初めてで緊張したんだろ。うん、大丈夫、今度は揺れるさ」

 お父さんはリューゴに片目をつぶって合図すると、大きく頷きました。しっかりと握り合ったお父さんの手の温かさが、リューゴに勇気を与えてくれます。(よーし!)と気持ちになりました。

「リューゴ、、まず『ゆるぎ岩』にお願いしようか?」

「うん。三回手を叩くんだね」

 さっきお父さんがやっていたのをちゃんと見ていたのです。

「よく覚えていたな、リューゴ。でもただ手を叩くだけじゃないんだぞ。心の中で願いを込めるんだ。ぼくはこれからもきっといい子でいるから、揺れて下さい!って祈ってごらん」

「うん、わかったよ」

 リューゴは神妙な顔になって『ゆるぎ岩』を見つめました。そして心を込めて、パンパンと手を叩きました。お父さんも叩きました。リューゴは何度も何度も胸のうちでお願いしました。必ず揺れてみせてねと頼んだのです。

 「さあ、やるぞ!」

 お父さんがリューゴの肩をポンと叩いて合図しました。

 リューゴとお父さんは同時に『ゆるぎ岩』に手を当てました。リューゴはチラッとお父さんを見やると、お父さんもリューゴに目を向けたところでした。

「フフフフフ」

 リューゴはとても愉快な気持ちになりました。

「ハハハハハ」

 お父さんも楽しくてたまらない風です。

 りゅーごはいまお父さんとひとつになったのです。

「そーれ!」

「そーら!」

かけごえがひとつになりました。リューゴは無我夢中で手に持てる力を全部込めて押しました。お父さんも力いっぱい押しています。その迫力のすごさといったら!

「イチ、ニー、サン!」

「1、2、3!」リューゴの声とお父さんの声がぴったりとかぶさりました。思い切り押すと、リューゴは天を仰ぎました。

青い空。日差しを遮る木々の枝が来い影になってそよいでいます。

(そよいでる?)

そうです。『ゆるぎ岩』のてんっぺんを見ると、陰になった枝の動きと一緒になって待っています。

おや?どうやら風がでてきたのか、枝の揺れが少し激しくなりました。いや、違います。風で枝が揺れているにしてはちょっぴり変です。木の枝は青い空に描かれて動いていないのに気づきました。すると……?

「リューゴ、見てみろよ。揺れてるぞ!揺れているんだ、『ゆるぎ岩』が……!」

「うん、揺れてる。『ゆるぎ岩』が揺れているよ、お父さん」

リューゴはもう大感激です。嬉しくて目が潤みます。目の前がぼやけて、『ゆるぎ岩』のてっぺんがよく見えなくなりました。

「おう!リューゴ、お前、いまお前ひとりで『ゆるぎ岩』を揺すっているじゃないか。すごいぞ!」

「え?」

 リューゴはお父さんの声にびっくりしてキョロキョロ見回しました。でも、お父さんは消えてしまいました。

「お父さん……!」

 心細くなって声もちいさくなりました。

「リューゴ、お前のすぐ後ろにいるぞ。お前の腰を支えているんだ」

 そうです。誰かがしっかりとリューゴの腰を支えてくれています。それはお父さんだったんです。それじゃあ、いま『ゆるぎ岩』を揺らせているのは本当にリューゴひとりの力なのです。でも、でも……慌ててリューゴは上を見上げて確かめました。

『ゆるぎ岩』はちゃんと揺れていました。夢でもまぼろしでもありません。リューゴはみるみる嬉しさに包まれました。

「えい、えい、えーい!」

 リューゴは調子に乗って何度も何度も押し続けました。



 お父さんはゆっくりと急な坂になった山道を歩いて下りました。山道はのぼるより下りる方が大変です。それに、お父さんの大きい背中には、おんぶされたリューゴがスヤスヤと眠っています。起こさないように、危なくないようにと、自然に慎重な足取りになります。

「おい、リューゴ」

 ソーッと名前を呼んでみましたが返事はありません。背中越しに可愛いイビキが伝わってきます。

(ふふふ。よっぽど疲れちゃったんだな)

『ゆるぎ岩』が揺れたのが、よほど嬉しかったのでしよう。リューゴはクタクタになるまで懸命に岩肌を押し続けたのです。山を下りはじめると眠気に襲われてフラフラとし始めたので、お父さんはおんぶしてやりました。

「……お父さん……」

「ん?」

「……ゆれたよ、ほら揺れたよ……」

 リューゴの寝言でした。

「…ぼく…ぼく、いい子だね。……」

「ああ、最高にいい子だよ。『ゆるぎ岩』だって認めて句たろう、リューゴはいい子だって」

 お父さんは顔を輝かせて、グィと空を見上げました。爽やかな風が優しくお父さんの顔を撫でて流れていきます。

 リューゴの住んでいる村は、豊かな山々に囲まれた盆地にあります。春、夏、秋、冬と季節が変わるたびに、いろんな表情を見せて楽しませてくれる、深い森がいっぱいの山々です。その山には、ズーッと昔からある神社とか、伝説の場所とかいろいろあるのです。

 リューゴは山の中腹にある『ゆるぎ岩』が大好きでした。小さい頃から、お父さんにしょっちゅう連れて行って貰っています。お父さんは山歩きが大好きなのです。

 リューゴは今年から小学一年生になりました。小さな胸がドキドキしっ放しだった入学式も終わって、リューゴがお母さんと家に帰ってくると、お父さんが待っていました。ニコニコしてリューゴを迎えてくれました。

「おめでとう。リューゴもやっと一年生になったんだな」

「うん。ぼく、一年生なんだ」

 リューゴは得意そうに胸を張って言いました。

「よーし、それじゃ、あの約束を果たしてやろう」

「本当。じゃあ、服着がえてくるからね。待っててよ」

「ああ、いいよ」

 お父さんはポンとリューゴの頭に手をやりました。

 慌てて服を着がえたリューゴは、お父さんと一緒に山へ登りました。もちろん、『ゆるぎ岩』のある山です。でも、きょうはいつもとちょっと違って、楽しいことが待っています。そうですお父さんとの約束が実現するのです。一年生になったら(ゆるぎ岩をお父さんと一緒に揺すってみようか)との約束でした。

『ゆるぎ岩』は四メートルもありそうな、大きな岩がふたつ並んで寄り添っているのがそうです。ひとつは三角おにぎりみたいな形だけど、もうひとつの岩は随分不思議な形をしています。卵を縦に立てたのと同じで、いまにも倒れてしまいそうなぐらい根元が細いのです。でも、絶対倒れたりしません。

「さあ、リューゴ、よく見てろよ」

 お父さんは『ゆるぎ岩』を前にして立つと、リューゴをチラッと見て言いました。

「うん」

 リューゴはちょっぴり緊張気味で返事をします。

 お父さんはパンパンとかしわ手を打って、さあいよいよです。お父さんは『ゆるぎ岩』の表面に描かれてある手形へ手を伸ばしていきます。白いペンキで輪かくだけの手形です。ペッタリとお父さんの手は手形に合わさりました。

「それ!」

 お父さんは掛け声とともに『ゆるぎ岩』を押しました。

 リューゴは固唾を呑んで『ゆるぎ岩』のてっぺんを見つめます。力いっぱい小さなコブシを握り締めました。

 一回、二回、三回……お父さんは『ゆるぎ岩』を押し続けます。

「アッ!」

 リューゴが驚きの声を上げました。

「ゆれてるよ、ゆれてる…お父さん!ゆれてるよ」

 リューゴはもう夢中で歓声を上げています。

 お父さんはリューゴを振り返ると、ニヤリと笑いました。

「お父さん、今度はリューゴの番だよ。ちゃんと約束してたんだからね」

「ああ」

 お父さんは大きく頷きました。

 そうなんです。お父さんは去年の夏に約束してくれたのです。

「リューゴが一年生になったら、『ゆるぎ岩』を思いっきり押させてやるぞ!でも、ちゃんといい子にならないと、この岩は絶対に揺れてくれないからな。よーく覚えておけよ、忘れないように」

 だから、リューゴは一生懸命に優しいいい子になろうと頑張って来たのです。

「この『ゆるぎ岩』には、お父さんがまだ子どもだったころよりズーッとズーッと昔から不思議な言い伝えがあるんだ」

 約束をした日、お父さんはこう話しだしました。リューゴ化お父さんの目を見つめて真剣に聞きました。

「もう何千年も昔のことだ。とても偉いお坊さんがこの村にやって来たんだ。空海ってお坊さんだけどな、この村にとても不思議な力で、すごい奇跡をいろいろ与えてくれたんだ」

「へえ、不思議な力?奇跡って?どんな?」

 リューゴは目を真ん丸に見開いて、お父さんをジーッと見つめたまま尋ねました。 

 お父さんは嬉しそうに説明してくれました。

「お坊さんは村の人たちにこう言ったんだ。この岩は、いい心の持ち主ならば、ちょっと押すだけで揺れるが、悪い心の持ち主は、どんなに力をこめて押そうとも決して揺れない。びくともしないだろうってね」

「フーン。不思議な力なんだ」

「そうなんだ。だから、村の人たちはいつ押しても岩がちゃんと揺れてくれるように、いつも心がきれいで優しくいられたんだってさ。おしまい」

 お父さんの話はリューゴの心の中にしっかりと残りました。それで、いつも優しくきれいな心でいようと努力をしてきたのです。だから『ゆるぎ岩』は揺れてくれるはずです。

 でも、実はリューゴには不安もあります。だって、お母さんのお手伝いをしなかったり、駄々をこねて困らせてみたりと悪い子の時の方が多かった気がします。

(もしも『ゆるぎ岩』が揺れなかったら、どうしよう?)

 リューゴは小さな胸をドキドキさせました。

「さあ替わろうか。こっちへ来てごらん」

 お父さんは『ゆるぎ岩』から手を離して言いました。

 リューゴは緊張してコチコチになりました。だから「うん」と返事をしたつもりなのに、実際は声が出ていません。

「うん?リューゴ、どうかしたのか」

 お父さんもリューゴの様子がいつもと違うのに気がついたようです。

「……お、お父さん…?」

 やっと声が出ました。

「ぼく……もう押さなくていいから……」

「あんなに楽しみにして待っていたじゃないか」

「で…でも……きょうはいいんだ、もう」

 お父さんは「ハハーン」と気が付きました。

「リューゴ、怖いんだろ?もし揺れなかったら、悪い子だってばれちゃうって」

「怖くなんかないよー!ぼく、一年生なんだぞ。それに…それに、ぼく、悪い子じゃないからね」

 リューゴはむきになって言い返しました。

「そうだそうだ。リューゴはもう一年生だもんな。それに、そんなに悪い子じゃない」

 いい子っていうところをお父さんは少しふざけて言いました。そして急に真面目な顔になりました。

「実はな、リューゴ。お父さんも子供の頃、そうだ、ちょうどリューゴと同じ一年生だった。初めて『ゆるぎ岩』に連れて来て貰ったんだ。『ゆるぎ岩』を前にしたら、なぜかブルブル震えだして手がだせなくなってしまったんだ」

「ほんとう?」

「ほんとうさ。いまにも倒れてきそうな気がしたし、押しつぶされたらどうしようって思ったんだ。足元だって、崖になってて、なんか目がクラクラしてさ……」

 リューゴはがっかりしました。

(ボクが怖いのは、いくら懸命に押しても『ゆるぎ岩』がびくともしないで……動いてくれなかったら、ぼくは悪い子になっちゃうんだぞ)

「よーし!お父さんがリューゴの身体を支えといてやるから大丈夫だ、な。さあ安心して思い切り押してみろよ」

 お父さんはリューゴの肩にそーっと手を置きました。

 仕方ありません。こうなったらやるしかないようです。

 リューゴは勇気を出して一歩前に足を踏み出しました。目の前にゴツゴツした岩肌が迫ります。思わずリューゴは目をつぶりました。

「よし!さあいくぞー!

 お父さんはリューゴの腰に手を当てました。お父さんの力強さが伝わってきます。

 リューゴは目を開けました。もう覚悟は出来ました。両手を岩肌に向けて突き出しました。岩肌の感触が……!

「いいぞ。よしよし、いいか岩肌にペンキで書いてある手阿多に掌を合わせてごらん」

 リューゴにもう迷いはありません。『ゆるぎ岩』は絶対に揺れてくれるんだと信じました。あんなに頑張っていい子になってきたんだ。『ゆるぎ岩』はきっと知ってくれているはずです。偉いお坊さんがプレゼントしてくれた奇跡の御神体なのだから。

 リューゴは手を前に突き出しました。

『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。それにザラザラしたものが手のひらにくっつきました。

(お願いだよ。『ゆるぎ岩』、揺れてよ。ぼく、ズーッといい子でいたんだから。これからも、もっともっと頑張っていい子になるんだから)

 リューゴは自分の手に二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ手を当てました。

「うん。よーし!じゃあ押してみろ」

 お父さんが大声で言いました。自分が押しでもするように手をゲンコに握り締めています。

「よいしょ!」

 リューゴは掛け声をかけて、力いっぱい押しました。

「いいぞ、リューゴ、もっと押し続けろ」

 お父さんの声が、リューゴの頭の後ろからかかりました。

「うん、わかった、お父さん。よいしょ、よいしょ、よいしょーっと」

「よいしょ、よいしょ、よいしょーっと!」

 リューゴの掛け声に合わせて、お父さんも同じように掛け声を掛けます。お父さんは、もう嬉しくて嬉しくてたまらないのです。

「よいしょ!」

「よいしょ!」

 リューゴは期待いっぱいで上を見上げました。お父さんも同じように見上げました。

(さあ、揺れろ……1、2、3……!)

 リューゴは心を込めて号令をかけました。『ゆるぎ岩』がリューゴの願いに応えて、ゆらーっと揺れやすいように……。

「あれ?」

「う?」

『ゆるぎ岩』は揺れません。ちっとも揺れる気配はありません。どうして?リューゴがこんなに懸命になっているのに、一体どうなっているんでしよう?

 リューゴは(アッ!)と思いました。やっぱり心配した通りになったのです。リューゴは『ゆるぎ岩』にいい子だと認めて貰えないみたいです。リューゴはガッカリしました。体中の力が抜けてしまいました。くにゃくにゃとお父さんの腕の中に身を任せました。

「おい、大丈夫かい?」

 お父さんはしっかりリューゴを抱きとめました。

「……お父さん…ぼく、ぼくって……悪い子なの?」

「何だって?」

 お父さんはリューゴに思いがけない質問をいきなりされてビックリしました。

「……ぼくさあ、ダメな子なの?いけない子なの?」

 リューゴは悲しくてたまらない顔つきでお父さんを見上げました。涙が胃尼にもこぼれそうです。お父さんはすっかり戸惑ってしまいました。

「だって…だって…動かないよ、揺れてくれないよ、『ゆるぎ岩』が。ちっとも揺れない……」

(ハハーン!)

 お父さんはやっと分かりました。きれいでよい心の持ち主でないと、『ゆるぎ岩』は絶対に揺れないんだ。そうお父さんが話したのを、リューゴはたやんと覚えていたのです。だから、『ゆるぎ岩』が全然揺れなかったので、自分は悪い子なんだと、ひどくショックを受けているのです。何とかしないと……。

「ああ、ちょっと待てよ、リューゴ」

 お父さんは首をひねって見せました。

「なに?お父さん、どうしたの?」

「うん。いま思い出したんだ。そうだそうだそうだったんだ。お父さんが初めて『ゆるぎ岩』を押した時のことだ」

「揺れたの?」

 リューゴはお父さんの話をひと言も聞き漏らすまいと、ちいさな体を乗り出しました。

「そうなんだ。揺れたから、もう嬉しくてたまらなかったよ」

 リューゴはお父さんの言葉にガッカリしました。

(ぼくが押しても揺れなかったのに、お父さんの時は揺れたんだ。やっぱり、ぼくは悪い子なんだ……)

 リューゴがしょぼんとすると、お父さんは頬笑んで、こう言ったのです。

「お父さんひとりで揺らしたんじゃないんだ」

「え?」

「実はな、お父さんのお父さんが、一緒に押してくれたんだ」

「おじいちゃんが…一緒に、押したんだ」

「そうさ。リューゴと同じ一年生の頃のお父さんは、もうイタズラばっかりしてさ、そんなお父さんが『ゆるぎ岩』を押しても揺れないだろうと心配したおじいちゃんが、お父さんの手を取って一緒になって岩を押してくれたんだ」

「へえ」

「そしたらな」

「うん」

「揺れたんだ、あのでっかい『ゆるぎ岩』がゆらゆらと揺れたんだ!」

 お父さんは笑って大声を上げました。

「そうか。おとうさんも……揺れなかったんじゃないか。おじいちゃんの手助けがなかったら……」

 リューゴはホッとしてお父さんを見ると、お父さんの目とぶつかりました。次に『ゆるぎ岩』を見ました。また、お父さんを……キョロキョロとリューゴの目は動き続けました。

「よーし!今度はお父さんと力を和え褪せて、一緒に『ゆるぎ岩』を押してみようじゃないか」

「うん!」

 リューゴは元気いっぱい返事をしました。

 リューゴとお父さんは手をつないで『ゆるぎ岩』の前に立ちました。

「リューゴはお父さんよりもいい子だぞ。だから本当は片手でも大丈夫なのに、初めてで緊張したんだろ。うん、大丈夫、今度は揺れるさ」

 お父さんはリューゴに片目をつぶって合図すると、大きく頷きました。しっかりと握り合ったお父さんの手の温かさが、リューゴに勇気を与えてくれます。(よーし!)と気持ちになりました。

「リューゴ、、まず『ゆるぎ岩』にお願いしようか?」

「うん。三回手を叩くんだね」

 さっきお父さんがやっていたのをちゃんと見ていたのです。

「よく覚えていたな、リューゴ。でもただ手を叩くだけじゃないんだぞ。心の中で願いを込めるんだ。ぼくはこれからもきっといい子でいるから、揺れて下さい!って祈ってごらん」

「うん、わかったよ」

 リューゴは神妙な顔になって『ゆるぎ岩』を見つめました。そして心を込めて、パンパンと手を叩きました。お父さんも叩きました。リューゴは何度も何度も胸のうちでお願いしました。必ず揺れてみせてねと頼んだのです。

 「さあ、やるぞ!」

 お父さんがリューゴの肩をポンと叩いて合図しました。

 リューゴとお父さんは同時に『ゆるぎ岩』に手を当てました。リューゴはチラッとお父さんを見やると、お父さんもリューゴに目を向けたところでした。

「フフフフフ」

 リューゴはとても愉快な気持ちになりました。

「ハハハハハ」

 お父さんも楽しくてたまらない風です。

 りゅーごはいまお父さんとひとつになったのです。

「そーれ!」

「そーら!」

かけごえがひとつになりました。リューゴは無我夢中で手に持てる力を全部込めて押しました。お父さんも力いっぱい押しています。その迫力のすごさといったら!

「イチ、ニー、サン!」

「1、2、3!」リューゴの声とお父さんの声がぴったりとかぶさりました。思い切り押すと、リューゴは天を仰ぎました。

青い空。日差しを遮る木々の枝が来い影になってそよいでいます。

(そよいでる?)

そうです。『ゆるぎ岩』のてんっぺんを見ると、陰になった枝の動きと一緒になって待っています。

おや?どうやら風がでてきたのか、枝の揺れが少し激しくなりました。いや、違います。風で枝が揺れているにしてはちょっぴり変です。木の枝は青い空に描かれて動いていないのに気づきました。すると……?

「リューゴ、見てみろよ。揺れてるぞ!揺れているんだ、『ゆるぎ岩』が……!」

「うん、揺れてる。『ゆるぎ岩』が揺れているよ、お父さん」

リューゴはもう大感激です。嬉しくて目が潤みます。目の前がぼやけて、『ゆるぎ岩』のてっぺんがよく見えなくなりました。

「おう!リューゴ、お前、いまお前ひとりで『ゆるぎ岩』を揺すっているじゃないか。すごいぞ!」

「え?」

 リューゴはお父さんの声にびっくりしてキョロキョロ見回しました。でも、お父さんは消えてしまいました。

「お父さん……!」

 心細くなって声もちいさくなりました。

「リューゴ、お前のすぐ後ろにいるぞ。お前の腰を支えているんだ」

 そうです。誰かがしっかりとリューゴの腰を支えてくれています。それはお父さんだったんです。それじゃあ、いま『ゆるぎ岩』を揺らせているのは本当にリューゴひとりの力なのです。でも、でも……慌ててリューゴは上を見上げて確かめました。

『ゆるぎ岩』はちゃんと揺れていました。夢でもまぼろしでもありません。リューゴはみるみる嬉しさに包まれました。

「えい、えい、えーい!」

 リューゴは調子に乗って何度も何度も押し続けました。



 お父さんはゆっくりと急な坂になった山道を歩いて下りました。山道はのぼるより下りる方が大変です。それに、お父さんの大きい背中には、おんぶされたリューゴがスヤスヤと眠っています。起こさないように、危なくないようにと、自然に慎重な足取りになります。

「おい、リューゴ」

 ソーッと名前を呼んでみましたが返事はありません。背中越しに可愛いイビキが伝わってきます。

(ふふふ。よっぽど疲れちゃったんだな)

『ゆるぎ岩』が揺れたのが、よほど嬉しかったのでしよう。リューゴはクタクタになるまで懸命に岩肌を押し続けたのです。山を下りはじめると眠気に襲われてフラフラとし始めたので、お父さんはおんぶしてやりました。

「……お父さん……」

「ん?」

「……ゆれたよ、ほら揺れたよ……」

 リューゴの寝言でした。

「…ぼく…ぼく、いい子だね。……」

「ああ、最高にいい子だよ。『ゆるぎ岩』だって認めて句たろう、リューゴはいい子だって」

 お父さんは顔を輝かせて、グィと空を見上げました。爽やかな風が優しくお父さんの顔を撫でて流れていきます。

もうバタンキュー状態です。
お休みなさい。
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草刈りの季節到来

2023年05月16日 02時59分52秒 | 日記
草刈りに追われる季節に入った。
老いる私に加勢するというので、
妻用に仮払い機を購入したが、
今の段階では、草刈り人は私の独壇場。
妻はせっせと、
刈り払われた雑草を集める作業に回っている。
というのも、
妻が学習中の「有機栽培」に、
雑草がいくらでも必要になるからだ。
畑一面を覆うといっても過言ではない。
だからいくらあってもあり過ぎるなんてことはない。
緑肥やマルチなど重宝な雑草を確保するために、
村の共同草刈りの事後に集め回ったり、
近くの畑の草刈りを引き受けるなど、
あの手この手で雑草集めする。
昔は捨てていた邪魔な雑草も、
扱いの変化に驚いているに違いない。
雑草集めの作業が増えた分、
草刈り人は私が務めるしかないのだ。(ウン)

妻が学ぶ「有機栽培講座」の実習田を見に行った。
名札のかかった畝ごとに、
立派な夏野菜の苗が植わっている。
わが畑で不作となっても、
それをおぎなってくれる収穫があるのは、
昨年に体験済みである。

ともあれ草刈り草刈りに追われる日々が待っている。
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どん底のあの日のボクは?

2023年05月15日 11時24分56秒 | 日記
失意の私の前に!?



 私の半生で最も痛烈な打撃だった。当時三十歳、それまでは多少の波はあれこそ、好運に恵まれトントン拍子にきていたせいもあって、失意のどん底を味わう事となった。

 独立の夢を描き脱サラ、調理師学校を経てレストラン、喫茶店で修業を積み、遂に一軒の店を任されるまで七年がかり、兎より亀になるんだと、慌てず騒がず、じっくりと取り組んできた。しかし開店二年目、不景気風もあり、売り上げがジリ貧状態になった。

 いろんな対策を講じてはみたものの、悪い時には悪い事が重なるもので、売り上げが回復しない内に体調を崩してしまったのである。店のオープン以来、年中無休の長時間労働に堪えてきたツケが回ってきたのだ。健康だけには自信があったのに……。

 オーナーは慰留してくれたが、自信をなくした私は結局辞める事にした。

 無職となり、失意にかまけてブラブラする毎日を送る私の唯一の希望は、結婚を前提に付き合っていたK子の存在だった。

「まだ若いし、身体さえ治せば必ず独立の夢がかなうわ。一緒に頑張ろうよ」

 そう励ましてくれたK子さえも、二か月後には、もう心変わりしていた。無理もない、まだ学生で将来の夢もいっぱいのK子に、デートする度、グチってばかりいる私の姿は、きっと堪え切れなかったのだろう。

「わたし、小学校の先生になるの。齋藤さんも自分の夢の実現に頑張ってね。今までありがとう。……さようなら」

 K子は明るく笑って別れを言って去った。

 この失恋はとどめの一発となった。私の生活はどんどん乱れていった。働きもしないで毎晩のごとく飲み歩いた。

 父も母も呆れてはいたが、ただ黙って見ていた。病気と失職、失恋……これらの事情を知っていただけに何も言えずにいたらしい。

 しかし、僻み根性に染まっていた私には、両親の思いやりは逆に負担になった。もう、どうにでもなれ!と捨て鉢な気持ちで家に閉じこもる日が多くなり始めた。

 そんな時、調理師学校時代に得た友人のO君から連絡があって、何年ぶりかの旧交をあたためた。O君は六歳年下だったが、調理のキャリアは私以上だった。中学を卒業した頃から喫茶店や食堂で働いていたらしい。そんな彼と出会ったのは、調理師学校だった。

「自分が店長やってた店に連絡したら、もう辞めたって聞いたんやけど、今どないしとんや?」

 人の好いO君は、自分の事のように、心配そうにあれこれ私の話を訊いてくれた。

 O君とあった時から不思議に素直な気持ちになっていた私は、堰を切ったように事情を逐一話していた。

「俺と一緒やな」

 O君は笑顔はそのままでボソッと言った。

 O君は先天的な心臓障害を持っていて、これまでに数回手術を受けた事を話した。

「しゃあない。これも運命や思ってる」

 アッサリ言ってのけたO君は、脇の下の切開跡まで見せてくれた。

「こんなんあったら、女の子なんか誰も相手になってくれへんわ。無理あらへんけど」

 若いのに悟りきった感じのO君。心臓障害と長年付き合って来たせいだったのだろう。

「いかん、いかん。こんな暗い話やめとこか。久し振りやからパッと行こうぜ」

 O君は本当に嬉しそうな表情をつくった。

 その日、私とO君は一日中遊び回った。パチンコ、打ちっ放しゴルフ、喫茶店、レストラン……夜になると酒を呑みに出た。

 もう嬉しくてたまらなかった。一人で呑んでた時の、あのクサクサしていた気分が嘘みたいに思えた。自分を取り巻く状況はまるっきり変わっていないのに、とにかく楽しかった。

「お互い頑張ろうや。俺、今、Yホテルのコックやっとるけど、来月から東京のホテルに移るつもりや。一流の腕、みがき上げるまで帰ってきやへんで」

「心臓の方、大丈夫なんか?」

「なんとかなるわ。今までそないしてやってきたんやから。負けとったてしゃあない」

 O君はあっさりと言ってのけた。

 数日後、O君と再会を固く約束し別れた。

 一週間後。私は経理学校に通い始めた。独立して店を持つ際に、必要になる経理の知識を身につけようと思い立ったからだ。身体が少々本調子でなくても出来る勉強だった。

 負けてられない!と奮起したのだ。O君と出会い語らったのが発奮材料だった。悪い状況でも、それなりに対応して前向きに生きているO君の姿をまざまざと見せられては、私も甘えている訳にいかないと思ったのだ。

 東京に行ったO君からも電話が度々あった。

「負けんなよ。お互いの夢、実現させようぜ」

 自分でもビックリするぐらい力強い言葉が出た。それは私が自分に言い聞かせる言葉でもあったと思う。

 経理学校に通い出して身体の回復は急テンポになった。健康を取り戻すと独立の夢の実現にまっしぐらとなった。

 二年後、遂に喫茶店で独立!

 開店準備も兼ねての東京行きで、私はO君の勤めるホテルに宿泊した。勿論、独立の報告は上京する前にしていたが、O君は大歓迎してくれた。夜の東京を案内して貰いながら、私は、

「ありがとう!」

 と心の中で呟き続けていた。


30年前の原稿です。みんな若い頃は葛藤の連続だったんですよね。(笑)
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雨が降る降る~~♬

2023年05月14日 11時48分10秒 | 日記
13日の「畑ライブラリー」の
「つねじいさんの紙芝居」は、
なんとか無事に終了。
雨はその後降りだし、
今朝もシトシト状態。
梅雨の先取り?
季節の狂いは、
目に見えて顕著になりつつあるからだ。

母の日ということで、
娘が孫を連れてやってきた。
長女のプレゼントは花のポット苗。
花好きの妻の希望である。
迎えて妻の用意したのがカモミール茶。
畑で育てているカモミールの花を摘み、
陰干ししていたものだ。
私には緑茶かほうじ茶がいいのだが、
ご相伴にあずかるしかない。

茶席を体よく抜け出しキッチンへ。
朝収穫しておいたものを使い、
グリンピースご飯を炊くことにした。
季節を味わうことには貪欲になれる。
浸漬に30分、フライパンで炊飯15分で炊きあがる。
10分蒸らした炊きたてのごはんは最高に美味い!
味見兼つまみ食いしながら、
居間でカモミール茶をたしなんでいる、
妻と娘、孫二人の様子をチラ見するわたしだった。

降り続く雨はげんなりだが、
畑の明日に頭を巡らす。
プランはいくらでもあるのだから。(うん)
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イベント前夜

2023年05月13日 00時52分53秒 | 日記
あすは「畑ライブラリー」5月のプログラムの1回目、
「つねじいさんのふるさと紙芝居」を控えている。
きょう必要なものを畑の小屋に運び込んだが、
いつもの通りに緊張感で落ち着けない。
小学生が遠足や運動会の前日に高ぶっり眠れないのと同じである。
たぶん朝まで起きてしまいそうだ。
そこで深夜の「おひとりさまクッキング」にかかった。
まずプリンの作り置き、そしてタコ飯、手ごねハンバーグと、
ひたすら料理に神経を集中している。(失笑)

そこで古い原稿を引っ張り出した。
31年前のミニストーリーである。
やや懐かしい気分に浸ってしまった。

雨上がり



 こう雨がしつこく続くと、やたら腰や足の関節が痛んで苛立って来る。さすが年齢を感じてしまう。おとなしく引っ込んでいるのが最良の方法なのに、じっとしているのは辛い。

 しかし雨では仕事も無理だ。屋内ならまだしも、いま請け負っている仕事は屋根に上がっての作業が中心だ。いくら急かされても、手の付けようがない。ただ我慢、我慢なのだ。

 佐倉伝吉は錻力職人、それも相当年季のの入った一人親方である。既に六十半ばで、若い頃に較べ足腰の衰えは年々酷くなる自覚がある。とまれ職人てのは、本人がその気にならない限り、生涯現役を勤めようと、誰も文句を言いはしない。

 気が楽だと言えばそうだが、伝吉の場合は息子への意地で引退を避けている節がある。

 一人息子の征夫は、

「電機屋とか水道屋ならまだしも、鉄板みたいな重たいもん、屋根の上まで上げるだけでもヒーヒー言うてまうわ。夏場は焼ける屋根材の上で汗まみれの真っ黒や。そんな厄介な仕事、好き好んでやるもんはおらへんわ。俺は全然やる気あらへんで」

 学生時代に何度か手伝わせた体験で懲りてしまったのだろう。錻力屋の後を継げと言うのを、そう拒絶して家を出てしまった。

 その息子に、少々年を食らっても錻力職人として立派に通用しているところを見せてやりたくて、伝吉は踏ん張っていると言っていい。

「お父さん、お茶いれたで、こっちに来いな」

「ほうか。ほな、よばれよか」

 五十年近く連れ添って来た兼子は、いつもきめ細かい配慮を欠かさない。伝吉より三つ上の姉さん女房だが、丈夫で長持ちのタイプらしく、五つは若く見える。それに陽気で楽天的な性格は職人の女房にピッタリだった。

「よう降りよるなあ」

「ほんまや。仕事でけんで干上がってまうがな」

「なに言うとんの。こんな時には、のんびりと休んで貰わんとなあ。長い間、骨身惜しまんと働いて来て貰とるんやから」

 兼子は程好く色の出た番茶を伝吉に差し出した。お茶請けに、伝吉の大好物の栗饅頭が、ちゃんと木皿に二個載せられている。

「さっき坂田はんから電話があったんや」

「なんて?」

「見合い話やがな」

「あいつはまだ諦めんのかいな。見合いする本人が便りも寄越さんと家離れてしもてんのに、ほんまにお節介もええとこや」

「まあそない言わんと。坂田はんもええ思うて……」

「そらよう分かっとるわい。有難い思てるがな」

 伝吉は番茶を一口ゴクリとやると、放心したように天井を見やった。

「征夫がおってくれたらねえ」

「アホ。あいつの話はもうすな。けったくその悪い」

 息子の名が兼子の口から出ると、伝吉は一遍に不機嫌な顔を作った。栗饅頭を指で摘むと、まるで憎い敵を見つけたように睨んだ。

「そない怒らんでも……」

 兼子は、そんな夫を見やって、小さく頷いた。

 征夫が家を出てから五年になる。3年目ぐらいまでは盆正月と秋祭りには帰って来ていたが、ここ二年程は全く顔を見せなくて、手紙も電話もプッツリだった。伝吉が激しく文句を言ったからだと、兼子はしょっちゅう夫を責めたててくる。伝吉は無言で妻に歪んだ表情を返した。お手上げ状態だった。

 とは言え、頑固な父親はさておいても、せめてっはおやにはでんわで連絡を入れてくれても好さそうなもんじゃないかと、兼子は姿の見えない息子を恨みがましく思ったりもする。勿論、親子関係を勘当状態にした夫の責任に尽きるわけだが。

 ただこの頃は、もう諦めてしまっている。

「おい、誰か来たんと違うか?」

「え?」

「玄関が開いたんとちゃうか」

 雨のおかげで少々の物音は消されてしまう。ただ伝吉の勘は普段からいい。

 兼子は素直に立ち上がった。

 伝吉は栗饅頭を頬張りながら、窓の向こう側の鬱陶しい雨脚へ目をやった。

「あんた!はよこっちへ来て」

 兼子のけたたましい声に、伝吉は慌てて玄関へ飛んで出た。

「どないしたんや?」

 本雨滴なものが働いたのか、伝吉の両拳は握り締められている。

「あんた。ほれ、ほれ」

 兼子はもう泣き声になっていた。

 玄関に征夫が立っている。一歩下がった斜交いに若い女が寄り添っている。彼女の胸にはおくるみの赤ん坊が抱かれていた。

「お前…なんや?……帰って来たんか……」

 伝吉は呆然と、それでも息子を前にした父親の威厳を自然に保とうとしていた。

 雨は午後になって上がった。厚い雲は跡形もなくなり、青空が随分と広がった。

 伝吉の心は一向に晴れなかった。くそ面白くないと言った顔付きで、茶の間のざわめきに背を向けたままである。

 兼子は、もう嬉しくてたまらない風で、生き生きと征夫の世話を焼いている。それがまた伝吉には癪に触ってたまらない。

 星井理代子という若い女は、征夫と同棲していた。籍はいれていないと言う。それが子供を作ってのご帰還とは、全く不真面目過ぎる。

 そんないい加減さが、昔人間の伝吉には気に入らない。どうしても認められないのだ。

「あんた、征夫は、いま、設計事務所に勤めてんだって。設計士の資格も、もう直ぐ取れそうやと。ほんまに偉いやないか」

 兼子はいちいち大声で報告する。

「ほらほら、こっちへ来いな。伝太が、こない笑うてくれて、まあ嬉しいがな」

 伝太ってのは、伝吉の孫になる赤ん坊の名前だった。自分の名前の一字を取って名付けられた孫の存在が、伝吉にとっても嬉しくないわけがない。まして初孫なのである。

 しかし、伝吉はどうしても頑なさを崩せないのだ。昔気質の不器用さと言えようか。

「こんな可愛い赤ちゃんも出来たんやから、ちゃんと結婚式も挙げにゃいかんのう」

 兼子の言葉に若い二人は戸惑い気味に顔を見合った。

「母さん。俺たち、結婚式はせえへん。籍だけは入れなあかん思たから帰って来たんや」

「そないな不細工な真似できるまいな。世間体もあるやろ。ちゃんとしたるさかいに…」

「いや、ほんまにええんや。彼女と約束sとるんや。無駄なことはせんとこ言うてなあ」

「無駄な事やて……そんな、お前…」

 兼子は額に皺を刻んで口篭った。

「いいんです。私たちが充分納得しているんですから。元々籍も入れるつもりなかったんですよ。でも、この子が出来ちゃったから、やっぱり籍がいるかなって……」

 理代子は、えらくアッサリした物言いをする。家に来てまだ一度も笑顔は見せていない。

 伝吉は立ち上がると、玄関の方へ足を向けた。

「お父さん、どこ行くの?」

 兼子が気付いてすかさず尋ねたが、伝吉は黙殺して居間を突っ切った。

「もうお父さんは、子どもみたいな真似してから……いつまですねてんのやいな」

 かねこは息子夫婦(?)へ弁解するように、慌てて夫を責めた。伝吉はちょっと荒っぽい仕草で玄関の戸を開け放って外へ出た。

 家の裏手にくっ付いた形の作業場に入った伝吉は、加工台を前にした。樋受けの飾りの型取りをするのが中途で抛ってある。

 別に急ぐ仕事ではないが、何かやってれば気は紛れる。自分の思い通りにならぬモノに、ややこしく頭を使っているよりは格段にいい。

 伝吉は型木に銅板をあてがって金槌を振るった。小気味いい音を立てながら、金槌は伝吉の思い通り確実に叩いていく。五十年以上も妥協しない仕事に賭けて来た

職人芸の見事さだった。

「…あの…バカタレが……!」

 伝吉は思わず吐き捨てた。どうも今日は集中出来ない。あの親不孝者の征夫のせいだった。もう息子と思うまいと無視を決め込んでいるつもりだが、どうも上手くない。あの孫の存在が伝吉の動揺を誘ってばかりいる。

 伝吉は遂に諦めて金槌を置いた。気が乗らないまま仕事を続けても納得いくものが作れるはずはない。職人のプライドが傷付くだけなのだ。伝吉はフーッと大きく息をついた。

 胸ポケットの煙草に手を伸ばしたが、中味は切れている。苛立っていたおかげで補充するのを忘れていたらしい。伝吉は舌打ちした。

「お父さん」

 兼子がソワソワと顔を覗かせた。

「なんや?あいつら抛っといてええんか?」

「いま出ていったがな」

「帰ったんか?」

 伝吉はズボンの埃を払い落した。やっぱり気になっている。久し振りに顔を見せた息子と、まだ何も話していないのに気づいた。

「役場やがな。籍を入れに行くんやと」

「伝太は……?連れて行きよったんか……?」

「当たり前やろ。プリプリ怒ってばかりのおじいちゃんとこに置いとけわな」

 兼子は伝吉に、それと分かる皮肉を言った。

「また帰って来るんか?」

「そやろ。二、三日泊まるー言い寄ったさかい」

 兼子は伝吉の反応をうかっがている様子だ。

「勝手なやつや」

 伝吉は顔をしかめて強い語調で吐き出した。

「まだ、若いんやから゙」

 兼子が慌てて息子の弁解をして見せる。

 伝吉は取り合わず、プイと外に出た。

「お父さん。征夫らが帰って来るまでに、機嫌あんじょう直しといてや。せっかく顔見せてくれたんやから、今夜はご馳走作るでな」

 兼子は、いつになく高ぶっている。

「煙草買うて来る」

 伝吉は一層無愛想になるばかりだった。

 雨上がりの道は心地好かった。周辺は未だ開けていない田舎だけに、あのうるさい車も余り通らなくて尚更気持ちが好いのだ。

 家から三百メートル程行った所に、村で唯一の雑貨店がある。食料品も少し置いてあるので、ちょっとした時に重宝な店だ。店先にはちゃんと自動販売機も並んでいる。

 伝吉は煙草の販売機の前に立って、やっと気が付いた。販売機の前に置かれてあるベンチで、赤ん坊をあやしながら煙草を喫っている若い母親がいる。理代子だった。

「あ?」

 理代子も直ぐに気付いて声を上げたが、別に狼狽する風もなく、えらく落ち着いたままだった。どうも可愛げがなさ過ぎる。

「あの…」

「いや、煙草切らしたんでな。ちょっと買いに出て来たんや…」

 伝吉の方が逆に狼狽えていた。顔が赤くなり、しどろもどろに、しなくてもいい弁解をするはめに陥った。

「あんたら、役場へ行ったんじゃなかったんか?」

「この子を連れてじゃ大変だからって、あの人がひとりで行ってくれたんです」

「そやったんか。それやったら家の方で待っとったらええやないか」

「……でも」

 理代子が言葉に詰まったのを見て、伝吉は兼子の皮肉を思い出した。プリプリ怒ってばかりの伝吉のそばではさぞ肩身の狭い思いをしなければなるまい。

 理代子が片手で支えるように抱っこしている伝太がむずがり始めた。伝吉は反射的に両手を差し出していた。

「わしがかわったろう」

「すみません」

 理代子は伝吉に赤ん坊を預けたので、ホッとした表情で煙草をくゆらしている。自然な喫煙姿に伝吉は感心しながらも、出来るだけ目を逸らせた。むずがるのを止めない孫の伝太をあやすのに夢中にならざるを得なかったし、女性の喫煙に馴れてもいなかったからだ。

 赤ん坊を抱くなど、もう五十年以上のご無沙汰である。伝吉はぎごちなくて危なっかしい手付きながら懸命だった。思うようにならない相手だが、不思議に腹は立たない。

(これが俺の孫か。ほら、おじいちゃんたで)何度も腹ん中で赤ん坊に自己紹介をする自分に思わず苦笑した。照れ臭くて声は出せない。

「優しいんですね…征夫さんとよく似てる……そっくり…」

「え?」

 伝吉は訊き損なったので、慌てて理代子を見返した。はずみで赤ん坊を抱いた手に力が入り過ぎてしまい、伝太は急に泣き出した。          

「あ、かわります、わたし。はい、伝ちゃん、お母さんでちゅからね」

 さすが母親である。手慣れていて、さしもの赤ん坊もすぐに大人しくなった。

「こりゃこりゃ、わしも嫌われたもんやのう」

「そんなことないですよ。まだ慣れてないだけですから……おじいちゃんに…」

 理代子が初めてクスリと笑った。ちゃんと魅力的な笑顔を持っているのだ。

 伝吉は理代子に心を開きかけている自分に気付き、少しばかり驚愕したけれど、すぐに平静を装った。ニコニコ顔になって理代子を見た。

 そんな伝吉に理代子は饒舌で応えた。打ってかわる明るさで、征夫との生活ぶりや、理代子自身の故郷や家族についても話した。

 伝吉は理代子が人前であまり笑顔を出せないでいる理由を知った。長い年月を通じて自然と身に備わった自己防衛だったのである。

 理代子は和歌山の漁師の家に生まれている。四歳の時、不幸にも大きな台風の直撃で父親の船は沈み、両親と兄弟を一度に失っていた。

 幼いころからひとりぼっちで、親戚をたらい回しされているうちに、自分の意志と言ったものを出さないほうが無難なのを覚えたのである。

「私って誰からも嫌われてたんですよ。とても意地が悪くて…暗い性格だったから……」

 理代子は、まるで他人事のように喋った。

「…そんな私を…征夫さんは……掬ってくれた…!」

 急に理代子の顔が歪んで、言葉は詰まった。

 伝吉は理代子が嗚咽する姿に、なす術もなく、ただじっと見守るだけで精いっぱいだった。

 征夫が帰って来るのを待つと言う理代子を残して、伝吉は先に家へ戻った。

「どうしたんやね。ニヤニヤして…気色悪い」

 伝吉の顔を見た兼子は訝しげに訊いた。

「ええんやええんや。それより晩のご馳走の用意は出けとるんか?あいつら、もう帰ってきよるやろが」

「あほらし。どないな具合やいな」

 同じ皮肉を言っても、今はやけに明るい。伝吉の態度から何かを感じ取ったからだろう。兼子は夫の心のうちはちゃんと見透かせるのだ。

「さあ、急いで作らななあ」

「よっしゃー!わしもちょっくら手伝うかいのう」

「ほんま嵐でも来よるがな」

 兼子は軽口を叩きながら台所へ急いだ。

「おい。わしもおじいちゃんやど!」

 伝吉ははしゃぎ声で後に続いた。

(こりゃ、どないあいつらが反対したかて、ちゃんと結婚式挙げたらなあかん。娘がでけるんや。孫を連れて来てくれおった娘や。花嫁姿になったら、そら綺麗やで、間違いあらへん!)

 伝吉はとめどもなく幸せを感じていた。


さあ明日は雨が降るか否か、
4月のプログラムが雨にたたられっぱなしだったので、
不安が尽きない。
野外でやる「畑ライブラリー」は、
天候次第なのである。
それでも明日は6時前に起床の予定だが、
まずは眠りにつかなければ、どうしようもないなあ。(失笑)
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かまどでご飯を炊くこども

2023年05月12日 11時42分16秒 | 日記
雲ひとつない、晴れ渡った空の下、
気分よくラジオ体操を済ませると、
畝で天日干し中の玉葱を取り入れた。
明日は雨が降るかも知れない予報なので、
取り入れたものを倉庫へ運んだ。
結構暑いのでこたえたが、
集荷する玉葱が活力の源になってくれる。
生産者の醍醐味といったところかな。

妻は新年度の始まった「有機栽培講座」に出かけていて、
昼はおひとりさま。
まずはご飯をと、
2カップの米を用意して仕掛けた。
フライパンだから蒸らし時間を加え15分かかる。
春玉葱のスライスサラダにかつおをトッピング。
朝に作り置いたコロッケと出汁巻き玉子をメインに食事。
しかしご飯を炊くのは苦にならない。
炊飯器が壊れて以来のフライパン炊飯である。
ふっと思い出すのは、
子供の頃かまどにかけたおかまの炊飯模様。
薪の煙にむせながら、
かまどにしがみついていたものである。
農家だった家に育った子供は、
農繁期になると遊んでいられない。
農作業の手伝いもそうだが、
私には家のご飯炊きが回ってきたのだ。
そしておかずまでつくるようになった。
きっとあれが、
私を料理人の道に進むきっかけになったのだと思う。
ある意味しあわせだったのだ。(ウン)
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悲喜こもごもイベントあれこれ

2023年05月11日 13時38分35秒 | 日記
きのうは「ねひめ広場運営会議」の定例会議の日。
加西市長・市議の選挙を控えたせいか、
出席率は低かったが、
新しい顔も見られたのが喜ばしい。
新しい企画も選挙後おちついてからだろう。
運営会議の新たなパワーを求めて、
参加者の募集も始まっているが、
加西を楽しくするための企画を、
お持ちの市民参加を望むだけである。

いっぽうで、
畑町を基点にした「畑ライブラリー」の、
5月プログラムの「野外で紙芝居」を、
13日(土)午前10時から実施。
会場は「さいとう農園・ねひめっこポッケ広場」
畑のど真ん中の試みだが、
さてどうなりますやら。
天気さえよければと切に願うばかりだ。
4月は悪天気で中止イベントが多かったからだ。
野外のアウトドアイベントの限界といったところだ。
これからの暑さも考慮する必要が出てきそうだ。
試行錯誤しながらも前に進むだけである。
ちなみに「畑DEラジオ体操」は、
いまのところ毎朝実施して元気を頂いている。(ウン)

「ふるさと川柳」公募は5作品です。
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