老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

1020 生ける屍の聲

2019-03-23 14:12:41 | 文学からみた介護


 生ける屍の聲

5編の短編小説
ときは昭和時代
ところは貧しい農村

『屍の聲』は
惚けてしまったおばあちゃんは
孫の布由子(ふゆこ)の名を遠くから呼ぶ
布由子は高校生

おばあちゃんは部屋に火をつけ
仏壇のあった一角は
天井だけでなく畳や蒲団まで黒々と焦げた。

 焦げた蒲団の布が引き裂かれ
 その間から白い綿がむわりとこぼれ出ていた。
 おばあちゃんの脳もこんなになってしまったのだ。
 腐ってどろどろになって、頭蓋骨から流れ出した脳・・・・・・。
 
 (19頁)

糞便の臭いが染みついたおばあちゃん

 おばあちゃんの内側は腐りつつある。
 この臭いは、死んで腐っていこうとする精神から出て来ていた。
 生ける屍。

 (19頁)

そのおばあちゃんに正気に戻る時間(とき)がある。
 「また、わからんようになるのが恐い。
  怖うてたまらんになる。けんど、どうしようもない。
  知らんうちに頭がおかしゅうなる。自分が何しゆうか、わからんようになる。
  こんなんやったら、もう二度と頭がはっきりせんほうがええ。
  自分のしたことを考えるにと、恥ずかしゅうて嫌になる・・・・・・」
 
 (26頁)

 「惚けるやったら、死んだほうがましじゃ」と皺のよった目尻に涙が滲んでいたおばあちゃん。

おばあちゃんの後ろを追っていった布由子
おばちゃんは急斜面になっていた雑木林から転げ、深い碧色の川に落ちた
溺れ死んでいく様を見ていた布由子

正気になったり惚けたりするおばあちゃんは
死にたがっている、とそう信じた布由子は
溺れるおばあちゃんを見殺しにした。

通夜の席で一瞬
おばあちゃんの青くなった唇がわずかに開き、
息の漏れる聲で「布由子ぉ、布由子ぉ」と呼ぶ。

幻聴、幻視なのか
死者の聲なのか
生ける屍になりながらも
孫を想うおばあちゃん

一風変わった惚け老人の物語であった。


もうひとつの短編小説『残り火』のラストも呻ってしまった
事故死なのか
未必の殺意なのか
『残り火』を手にすることをお勧めします



1019 電気停止5日間

2019-03-23 04:01:34 | 老いの光影 第4章
夕陽が深く沈む阿武隈川と黒い森には“トトロ”が棲むでいる

 電気停止5日間

私が毎月在宅訪問している家は
アル中の夫は
いまどうにか酒を飲まずに1年が経過した

百円硬貨3枚を見つけると
笑いを噛み殺し
その硬貨をポケット
妻に悟られないよう
散歩する振りして
2㎞先にあるコンビニをめざし歩く

コンビニでワンカップを買い
帰り道は店員にタクシーを呼んでもらい
着払い乗車で、自宅に無事帰還する

この日は
運悪く
コンビニで
デイサービスの生活相談員に遭遇

ワンカップの代わりに
アサヒのノンアルコールビール500ccを買わされ
事業所の車で送ってもらった

妻は気が抜けず
ストレスが溜まる


隣りの家に住む独り暮らしのおババの話になった
認知症が進み
電気が止められたまま5日間暮らしていた
水も出なくなった

心配でおにぎりなど差し入れをした
市内には娘はいるが
電気が停止になったことは知らない

今日は電気工事の人が来ていた
電気が繋がったのかな、と安堵したのもつかの間

隣りの隣りの雄の柴犬に
太腿と踵の上、2個所もざっくりと噛まれ
歯型が深く刻み込まれ 9針も縫った

電気停止 犬に噛まれ
踏んだり蹴ったりの春の生活

管轄の地域包括センターに電話をかけた