葉室麟『螢草』双葉文庫 ★★★☆☆
昨日の土曜日
仕事は忘れ 陽射し入らぬようカーテンを締め
読書に耽る
葉室麟さんの小説を手にしたのは今回で3作目
文章が優しく読みやすい
16歳の菜々(武士 風早家女中)は、露草の花が好き。
露草をじっと眺めるだけで幸せな気持ちになる。
「早朝、露が置くころに一番きれいに咲いて、昼過ぎにはしおれてしまう」(10頁)
佐知(風早市之進の妻)は、菜々に露草の話をする。
露草は、万葉集では「月草」、俳諧では「螢草」と呼ばれていて、
「きれいで、それでいて儚げな名です」(10頁)
「螢はひと夏だけ輝いて生を終えます。だからこそ、けなげで美しいのでしょうが、
ひとも同じかもしれませんね」(10頁)
そして、佐知は露草のことを、菜々に
「命の花」でもあると話している(184頁)
佐知は、労咳(ろうがい)と疲労がたたり
鈴虫が鳴く秋に二人の幼子を残し亡くなった。
佐知は菜々に
「ひとは、皆、儚い命を限られて生きているのですから、
いまもこのひとときを大切に思わねばなりません」(126頁)
佐知は女中の菜々を妹のように可愛がり、いろんなことを教えてきた。
佐知の名は「幸」を連想し、彼女の命は露草の如く儚げであり短命であった。
露草は儚い名
螢も、蝉もひと夏の儚い命
人間の命も儚く限られている。
そこには無常という言葉を思い浮かぶが、
この『螢草』の小説は無常観という寂しさ,空しさを感じさせない。
螢は夜 黄色の光を発し輝き
蝉は樹の陰で懸命に鳴き声を発し
ひと夏の儚い命を燃え尽き生きてゆく。
螢や蝉に比べ人間の命はかなり長いが
人生の時計は早く、気がついたときには老人の姿になり
人生の儚さを知る
(yahoo 露草の画像より引用)
人間も螢や蝉と同じく、儚い命であるがゆえに、いまという瞬間を大切に生きてゆかねば、と思う。