老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

1394;宮本輝『いのちの姿』完全版 集英社文庫

2020-02-10 05:16:13 | 読む 聞く 見る


宮本輝『いのちの姿』完全版 集英社文庫 ★★★☆☆

宮本輝さんの自伝的随筆で19の話が収録されている。
宮本さんは、『いのちの姿』の最後の2行に
「命なんと不思議なものであろうと思った。
命よりも不思議なものが他にあるだろうか」
(187頁)

”文庫本あとがき”のなかでも、
「人間も植物も虫も、みんないのちであり、
一個の石ころさえもいのちに見えるときがある。
風にも大気にも雨にも雲にも、いのちの菅田を感じる。
いのち以上に不思議なものはない」
(192頁)

宮本輝さんの小説は、自分は過去において『錦繡』の一冊しか読んでいない。
彼自身がどのような人生を過ごされてきたのか、
『いのちの姿』を通し、知ることができた。

少年時代は貧しい生活にありながらも
様々な人たちとの出会いやつながりやとんでもない体験をされてきたこと
約40年間、パニック障害を患い克服された体験や
重度の肺結核を患いながら小説を書きあげてきたこと等々

『いのちの姿』に登場してきた作家自身も含め、
どの登場人物の生きざま(生きてきた姿)を書かれている。
宮本さんは、人間を見ていくとき「どれだけの人生に触れ、そのどの急所に目を向けてきたか」(52頁)

パニック障害を体験し克服した宮本さん
「どんな病気も、かかった人でないとその苦しみはわからないというが、
まことにそのとおりであって、この病気と無縁の人にしてみれば、
電車に乗ることがなぜそんなに恐怖なのか、なぜ死地におもむくほどの恐怖と
決意を要するのかと笑うであろう」
(70頁)

土曜に読み終えた葉室麟『螢草』双葉文庫の279頁に、菜々は
「生きていると楽しいことばかりではありません。辛いことがいっぱいあるのを知って
いるひとは、悲しんでいるひとの心がわかり、言葉でなく行いで慰めてくれます。」


病気だけでなく介護においても 他者の痛みが少しでも「わかる」ようになること
老人介護やその相談にかかわるときに、「どれだけの人生に触れ、そのどの急所に目を向けてきたか」
その言葉にはっとさせられた。

にんげんのうしろ姿は、寂しさを感じるけれども、
宮本さんは、その人のうしろ姿を心に甦(よみがえ)らせることから始める。(10頁)
いのちを大切にする
それはいのちの尊さと人間のどの急所に目を向けるか、を宮本さんの19のエッセイから教えられた。









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