1667 石のぬくもり(再掲 2017/07/14 )
左手は握り拳の如く曲がったまま拘縮
両膝は「く」の字に曲がり脚を伸ばせない
ひとりで寝返りも行えず
染みついた天井を一日中眺めている
拘縮した左手の指を解(ほど)き解し
掌を握り 言葉のかわりに握り返す
老人のぬくもりが微かに伝わってくる
老いた妻は仕事に出かけ
老人はベッド上で留守番
黒電話は鳴ることもなく
ヘルパーが来るのを待っている
路傍の石も動くこともできず
ジッと地面と空を見つめている
小石を掌にのせ
小石を握ってみた
小石にもぬくもりが伝わっていった
ジッと寝ている
老人の体と心は寂しく
石のように冷たい
温かいタオルで体を拭きながら
言葉をかけていく
老人にもぬくもりが伝わっていった
路傍に咲いていたマーガレットを一輪
老人の枕元に飾ってきた