☆今日の一枚 318☆
Pat Metheny Group
Still Life (talking)
昨日の『レター・フロム・ホーム』に続いて、今日の一枚もパット・メセニー・グループ(PMG)。1987年作品の『スティル・ライフ』である。PMGのものとしては、『レター・フロム・ホーム』のひとつ前の作品にあたり、『レター・フロム・ホーム』同様、グラミー賞受賞作である。昨日も記したように、私は長らく曲名もチェックせずにカセットテープで聴いていたこともあって、同じサウンド的傾向のこの『スティル・ライフ』と、『レター・フロム・ホーム』が頭の中ではごちゃごちゃであった。今回改めてCDで聴きなおしてみて感じるのは、『スティル・ライフ』のほうが若干、サウンドの陰影感が際立っているのではないかということと、爽快な疾走感が特徴的だということだ。シンセサイザーを駆使した変幻自在のギターと、細かなリズムを刻み続けるドラムスは特に印象的だ。どの曲も魅惑的でサウンド的にも安定しているが、お気に入りは美しいメロディーをもつ③ Last Train Home と、⑦ In Her Family だ。特に、穏やかで奥行きのある⑦ In Her Family がアルバムの最後に配されていることによって、サウンドの余韻が残り、アルバムをより感動的なものにしている。
ところで、『スティル・ライフ』というタイトルで思い出すのは、1988年に出版された池澤夏樹の小説である。私と同世代にはそういう人も多いのではなかろうか。この作品が雑誌「中央公論」に発表されたのは1987年の10月号であるが、もちろん作品はそれ以前に完成していたはずである。パット・メセニー・グループの『スティル・ライフ』が録音されたのは1987年の3月~4月であり、両者はほぼ同時期のものということになる。何かつながりがあるのだろうか。
池澤夏樹氏の『スティル・ライフ』は、その詩的な表現や、独特の世界観を表出したストーリーの魅力もさることながら、忘れがたいのはやはり冒頭の次の一文である。
※ ※ ※
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、2本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
でも、外に立つ世界とは別に、君の中にも、1つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることもできる。君の意識は2つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ2つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。
「たとえば、星を見るとかして」というところが、なかなかによい。構造主義に接近していた当時の私はやや違和感を感じたものだが、いまは素直に読むことができる。
魅力的な文章だ。