☆今日の一枚 321☆
Horace Silver
Song For My Father
ホレス・シルヴァーの1963年録音作品『ソング・フォー・マイ・ファザー』。ホレス・シルヴァーを聴くようになったのはここ10年ぐらいなのだけれど、こういうのは結構好きだ。若いころのように、熱狂的に聴きまくり、ハマったわけではないのだけれど、知らず知らずのうちにCDやLPが少しずつ増えている始末だ。
たまたま手元にある、ちょっと古い雑誌の村上春樹のインタビュー記事が、どうということのない内容なのだけれど、妙に記憶に残っている。(『Sound & Life』2005年6月25日発行)
当時、レコードは貴重品でしたから、食べるものも食べないでお小遣いを貯めてやっと一枚買う。ブルーノート・レーベルのホレス・シルヴァー「ソング・フォー・マイ・ファザー」なんて、2800円も出してオリジナル盤を買いました。40年前の2800円っていったら高校生にとってはとんでもない大金です。だから買ったレコードは実によく聴いた。レコードって大事に扱えば長持ちしますよね。いまでもそのころに買ったレコードをよくターンテーブルに載せますよ。
ジャズ・ファンなら(あるいはロックやクラッシックファンでも)、多かれ少なかれ同じような経験や思いがあることと思う。予定調和的な感想ではあるが、まったく共感するのみだ。村上氏はこのインタビュー記事で次のようなこともいっている。
さっきもいったように、2800円のブルーノートのレコードって高校生の僕にとってはものすごく大きな出費だったんだけど、だからこそ大事に丁寧に聴いたし、音楽の隅々まで覚えてしまったし、そのことは僕にとっての知的財産みたいになっています。無理して買ったけど、それだけの値打ちはあったなあと。活字がない時代、昔の人が写本してまで本を読んだように、音楽が聴きたくて聴きたくて苦労してレコードを買った、あるいはコンサートに行った。そうしたら人は文字通り全身を耳にして音楽を聴きますよね。そうやって得られた感動ってとくべつなんです。
私とはひとまわりも歳の違う村上氏だが、まったく同じような思いである。