今年の受験も一段落が着いた頃だろうか
30数年前2度目の大学受験に失敗した年
合格した勝者が楽しい大学生活のスタートを切った頃
敗者の僕は古びた中古の作業着を着て土方仕事に汗を流していた
その日の現場は阿倍野の有名な調理師学校、午前中は受水槽の掃除
ヘドロまみれでのたうちまわった
一服していたら稀にテレビで見かける有名な板前さんが通りがかった
「ごくろうさん」
僕らに声をかけてくれた
それを聞いて、一緒にバイトをしていたウメが板前さんに言った
「僕ぅ~来年ここの学校に入ろう思てるんです」
それを聞いた板前さんが
「入らんでええ、それより目の前の仕事をしっかりせえ」
斜め目線で僕らにこう言った
僕は
(さすが一廉の人は違うな)と思った事を覚えている
午後から学校屋上の何枚もの冷房の空冷フィルターの掃除をした
社員に足手まといをドヤされながら仕事をこなした
気が付くと阿倍野のビル群のシルエットにあかね色の空があった
一瞬、僕の時間が止まった
朱色に照らされたまぬけな顔に春の風が吹いた