もう昔で言えばもう初老だな
朝、鏡に映った自分の顔を見て・・
(あれ、変なおっさんがおる)とか思ったりする
昔、北新地の鉄板焼き屋の水冷のクーラーの掃除のバイトに行った
鉄板焼き屋は小賢しい顔のおばはんが一人いた
会社の社員と3人ぐらいで行ったが
全員が10代だった
汚い調理場で古い機械相手に社員があくせくしていた
手持無沙汰な僕は店内を眺めていた。
一人の社員が僕の腕を小突いて耳打ちした
「あのおばはん、何ぞたくらんどるから注意せえよ」
意味があまり分からなかった
休憩で店の外でタバコを吹かしていると
社員が
「あのおばはん、俺らの仕事に難癖付けて工事代払わへんのとちゃうか」
僕は
「えっ!そんな悪い人おるんですか?」
「おるおる、あのおばはんの顔はあくどい顔しとる」
そんな話を外でしていた
昼の慌ただしい時間が終わったのか
前の料理屋の路地裏は若い見習いの板前連中がくっちゃべっていた
自分らと目と目があった
皆、自分らと同じ年頃だろう
そうこうするうちに
路地の向こうから若い男が二人やって来た
若い板前連中とは顔見知りのようだった
上下のジャージ姿で偉そうに歩いて鉄板焼き屋に近付いて来た
見るからに下っ端の地回りだ
彼らもまた自分らと同じ年頃だろう
地回りは僕らの顔を見た
はた目には威圧している感じだったが
板前連中も僕らも知らん顔をしていた
同じ年頃の男のグループ同士、一種の緊張感があった
それぞれが甘く見られたくないんだろう
土方に地回りに板前
皆、誇りを持っていたんだろうな
よう分からんが
地回りより社員で在日のとうはら君の方がずっと怖い顔をしていた
その時、板前連中がどこからかドブネズミを捕まえて来て
そのうちの一人がネズミに火をつけた
そうしたら火が付いたままネズミが逃げて大騒ぎになった
案の定おばはんがこう言った
「あんたらな、このくそ暑いのに長い事クーラー止めてどないしてくれんねん、物が悪うなったやんか」
皆でうつむいておばはんの文句を聞いていた
「タダにせえ言わんからあんじょうにまけるんやで」
社員は会社に電話して工事代をまけた
外に出たら地回りがまだいた
とうはら君が顔を近づけて睨み付けた
地回りは顔をうつむけた
板前連中がにやにや見ていた
クラブの裏口からホステスさんが入って行った
自分の生涯で北新地に土方仕事では来ても
ホステスさんのいる店に客として来る事は無いだろうと思った
排気ガスに交じって御堂筋の銀杏並木に初夏の風が吹いた
10代は遠い昔