学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

ディケンズ『蒸気船でテームズ下れば』

2009-09-07 10:23:03 | 読書感想
イギリスの国民的作家ディケンズ(1812~1870)の小説です。

主人公ノアケスは28歳。彼の特技は、どんな人ととも会話を合わせられるというもの。自分の払いで食事をしたことがない、というくらいですから、余程のお調子者なんですね。ある日、彼はとある婦人から「何か面白いことはないか」と問われて、ある計画を思いつきます。それは蒸気船に乗って、ロンドンを流れるテームズ川を下ってみようというもの。さて、物事は万事うまく進む…はずでしたが、招かざる客の乗船、そして空がしだいに鉛色になり始めて…。

ディケンズは長編を数多く書きましたが、初期の小説は短編でした。彼の小説に登場する人物は誰しもみな生き生きとしています。それは、彼自身苦学して裁判所の速記者になり、取材を通して様々な人間を見てきたという背景があるためでしょう。

その彼が作家になるきっかけは「失恋」だったそうです。失恋は誰しも経験することですが、とても悲しいことですし、絶望的な気持ちに陥りますね…。ただ、一方で失恋は自分を大きく変えるチャンスでもあるわけです。(失恋した当初はそう思う気持ちが全く起こらないですけれど…)そして、ディケンズは小説家になろうと思い立ったのです。

若い頃の苦学、そして失恋、こうしたつらい経験があるからこそ、ディケンズは深みのある人生の喜びや悲しみが書けたのかもしれません。特に彼の長編小説は喜びと悲しみが糸のように交じり合う世界です。今度、このブログでも彼の長編をご紹介できれば、と思います。

●『ボズのスケッチ』上・下 ディケンズ作 藤岡啓介訳 岩波文庫 2004年