学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

安村敏信氏『暁斎百鬼画談』

2009-09-24 18:00:23 | 読書感想
河鍋暁斎(1831~1889)は幕末から明治初期にかけて活躍した絵師です。彼の絵はとてもユーモラスで、時には恐ろしく!ヨーロッパでも大変人気がある絵師の1人だそうです。

さて、先日ご紹介した板橋区立美術館館長である安村敏信氏による『暁斎百鬼画談』がちくま学芸文庫から出版されています。『暁斎百鬼画談』は暁斎の亡き後、折本形式で出版され、百物語をする人々、しゃれこうべと妖怪の戦争、そして並み居る妖怪たちが次々に登場します。なかでも化粧する女妖怪の背後に、空間を切り裂いたような細い切れ目をつくり、なかから女たちが覗き込んでいる様子、この空間を裂く、という発想に遊び心がとても感じられます。本作は、室町時代の『百鬼夜行絵巻』からヒントを得て制作されたそうです。

河鍋暁斎は、浮世絵師歌川国芳のもとへ7歳で弟子入りしますが、すぐに離れ、狩野派の師のもとで絵を学びます。当時、絵師になろうと思ったら、狩野派の門戸をたたくのがオーソドックスですが、その前に国芳の下へ弟子入りしているのは興味深いことですね。主に戯画が中心ですが、口絵の仕事のほか、ウィーン万国博覧会、第一回内国勧業博覧会などに作品を出品しています。

暁斎の作品を見てゆくと、過去の日本美術から様々な影響を受けていることがわかります。本書でも触れられていますが、師であった国芳の錦絵、室町時代の『百鬼夜行絵巻』を始め、平安時代末期の『鳥獣人物戯画』、葛飾北斎などの影響も見受けられるようです。自分なりに心へかかるものを摂取して、独自の境地を切り開いていったんですね。戯画、というと軽いイメージをもたれますが、決してそんなことはなく、常に高い向学心を持って、創作に取り組んでいたことがわかります。この本を読むと、もっと河鍋暁斎のことが知りたくなる、そんな1冊です。

●『暁斎百鬼画談』安村敏信監修・解説 ちくま学芸文庫 2009年