学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

Bunkamuraザ・ミュージアム「美しき挑発 レンピッカ展」

2010-04-17 22:51:19 | 展覧会感想
今朝、長いカーテンを開けると、外は雪国でした。この時期に雪が降るなんて、とても信じられないことです。肩を縮こませながら、久しぶりにコートを羽織っての出勤でした。

昨日のブログでも書きましたが、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「美しき挑発 レンピッカ展」を見てきました。いわゆるモネやルノワールなどと比較すると、あまりなじみのない画家ではないでしょうか。私の持っている世界美術史の本にもちょっとだけしか書いてありません。しかも、アール・デコを代表する画家、とだけ。余談ですが、アール・デコと聞くと、NHKで放送されていた(されている)「名探偵ポワロ」の世界が頭に浮かびます。これはミステリードラマですが、セットは1920年代のまさにアール・デコの時代。ああいう時代に活躍していたのかと思うと、レンピッカの背景が浮かんでくるようです。

レンピッカは1898年にワルシャワに生まれ、ロシアで思春期を過ごしています。師の一人はモーリス・ドニ。展覧会の始めに展示されている、絵を学び始めたころのレンピッカの絵はやはりドニのタッチに似ています。ただ《女占い師》、《本を読む赤毛の女》などはどうもモチーフを皮肉って描いたような感じがしました。《女占い師》のいやらしい表情や手に持つカードが札束のようにもみえて。何か社会や人間に対する不満、そんなものが見え隠れするようです。また、1924年頃に描かれた《ボヘミアン》は、のちの《緑の服の女》につながっていくような調子。

「狂乱の時代」と題された第1章では、《緑のヴェール》、女性の恐ろしいまでの上目遣いの表情が圧巻でした。レンピッカは斬新な作品を描いているようで、実は伝統的な技法をかなり学んでいたようです。この作品の地肌は、バロック絵画のようにはっきりとカシッと描かれていて計算されたような印象。1925年から1935年頃までの作品は非常に力のある作品ばかりです。《緑の服の女》、《イーラ・Pの肖像》などになると、これまでの作品にあまり見られなかった「動き」が表現されるようになってきています。レンピッカの奔放さが見えてくるよう。

その後の第2章「危機の時代」、第3章「新大陸」になると、レンピッカの精神的な疲れもあって、勢いという点では大人しくなってしまったかな、と思いました。ただ、そのなかでも《果物と絹の布のある静物》は質感が素晴らしく描けています。ものをはっきり捉える視点は健在ですので、この時期は人物画よりもかえって静物画のほうがしっかりしているようです。

さて、展覧会会場でメモしてきたことをざっとまとめてみました。所蔵先を見ると、海外の様々なところから借用してきているようなので、これだけまとまった数のレンピッカを見る機会はもうしばらくないと見ていいのではないでしょうか。私自身、実際の作品を見たことがなかった画家でしたので、とても興味深く見てきました。作品数は程よいくらいのですので、一点をジックリと見る余裕もあります。ぜひご覧下さい!