学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

専門の外の世界へ

2017-07-29 19:05:05 | その他
博物館、美術館の学芸員は、それぞれ得意としている分野、つまり自分が研究している専門分野を持っています。基本的に、学芸員(と限定せずに研究者全般ですね)はその分野に関する研究成果を、展覧会、カタログ、紀要、学会などで発表し、実績を積み重ねていくことになります。ですから、あの分野の研究に関しては誰それに聞くのが一番、というのがあって、実際にそういう人の書く文章はとても深い考察が加えられていて、内容も面白いことが多々有り。

先日、とある研究会へ出席してきました。そこで講師として壇上に立った方の言葉が印象に残りました。

「ある事象を研究しようと思ったら、一方向からの視点では物事の見方を誤る可能性がある。自分の専門分野から出て行って、他の分野のことをしっかりと勉強し、複合的な視点で研究にあたらなくてはいけない。もちろん、他の分野へ出て行くことは、場合によっては赤っ恥をかくこともある。が、それを恐れていてはだめだ。他の分野へ出ていくことは自分の視点を広げるだけでなく、新しい人脈をつくることでもある。それが、私の学問に対する取り組み方だ。」

自分の専門外へ出ていくこと。そういえば、作家の丸谷才一さんも著書『思考のレッスン』のなかで、自分の専門分野(ホームグラウンド)を持ちつつ、他の分野へどんどん出ていくことを勧めていました。

実際、その方の研究発表は、言葉を実証するかのように、ある事象に対して色々な分野からのアプローチを試みたもので、大変面白いものでした。自分の専門分野から出ていく、ということはなかなか難しいこととは思うのですが、今後の私の研究態度のひとつの指標となるような、得難い経験をさせていただきました。