学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

(もう1つ上の)美術作品の楽しみかた②

2019-06-03 20:13:12 | その他
書店に売られている『日本美術史年表』や『歴史手帖』、あるいは展覧会会場に必ずといってよい程に置かれている年表。年表というものは〇年に〇があったと云う事象が時系列で並べられているものです。これは何に使うのでしょう。実は年表を使うと、その美術作品が生まれてきた社会や美術の流れがわかるようになります。というのは、美術作品は単独でこの世に存在しているわけではなく、その作家が生きた時代のなかで生まれてきたものだからです。それが理解できるようになると、作家の考え方や美術作品の背景が見えてくることがあります。例えば、文人画家の谷文晁には「四哲」と称される著名な弟子が4人いました。渡辺崋山、椿椿山、立原杏所、高久靄崖です。彼らはほぼ同時代を生きていますが、主な作品の制作年を年表に置いていくと、面白いことがわかります。それは江戸後期に渡辺、椿、立原は西洋絵画から影響を受けたリアリズムを吸収して創作しているのですが、高久だけは依然として旧来の中国を規範とした文人画にこだわり続けているのです。新しい潮流のなかに居たにも関わらず、高久がその影響下を受けない(あるいは受けないようにしていた)いわば保守的な絵師であったことがわかります。もしかしたら、周りの絵師が西洋絵画のほうを向き始めたからこそ、あえてベクトルを逆にすることで名を残そうとした…なんて小さな仮説も立てられますし、高久の精神性を考えるきっかけにもなりうるでしょう。時代のなかで、どう自分のスタイルを保って、あるいは創っていくかは重要なことです。年表のなかに美術作品を置き、社会や美術の動きのなかから考えてみる。これもまた美術作品を楽しむ1つの方法です。明日は③について書いてみます。