所用のために電車に乗る必要があったので、本棚から車中で読む本を適当に引っ張り出したところが、鏑木清方の『随筆集 明治の東京』が釣れた。鏑木清方というと、私の大学時代の友人に清方が大好きな人が居て、よくその魅力を聞かされたものだった。当時、私には彼が語る魅力がよくわからなかったが、数年後にサントリー美術館で鏑木清方展を見たときに初めて実感した。やはり本物を見ないと、いくら話をされてもイメージがわかないようである。さて、この随筆集は自伝的要素の強いものであるが、読み始めて15分ほどで本を閉じてしまった(失礼!)。読み進められない理由は2つ有る。1つは私自身が東京という都市にあまり馴染みがないということ。もう1つはやはり清方の文章力で…読み手を牽引する力がそれほど強くはない(本当に失礼しています…)。そういえば他作家で同じような東京を舞台に自伝的要素を含んだ随筆を書いた人はいなかったかと考えて見るに、木版画家川上澄生の『少々昔噺』が思い浮かんだ。自身の子供時代を回顧したものだが、ユーモアにあふれていて、テンポの良さは夏目漱石の『我輩は猫である』のようなところがある。読んでいてとても面白いし、確か気の利いた木版画の挿絵も付いていた。2人とも小説家ではないが、同じテーマでも書き手が違うと、読み手の受ける印象はずいぶん違うものだな、と感じた。そんなことを思っているうちに電車は目的地に到着。短い車中のなかでふと思いつるのとを書いてみた次第である。