読みたい本を決めずに、書店や図書館をぶらつくことがある。目当てのものがないから、本の背表紙を目で追っていく。すると、ときどき面白そうな本とふいに出会う。最近では永井荷風の『あめりか物語』がそうだった。
この本は、荷風のアメリカでの生活が元になって書かれている。丸谷才一は『思考のレッスン』で、小説の文字と文字の間には社会が書かれていなければならない、と述べているが、『あめりか物語』はまさにそんな小説だ。アメリカン・ドリームなる言葉があるが、かつての日本人も夢を持ってアメリカ大陸へ渡ったのだろう。だが、現実はなかなかうまくいかない。小説では、アメリカの社会のなかで、必死に生きる日本人の姿が捉えられている。こうした主題を描こうとすると、作品自体が陰鬱なものになりやすい。だが、荷風は物語が暗い方向へ向かわないように、うまく操縦している。私が最も好きな場面は「六月の夜の夢」、すなわち最後の章である。まるで映画を見ているようだった。愛し合う2人が蛍が舞うなかを散歩し、そして遠くに光るサーチライトを眺める。ロマンティックという言葉だけでは語れない美しさがある。
大学時代、荷風の『ふらんす物語』を読んだのだが、だらだらと続くだけで、それほど楽しめなかった記憶がある。以来、私のなかで荷風は遠くに行ってしまった。だから、『あめりか物語』も実はあまり期待してはいなかったのである。だが、それを大いにひっくり返されたのだから、わからないものだ。こういう本との出会いがあるから、書店や図書館巡りは止められない。
この本は、荷風のアメリカでの生活が元になって書かれている。丸谷才一は『思考のレッスン』で、小説の文字と文字の間には社会が書かれていなければならない、と述べているが、『あめりか物語』はまさにそんな小説だ。アメリカン・ドリームなる言葉があるが、かつての日本人も夢を持ってアメリカ大陸へ渡ったのだろう。だが、現実はなかなかうまくいかない。小説では、アメリカの社会のなかで、必死に生きる日本人の姿が捉えられている。こうした主題を描こうとすると、作品自体が陰鬱なものになりやすい。だが、荷風は物語が暗い方向へ向かわないように、うまく操縦している。私が最も好きな場面は「六月の夜の夢」、すなわち最後の章である。まるで映画を見ているようだった。愛し合う2人が蛍が舞うなかを散歩し、そして遠くに光るサーチライトを眺める。ロマンティックという言葉だけでは語れない美しさがある。
大学時代、荷風の『ふらんす物語』を読んだのだが、だらだらと続くだけで、それほど楽しめなかった記憶がある。以来、私のなかで荷風は遠くに行ってしまった。だから、『あめりか物語』も実はあまり期待してはいなかったのである。だが、それを大いにひっくり返されたのだから、わからないものだ。こういう本との出会いがあるから、書店や図書館巡りは止められない。
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