学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

そして旅へ…

2009-09-11 19:20:35 | その他
休日の今日、一日かけて旅行の計画を練っていました。テーブルの上に旅行雑誌を並べて、コーヒーとチョコレートを楽しみながら、ページをめくってゆく。雑誌の写真を見ているだけでも、気持ちがわくわくしてきます。そうして、実際にこの土地へゆけるのかと思うと、また一段と心持が良くなる(笑)

旅は北陸を巡ることにしました。テーマは歴史探訪。その土地を楽しむには、まず歴史を知ることが大事、が私の考え。福井県一乗谷、丸岡、石川県金沢、七尾、富山県高岡…と城歩きをしてきます。

もちろん美術館も見てきます。特に楽しみなのが金沢21世紀美術館。来館者として美術館を楽しむだけでなく、当館でも取り入れられるものがないかどうか、勉強のつもりでしっかりと見てきます。

そして夜。すっかり涼しくなったので、街の散策も面白そうです。日本海の新鮮な海の幸、美味しい日本酒もしっかりと頂いてきます。ただし飲み過ぎないように気をつけて(笑)

持って行く本は、吉田健一著『金沢・酒宴』(講談社文芸文庫)です。まさに旅行にぴったりかなと思って、埃をかぶった本棚の奥から引きずり出してきました…。

北陸旅行、楽しんで参ります!

ゴーゴリ『外套』

2009-09-10 21:32:58 | 読書感想
『外套』は『鼻』とともに、ゴーゴリの代表作です。

平凡で貧しい官吏アカーキイは、長年使い古しボロボロになった外套を取り替えようと(しかもなりゆきで)とします。ほぼ全財産を投げ打って仕立てた外套は、周りの人々もうらやむような出来でした。自慢の外套を着ると、周りの世界も違ったように見えて、得意になるアカーキイ。しだいに自分の命よりも外套が大切にさえ思えてきます。そして悲劇が…。

物語終盤に大きなアップダウンのある小説です。ちょっと予想だにつかないミステリアスな結末。暗い電球の元、一人で読んでいたら、ゾッとしてしまいました(苦笑)このまま終わったら面白くないな、とは思っていたのですが…。

「われわれは皆ゴーゴリの『外套』の中から生まれたのだ!」

ドストエフスキーがこの小説について、こう述べています。ドストエフスキーにここまでのインパクトを与えた『外套』。『鼻』ほどではないにしろ、不思議な内容の小説です。短編ですので、とても読みやすいです。みなさまもぜひ!


●『外套・鼻』ゴーゴリ作 平井肇訳 1938年 岩波文庫

旅行の計画

2009-09-09 18:07:05 | その他
来週、4連休をいただきました。これだけ連休を頂いたら、することはただ1つ。大好きな旅行へ出かけます!

滅多に4連休を取れることはないので、どこか遠くへ行きたいと思っているのですが、行きたいところがありすぎて、なかなか決まりません(笑)

北陸をぐるりと廻って金沢21世紀美術館や金沢城、武家屋敷などを見て、海の幸を思う存分食べてみよう!とか、長野県(私がとても好きな県です)に留まって上田や須坂、松本などでのんびりしてみようとか、はたまた東北一周を試みようとか…考えるときりがなくて、ただ嬉しい悩みです。

これから旅行雑誌をひっくり返して、計画を練ります。今から楽しみです!



ディケンズ『蒸気船でテームズ下れば』

2009-09-07 10:23:03 | 読書感想
イギリスの国民的作家ディケンズ(1812~1870)の小説です。

主人公ノアケスは28歳。彼の特技は、どんな人ととも会話を合わせられるというもの。自分の払いで食事をしたことがない、というくらいですから、余程のお調子者なんですね。ある日、彼はとある婦人から「何か面白いことはないか」と問われて、ある計画を思いつきます。それは蒸気船に乗って、ロンドンを流れるテームズ川を下ってみようというもの。さて、物事は万事うまく進む…はずでしたが、招かざる客の乗船、そして空がしだいに鉛色になり始めて…。

ディケンズは長編を数多く書きましたが、初期の小説は短編でした。彼の小説に登場する人物は誰しもみな生き生きとしています。それは、彼自身苦学して裁判所の速記者になり、取材を通して様々な人間を見てきたという背景があるためでしょう。

その彼が作家になるきっかけは「失恋」だったそうです。失恋は誰しも経験することですが、とても悲しいことですし、絶望的な気持ちに陥りますね…。ただ、一方で失恋は自分を大きく変えるチャンスでもあるわけです。(失恋した当初はそう思う気持ちが全く起こらないですけれど…)そして、ディケンズは小説家になろうと思い立ったのです。

若い頃の苦学、そして失恋、こうしたつらい経験があるからこそ、ディケンズは深みのある人生の喜びや悲しみが書けたのかもしれません。特に彼の長編小説は喜びと悲しみが糸のように交じり合う世界です。今度、このブログでも彼の長編をご紹介できれば、と思います。

●『ボズのスケッチ』上・下 ディケンズ作 藤岡啓介訳 岩波文庫 2004年

講演会のイベント

2009-09-06 20:35:10 | 仕事
展示替えが無事に終わり、新しい展覧会がスタートしました。私は…展示替えでフル稼働でしたが、なんとか筋肉痛にもならず無事に済みました(笑)初日からたくさんのお客様がいらっしゃいました。本当にうれしい限りです。

今日は新しい展覧会とは別に、ある物故作家の思い出について語る、という講演会イベントを行いました。この作家は今から30年ほど前に亡くなりましたが、平成も21年が経ち、だんだん作家の生前を知る人が少なくなってきました。今回のイベントは生前の作家の姿を講師にお話いただくことで、作家の業績を多くの人に知ってもらい、そして顕彰するという目的の元に開催されました。

参加者の募集したところ、予想をはるかに上回る方々からご応募をいただきました。会場は満席。改めて作家の人気の高さを強く感じました。講演会が終わった後、参加者の方々は美術館の見学をされていきましたが、とても良かったとおっしゃってくださり、とてもうれしい気持ちで一杯です。

一日中バタバタしたせいか、私はもうへとへとです。これから麦酒を飲んで、ゆっくり夜を過ごしたいと思います。それでは一足先におやすみなさい。

安村敏信氏『美術館商売』

2009-09-05 21:04:45 | 読書感想
書店の美術コーナーでは、概論や画集がたくさん並んでいます。なかでも最新刊を見て廻ると、今、美術の中でもどういったことに関心が持たれ、注目されているのかがわかります。

さて、私はこまめに美術コーナーへ足を運んでいますが、意外に少ないのが美術館運営についての書籍。これは、一般の方よりもむしろ現場の学芸員などをターゲットにしているためでしょう。学芸員といえば企画展示、のイメージがありますが、昨今では美術館の運営についても、しっかりと取り組む時代になっています。そう、館長だけが運営を考えるのではなく、学芸員一人一人が運営について意識する。そこでご紹介したいのが板橋区立美術館館長である安村敏信氏の『美術館商売』です。

安村氏が板橋区立美術館で実践されてきたこと。例えば魅力ある展覧会のネーミング、展示におけるディスプレイのあり方、キャプション表示、作品の高さなど実務的なことのほか、グッズの売り方、ボランティア活動、学校との連携まで、幅広く紹介されています。私は実際に学芸員として働いていますが、美術館や学芸員がどうあるべきか(きわめて実践的な)現場サイドの本がほとんど無いように思いました。ですから、私はこの本を教科書としていつも手元に置いています。

学芸員ではない方が読まれても、美術館の違う一面がご覧いただけますので、これまでにもまして、より美術館が好きになることと思います。そして、この本を読みましたら、ぜひ板橋区立美術館へ行かれることをオススメします。生きた知識になること間違いなしです。

●『美術館商売』安村敏信著 勉誠出版 2004年


那珂川町馬頭広重美術館「浮世絵に描かれた動物たち展」

2009-09-04 19:00:41 | 展覧会感想
このブログで展覧会感想を書くのはいつ以来でしょうか。とにかく久しぶりであることには間違いない(苦笑)

現在、栃木県那珂川町馬頭広重美術館で開催中の「浮世絵に描かれた動物たち展 -珍獣・猛獣・いやしのペット-」を見学してきました。

展示されている一点一点にそれぞれ意味があり、それが全体として非常によく調和している、展覧会のお手本のような展覧会でした。単に動物の描いてある作品だけを展示するのではなく、たとえば着物のデザインに取り上げられている生き物に注目してみたり、あるいは歌舞伎役者を亀に見立てた歌川国芳《亀喜妙々》の作品もテーマのなかに選ばれていて、大変面白い内容になっています。

私は歌川国芳《賎ヶ峯合戦之図》の笹に吊るされた生首(これが笑っているようにも見えてかなり怖い…)に背筋がぞっとして、長澤芦雪・曾道怡《花鳥蟲獣図巻》の犬の瞳(あれは散歩をねだる時の目です)にまいらされ、小林清親《猫と提灯》、《獅子図》に目を見張りました。

展覧会後半は「尽くし」もの。つまり、あるテーマのものを列挙していることですが、例えば「宝尽くし」という言葉がありますね。あれは縁起の良いものというテーマのものを列挙しているわけです。展示されているのは「尽くし」ものの浮世絵版で擬人がした鼠、猫、狸、あるいは影絵、玩具などの「尽くし」絵が展示されています。日本人は昔から「尽くし」が好きなのですね。

とても良い展覧会を見させていただきました。私も学芸員の一人として、学ぶべきところが多く、今後の仕事を進める上でも勉強になりました。

参考までに…日本人の「尽くし」について、もっとお知りになりたい方は下記の本がオススメです。小島孝之氏、田中優子氏、丸谷才一氏、高階秀爾氏の4名による「尽くしの宴」という対談集です。美術や文学の視点から、日本人の「尽くし」の意識を考察したもので、とても興味深い内容です。

●『日本の美を語る』高階秀爾編著 青土社 2004年

ゴーゴリ『鼻』

2009-09-03 21:35:36 | 読書感想
ゴーゴリ(1809~1852)の代表作『鼻』です。小説自体は長くない、長くないけれども、謎めいたこの小説の感想を書くのはなかなか骨が折れる(苦笑)

舞台はペテルブルグ。朝、理髪屋イワンが焼き立てのパンを食べようとしたら、その中から「鼻」が出てきます。そう、人の顔にある「鼻」です。あって欲しくはないことですが、現実の世界ならグロテスクで卒倒してしまいそう…。しかし、そこは小説。イワンは「鼻」を捨てるために町中を歩き、そしてとうとう河へ捨てたところへ巡査が来て…ここで話が一度途切れます。今度は、その「鼻」の持ち主であるコワリョフが自分の「鼻」を求めて冒険する話。とうとう「鼻」を見つけたと思ったら、「鼻」はなぜか自分よりも位が上のお偉方になっていて…(もちろん、あの「鼻」に位もなにもあったものではありませんが、この小説では「鼻」が人間のように扱われている箇所があります。しかも「鼻」は会話までします。)

あらすじを少しご紹介しましたが、とても奇妙で滑稽な小説です。『鼻』に作者のメッセージがあるとしたら、小説の最後に注目してみましょう。なんだか、もどかしくて、かなり歯切れが悪いのです(笑)最後の最後まで、読者はぼかされてしまう。それが、もしかするとゴーゴリの狙いだったのかもしれませんね。現実と夢の間に…。

●『外套・鼻』ゴーゴリ作 平井肇 訳 岩波文庫 1938年

展示替え作業

2009-09-02 21:36:21 | 仕事
昨日は作品返却のため、東北まで行ってきました。台風が何とか過ぎ去り、そうは言っても帰り際はぽつりぽつりと降りだしては居ましたが、何とか雨降る前に作品返却が出来て、ほっと一安心!

今日は展示替え作業のため、力仕事の一日でした。目張りをして、壁面に金具を付け、作品をかけてゆく作業。慎重になりすぎることに越したことはなく、体力のほか、神経も使い、もうへとへとです。

へとへとになったら、飲みに行くのがいい(笑)次の日に支障が出ない程度に、ほんのり顔が赤くなるくらい飲んできました。

明日は照明調節(ライティング)を行います。照度をうまく調整しながら…これが終わればほぼ展示は終了です。明日も引き続き頑張ります。筋肉痛にならないことを祈って(笑)