(1)厚生労働省は、5年に1回、公的年金の「財政検証結果」を公表している。このたびのそれを受け、新聞、テレビはこぞって給付額のカットの必要性を論じ始めた。
少子高齢化が急速に進む中、制度改正を急ぎ、「早いうちに年金の水準を切り詰めておけば、将来の水準低下をある程度抑えることができる」(日本経済新聞、6月8日付け)など。
同じ理屈は、2000年の年金法改正時でも唱えられた。「制度の見直しを放置すれば、2025年度以降の年金保険料は倍増」してしまうと警鐘を鳴らし、財政面からの“改善”がなされたはずだった。
しかし、いっこうに年金制度は安定せず、いままた同じ理屈で、危機を唱えているのだ。
(2)本来、年金制度の安定と維持には、財政面からの改善よりも、信頼性の確保が優先されなければならない。信頼性をおろそかにし、危機を説いてみても、国民の積極的な協力は得られず、抜本的改革も打ち出せない。
まして14年前(2000年)は、年金官僚たちが、厚生年金や国民年金の保険料をつまみ食いしていた事実が露呈している。この1年間だけ見ても、876億円の年金保険料が、年金局の天下り先に注ぎ込まれ、総勢2,515名のOBたちを養っていた。
当然、年金への不信は広まり、国民年金の納付率はガクンと落ちた。
国民年金は、給与から天引きされる厚生年金とは違い、個人が主体的に保険料を納める仕組みなので、農夫拒否が相次いだのだ。
以後、納付義務者のうち、実際に保険料を納めた人の比率を示す納付率は回復せず、2000年に73%だったのが、いまでは59%となっている(免除者や学生納付猶予者などぞ除けば、納付率は40%程度にすぎない)。
(3)今回、制度改正への国民の協力を得ようというなら、何より年金記録問題の解決への明確な道筋を示すべきだった。ところが、年金官僚たちは、もうこれ以上は無理とばかり、年金記録問題の幕引きにとりかかっているかのようだ。
そして、年金記録問題の元凶だった旧社会保険庁の後継組織、日本年金機構は、記録問題よりも、自分たちの処遇改善に熱心なのが実情だ。しかも、呆れたことに、彼らは、国民の目をごまかし、こっそりと有給休暇を増やそうとしているのだ。
日本年金機構の発足にあたり、当時の設立委員会は、社会保険庁時代のいくつかの休暇制度を見直している。<例>「災害援助等へのボランティア休暇」や「父母の法事休暇」など6種類は廃止し、「子の看護休暇」など8種類は、存続させるものの有給の支給額を減額させた。
当時は、反省の態度で受け入れていたものの、今年になって、それら休暇の復活を画策しているのだ。
(4)同機構の今年度の「年度計画」には、さりげなく、「休暇制度の充実」という文言が挿入されている。素直に読めば、「休暇」の消化率が悪いので、きちんと取るように奨励したものと解される。
しかし、「社会保障審議会年金事業管理部会」で、「休暇制度の充実とは、休暇の日数を増やすことなのか」との質問に対して、担当理事は否定することなく、いかにも困ったという顔で頷いた。
改めて断るまでもなく、年金記録問題は、まだ解明の途上にある。5,000万件の持ち主不明の年金記録のうち、2,800万件が解決したにすぎない。残りの2,200万件をどう解明するか。それに向けて全力で対処すべき時に、休暇を増やそうと巻き返しに汲々としているのだ。その存在意義が問われるだけでなく、制度の信頼をさらに失わせることにしかならない。
□岩瀬達哉「国民の目をごまかして「有給休暇」増を目論む年金官僚たちの厚顔さ ~ジャーナリストの目 第210回~」(「週刊現代」2014年6月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓
少子高齢化が急速に進む中、制度改正を急ぎ、「早いうちに年金の水準を切り詰めておけば、将来の水準低下をある程度抑えることができる」(日本経済新聞、6月8日付け)など。
同じ理屈は、2000年の年金法改正時でも唱えられた。「制度の見直しを放置すれば、2025年度以降の年金保険料は倍増」してしまうと警鐘を鳴らし、財政面からの“改善”がなされたはずだった。
しかし、いっこうに年金制度は安定せず、いままた同じ理屈で、危機を唱えているのだ。
(2)本来、年金制度の安定と維持には、財政面からの改善よりも、信頼性の確保が優先されなければならない。信頼性をおろそかにし、危機を説いてみても、国民の積極的な協力は得られず、抜本的改革も打ち出せない。
まして14年前(2000年)は、年金官僚たちが、厚生年金や国民年金の保険料をつまみ食いしていた事実が露呈している。この1年間だけ見ても、876億円の年金保険料が、年金局の天下り先に注ぎ込まれ、総勢2,515名のOBたちを養っていた。
当然、年金への不信は広まり、国民年金の納付率はガクンと落ちた。
国民年金は、給与から天引きされる厚生年金とは違い、個人が主体的に保険料を納める仕組みなので、農夫拒否が相次いだのだ。
以後、納付義務者のうち、実際に保険料を納めた人の比率を示す納付率は回復せず、2000年に73%だったのが、いまでは59%となっている(免除者や学生納付猶予者などぞ除けば、納付率は40%程度にすぎない)。
(3)今回、制度改正への国民の協力を得ようというなら、何より年金記録問題の解決への明確な道筋を示すべきだった。ところが、年金官僚たちは、もうこれ以上は無理とばかり、年金記録問題の幕引きにとりかかっているかのようだ。
そして、年金記録問題の元凶だった旧社会保険庁の後継組織、日本年金機構は、記録問題よりも、自分たちの処遇改善に熱心なのが実情だ。しかも、呆れたことに、彼らは、国民の目をごまかし、こっそりと有給休暇を増やそうとしているのだ。
日本年金機構の発足にあたり、当時の設立委員会は、社会保険庁時代のいくつかの休暇制度を見直している。<例>「災害援助等へのボランティア休暇」や「父母の法事休暇」など6種類は廃止し、「子の看護休暇」など8種類は、存続させるものの有給の支給額を減額させた。
当時は、反省の態度で受け入れていたものの、今年になって、それら休暇の復活を画策しているのだ。
(4)同機構の今年度の「年度計画」には、さりげなく、「休暇制度の充実」という文言が挿入されている。素直に読めば、「休暇」の消化率が悪いので、きちんと取るように奨励したものと解される。
しかし、「社会保障審議会年金事業管理部会」で、「休暇制度の充実とは、休暇の日数を増やすことなのか」との質問に対して、担当理事は否定することなく、いかにも困ったという顔で頷いた。
改めて断るまでもなく、年金記録問題は、まだ解明の途上にある。5,000万件の持ち主不明の年金記録のうち、2,800万件が解決したにすぎない。残りの2,200万件をどう解明するか。それに向けて全力で対処すべき時に、休暇を増やそうと巻き返しに汲々としているのだ。その存在意義が問われるだけでなく、制度の信頼をさらに失わせることにしかならない。
□岩瀬達哉「国民の目をごまかして「有給休暇」増を目論む年金官僚たちの厚顔さ ~ジャーナリストの目 第210回~」(「週刊現代」2014年6月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓