小出裕章・京都大学原子炉実験所助教(65歳)が、この3月、定年退職する。
(1)もっとも懸念された福島第一原発4号機の使用済み燃料は取り出せた。
最大の危機は乗り越えた。プールの燃料はセシウム換算で広島原爆の14,000発分あった。これが半分壊れた建屋に宙づり状態だった。崩れ落ちて冷却できなければ、東京も放棄しなければならない。それは事故当時、近藤駿介・原子力委員会委員長すら言っていた。危機の少ない場所に移さなくてはならないが、キャスク(100トンの容器を吊るクレーン)も吹き飛び、燃料交換機も壊れた。東京電力は、壊れた部分を撤去し、別の建屋を建てて交換機とクレーンを設置。1,331体の使用済み燃料は、昨年11月までに隣の共用プールに無事移せた。東電は、犯罪組織だが、プールの中に瓦礫が落ち、燃料も変形した可能性がある困難を、放射線に晒されながら、よく克服した。
(2)第一原発の汚染水の現状は・・・・
運転中に溶け落ち、どこにどれだけあるかもわからない1~3号機の炉心冷却でかけ続けた水が、放射性汚染水になるのは当然だ。毎日400トン。地下構造物がヒビだらけで、それ以外に毎日地下水が建屋に流れ込む。溶接は時間がかかり、被曝するのでタンクも応急。鋼板にパッキンを挟んでボルト締めだから漏れる。東電は、地下水が建屋に流れる前に海に流そうとしたが、(建屋に流れ込む)400トンが350トンに減っただけ。いずれにしても破綻する。
そこで、東電は浄化して法律の限度以下にして海に流したいと考えた。しかし、捕捉できる放射性物質はセシウムだけ。重要なのはストロンチウム90とトリチウム(三重水素)だ。東電は、ストロンチウム90を捕まえようと多核種除去設備(ALPS)を入れたが、まともに動かない。仮にストロンチウム90を捕捉できても、トリチウムは環境中に出れば水になる。水そのものだから、トリチウムだけは取り出せないまま海に放出せざるをえない。
(3)困難ばかりだが、妙案はあるか。
基本的には二つだ。
(a)炉心に水をかけることを止めて金属を使う炉心冷却はどうか。鉛、錫など融点の低い金属を炉心に届かせれば、多分、溶けて炉心と一体化する。崩壊熱は時間とともに減少するし、炉心と一体化して金属の量が増えればこれ以上は溶けないというバランスポイントになる。金属がうまく到達しなくても、崩壊熱は当初の10万kWほどが数百kWに減り、空冷できる。チェルノブイリ原発事故では元々の炉心の発熱量は低く、地下に広大なコンクリート構造物の空きがあり、空冷できた。そう持って行きたい。金属の粉を水で流すとポンプが壊れやすくなるので工夫が要るが、不可能ではない。
(b)遮水壁。2011年5月から主張したが、東電は「1,000億円かかり、株主総会で通らない」と採用しなかった。それでも、東電は遮水壁は必要だと2年ほど前から計画した。それは地面に冷媒を流し続け、深さ30m、長さ1.4kmにわたり周囲の土を氷で固めた凍土遮水壁を作るというものだった。しかし、停電すれば壁は崩壊するし、何十年も維持できない。最初から鋼鉄とコンクリートの壁を作るべきだった。しかし、何百億円もかかる凍土壁の失敗なんて、彼らには痛くも痒くもない。国、東電が負担し、鹿島建設が請け負い、駄目なら普通の遮水壁だ。失敗するほどゼネコンが儲かるからだ。
(4)除染、そこから出る汚染土は・・・・
国は「除染」と言うが、実際には「移染」だ。汚染物質は移動しかできない。残念ながら日本は法治国家ではなかった。東北地方、関東地方の広大な地域が放射線管理区域にしなくてはならない汚染レベルになった。1,000万人に近い住民を国は棄てた。水も、飲んではいけないレベル(京大原子炉実験所の実験室と同じ汚染レベル)で生活する彼らが、少しでも被曝を少なくしたいと思うのは当然だ。しかし、家の周囲や校庭で剥ぎ取っても山、森林、田畑などは無理だ。
国は県ごとに汚染土などのゴミ捨て場を提供させ、福島県の猛烈な汚染地帯に中間貯蔵市悦を作る予定だが、大反対だ。汚染物質は東電の原子炉の中にあった東電の所有物だ。人々が被曝して集めた核のゴミは、東電に返すべきだ。返すべき先は本来第一原発だが、放射能の泥沼で7,000人が闘っていて難しい。
福島第二原発も、広大な敷地がある。東電は壊れた4基を再稼働するなどと言っているが、すべて廃炉にしてゴミ捨て場にすべきだ。足りなければ、本社ビルでも柏崎刈羽原発の敷地でもいい。
住民に中間貯蔵を引き受けさせるなど、あってはならない。責任は、あくまで東電だ。福島の事故で電力会社が国から得たメッセージは、どんな失敗をし、住民にどんな苦難を与えても誰一人責任を取らなくていい、ということだった。だから、関西電力も九州電力も再稼働できる。「もんじゅ」も1兆円以上をドブに捨てた責任を誰も取らない。
□語り手:小出裕章/聞き手・まとめ:粟野仁雄「住民に中間貯蔵を引き受けさせてはいけない」(「週刊金曜日」2015年3月6日号)
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(1)もっとも懸念された福島第一原発4号機の使用済み燃料は取り出せた。
最大の危機は乗り越えた。プールの燃料はセシウム換算で広島原爆の14,000発分あった。これが半分壊れた建屋に宙づり状態だった。崩れ落ちて冷却できなければ、東京も放棄しなければならない。それは事故当時、近藤駿介・原子力委員会委員長すら言っていた。危機の少ない場所に移さなくてはならないが、キャスク(100トンの容器を吊るクレーン)も吹き飛び、燃料交換機も壊れた。東京電力は、壊れた部分を撤去し、別の建屋を建てて交換機とクレーンを設置。1,331体の使用済み燃料は、昨年11月までに隣の共用プールに無事移せた。東電は、犯罪組織だが、プールの中に瓦礫が落ち、燃料も変形した可能性がある困難を、放射線に晒されながら、よく克服した。
(2)第一原発の汚染水の現状は・・・・
運転中に溶け落ち、どこにどれだけあるかもわからない1~3号機の炉心冷却でかけ続けた水が、放射性汚染水になるのは当然だ。毎日400トン。地下構造物がヒビだらけで、それ以外に毎日地下水が建屋に流れ込む。溶接は時間がかかり、被曝するのでタンクも応急。鋼板にパッキンを挟んでボルト締めだから漏れる。東電は、地下水が建屋に流れる前に海に流そうとしたが、(建屋に流れ込む)400トンが350トンに減っただけ。いずれにしても破綻する。
そこで、東電は浄化して法律の限度以下にして海に流したいと考えた。しかし、捕捉できる放射性物質はセシウムだけ。重要なのはストロンチウム90とトリチウム(三重水素)だ。東電は、ストロンチウム90を捕まえようと多核種除去設備(ALPS)を入れたが、まともに動かない。仮にストロンチウム90を捕捉できても、トリチウムは環境中に出れば水になる。水そのものだから、トリチウムだけは取り出せないまま海に放出せざるをえない。
(3)困難ばかりだが、妙案はあるか。
基本的には二つだ。
(a)炉心に水をかけることを止めて金属を使う炉心冷却はどうか。鉛、錫など融点の低い金属を炉心に届かせれば、多分、溶けて炉心と一体化する。崩壊熱は時間とともに減少するし、炉心と一体化して金属の量が増えればこれ以上は溶けないというバランスポイントになる。金属がうまく到達しなくても、崩壊熱は当初の10万kWほどが数百kWに減り、空冷できる。チェルノブイリ原発事故では元々の炉心の発熱量は低く、地下に広大なコンクリート構造物の空きがあり、空冷できた。そう持って行きたい。金属の粉を水で流すとポンプが壊れやすくなるので工夫が要るが、不可能ではない。
(b)遮水壁。2011年5月から主張したが、東電は「1,000億円かかり、株主総会で通らない」と採用しなかった。それでも、東電は遮水壁は必要だと2年ほど前から計画した。それは地面に冷媒を流し続け、深さ30m、長さ1.4kmにわたり周囲の土を氷で固めた凍土遮水壁を作るというものだった。しかし、停電すれば壁は崩壊するし、何十年も維持できない。最初から鋼鉄とコンクリートの壁を作るべきだった。しかし、何百億円もかかる凍土壁の失敗なんて、彼らには痛くも痒くもない。国、東電が負担し、鹿島建設が請け負い、駄目なら普通の遮水壁だ。失敗するほどゼネコンが儲かるからだ。
(4)除染、そこから出る汚染土は・・・・
国は「除染」と言うが、実際には「移染」だ。汚染物質は移動しかできない。残念ながら日本は法治国家ではなかった。東北地方、関東地方の広大な地域が放射線管理区域にしなくてはならない汚染レベルになった。1,000万人に近い住民を国は棄てた。水も、飲んではいけないレベル(京大原子炉実験所の実験室と同じ汚染レベル)で生活する彼らが、少しでも被曝を少なくしたいと思うのは当然だ。しかし、家の周囲や校庭で剥ぎ取っても山、森林、田畑などは無理だ。
国は県ごとに汚染土などのゴミ捨て場を提供させ、福島県の猛烈な汚染地帯に中間貯蔵市悦を作る予定だが、大反対だ。汚染物質は東電の原子炉の中にあった東電の所有物だ。人々が被曝して集めた核のゴミは、東電に返すべきだ。返すべき先は本来第一原発だが、放射能の泥沼で7,000人が闘っていて難しい。
福島第二原発も、広大な敷地がある。東電は壊れた4基を再稼働するなどと言っているが、すべて廃炉にしてゴミ捨て場にすべきだ。足りなければ、本社ビルでも柏崎刈羽原発の敷地でもいい。
住民に中間貯蔵を引き受けさせるなど、あってはならない。責任は、あくまで東電だ。福島の事故で電力会社が国から得たメッセージは、どんな失敗をし、住民にどんな苦難を与えても誰一人責任を取らなくていい、ということだった。だから、関西電力も九州電力も再稼働できる。「もんじゅ」も1兆円以上をドブに捨てた責任を誰も取らない。
□語り手:小出裕章/聞き手・まとめ:粟野仁雄「住民に中間貯蔵を引き受けさせてはいけない」(「週刊金曜日」2015年3月6日号)
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