(1)2月20日、次の法案が国会に提出された。
(a)「株式会社日本政策投資銀行法改正案」
(b)「株式会社商工組合中央金庫法等の改正案」
これらは、今国会における財務省と経済産業省の最重要案件である。天下りのために。
(a)は財務省の、(b)は経産省の政策金融機関に関する法案だ。建て前上は、民間の金融機関ができないことをやることになっているが、実際には業務が民間と重複する。
また、国の丸抱えなので、本来は市場で淘汰されるべき企業にまで融資できる。
その結果、税金投入が常態化するなど、日本の経済構造改革を阻害してきた。おまけに、官僚や族議員の利権の温床でもある。
(2)批判に答えて小泉政権は、(1)-(a)と(b)の両行の政府保有株式を全て売却し、完全民有化することにした。
しかし、完全民有化しても、
(a)いざというとき、その都度政府が利子補給したり、緊急出費したりする仕組みさえ整えておけば、官僚と族議員にとって何の問題もない。
(b)加えて、官僚と族議員たちは、リーマンショック、さらには東日本大震災などを理由に、政府が (1)-(a)と(b)の両行に随時出資できるようにするとともに、当初は
「平成20年10月から5~7年後を目処」
とされていた株式の完全売却期限を
「平成27年4月から5~7年後を目処」
として7年も先送りすることに成功してしまった。
(3)(1)-(a)と(b)の両行とも、両省にとって最重要天下り機関だ。
改革のあおりを受けて、トップの天下りポストを他の政府系金融機関とともに一時民間人に明け渡してしまったが、その後官僚に甘い安倍政権は、
・商工中金社長 ←杉山秀二・元経産次官
・日本政策金融公庫総裁 ←細川輿一・元財務次官
・国際協力銀行総裁 ←渡辺博史・元財務官
を就任させた。残る政投銀も時間の問題、とされる。
(4)官僚から見ると、(3)でもまだ不安だ。なぜなら、現行法のままだと、遅くとも(1)-(a)と(b)の両行は平成34年には完全民営化されてしまうからだ。
そこで、(1)-(a)と(b)の法案には、政府に対して「当分の間」株式を「保有する」義務を課すと書いた。この結果、完全民有化の時期は混沌としてきた。
一方、この法案には、株式保有の必要がなくなったら「速やかに」売却する、とも書いてある。「速やかに」だから、かえって売却の時期が早まるかもしれない、などという両省の言い訳を安倍政権は目をつぶって了承した。
むろん、政府が「必要だ」と言い続けるかぎり、無期限に民営化を先送りできる。何の意味もない文言だ。
(5)財務・経産の両省の事務次官にとって、天下り確保は最優先課題だ。
経産省では、電力自由化法案よりも(1)-(b)の法案のほうが優先度が高い。
これほどまで官僚の思い通りの法案が出せるとは、両省は最初は考えていなかったかもしれない。しかし、経産省と財務省の幹部が鉄壁の協力態勢を敷けば、安倍政権も全く太刀打ちできなかった。
しかも、現在の国会では与党が衆参で過半数を占めるから、法案は通ったのも同然。官僚側の完全勝利だ。
(6)安倍総理は、今国会を「革新断行国会」と名づけ、施政方針演説で、吉田松陰の「知と行は二つにして一つ」という言葉を引用し、「求められていることは」・・・・改革の断行だった、と謳いあげた。
しかし、今回の民営化先送りは、改革とは正反対の動きだ。引用された吉田松陰も、さぞ迷惑なことだろう。
安倍総理は、今国会を次のように改名すべきだ。
「改革断行国会」 → 「改革逆行国会」
□古賀茂明「改革逆行国会 ~官々愕々第147回~」(「週刊現代」2015年3月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~」
「【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~」
「【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~」
「【古賀茂明】報道自粛に抗する声明」
「【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き」
「【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~」
「【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局」
「【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている」
「【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~」
「【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す」
「【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~」
「【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~」
「【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~」
「【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走」
「【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案」
「【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で」
「【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権」
「【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り」
「【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~」
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」
(a)「株式会社日本政策投資銀行法改正案」
(b)「株式会社商工組合中央金庫法等の改正案」
これらは、今国会における財務省と経済産業省の最重要案件である。天下りのために。
(a)は財務省の、(b)は経産省の政策金融機関に関する法案だ。建て前上は、民間の金融機関ができないことをやることになっているが、実際には業務が民間と重複する。
また、国の丸抱えなので、本来は市場で淘汰されるべき企業にまで融資できる。
その結果、税金投入が常態化するなど、日本の経済構造改革を阻害してきた。おまけに、官僚や族議員の利権の温床でもある。
(2)批判に答えて小泉政権は、(1)-(a)と(b)の両行の政府保有株式を全て売却し、完全民有化することにした。
しかし、完全民有化しても、
(a)いざというとき、その都度政府が利子補給したり、緊急出費したりする仕組みさえ整えておけば、官僚と族議員にとって何の問題もない。
(b)加えて、官僚と族議員たちは、リーマンショック、さらには東日本大震災などを理由に、政府が (1)-(a)と(b)の両行に随時出資できるようにするとともに、当初は
「平成20年10月から5~7年後を目処」
とされていた株式の完全売却期限を
「平成27年4月から5~7年後を目処」
として7年も先送りすることに成功してしまった。
(3)(1)-(a)と(b)の両行とも、両省にとって最重要天下り機関だ。
改革のあおりを受けて、トップの天下りポストを他の政府系金融機関とともに一時民間人に明け渡してしまったが、その後官僚に甘い安倍政権は、
・商工中金社長 ←杉山秀二・元経産次官
・日本政策金融公庫総裁 ←細川輿一・元財務次官
・国際協力銀行総裁 ←渡辺博史・元財務官
を就任させた。残る政投銀も時間の問題、とされる。
(4)官僚から見ると、(3)でもまだ不安だ。なぜなら、現行法のままだと、遅くとも(1)-(a)と(b)の両行は平成34年には完全民営化されてしまうからだ。
そこで、(1)-(a)と(b)の法案には、政府に対して「当分の間」株式を「保有する」義務を課すと書いた。この結果、完全民有化の時期は混沌としてきた。
一方、この法案には、株式保有の必要がなくなったら「速やかに」売却する、とも書いてある。「速やかに」だから、かえって売却の時期が早まるかもしれない、などという両省の言い訳を安倍政権は目をつぶって了承した。
むろん、政府が「必要だ」と言い続けるかぎり、無期限に民営化を先送りできる。何の意味もない文言だ。
(5)財務・経産の両省の事務次官にとって、天下り確保は最優先課題だ。
経産省では、電力自由化法案よりも(1)-(b)の法案のほうが優先度が高い。
これほどまで官僚の思い通りの法案が出せるとは、両省は最初は考えていなかったかもしれない。しかし、経産省と財務省の幹部が鉄壁の協力態勢を敷けば、安倍政権も全く太刀打ちできなかった。
しかも、現在の国会では与党が衆参で過半数を占めるから、法案は通ったのも同然。官僚側の完全勝利だ。
(6)安倍総理は、今国会を「革新断行国会」と名づけ、施政方針演説で、吉田松陰の「知と行は二つにして一つ」という言葉を引用し、「求められていることは」・・・・改革の断行だった、と謳いあげた。
しかし、今回の民営化先送りは、改革とは正反対の動きだ。引用された吉田松陰も、さぞ迷惑なことだろう。
安倍総理は、今国会を次のように改名すべきだ。
「改革断行国会」 → 「改革逆行国会」
□古賀茂明「改革逆行国会 ~官々愕々第147回~」(「週刊現代」2015年3月28日号)
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【参考】
「【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~」
「【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~」
「【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~」
「【古賀茂明】報道自粛に抗する声明」
「【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き」
「【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~」
「【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局」
「【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている」
「【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~」
「【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す」
「【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~」
「【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~」
「【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~」
「【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走」
「【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案」
「【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で」
「【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権」
「【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り」
「【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~」
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
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「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
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「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」