(1)米軍普天間飛行場の移設を伴う新基地建設問題をめぐって、日本が暗黒時代に遡ったような異常事態が続いている。
日米安保が日本の平和憲法を凌駕する。
この言葉は、沖縄の米軍基地問題について言われ続けてきた。その正しさが、このたび、あからさまな人権侵害を伴う形で証明された。
米軍は、ウチナーンチュの人権、表現の自由、集会・結社の自由、言論の自由を踏みにじっている。その米軍によって、暴力的な拘束が行われた。
米軍は刑事特別法【注】を乱用し、新基地に反対する市民を拘束した。
基地に抗う沖縄県民を敵視し、実力を行使してでも弾圧する・・・・と宣言したに等しい。歴史的な出来事だ。在沖米軍が掲げてきた「良き隣人」政策の完全な崩壊を示す。
米軍の強権行使に異議をとなえず、理不尽極まる逮捕を追認した安倍晋三政権は、米軍の愚行の共犯だ。
(2)事件は次のように始まった。
2月22日朝、名護市辺野古の新基地建設に向けた海上工事が進むキャンプ・シュワブの門前では、早朝から新基地建設への抗議行動を続ける市民と県警などの小競り合いが続いていた。
そんな中、市民による抗議行動を指揮していた山城博治・沖縄平和運動センター議長(62)は、休憩を呼びかけた。
だが、一部市民と県警がもみ合った。混乱を避けるため、山城議長が、基地との境界線から下がるように市民を制止した。
そこへ、米軍の警備員が背後から襲いかかった。仰向けになった山城議長の両足を3人がかりで掴み、基地内に引きずり込んだ。山城議長を取り戻そうとした男性も拘束された(その瞬間を地元2紙の記者が撮影した)。
すぐさま憲兵隊が、後ろ手錠をかけた。山城議長らは、後ろ手錠のまま路上に放り出された。犯罪者に対する扱いですら、これほど乱暴ではあるまい。
幅広い年代層が押し寄せる新基地建設への反対運動の根強さに業を煮やした国防総省や在沖海兵隊の幹部の支持の下、リーダー(山城議長)を狙い撃ちにしたことは火を見るより明らかだ。
米軍は4時間も拘束した後、沖縄県警名護署に引き渡した。
名護署は、刑特法に違反し、無断で基地に侵入した容疑で山城議長ほか1名を逮捕したが、翌23日夜、那覇地検は勾留請求を断念し、2人は釈放された。強奪のような身柄拘束を踏まえると、公判維持は困難なのであった。
(3)22日は、午後から、辺野古埋め立てに向けた海上工事の強行や、海上保安官による女性への馬乗りなどの過剰警備に抗議する集会が開催される予定だった。冬の観光最盛期でバスの確保がままならない中、県下全域から2,800人が集まった。
その抗議集会に主役の一人(山城議長)の姿はなかった。不当逮捕糾弾が集会の柱になった。
(4)米軍は刑特法を意のままに拡大解釈し、かつてない強権的な身柄拘束に踏み切った。
日米安保体制に付随する刑特法が憲法より上位に立ち、国民の基本的人権が侵される構図が鮮明に照らし出された。
1957年(米施政下)、伊江島で、強制接収された射爆場内に入ったとして住民5人が逮捕された。米兵が境界線を示す木製看板を5人の後ろにそっと置き、無断侵入を仕立てた。58年前の不当逮捕劇は、植民地意識丸出しという点で、このたびの「山城議長逮捕」と地続きだ。
(5)米軍優位の刑特法の構造はいびつだ。「排他的な基地管理権」に基づき、米軍側が基地内で身柄を拘束して日本の警察に引き渡す仕組みだ。その妥当性は問われず、警察は手続き上、身柄を渡されれば逮捕せざるを得ない。
刑特法上の逮捕手続きは、緊急逮捕となる。
刑事訴訟法上の緊急逮捕は、一定の重い罪でやむを得ない場合に限り、令状発布を受けずに実行できる。長期懲役、禁固3年以上の罪に限定されている。これに対して、刑特法の基地内への侵入罪が科す懲役は1年以下だ。本来なら、刑特法は緊急逮捕ができないが、厳密な定めもない形で米軍が狙いを定めた者を拘束できる仕組みだ。
日本の罪刑法定主義はないがしろにされ、露骨な二重基準が放置されている。
民主主義を尊ぶ国とその軍隊が、反対運動をする住民を弾圧する。米本国ではあり得まい。在沖米軍は自ら「悪しき隣人」に成り下がった。
【注】刑特法:米軍の法的地位などを定めた日米地位協定に付随し、基地への侵入などを摘発する。米軍の権利を特別に保護する。
□松本剛(琉球新報)「安保が憲法を凌駕する 辺野古の不当逮捕が意味するもの ~リレーコラム沖縄(シマ)という窓~」(「世界」2015年4月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~」
日米安保が日本の平和憲法を凌駕する。
この言葉は、沖縄の米軍基地問題について言われ続けてきた。その正しさが、このたび、あからさまな人権侵害を伴う形で証明された。
米軍は、ウチナーンチュの人権、表現の自由、集会・結社の自由、言論の自由を踏みにじっている。その米軍によって、暴力的な拘束が行われた。
米軍は刑事特別法【注】を乱用し、新基地に反対する市民を拘束した。
基地に抗う沖縄県民を敵視し、実力を行使してでも弾圧する・・・・と宣言したに等しい。歴史的な出来事だ。在沖米軍が掲げてきた「良き隣人」政策の完全な崩壊を示す。
米軍の強権行使に異議をとなえず、理不尽極まる逮捕を追認した安倍晋三政権は、米軍の愚行の共犯だ。
(2)事件は次のように始まった。
2月22日朝、名護市辺野古の新基地建設に向けた海上工事が進むキャンプ・シュワブの門前では、早朝から新基地建設への抗議行動を続ける市民と県警などの小競り合いが続いていた。
そんな中、市民による抗議行動を指揮していた山城博治・沖縄平和運動センター議長(62)は、休憩を呼びかけた。
だが、一部市民と県警がもみ合った。混乱を避けるため、山城議長が、基地との境界線から下がるように市民を制止した。
そこへ、米軍の警備員が背後から襲いかかった。仰向けになった山城議長の両足を3人がかりで掴み、基地内に引きずり込んだ。山城議長を取り戻そうとした男性も拘束された(その瞬間を地元2紙の記者が撮影した)。
すぐさま憲兵隊が、後ろ手錠をかけた。山城議長らは、後ろ手錠のまま路上に放り出された。犯罪者に対する扱いですら、これほど乱暴ではあるまい。
幅広い年代層が押し寄せる新基地建設への反対運動の根強さに業を煮やした国防総省や在沖海兵隊の幹部の支持の下、リーダー(山城議長)を狙い撃ちにしたことは火を見るより明らかだ。
米軍は4時間も拘束した後、沖縄県警名護署に引き渡した。
名護署は、刑特法に違反し、無断で基地に侵入した容疑で山城議長ほか1名を逮捕したが、翌23日夜、那覇地検は勾留請求を断念し、2人は釈放された。強奪のような身柄拘束を踏まえると、公判維持は困難なのであった。
(3)22日は、午後から、辺野古埋め立てに向けた海上工事の強行や、海上保安官による女性への馬乗りなどの過剰警備に抗議する集会が開催される予定だった。冬の観光最盛期でバスの確保がままならない中、県下全域から2,800人が集まった。
その抗議集会に主役の一人(山城議長)の姿はなかった。不当逮捕糾弾が集会の柱になった。
(4)米軍は刑特法を意のままに拡大解釈し、かつてない強権的な身柄拘束に踏み切った。
日米安保体制に付随する刑特法が憲法より上位に立ち、国民の基本的人権が侵される構図が鮮明に照らし出された。
1957年(米施政下)、伊江島で、強制接収された射爆場内に入ったとして住民5人が逮捕された。米兵が境界線を示す木製看板を5人の後ろにそっと置き、無断侵入を仕立てた。58年前の不当逮捕劇は、植民地意識丸出しという点で、このたびの「山城議長逮捕」と地続きだ。
(5)米軍優位の刑特法の構造はいびつだ。「排他的な基地管理権」に基づき、米軍側が基地内で身柄を拘束して日本の警察に引き渡す仕組みだ。その妥当性は問われず、警察は手続き上、身柄を渡されれば逮捕せざるを得ない。
刑特法上の逮捕手続きは、緊急逮捕となる。
刑事訴訟法上の緊急逮捕は、一定の重い罪でやむを得ない場合に限り、令状発布を受けずに実行できる。長期懲役、禁固3年以上の罪に限定されている。これに対して、刑特法の基地内への侵入罪が科す懲役は1年以下だ。本来なら、刑特法は緊急逮捕ができないが、厳密な定めもない形で米軍が狙いを定めた者を拘束できる仕組みだ。
日本の罪刑法定主義はないがしろにされ、露骨な二重基準が放置されている。
民主主義を尊ぶ国とその軍隊が、反対運動をする住民を弾圧する。米本国ではあり得まい。在沖米軍は自ら「悪しき隣人」に成り下がった。
【注】刑特法:米軍の法的地位などを定めた日米地位協定に付随し、基地への侵入などを摘発する。米軍の権利を特別に保護する。
□松本剛(琉球新報)「安保が憲法を凌駕する 辺野古の不当逮捕が意味するもの ~リレーコラム沖縄(シマ)という窓~」(「世界」2015年4月号)
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【参考】
「【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~」