(1)安倍政権は「国家戦略特区」に力を入れる。「国家戦略特区」諮問会議は、3月3日、今国会に提出する国家戦略特区法改正案に盛り込む規制緩和追加策の中に、「特区内での外国人医師受け入れ拡大」方針を固めた。
日本の医師免許を持たない外国人医師による診療は、現在、「臨床修練制度」によって、厚生労働大臣が指定する病院で指導医の監督の下、研修としてのみ認められる。
外国人医師受け入れの政府が強調する理由は「日本の医師不足解消」だ。しかし、本音は医療ツーリズムの促進だろう。
外国人医師による診療については、現在継続中のTPP交渉テーブルに出されている。医師免許のクロスライセンスにつながってくる。
TPPでは、モノやサービスだけでなく、人の移動も自由化されるのだ。
(2)TPPだけではない。今年経済統合するASEANでも、医師免許の共通化が予定されている。そのうえ、日本、インド、中国、オーストラリアなどを含む16か国で交渉中の「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」では、医療全般の大幅な規制緩和が検討されている。
だが、クロスライセンスが解禁されて、医師たちが報酬や待遇のよさを求めて国境を越え始めたらマイナスの影響も出てくる。
<例1>南アフリカ・・・・医師や看護師がどんどん待遇のよい国へ流出してしまい、国内の医師不足が深刻なレベルになっている。
<例2>スイス・・・・医師や看護師不足をポーランドからの移民で解決しようとした結果、当のポーランドで医療従事者が足りなくなった。
<例1><例2>のように、医療関係の人材を外国にとられてしまった国では、その分、しわ寄せが残った医師たちに過剰な負担となってのしかかり、国民が十分な医療を受けられなくなっている。本来、医師のような高度人材はその国の財産なのだ。その財産をとりあげる、ということは、相手国に大きな損失を与えることになる。
(3)政府が掲げる「医師不足の解消」という大義も疑問だ。
現在、日本の医師たちは、絶対数が足りない中で診療報酬を抑えられ、長時間労働という過酷な環境の中にいる。そんな条件の国に、他国から質の高い医師が集まるだろうか。
(4)(3)の問題を解消する方法が一つある。これが、おそらく今回の外国人医師受け入れ拡大の狙いだろう。大きなビジネスチャンスをもたらすからだ。
外国人医師を受け入れる際、公的医療保険の診療報酬では高額な給与を払えない。そこで、病院は高額な給油を
捻出するために、公的保険がカバーしない高額の自由診療を増やしていく。
その結果、公的医療保険でカバーされる診療は、病院のメニューの中から減っていき、自由診療が中心になってくる。
外国人医師たちが高級取りになれば、日本人医師たちも同等の給与を要求するようになるだろう。
病院は、さらに自由診療のメニューを増やしていくことになるだろう。
公的医療保険が使える診療が減り、公的医療保険だけでは医療を受けられなくなった日本人は、民間医療保険にも加入せざるをえなくなる。
かくして、外資系医療保険会社の悲願、日本市場への大幅な参入が実現する。
この体制が整備されたところで、TPPが締結されれば、ラチェット条項により、広げられた規制緩和は永久に固定化される。
(5)国家戦略特区による経済成長とは、いったい誰のためのものなのか。
東日本大震災から4年目。被災地では深刻な医師不足が起きている。
安倍政権は、被災者から、今以上に医療従事者を奪うのか。
□堤未果実「戦略特区で進む外国人医師受け入れで健康保険が崩壊する ~ジャーナリストの目 第244回~」(「週刊現代」2015年3月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓
日本の医師免許を持たない外国人医師による診療は、現在、「臨床修練制度」によって、厚生労働大臣が指定する病院で指導医の監督の下、研修としてのみ認められる。
外国人医師受け入れの政府が強調する理由は「日本の医師不足解消」だ。しかし、本音は医療ツーリズムの促進だろう。
外国人医師による診療については、現在継続中のTPP交渉テーブルに出されている。医師免許のクロスライセンスにつながってくる。
TPPでは、モノやサービスだけでなく、人の移動も自由化されるのだ。
(2)TPPだけではない。今年経済統合するASEANでも、医師免許の共通化が予定されている。そのうえ、日本、インド、中国、オーストラリアなどを含む16か国で交渉中の「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」では、医療全般の大幅な規制緩和が検討されている。
だが、クロスライセンスが解禁されて、医師たちが報酬や待遇のよさを求めて国境を越え始めたらマイナスの影響も出てくる。
<例1>南アフリカ・・・・医師や看護師がどんどん待遇のよい国へ流出してしまい、国内の医師不足が深刻なレベルになっている。
<例2>スイス・・・・医師や看護師不足をポーランドからの移民で解決しようとした結果、当のポーランドで医療従事者が足りなくなった。
<例1><例2>のように、医療関係の人材を外国にとられてしまった国では、その分、しわ寄せが残った医師たちに過剰な負担となってのしかかり、国民が十分な医療を受けられなくなっている。本来、医師のような高度人材はその国の財産なのだ。その財産をとりあげる、ということは、相手国に大きな損失を与えることになる。
(3)政府が掲げる「医師不足の解消」という大義も疑問だ。
現在、日本の医師たちは、絶対数が足りない中で診療報酬を抑えられ、長時間労働という過酷な環境の中にいる。そんな条件の国に、他国から質の高い医師が集まるだろうか。
(4)(3)の問題を解消する方法が一つある。これが、おそらく今回の外国人医師受け入れ拡大の狙いだろう。大きなビジネスチャンスをもたらすからだ。
外国人医師を受け入れる際、公的医療保険の診療報酬では高額な給与を払えない。そこで、病院は高額な給油を
捻出するために、公的保険がカバーしない高額の自由診療を増やしていく。
その結果、公的医療保険でカバーされる診療は、病院のメニューの中から減っていき、自由診療が中心になってくる。
外国人医師たちが高級取りになれば、日本人医師たちも同等の給与を要求するようになるだろう。
病院は、さらに自由診療のメニューを増やしていくことになるだろう。
公的医療保険が使える診療が減り、公的医療保険だけでは医療を受けられなくなった日本人は、民間医療保険にも加入せざるをえなくなる。
かくして、外資系医療保険会社の悲願、日本市場への大幅な参入が実現する。
この体制が整備されたところで、TPPが締結されれば、ラチェット条項により、広げられた規制緩和は永久に固定化される。
(5)国家戦略特区による経済成長とは、いったい誰のためのものなのか。
東日本大震災から4年目。被災地では深刻な医師不足が起きている。
安倍政権は、被災者から、今以上に医療従事者を奪うのか。
□堤未果実「戦略特区で進む外国人医師受け入れで健康保険が崩壊する ~ジャーナリストの目 第244回~」(「週刊現代」2015年3月28日号)
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