語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中東】日本人が目で見た「イスラム国」の実態

2015年03月27日 | 社会
 (1)常岡浩介・ジャーナリストは、これまで3回「イスラム国」の領域に入った。報道では、「インターネットを駆使し、洗練された広報戦略を持ち、統治システムと軍事力を擁する最強の過激組織」であるが、「イスラム国」の実態はそんなものではなかった。
  (a)2014年9月、クワイリス空軍基地(シリア北部アレッポ県)の攻撃は、基地のある方向に向けて迫撃砲を2発発射しただけで、反撃を避けるため全速力で退散・・・・といった状況であった。戦略に基づく指揮命令系統の中で行われる作戦・・・・という雰囲気ではなく、現地の判断で勝手に行動していた印象であった。ただし、バクダディとその周辺の参謀たちが指揮する系統だった作戦もある、という話もある(未確認)。
  (b)「イスラム国」がイラク第二の都市モスルを短時日のうちに陥落させたこと、急速に勢力を拡大させたことから、精強な軍隊を擁しているというイメージができたのかもしれない。しかし、<例>クルド人との激戦が続いたコバニ(アイン・アル=アラブ)ではクルド側の兵力は4割が女性で、高齢の女性まで前線に出ていた状態だったが、戦闘では「イスラム国」が劣勢で、最終的に撃退された。戦死傷者の比率は、クルド側より「イスラム国」側のほうが数倍の差で悪かった。いくら空爆などの支援があったとはいえ、「イスラム国」は女性と老人の部隊に勝てなかった。「イスラム国」側は、人海戦術で突撃しては撃退されることの繰り返しであった。戦術を考えているのか不明という点で、(a)と共通する。実際の戦闘で「イスラム国」側が勝利した実例は少ないであろう。
  (c)「イスラム国」側の首都としているラッカは、ゴミだらけだ(市民サービス停止が推定される)。電気はあるが、中心部の商店街は9割の店がシャッターを下ろしている(市民は脱出)。「イスラム国」の宣伝映像では民衆が活気づいた生活をしていて、「イスラム国」統治下で幸せに暮らしている様子を映し出していたが、宣伝と実態とではかなり違う。
  (d)「イスラム国」の支配領域ではローカルプロバイダーは全面的に禁止されている。携帯電話も通信会社が営業を禁止されているので、一般市民は電話で知人と話すこともできず、ネットでメールを送ることもできない。ラッカでは、数カ所、衛星によるネットシステムが生き延びているだけだ(「愚かな政策」)。上層部はネットや電話をスパイが利用するということを理由にしている。しかし、通信の数が激減したことで、かえって「イスラム国」の中枢による通信が特定されやすくなる。・・・・人海戦術をしてはいけない(a)のようなところで人海戦術を行い、人海戦術をすべきところでそれをしない。ただし、ユーチューブなので流れる洗練された宣伝ビデオは専門部隊で作っている。

 (2)常岡ジャーナリストが見た内部の統治状況はどうか。
 「イスラム国」の統治は、完全にサダム・フセインの模倣だ。
 本来のカリフ制は、コーランの内容に基づいて税金が安く、福祉は自主的な助け合いに、軍事は義勇兵の志願によるので、むしろ政府からの強制や関与の少ない自由なものだ。
 ところが、実際の「イスラム国」の支配地域は、
   ・極端な密告社会であり、
   ・言論は完全に統制され、
   ・反体制派は次々に処刑されている。
   ・上意下達で、
   ・下からのボトムアップの回路がない官僚社会で、これもフセイン時代と同じだ。  
 軍事行動麺でも、表向きは「聖戦」と言っているが、実際にやっていることはクルド人や反対派の虐殺だ。化学兵器を使い始めた、という情報もあり、事実であれば、これもサダム・フセインと似ている。
 「イスラム国」の事実上の支配者は、フセイン政権のバース党の残党だ。バクダディは飾りでしかない。彼は一度だけ説教している姿がインターネットで流れたが、その内容は当たり障りのないものだった。

□春名幹男×常岡浩介「イスラム国--問われる日本の中東政策」(「世界」2015年4月号)
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 【参考】
【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~
【安保】「人質救出作戦」は「バカ派」の妄想 ~米軍ですら失敗~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(2)~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(1)~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【中東】安倍政権の「大失態」 ~「イスラム国」日本人人質事件~
【中東】【本】『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』
【中東】に敵をつくった安倍政権 ~二つの愚策~
【中東】なぜ「イスラム国」がはびこったのか
【中東】崩壊の抑止というシンポ ~「イスラム国」どこから来たか~
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
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【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
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【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
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