語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【格差】と移民問題 ~メルケル・ドイツ首相の講演における質疑応答~

2015年03月12日 | 社会
(前略)
 --社会格差の問題が、移民と結びつき、欧州での一連のテロ事件の背景になっています。ドイツにはトルコをはじめ古くからの移民に加え、今では東欧などの移民が増えています。移民の増加は、国内の経済格差、教育格差につながり、社会的弱者を生み出しています。ひいては若者のテロ参加、移民排斥運動に大きな影響があります。経済や教育の格差が過激派につながる懸念が広がる中で、ドイツ政府はどういう対策をとる方針でしょうか。

 「確かに、ドイツはここ数年間、あるいは数十年間、今からいえば移民に対してより開かれている社会になってきました。そういう姿勢を学んだといってもいいと思います」

 「ドイツでよく忘れがちなこととしては、第2次世界大戦後に、以前はドイツ領だった東ヨーロッパの故郷を追われてきたドイツ人の存在があります。1200万人以上にものぼる人たちで、破壊しつくされた当時のドイツにとって、その受け入れは大変な問題でした。しかし、この人たちは、政治的に極端な傾向を持つこともなく、飢えと貧しさの中で社会的に統合され、ドイツの復興に尽くしてくれました」

 「また1960年代初めになり、ドイツの奇跡の経済成長で労働者が不足するようになりました。このため、『ガストアルバイター』と呼ばれる一時的な安い労働力を外国から招きました。イタリアやスペイン、もっと安価なトルコから労働力を受け入れることになり、トルコの中でも最も貧しい地域から人々は来ました。今では300万人のトルコ系移民社会があり、3世、4世の世代になっています。その中で、非常に高い教育を受けた人もいて、トルコに行って仕事をしている人もいます」

 「一方で、移民社会の構造的問題としては、平均的な教育水準が低く、学校の成績もどうしても上がらないということがあります。最初にドイツに来た世代の平均的な教育水準があまり高くなかったということもあります。このため、私たちはその社会的統合に尽力しました。まずドイツ語を学んでもらい、統合に努めました。また、ドイツには、かなり多くのイスラム教徒のマイノリティーもいるし、いろいろな宗教の存在が新たな課題をもたらしています」

 「同時に28カ国が加盟する欧州連合(EU)の場合はどこで働いても、どこで生活してもいいという移動の自由があります。現在は、EU域内の東欧、南欧、たとえばスペインの人々がドイツに来て仕事をするようになっています。このような人々は社会統合という意味では大きな問題にはならない人々です」

 「大きな課題は、北アフリカやシリア、イラク、アフガニスタンなどからの難民です。一部には、バルカン諸国からも来ています。昨年は20万人の難民申請があり、今年はさらに多くなるかもしれません。これが私たちの直面している一番大きな課題と言えるでしょう。ただし、ドイツ人の間では、これまでになかったような移民受け入れに肯定的な姿勢も出てきています。ドイツの労働市場は非常にいい状態で、この何十年と比べて失業率が低いこととも関連しているでしょう」
(後略)

□記事「メルケル独首相講演の質疑応答:2 脱原発の決定」(朝日新聞デジタル 2015年3月10日)
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【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~

2015年03月12日 | ●佐藤優
 (1)2月27日深夜、モスクワで、ボリス・ネムツォフ・元ロシア第一副首相(エリツィン政権)が殺された。
 <現場は、クレムリンの南に流れるモスクワ川にかかる橋の上。インタファクス通信などによると、知人と歩いているときに、近づいてきた白い車から銃撃を受けたという。捜査当局者によると、背後から少なくとも6発の発砲があり、4発が命中した。
 プーチン大統領は、ペスコフ報道官を通じて直ちに犯行を非難する声明を発表。殺害が何者かの指示による暗殺との見方を示した。連邦捜査委員会、内務省、連邦保安局に捜査チームを組織するよう命じ、大統領自身の指揮下に置く考えだという。現場にはコロコリツェフ内相が駆けつけた。政権が、今回の事態に大きな危機感を抱いていることがうかがえる。
 ネムツォフ氏は、改革派の若手政治家としてエリツィン元大統領に重用され、ニジェゴロド州知事や第1副首相を歴任。一時は後継大統領候補と目されていた。プーチン政権を厳しく批判し、ロシアによるウクライナのクリミア半島併合を「侵略」、ウクライナ東部の紛争を「ロシアのウクライナに対する戦争」として批判。ここ数日は、3月1日にモスクワで開く反政権デモへの参加をブログやツイッターで繰り返し呼びかけていた。>【注1】

 (2)3月1日に予定されていた集会は、ネムツォフの追悼集会に切り替えられ、7万人が集まり、プーチン政権批判の声を上げた。
 欧米や日本の報道だと、ネムツォフが自由と民主主義を代表する政治家で、プーチンがネムツォフ暗殺を支持したかのようだ・
 <ロイター通信によると、ウクライナのポロシェンコ大統領は28日、地元テレビで、ネムツォフ氏から数週間前、ロシア軍がウクライナ東部に介入していることを示す「説得力ある証拠を暴露する」と伝えられたと明らかにし、「暴露を恐れた者が殺した」と語った。
 ウクライナ情勢を巡る批判の「口封じ」を狙った犯行との見方を示したものだ。ロシアの野党勢力は政権と対立する有力者を抹殺した「政治的な殺人」と主張している。>【注2】
 
 (3)(2)は間違った見方だ。
 ネムツォフは、自己の権力基盤を強化するために謀略工作を行い、平気で嘘をつく人物だ。暗殺されても、ちっとも意外ではない。
 ネムツォフが、
 <エリツィン氏は1997年11月1日の(ロシア・クラスノヤルスク地方)エニセイ川での船上の首脳会談で、橋本(龍太郎)氏に「平和条約を締結し、われわれが領土問題をきょう解決すべきだ」と提案した。ロシア側で事前の調整はなく、大統領の独断という。提案に「四島」の言葉はなかったが、四島返還による即時決着と察知したネムツォフ氏らロシア側の同席者が大統領に翻意を懇願>【北海道新聞 2008年9月17日】
という証言をした。
 これは大嘘だ。この船上の首脳会談でエリツィンが四島を即時返還しようとした、などという事実はない。
 自分がエリツィンの売国的行為を止めた愛国者である、ということを強調するための、ネムツォフの作り話だ。
 こういう人は、一般的に言って、人の恨みを買いやすい。

 【注1】記事「ロシアの反政権指導者ネムツォフ氏、射殺される」(朝日新聞デジタル 2015年2月28日)
 【注2】記事「ネムツォフ氏暗殺は「露の紛争介入、暴露封じ」」(YOMIURI ONLINE 2015年03月02日)

□佐藤優「暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~佐藤優の人間観察 第104回~」(「週刊現代」2015年3月21日号)
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 【参考】
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
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「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
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