語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~

2017年10月03日 | 批評・思想
★アナスタシア・マークス・デ・サルセド(田沢恭子・訳)『戦争がつくっった現代の食卓』(白楊社 2,808円)

 (1)「ネイティック研究所」。それは米陸軍の「戦闘糧食」向けの技術開発や研究を担う機関である。
 実はしかし、米国の食品業界が推進すべき科学技術の方向性を定め、加工食品産業そのものを動かす中枢機関であった。その事実を、著者は詳細な調査で解き明かす。
 〈例〉インスタント食品、レトルト食品、栄養強化食品・・・・ここで研究された技術で作られた。
 〈例〉常温保存できるパンやシリアル、インスタントコーヒーから、バー状の栄養強化食品、成型肉類、凍結濃縮果汁類、ポテトチップスやスナック菓子、溶けにくいチョコバー・・・・軍で研究され、あるいはその資金や支援を受けて誕生したものばかりだ。

 (2)食品だけではない。驚くべし、電子レンジ、冷蔵庫、食器洗い機など現代の台所に欠かせない家電製品の技術も、ほとんどが軍に起源をもつ。
 〈例〉電子レンジ、冷蔵庫、食器洗い機。

 (3)戦闘糧食は、遠方の戦地への輸送性、過酷な条件下の保存性、調理性、高い栄養価や嗜好性などの難問を解決するために究極の進化を遂げてきた。
 多様な食文化を背景にもつ兵士たちに「食習慣の変更」を受容させるための研究には、かの文化人類学者マーガレット・ミードが指揮をとった、とされる。
 後のファストフード創業者たちはその結果から世界進出のヒントを得たのかも、と語られている。この点、見逃せない。

 (4)陸軍兵士用の食の技術開発は、図らずも一般生活者の食を先取りする形で拡大浸透し、今や米国のスーパーマーケットに並ぶ食品の過半を占める、という。
 そのクオリティの高さ、充実ぶり。手作り料理にこだわる者も目を見張る。

 (5)日本についての言及はない。
 しかし、戦後日本がパンや肉を食べる洋食化を進め、インスタント食品など加工食品化を推進した背景に米国の強い力があった事実は否めない。
 ネイティック研究所が開発した成果は、戦闘地のみならず世界中の食を「占領」する強力な武器でもあった。

□岩村暢子(日本能率協会総合研究所客員研究員)「「戦争がつくっった現代の食卓」 戦闘食が世界の食に」(日本海新聞 2017年9月24日)を引用
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 【参考】
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
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【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
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