語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【集団的自衛権】とイラク情勢

2014年07月16日 | 社会
 安倍首相の勢いが不気味だ。
 秘密保護法強行成立も凄まじかったが、その後の集団的自衛権解釈変更・武力行使容認を閣議決定で行おうとする画策に至っては、まるでヤンキーのノリ。
 どうひねくり回しても現行憲法9条の読み方からは武力行使容認が導き出せないとなると、日本人の母親が赤ちゃんを抱いて米軍の船に乗っているポンチ絵をテレビに映し出し、「この船が攻撃されても日本が武力で守ることができなくていいのか。総理には国民の安全と生命を守る責任がある」など、三文芝居のような見得を切ってみせる、
 与党を組む公明党をなだめるため、集団的自衛権のなかでは必要最小限度の武力のみ使用を可能にするという、玉虫色の「三要件」を示す一方、この武力行使は国連多国籍軍への参加など、集団安全保障での行動についても認めると、適用範囲は広がる一方だ。

 オバマ政権は、2012年から5か年かけて、年間国防予算を1,500億ドル(15兆円)以上圧縮する計画を実施中で、戦争の拡大はできないのが実情だ。
 しかし、現在のイラクの内乱には、また手を出さざるをえない。米国はかねてイラン(イスラムのシーア派大国)と敵対してきた。だが、国内多数派のシーア派を抑えてきたイラク大統領サダム・フセイン(スンニー派)を叩き潰し、同国のシーア派伸張のきっかけをつくったのは米国だからだ。
 米軍のイラク侵攻(2003年)当時、日本の中東研究者が懸念してきた事態が、現実の問題となった。シリアではアサド政権もスンニー派の反政府勢力に追いつめられており、イラクでも「シリア化」が危惧される。
 イラク派兵を否定してきたオバマ大統領もやむなく、100人規模の特殊部隊構成による軍事顧問団をイラク治安部隊に派遣する意向をほめのかしたが、6月19日の発表では、それが一気に300人に膨れあがった。
 その対応・様態は、ベトナム戦争初期とそっくりだ。
 1960年、アイゼンハワー政府が、小規模な軍事顧問団を南ベトナムに派遣したが、それが終わりなき泥沼介入の端緒だった。
 
 イラクも国土を接するペルシャ湾の出入り口、石油タンカーが往来するホルムズ海峡に機雷が敷設されたら、日本が大きな危機に陥る。だから、機雷除去の掃海作業を、米軍なり多国籍軍なりと一緒にやる、と日本政府は言い出した。
 確かにそうなると、集団的自衛権・集団安全保障、両領域での武力行使が必要になるだろう。機雷の敷設国が、これを取り除く国々は敵、掃海作業は戦闘行為と見なし、攻撃してくるからだ。武力対決は避けられまい(朝日新聞・6月21日朝刊)。
 かくて安倍首相は、武力行使の範囲を集団的自衛権から集団安全保障にまで広げる段取りを、米国政府の新しい対イラク軍事方針の歩調に合わせていく。

□神保太郎「メディア批評第80回」(「世界」2014年8月号)の「(1)戦後最大の曲がり角へ--国民とメディアの「共犯関係」」
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【韓国】権力に抵抗する公共放送 ~セウォル号報道圧力事件~

2014年07月15日 | 社会
 (1)「セウォル号」沈没事故から1か月余り経過した5月26日、韓国放送公社「KBS」(ソウル市)の本社ビル前は騒然としていた。青色をベースにしたのぼりに黄色の文字で、「社長は退任すべきだ」と書かれていた。
 ことの発端は、同月16日、KBS総会でキム・シゴン・前報道局長が次のように暴露したことにある。キムは、「(セウォル号の)犠牲者は年間の交通事故の死者と比べればそれほど多くない」などといった不規則発言を咎められて辞任に追い込まれていた。
 キムいわく、「大統領府の関係者から電話がたびたびあった。キル・ファンヨン社長も特定のニュースを省くよう指示をしていた。沈没事故報道でも『海洋警察の批判は自制する方がいい』という連絡があった」。
 やがて報道局の幹部や記者らに火がついた。報道本部の本部長ら幹部職員300人余りが社長の退任を求めて役職からの辞意を表明し、同月19日から事実上のストライキに入った。21時の看板報道番組の制作を拒否し、結果的に1時間の番組は20分に短縮されて放送される、という異常事態が続いた。

 (2)堀潤・「8bit News」主宰がKBS本社を訪れた同月26日は、KBSの2つの労働組合「全国言論労働組合KBS本部(新労組)」と「KBS労働組合(1労組)」の呼びかけで本格的なスト突入の是非を問う自主投票を3,700人の組合員を対象に実施している最中だった。
 クォン・オフン・「全国言論労働組合KBS本部」本部長はインタビューに答えて語った。
  (a)ストライキの理由・・・・KBSは受信料で運営される公営放送局だ。NHKと似ている。KBSの報道局長が、会見で社長の行為を告発した。大統領府からニュースに係る圧力がかかっていた、というもの。その過程でKBS社長が報道に干渉した、という情報があった。公共放送の本来の役割を取り戻すために、まず社長職から退いて、さらにパク・クネ大統領が謝罪しなければならない。
  (b)圧力の中身・・・・この1年5か月のあいだ、大統領を批判する報道は1件もなかった。最近の沈没事故の報道に関しても、大統領府から海洋警察隊への批判を自制するよう要請を受けて、社長が直接報道局に指示を出した。
  (c)屈した理由・・・・KBS社長は人事権を持っている。社長は自分で意見の提示だと言っているが、報道局長が受け取った証言では「指示」だった。実際、船の報道に関しては、社長から批判の報道を自制するように、という指示が5月5日にあった。批判報道を社長自身が事前に知った場合に、抹消したりした。
  (d)社長が政府の意向を尊重しなければならない理由・・・・KBS社長を大統領が任命する、という今の構造が根本の問題だ。KBS社長は大統領の顔色を常にうかがっている。実際の人事を決める過程でも影響を与えている。政府の意向は、社長が任命した報道局長や部長などに連鎖していくので、そうした連鎖を断ち切らなくてはならない。構造を変える必要がある。公共放送の基本的な使命である真実の報道、国民の知る権利の保障が重要だ。これらをどう守っていくか、ということがメディア人の役割だ。人々が信じられる放送メディアをつくる、という目標をもってこのストを進めている。
  (e)実際の参加と影響・・・・KBSの700人余の記者が、事実上のストライキに突入して7日間が経過した。1時間のニュースを20分に短縮している。通常の放送体制ではない。制作プロデューサーたちも制作拒否を準備している。制作部門も参加したら、多くの放送で支障が生じる。
  (f)権力に抗議する勇気・・・・KBSでは、1990年4月にもこうした、政権に対立して公共放送の独立性を求めるストがあった。放送民主化闘争だ。2000年にも長期にわたるストがあった。不利益、解雇、転職もあったが、KBSの構成員たちは使命を守るために恐れず闘ってきた。
  (g)国民に伝えたいこと・・・・KBSという公共放送は、国民の財産であって、権力の所有物ではない。「朴大統領が一番批判を受けているのは国民との意思疎通ができていないことです。言論を統制することで国民の知る権利を縮小させ、政府の代弁をさせることで結果として国民との対話ができていないのです。国民との意思疎通を緊密にしなくてはいけません。私たちの闘争ではなく、朴大統領の残りの在任期間で国民との意思疎通ができるようになるための闘争だと思っています」

 (3)6月5日、KBSの理事会で、理事11人(与党側推薦の理事7人と野党側推薦の理事4人)全員が出席し、キル社長に対する解任案を賛成7、反対4で議決。ストライキは解除された。
 同月9日、キル社長は、理事会の議決は無効だ、とする訴訟をソウル南部地方裁判所に起こした。
 同月10日、KBS社長の任命、解任の権限を持つパク・クネ大統領は、理事会が提出していた解任要求を承認した。

□堀潤(8bit News主宰/元NHKアナウンサー)「公共放送は誰のもの? セウォル号報道圧力事件の顛末 ストも辞さず、社長を退任させたKBS」(「週刊金曜日」2014年7月11日号)
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【政治】先の見通しを持たない新成長戦略 ~鎖国的政策~

2014年07月14日 | 社会
 6月24日、政府は以下を閣議決定した。
   「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)
   「日本再興戦略」(新成長戦略)
   「規制改革実施計画」
 これらの中心は、次の2つ。
   法人税実効税率引き下げ
   雇用制度改革【政治】
 以上に共通する問題は、生産性の高い新しい産業が登場するのでないかぎり、施策が成長に結びつくことはない、ということだ。

(1)法人税減税
 他の条件を一定にして法人税実効税率だけを引き下げても、内部留保を増やすだけだ。
   2012年 40.69%→38.01% 【2011年税制改正】
   2014年 38.01%→35.64% 【2014年復興特別制廃止】
 これによって国内の設備投資や海外からの投資が増えることはなかった。
 他方、企業の自己資本率は
   1970~80年代・・・・15%程度
   最近・・・・39%超
 なぜなら、投資行動に影響する最大の要素が、
   「どれだけの投資機会がどこにあるか」
であって、法人税の負担ではないからだ。
 仮に法人に対する公的負担が問題であるとしても、それは法人税ではなく、
   社会保険料雇用主負担
だ。両方を合わせた割合で見ると、日本は決して高すぎることはない。だから、法人税率が引き下げられても、経済活動に影響しなかった。
 減税で内部留保が増えるだけであれば、減税によって税収が減り、財政赤字が膨らむだけだ。
 このことは、長期的な観点からすれば、日本の成長に大きなマイナスの効果を与える。
   日本の政府債務の対GDP比率・・・・231.9%(2014年一般政府ベース)
 政府は、基礎財政収支を2020年度までに黒字化することを目指している。この路線を貫徹することこそ重要だ。

(2)雇用政策
 「日本再興戦略」(新成長戦略)における幾つかの提言は、
  (a)総論
    「行き過ぎた雇用維持型の政策から労働移動支援型の政策へと大胆な転換を行った」
  (b)個別的提案
    ①「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、新たな労働時間制度を創設する」(「ホワイトカラー・エグゼンプション」を念頭に置いた制度の提案で、注目を集めた)
    ②女性の活用(1)・・・・すでに公表されている保育園の増設に加え、「小1の壁」の打破を挙げた。
    ③女性の活用(2)・・・・女性の働く意欲の妨げになっているとして、配偶者控除を年末までに見直す、とした。
    ④外国人労働者の活用・・・・技能実習制度の拡充。
  (c)以上に対する評価
    ①日本の雇用慣行は、国際比較でも群を抜いて硬直的だ。これを柔軟なものに変えるという基本方針は良い。しかし、ここにも法人税と同様の問題がある。「引く」力の欠如だ。
    ②(a)・・・・新しいタイプの労働の供給を増やす政策だが、それに対する需要がないのだ。労働移動支援の政策に転換しても、問題は移動する先に労働需要があるかどうかだ。
    ③(b)・・・・同じ問題がある。ホワイトカラー・エグゼンプションは高度な専門職には適切な制度だろう。問題は、そうした職業が十分にあるかどうかだ。
    ④(b)・・・・女性労働の支援は大変重要だ。しかし、女性労働の環境を改善しても、企業が受け入れるかどうかが問題だ。高齢者についても、同様の問題がある。有効求人倍李の上昇が喧伝されているが、非正規が中心だ。正社員の求人倍率は0.67倍と低い水準のままだ。
    ⑤計画は、役職に就く女性の割合を2020年に30%にする、という数値目標を掲げた。賛成できない。女性の活用が企業を強くするから採用するのだ。採用自体が目的化するのは本末転倒だ。

(3)新しい産業    
 結局のところ、雇用改革は新しい産業が生まれなければ意味がない。では、新しい産業とは何か?
 再興戦略は、新たな成長エンジンは農業とヘルスケアサービスだ、としている。  
  (a)しかし、成長産業が介護であることこそが問題なのだ。介護サービスは必要だが、生産性は低い。だから、労働力がここへ移れば、所得は減る。これこそが、20年近く続いた経済停滞の大きな要因だ。
    雇用構造がこのように変化した。
    → 非正規雇用が増加した。
    → 給与水準が低下し続けた。
    → 消費減退と企業活動を低下させた。   
  (b)新しい農業は賛成だが、これで経済全体のパフォーマンスに影響があるような規模にはなるまい。
  (c)だから、生産性の高い新産業がどうしても必要だ。
  (d)新しい産業のためには人材が必要だ。このことは再興戦略も強調する。かつ、大学教育の改革を提案している。数値目標として、世界のトップ100校に10校が入ることとしている。しかし、必要なのはそうしたことではない。
    ①高度専門家の教育体制の方向付けが必要なのだ。
    ②現在の日本の体制は、20世紀型の産業構造を前提としたものになっている。先進国の産業の重要な基礎となっているファイナンス理論やコンピュータサイエンスがどうしようもなく遅れている。再興戦略は「世界最高水準のIT社会の実現」としているが、日本の現状はもはや世界の趨勢に追いつかないほど遅れている。
    ③大学の専門分野の構成を大きく変えるのは、大変重要な課題だが、極めて困難だ。かつ、実現に時間がかかる。
    ④仮に新しいタイプの高度専門人材が供給されたとしても、国内の産業がそうした人材を求めるかどうかが問題だ。<例>ファイナンス分野での高度専門家の場合、外資系企業は求めるが、国内の伝統的メガバンクは求めない。その主要業務である間接金融では、あまり専門的人材は必要とされないからだ。
    ⑤してみると、参入規制を緩和して、外資系企業を増やすほうが、ずっと効果がある。しかし、日本はこれまで外資の国内参入に拒否反応を示してきた。
    ⑥外国人労働者について、本当に必要なのは移民の大幅増大だが、再興戦略は技能実習制度という腰の引けた対応になっている。
    ⑦こうした鎖国的状態が続くかぎり、閉鎖状態は打破できない。人や資本に関して国を開くことこそ、最も重要な成長戦略だ。しかし、安倍政権の再興戦略はそれらを拒否している。

□野口悠紀雄「人と資本の開国に背を向ける再興戦略 ~「超」整理日記No.717~」(「週刊ダイヤモンド」2014年7月17日号)
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【食】サプリメントの機能性表示規制強化に向かう米国

2014年07月13日 | 社会
 (1)6月13日、消費者庁表示対策課(景品表示法を主管)が、ステラ漢方のダイエットサプリメント「カロリストン-PRO-」について、景表法違反の優良誤認にあたる、として措置命令を出した。
 これに伴い、同日、同課は消費者向けにプレスリリース「いわゆる健康食品の表示に関する消費者の皆様へのお知らせ」を発表。措置命令となった表示例と専門家の意見を示した。それによると、問題になるのは、
 <例>食事制限も運動もなしで“これだけで痩せる”という「著しい痩身効果」だ。健康食品への専門家の意見として、「食事制限も運動もせずに、楽をして痩せることはありません。
 
 (2)(1)の本来ありえない効果に対する取り締まりは、ある意味では簡単だ。
 問題は、科学的に実証されているのか、いないのか、判断が難しい場合だ。
 健康食品の機能表示で消費者庁が参考としている米国では、日本の公正取引委員会にあたる連邦取引委員会(FTC)で、こうした灰色の証拠での虚偽広告表示の取り締まりを強化する動きが出ている。
 6月9日の記者発表で、FTCは、ドコサヘキサエン酸(DHA)を有効成分とするサプリメント「Brain Strong Adult」の記憶力改善効果の表示広告について、科学的根拠不十分で虚偽広告にあたるという判断を下し、事業者も虚偽であることを受け入れることで合意した、と発表した。

 (3)DHAは、不飽和脂肪酸の一種で、魚油などに多く含まれており、健康増進効果があるとされ、エイコサペンタエン酸(EPA)と同様にサプリメントの人気成分だ。サプリメントとしては一番研究されているもので、血中コレステロール、中性脂肪、血圧の低下作用が証明されている。また、長期的な摂取で冠動脈疾患の予防効果があることも、大規模な臨床試験で証明されている。
 ただ、DHAに期待されている機能性のすべてが証明されているわけではない。米国のTVCMでは、頭にサングラスをかけたままであることを忘れて、サングラスを探しに部屋に入ってきた女性が、さらに何故部屋に入ってきたのかも忘れるという内容で、そうした健忘症への効果が臨床試験で証明されている、と宣伝している。
 FTCは、メーカーが主張するように確かに記憶力の一部のテストで結果が改善するという臨床試験の論文はあるものの、CMで紹介されているような日常生活での健忘症を軽減するような効果まであるとは言えない、と判断した。

 (4)このDHAのサプリメントは、日本でもサントリーの「DHA&EPA+セサミンEX」をはじめ、商品も多い。
 サントリーの宣伝でも「魚のサラサラ成分が、考える力をサポート」「ついうっかり」「計算間違えが増えた」など、脳の記憶力・集中力への効果を宣伝している。
 今後、機能性表示が認められるようになれば、人手の臨床試験データをもとに、もっとはっきり宣伝するようになるだろう。
 そうした表示が正しいかどうかは、消費者一人ひとりがチェックできるようになると消費者庁は言うのだが、一般消費者が論文を取り寄せて読み込んで判断するというのは、さすがに荷が重すぎるだろう。
 米国のFTCのような、消費者保護のために虚偽表示広告の取り締まり強化が必要だ。

□植田武智(ジャーナリスト)「サプリメントの機能性表示規制強化に向かうアメリカ はたして日本では?」(「週刊金曜日」2014年6月27日号)
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 【参考】
【食】遺伝子組み換え作物規制で住民が相次ぎ勝利 ~米国市民の底力~
【原発】【食】健康食品「青汁」の回収 ~放射能照射食品~
【食】来年から始まる弁当の健康認証マーク ~コンビニ弁当も健康?~
【食】消費者庁が健康食品の機能性表示案を提示
【食】遺伝子組み換え食品、農薬まみれ食品 ~TPPで規制撤廃(2)~
【食】米国産「危険食品」が大量流入 ~TPPで規制撤廃~
【食】アジア市場が狙われている ~GM稲の商業栽培~
【食】バングラデシュで遺伝子組み換えナスの栽培始まる ~GM食品の拡大~
【食】農薬類は微量・低濃度でも安全とはいえない
【中国】現地取材で痛感 やっぱり危ない中国産食品
【中国】実録・猛毒食品「僕らだって怖い!」 ~中国人は語る~
【食】添加物の危険性 ~煮付け油揚げ~
【食】危険な除草剤の増加 ~除草剤耐性GM作物~
【食】イオンの産地偽装 ~中国猛毒米~」【食】農薬が添加物扱い ~バナナに使われるポストハーベト~
【中国】汚染大国 ~PM2.5、農薬、重金属まみれの野菜~
【食】中国における食品汚染事件 ~悪質ケース50(抄)~
【食】「危ない中国産」を見破る法 ~ジュース・菓子~
【食】中国産ウナギ肝から国際基準の1.5倍のカドニウム
【食】外食、どのメニューに中国産が入っているか ~中国食品を見破れ(3)~
【食】安いものにはウラがある ~成型肉の添加物~
【食】中国産から身を守るためのQ&A ~中国食品を見破れ(2)~
【食】中国食品を見破れ ~スーパー・外食~
【食】中国猛毒食品(2) ~アサリ・エビ・ピーナッツ・漬物・ウナギ~
【食】中国猛毒食品 ~絶対に食べてはいけない遺伝子組み換え米~
【中国】影の銀行つぶし ~アベノミクスの行方を左右する中国の政策~
【中国】凄まじい貧富の格差
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド


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【旅】生田川 ~神戸(3)~

2014年07月12日 | □旅
 (1)開港場としての神戸が、旧幕府の治下にあったのは、わずか2日にすぎない。神戸村は、当時古くからの港である「兵庫」の地名で公文書に載っており、その兵庫の一部をさすにすぎなかった。
 開港と同時に、権利上の、「外国人居留地」が発足する。その居留地が神戸村の浜寄りに敷地を持ったために、兵庫の呼称がうすれ、あるいはいよいよ広称になり、神戸という地名が前面に出てきた。神戸が、その核としてあくまで居留地として発足したことが、前記の出生の事情と名称の変遷によって察せられる。
 誕生した神戸にあっては、あくまで外国人が主だった。かれらの貿易事務と、居住地の環境感覚を、政府以下、県庁・地下人が重んずることで都市の個性や市民に共通する都市感覚ができあがった。
 
 (2)神戸にとって、大阪は忌むべき旧時代の象徴だった。
 江戸中期以後、兵庫は北前船の出発港として栄えたが、廻船問屋の株は少なく、十数軒しか許可されなかった。大坂の同業者が、大坂奉行所に働きかけて兵庫港の成長をおさえこみつづけた、ということがあるらしい。
 大阪は、江戸とちがって、都市を装飾するところの政治や文化の権威というものがなく、兵庫港からみれば、そういう大坂に、大坂奉行所を通じて支配されていることが笑止千万だったにちがいない。
 兵庫が幕府直轄領になったのは江戸後期からで、それまでは尼崎藩の藩領だった。尼崎藩は兵庫港に陣屋を置いて藩吏を駐在させていたが、幕府直轄領になってから、その陣屋が、そのまま大坂与力の駐在所につかわれた。
 尼崎藩はその財政の上から、兵庫港の発展はじかに藩を利するものだっただけに、商人を大切にし、その商業活動を拘束するようなことはなかった。
 しかし、幕府直轄領になると事情が変わった。大坂に支配された。より具体的にいえば、大坂奉行所の背後にいる大坂の株仲間に支配された。
 開港によって、さらには幕府が倒れることによって、神戸は大坂から独立した。神戸人が大阪に対して持っている明色でないイメージは、ひとつには前記のような歴史の遺伝が、どこかに残っているのかもしれない。
 大阪といえば、神戸人にとって、実態以上に泥くさく思えるらしい。それは、かつて兵庫を支配した江戸幕府の泥くささ、江戸期の日本人の意地わるさ、頭にちょんまげをのせた反っ歯の阿呆面といった明治以前の日本人・日本文化の陋劣な部分のすべてが、すくなくとも開港早々の時期の神戸人には感じられた。それよりも、居留地の外国人のほうがはるかにスマートで美的だった。

 (3)公文書においては「兵庫」と称しつつも、実際には兵庫港ではなく、それよりずっと東方の神戸の村の海岸に開港場がひらかれたのは、慶応3年12月7日だ。西暦では1868年元日だ。
 この時期、日本は内戦(戊辰戦争)寸前で、極度に緊張していた。新首都は、薩長が幼帝を挟んで占拠している。大阪にあっては幕軍数万が集結し、対外的には(大政奉還した)先々月まで「日本国皇帝」だった徳川慶喜を擁している。のちでいう「鳥羽・伏見の戦い」がおころうとしていた。
 神戸の誕生が、革命の内戦前夜だったことは、都市性格の形成にとって重要な因子だった。

 (4)兵庫は見捨てられた。
 開港早々、京都の新政府の兵庫行政をうけもつべくやってきたのは、長州出身の伊藤なにがし47歳で、当時は俊輔と自称していた。のちの博文である。最初の職名は外国事務掛で、「兵庫奉行ノ事務ヲ管掌セシム」という辞令だった。4か月後、兵庫県知事になった。
 かれの庁舎は、旧幕時代、大坂奉行所の与力1騎が執務していた勤番所で、狭隘すぎて役に立たなかった。加えて、神戸村にできた運用所(税関)から遠すぎる。移転すべく、神戸村に近い坂本村に地所を求めたところ、兵庫の名主・年寄らが協議し、これでは兵庫が廃れてしまう、となげいた。県庁の新庁舎を兵庫に建ててくれ、と陳情したが、とりあげられなかった。
 工事が請負人に発注されたのは明治元年6月12日だ。このとき、旧幕時代、はるか蝦夷地までゆく北前船などの商港として栄光を築いた「兵庫」が決定的に衰退し、代わって「神戸」がこの一帯の港とまちを代表する呼称になった。同時に、江戸期の大坂の商権から独立した。神戸は、神戸にとって縁起のいい名前になった。
 
 (5)兵庫県庁にとっての最初の土木事業は、県庁を建てるほかに2つあった。
  (a)旧幕府からひきついだ居留地の敷地固めの土木工事を継続しなければならなかった。
  (b)開港場というカネの落ちやすい土地をねらって虞犯性の高い連中が流入してくるため、早々に監獄をつくらねばならなかった。
 加納宗七は、旧幕府にとって政治犯だったが、当の幕府が倒れたために、新政府の牢に入る必要がなかった。
 加納は紀州人だった。和歌山城下の御用商人宮本助七の次男として生まれ、幕末、とびだして志士仲間に入った。紀州脱藩陸奥宗光を頼ったらしい。陸奥は、坂本竜馬が長崎でやっていた浪士結社海援隊の有力メンバーで、坂本が大政奉還の工作のために京都で奔走していたときは、その秘書のような仕事をしていた。
 坂本は神戸開港の1か月半前に大政奉還を成功させ、その半月後に暗殺された。
 残された陸奥は復讐を誓った。黒幕は紀州藩重役の三浦休太郎と見てつけ狙い、12月7日夜9時ごろ、京都の旅籠天満屋で新撰組の幹部と酒を飲んでいる三浦を同志十数人とともに斬りこんだ。その中に町人あがりの加納もいた。
 斬りこんだ陸奥の同志はみな書生で、新撰組のようなそれ専門の連中に刃むかうのはむりだった。新撰組側には土方歳三もいた。たちまち斬りたてられて逃げざるをえなかった。
 天満屋事件は、神戸開港の日だ。
 事件後、加納は京を逐電し、居留地造成のためにごったがえしている神戸村にきて潜伏した。
 数日して、鳥羽・伏見の戦における薩長の勝利で、天下がくつがえった。

 (6)加納は晴れて神戸で商売をやった。
 かれは居留地に近接の西町で材木商をいとなんだ。無限に材木の需要があるだろうと見たのが、中った。
 元志士ということで、県庁にも顔がきいたらしい。
 まだ若かった伊藤博文がつくった兵庫県庁の庁内の空気や吏員の気分は、どの府県の府庁・県庁よりあかるくて、官のにおいが薄いといわれていた。「官民の交接頗る平民的」だった。明治早々の官の重苦しさはときに旧幕時代をこえるものがあったが、兵庫県庁の場合、居留地の気分の照り映えもあったろうが、伊藤という陽気な男のいい面が、庁内の気分をつくっていた。
 当時の兵庫県庁の管轄内の神戸区からのちに神戸市役所が誕生したのだが、この気分は県庁以上に市役所に遺伝することになったかもしれない。

 (7)神戸は山が海岸の市街地にせまっているために、川の長さがみじかく、豪雨のときなど、じかに滝が市街地にたたき落ちていくようなものだ。
 パークスの前任の英国公使だったオールコックが、兵庫に上陸してこのあたりの地理を見、生田川に気づいている。かれが見た生田川には、水が流れていなかった。六甲山系の多くの川と同様、乾燥が続くと水が涸れるのだ。加えて、山から土砂が押し流されるために、地面より高く川砂が堆積し、堤防が土塁のように高くなっている(天井川)。ために、大雨が降ると、付近を水びだしにした。
 この川の勢いは、できあがったばかりの居留地をおびやかしたために、居留地のひとびとのあいだで苦情が出たらしい。
 伊藤博文は明治2年7月に大蔵小輔になって神戸を去った。付替工事にどこまで関係したか、不明だが、ともかくも県庁が企画し、明治3年末か同4年のはじめごろに加納宗七が、工費3万両ちょっとで請け負った。
 あたらしい河道は、布引の滝の下から、まっすぐに線をひいたように、最短距離(1.9km)で海に落ちるというものだった。
 加納は、明治4年3月10日に着工し、わずか3か月で完工させてしまった。よほど物事のできる人物だったらしい。
 旧河川敷が、みごとな砂を堆積したまま残った。加納はこの土地の入札に参加しておとし、河道を幅18mの、当時としてはみごとな道路に仕立てなおし、海岸までつきとおした。道路の両側はたんねんに造成して宅地とし、希望者に分譲した。
 いま、旧生田川の西側の堤路に神戸市役所がある。市役所前の道路は、もともとは加納がつくったものだ。
 加納についての神戸における痕跡は、かれが造成した一画は加納町という町名がつけられているくらいだ。
 いまの神戸市街地の原形は、居留地の造成にあるというより、むしろ生田川をつけかえて、その旧河道を路幅の豪宕な道路に仕立てあげた明治4年のこの工事にある。これによって神戸市街の骨格ができあがった。

□司馬遼太郎『街道をゆく21 神戸・横浜散歩/芸備の道』(朝日文庫、1988)
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 【参考】
【旅】布引の水 ~神戸(2)~
【旅】居留地 ~神戸~

   
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【旅】布引の水 ~神戸(2)~

2014年07月11日 | □旅
 (1)神戸の飲み水は六甲山系から湧き出る。当然、とびきりのものとされていた。
 かつて神戸に寄港する外国船のよろこびは、水槽の水を空にして神戸の水をあふれるほど積むことだった。神戸の水とは、布引の滝の水のことだ。厳密にいえば、布引の滝のすこし上の布引貯水池からパイプで送られる水だ。
 神戸にはあと2か所貯水池があり、水質は同じだが、船に対してはとくに布引から送られる。つまり貯水池の浄化水がパイプで港まで直送されるといった仕組みで、続いてきた。
 布引の水は、六甲の老化した花崗岩層をくぐってきて適度のミネラルを含んでいるためにうまいのだ、といわれるし、船が赤道をこえてもうまさに変化がない、などともいわれてきた。
 そういうコウベ・ウォーターについては、明治のころは、「水屋」というものが活躍して、寄港する船舶に水を売っていた。
 西宮をはじめ灘五郷にも、江戸時代、酒造屋に水を売る「水屋」という商売があったから、水を売ることは、このあたりでは慣れていた。明治38年、市が水屋から権利その他を買いあげて、以後、神戸市が直営し、市の財源の一つになっている。
 神戸の人口が膨張し、滝のひとつや二つではまちや船の飲み水をまかなえなくなった。いまは【注】、神戸市の水道ぜんたいの8割が淀川へ依存する。阪神水道企業団の水に、布引の水がポタポタという程度だ。

 (2)歴史的に水に恵まれていたせいか、神戸の水道は遅れた。
 横浜に水道をつくったパーマーを呼んで視察にきてもらうが、予算などのため、着工にいたらなかった。そのあと、W・K・バルストン・東京帝国大学衛生工学教師/内務省衛生局雇工師に依頼した。明治25年のことだ。
 その後、事が進まず、完工したのが明治33年だった。布引貯水池も、このときにできた。
 神戸ほど、上水道工事が容易な土地は多くあるまい。(a)水源がまちのそばにある。(b)市街地が背後の山から海へ傾いているため、パイプを敷設するだけで天然水圧で水はくばられてゆ「く。
 そういうまちで水道が他の都市にくらべ、よほど遅れたというのは、水についての逼迫感が乏しかったからにちがいない。
 「水屋」たちの利害感情も、ありは県会などに反映したかもしれない。
 もっとも、神戸の「水屋」たちも、山から水を汲んできて荷馬車に積み、岸壁から給水船に積みかえるという牧歌的なやり方ではとても追いつかなくなった。
 内外の船舶が輻輳して、大八車式の水運びではどうにもならず、当時、海岸通りにあった日本郵船会社などは給水にこまり、「神戸区がなさらぬなら、私設でつくる」と、明治22年に上申しているほどで、県をまごつかせた。
 ちなみに、神戸市は明治22年に成立し、水道は市が中心となる。ただし、神戸市は、市民への給水よりも船舶給水の問題を急務とし、しかも主導的であり、ときには恫喝的でさえあった。このあたり、同時代の大阪の事情とくらべてそのちがいを察するべきだ。
 
 (3)神戸の海側から山側をみると、東から西へ連峰がつらなっている。東からかぞえると、六甲山頂、摩耶山、再度山、ひよどり越から一ノ谷にいたる。それらの山麓が市街地になっている。市街地だけでいえば、東京の一区か二区ほどで、都市としてまことに適正な規模だ。
 この都市を成立させている水源地の滝を見ておけば、神戸の原形にふれる感じをするだろう。
 神戸は自然との関係においては奇跡のようなまちで、布引の滝など、遠くにあるわけではない。
 新神戸駅の背後(北)まで山が押し寄せている。滝は、駅から北へ、直線距離3~400mほどの山中にある。
 山道をのぼるうちに、山の中腹に展望台がある。四方は見えず、とくに背後は山壁にふさがれていて、見えるのは、木の間がくれの海の光だけだ。神戸ではたれもが港を見たがる。山手の異人館も、窓を港の方角にひらいて飽くことなく港を見る。滝が名所の布引の山中の展望台ですら、港が見えるようにしつらえられている。美人は見られることによってつくられるというが、神戸港はそういう港だ。
 布引の滝へは、展望台から、岩場の間に造られたせまい石段を降り、岩場の根の小径をくだってゆかねばならない。
 石段を降りると、岩場のあちこちに歌碑がある。
 この滝は王朝のころから歌の名所になっていて、鎌倉初期の歌(藤原定家)もある。
 小径はなにやら地の底へくだってゆく感じだが、布引の滝の「雄滝」については、枝道を右へ折れる(標識あり)。すべては雑木林のなかだ。
 枝道をくだってゆくと、樹間のむこうに滝の音がとどろきはじめる。ゆきどまりが茶屋だ。崖にひっかかるようにして建てられている。茶屋ののれんに「おんたき」という文字が染め抜かれている。雄滝は近畿のなまりどおり「おんたき」と訓ずるのかもしれない。
 たぎり落ちる雄滝を見るには、この茶店の手すりから身をのり出して右手を仰ぐようにせねばならない。すさまじいばかりの瀑布だ。落下して滝壺にいたる高さは43mもある。
 この場所からは見えないが、別に夫婦滝、鼓ケ滝といった短い滝があり、下のほうに14mの雌滝が」落ちている。布引の滝は、いくつかの滝が複合し、連動しながら、落ちてゆくのだ。
 雄滝は垂直の落下ではない。
 鉄さび色に濡れた山骨が、やや勾配を持ち、滝に背もたれさせているような感じで水を落としてゆく。布引というのは、その感じから出た命名だろう。白い拷の布を晒すような角度だから、布引と呼ぶか。平安朝のころから京都の公家・僧侶といった知識人が歌の名所にしていただけに、洗練された名前がつけられ、定着していったのだろう。
 布引の滝という名は、京都文化の延長のなかでつけられた名と考えてよい。布引の滝の源は、六甲山系のなかの獺池だ。これは山で働くひとびとが符牒としてよんでいた地名だろう。神戸における他の水源地の名が、島原、千刈であるというのも符牒めいていて、また同じ産経のなかのだんごノ奥池とか、瓢箪池、阪急池というのも符牒で、とても歌に詠みこめるほどには洗練されていない。これによってみても、布引の滝が、いかにそのあざやかな名前によって滝という自然の生命が、人文的にも深められてきたかがわかる。

  【注】「いまは」というのは司馬が神戸を歩いた頃のことで、以下同じ。

□司馬遼太郎『街道をゆく21 神戸・横浜散歩/芸備の道』(朝日文庫、1988)
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 【参考】
【旅】居留地 ~神戸~

    雄滝
   

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【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~

2014年07月10日 | ●佐藤優
 (1)7月1日、安倍政権は、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。
 一部マスコミは、日本が明日にでも戦争に突入するかのような危機意識を煽っているが、それは間違いだ。閣議決定にはさまざまな縛りがかかっている。
 <例1>この閣議決定だけでは、ホルムズ海峡の機雷除去に日本は参加できない。
    (理由)国際航路帯は、オマーンの領海を通っているので、海峡封鎖をするためには、同国領海内に機雷を設置しなければならない。領海内への機雷設置は、宣戦布告と見なされるので、この状況では自衛隊が出動することはできない。
 <例2>米国が英国など同盟国とともに「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」を排除するため日本にイラクへの自衛隊派兵を求めても、今回の閣議決定では実施不可能だ。
 
 (2)この程度の内容は、外務省と内閣法制局の頭が良い官僚ならば、個別的自衛権で理屈をつけることもできた。
 なぜこれだけの縛りが課せられたのか。
 教義の根本に平和主義を据えた創価学会を母体とする公明党が、本気で抵抗したからだ。
 <公明党の山口那津男代表は1日、集団的自衛権の行使を認める閣議決定後の記者会見で、「(武力の行使は)国民を守るための『自衛の措置』に限られることが明確になっている。その点で憲法上、いわゆる(一般的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない」と述べた。
 山口氏の主張は、武力行使をしてもあくまで「自衛の措置」であり、従来の公明党の主張と整合性があることを強調したものだ。だが、閣議決定の中では「『武力の行使』は国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」と明記されており、山口氏は国際法上と憲法上の評価を使い分けるという苦しい対応を迫られた形だ。>【注】

 (3)国内法と国際法の解釈をずらして、それについてあえて詰めないという手法を以前から日本政府はとってきた。
 <例>日本が行ったインド洋での多国籍軍への給油、イラクへの自衛隊派遣も、国際法的には手段的自衛権の行使と解釈できる。山口代表のいわゆる<(武力の行使は)国民を守るための「自衛の措置」に限られることが明確になっている。その点で憲法上、いわゆる(一般的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない>・・・・は、屁理屈ではなく、法律家として筋の通った主張だ。
 今回、創価学会を母体とする公明党が連立政権に加わっていなかったならば、即時戦争ができる閣議決定になっていたはずだ。
 今後、政府が幾つもの踏み越えをしないかぎり、日本が実際に集団的自衛権を行使することはできない。
 
 (4)しかし、現在は悪い意味での政治主導が強まっている。その中で、
 「こんなに制限をつけやがって。これじゃ思い通りに自衛隊を動かせないじゃないか。公明党は獅子身中の虫だ。平和主義を唱えて公明党に影響を与える創価学会を締め上げてやろう」
 そう勘違いする政治家が出てくるかもしれない。
 今後の法案審議で、実際に自衛隊を国外に派遣することの是非が議論された場合、政府と自民党の暴走を阻止することができる現実的な政治勢力は、実際問題として公明党しかない。
 
 【注】記事「「行使認めるものではない」山口・公明代表 集団的自衛権閣議決定」(朝日新聞デジタル 2014年7月2日)
 
□佐藤優「日本は本当に「戦争ができる」国になったのか ~佐藤優の人間観察 第74回~」(「週刊現代」2014年7月19日号)
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 【参考】
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~

2014年07月09日 | 社会
 (1)アベノミクス第三の矢はどこに消えた?
 集団的自衛権をめぐる議論の中で、完全に埋没したらしい。
 6月24日に閣議決定された今年の成長戦略『「日本再興戦略」改訂2014--未来への挑戦--』は、本文が124ページにも及ぶ。
 こんなに大部になる理由は、各省各課の官僚が作るからだ。
 彼らは、今年度補正予算、来年度予算・税制での要求を予め成長戦略に盛り込もうとする。だから、予算要求書のようになってしまうのだ。

 (2)結局、成長戦略は今年も本物の目玉はなし。
 このままでは、昨年のように、総理の発表中に失望売りで株価大暴落という大失態にもなりかねない状況だ。
 
 (3)株価内閣と呼ばれる安倍政権としては、同じ失敗は許されない。
 そこで株価上昇に直結する
  (a)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による株式買い増し。
  (b)法人税減税。
に力を入れた。法人税が下がれば、企業は努力なしで税引き後の利益が増え、当然配当原資も増えるから株価には確実にプラスだ。
  
 (4)最近、トヨタが6年ぶりに税金を払ったという記事が出て驚いた人も多いだろう。
 電気業界でも払ってないところは多い。
 銀行も、21世紀に入ってからずっと払わず、払い始めたのはごく最近だ。
 つまり、法人税で日本企業の競争力が低下している、というのは真実ではない。むしろ、大企業が法人税を払い始めたから、減税の要望が強くなった、と見ていい。
 トヨタが税金を払わなくて済んだのは、租税特別措置のおかげだ。租税特別措置とは、ある一定の条件を満たす場合に法人税を安くする制度だ。
 <例>赤字を繰り越す制度。大企業では所得の80%までだから、残りは他の租税特別措置を使う。省エネ投資をしたら減税。研究開発をしたら減税、etc.。

 (5)租税特別措置には、非常に細かい条件が設定される。その条件と減税規模は、関連業界団体の陳情を受けて各省庁と財務省が交渉し、最後は自民党税調の議員との調整で決まる。
 団体は、見返りを供与する。
  (a)官僚に、天下りポスト。
  (b)政治家に、パーティ券購入と選挙協力。
 巨大な利権だ。

 (6)法人税を減税すると、1%で5,000億円の減収となる。
 今回、35%程度の法人実効税率来年度から引き下げて、数年で20%台にすることが決まった(悪くとも29%まで下げるということだ)。
 5~6%の引き下げだから、2.5~3兆円の財源が必要だ。
 国民から見れば、租税特別措置利権を廃止して財源に回せばよい、と思う。
 <例>減価償却制度の見直しで5,000億円、研究開発減税の見直しで1兆円の財源になる。
 むろん、租税特別措置の廃止には官僚や族議員は大反対だ。
 経団連「官僚」も同じだ。業界団体の取りまとめ役として、政・官との調整役を果たすことが彼らの存在意義だからだ。
 
 (7)小泉純一郎内閣の時も、法人税減税の話が出た。
 その時は、経済政策の司令塔たる竹中半蔵が租税特別措置抜本見直しの議論を出したとたん、経団連はそれなら法人税減税はいらない、と降りてしまった。租税特別措置の方が大事だからだ。
 しかるに、今回は最後まで経産省と経団連が粘った。
 官邸を牛耳る経産省の自信か。
 それとも、安倍政権は株価上昇が至上命題だから、企業に厳しい政策は取れないと経団連が読み切っているのか。

 (8)庶民は、消費増税と物価高に喘ぐ。
 それでも庶民を甘く見る安倍総理は、あくまで強気で集団的自衛権行使容認の閣議決定をした。
 その安倍総理を軽く見る官僚と経団連。
 この国を動かしているのは、いったい誰か?
 
□古賀茂明「法人減税に見る本当の支配者 ~官々愕々第116回~」(「週刊現代」2014年7月19日号)
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 【参考】
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~

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【旅】居留地 ~神戸~

2014年07月08日 | □旅
 (1)故あって1980年代の神戸を調べている。その昔にも少し遡らねばならない。
 こういうとき、『街道をゆく』はまことに便利だ。第21巻の「芸備の道」「神戸散歩」「横浜散歩」は、週刊朝日1979年7月20日号~10月12日号、同1982年10月15日号~12月24・31日号に連載されている。その頃の「街道」の様子を伝えるとともに、司馬遼太郎らしい歴史的うんちく(というより人物的蘊蓄)が披露される。
 
 (2)古来、瀬戸内海という海の廊下がゆきつく奥座敷の大阪湾には、いま2つの都市がある。大阪と神戸だが、都市の性格、機能、市民文化が互いに違う(民度も違う、という意見もある)。
 神戸では、初老の旦那が横断歩道をわたる細君の手を執ることがあるのだが、東京ではそういうことをしない。大阪でもしない。
 神戸は横浜とともに、日本の大都市のうち、例外的に江戸期の城下町の伝統がない。1868年元日に開港し、都市化した。最初は、港の港長までも御雇外国人の英国人だった。さらに海岸の砂地に外国人居留地ができ、やがて山手に雑居地が成立して、都市としての原形をなした。この点、祖型は外国人がつくったにひとしい。
 この新都市にやってきて働く日本人は、外国人を主人とするなか、彼らの貿易の水揚げや船舶業務の利益のおこぼれをもらうことによって衣食する人が多く、海外の慣習や文化の影響を受けやすかった。旧幕時代に不自由ながら開港した横浜にくらべ、この点、神戸ではどれほど外国人のまねをしても旧幕府はとがめなかったし、攘夷志士に斬られる心配もなかった。
 初老の男性が細君の手を執って横断歩道をわたるのは、居留地文化の名残らしい。異人さんのまねをしているうちに、身についてしまったらしい。

 (3)神戸の居留地は明治32年に終了したが、気分としてはその後も残った。
 神戸の居留地のもとは、生田川の河口付近の泥と砂の低湿地だ。これを埋め立て、盛り土し、碁盤状に区画し、一番、二番と番号をふり、逐次建物がたつことによってできた。
 欧州の感覚では、都市は空閑の状態において設計されるべきものであった。この居留地にあっては、まだ建物もろくに建っていない明治元年11月13日、この地を使用する人々があつまって自治会をひらき、「街路樹を植えよう」と提議された。
 数ヶ月後に実現された。
 遊歩地のための芝生もうえられた。20年後には、この居留地は建物と緑がよくつりあって、公園のような都市美観をもつようになった。
 ここで神戸の原形が成立した・・・・というべきだが、当時、居留地をとりまく日本人の市域はきたなかったらしい。そのころの日本人にとって、目の前の居留地こそ都市思想の見本である、と考えるには、素地がなさすぎたらしい。
 神戸が、市も市民も一つの思想のもとに都市建設をするようになるのは、第二次世界大戦で焼かれてからのことだ。
 空襲で焼かれたのは、名古屋や博多など他の都市もそうだったが、復興と建設の結果、神戸のようにならなかったのは、まちの祖型についての記憶が神戸と異なっていたからに違いない。さらには、神戸においては、自分の都市の祖型を尊重するという開明的な(または、居留地や山手の異人館の美観についての憧憬心が)、市民の共通の気分のなかに息づいていたのだ。

 (4)神戸は開港早々から貿易取扱高が大きかったのに、2年間も銀行がなかった。最初に開設されたのは、1870年開設の香港上海銀行神戸支店だった。メリケン波止場のすじむかいにあり、赤レンガ造りで、高い階段があった。
 香港上海銀行は英国資本で、1864年つまり神戸の開市の4年前に創立した。創立ほどなく神戸に進出したのだ。
 初代支店長はヘンリー・スミス。はじめは業務内容も限られていて、1878年ごろになっても欧州人スタッフはJ・モリソン支店長とJ・J・クレイク出納係の2人だけだった。その後、居留地の区画の2番を買収し、1898年に銀行の建物が完成した。
 なお、海岸通りから一つ山手に入った通りに英国の植民地銀行があった。石造りの「インド・オーストラリア・中国のチャータード銀行」だ。第二次世界大戦後、1956年、銀行の正式の名はかつての略称どおりチャータード銀行になった。
 当初ブラウン商会が代行し、初代支店長のA・S・ハーバーは開設後まもなく死亡した。名高い演劇評論家ウィリアム・アーチャーの弟ジェームス・アーチャーが後任になった。同行は、開設後間もなく26番に移転、1913年、67番の土地に立派な建物を建てた。
  
 (5)司馬遼太郎が散歩した神戸市街地のなかで、西方の兵庫の湊は江戸期に廻船の発着場として栄えていたが、明治後、港市の中心となる神戸は寒村にすぎなかった。明治31年当時、砂灘一帯波浪の洗うに任せ、宮前浜と弁天浜とに神戸村の船入場を存するの外は、神のまにまになる風情を示し、汐風寒く、萩の枯葉を動かすのみ・・・・といったうら寂しい海浜だった。
 この地に最初に着目したのは、勝海舟・幕府軍艦奉行並(当時)だった。
 かれは家茂・将軍を説き、ここに海軍操練所をつくった。敷地は17,000坪。校舎は大坂の御船蔵を移築し、寮舍もつくった。練習船はオランダ製の観光丸など。教授は、勝校長ひとり。
 経費はすべて幕府持ちだが、内実は私学にちかい。応募資格を幕臣に限定せず、諸藩の士(明治の語感での「民間」に近い)を含めたばかりか、浪人でさえいいということになったからだ。げんに土佐の脱藩浪人(坂本竜馬)が塾頭だった。薩長の藩士も多く、最初から反幕気分が横溢して、ほとんど革命学校の様相を呈していた。
 蛤御門の変の直前の元治元(1864)年5月に開校。
 しかし、江戸の幕閣は勝の肚のなかを疑い、開講後半年余で閉鎖し、勝のなったばかり軍艦奉行もとりあげ、寄合にしてしまった。休職にちかい処遇だ。

 (6)勝は、海軍操練所時代の最初、土地の名家(生島四郎太夫)の屋敷に下宿し、次いで生田の森に近いところに屋敷をたて、寮生とはべつの書生をとりたてて住みこませた。
 勝は後年『氷川話』で語る。当時つまらない百姓家ばかりだったあの一帯の買い取りを生島にすすめ、半信半疑の生島はそれにしたがった。維新後、1坪何十円という高価になって、生島は非常に儲けた。
 司馬は、これを評していう。<勝は、経綸家として幕末にぬきんでた存在でありながら、小事についてもぬけ目のない目玉をもっていたし、それが自慢でもあった。>

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【官僚】たちの厚顔さ ~国民の目をごまかして「有給休暇」増を目論む~

2014年07月07日 | 社会
 (1)厚生労働省は、5年に1回、公的年金の「財政検証結果」を公表している。このたびのそれを受け、新聞、テレビはこぞって給付額のカットの必要性を論じ始めた。
 少子高齢化が急速に進む中、制度改正を急ぎ、「早いうちに年金の水準を切り詰めておけば、将来の水準低下をある程度抑えることができる」(日本経済新聞、6月8日付け)など。
 同じ理屈は、2000年の年金法改正時でも唱えられた。「制度の見直しを放置すれば、2025年度以降の年金保険料は倍増」してしまうと警鐘を鳴らし、財政面からの“改善”がなされたはずだった。
 しかし、いっこうに年金制度は安定せず、いままた同じ理屈で、危機を唱えているのだ。

 (2)本来、年金制度の安定と維持には、財政面からの改善よりも、信頼性の確保が優先されなければならない。信頼性をおろそかにし、危機を説いてみても、国民の積極的な協力は得られず、抜本的改革も打ち出せない。
 まして14年前(2000年)は、年金官僚たちが、厚生年金や国民年金の保険料をつまみ食いしていた事実が露呈している。この1年間だけ見ても、876億円の年金保険料が、年金局の天下り先に注ぎ込まれ、総勢2,515名のOBたちを養っていた。
 当然、年金への不信は広まり、国民年金の納付率はガクンと落ちた。
 国民年金は、給与から天引きされる厚生年金とは違い、個人が主体的に保険料を納める仕組みなので、農夫拒否が相次いだのだ。
 以後、納付義務者のうち、実際に保険料を納めた人の比率を示す納付率は回復せず、2000年に73%だったのが、いまでは59%となっている(免除者や学生納付猶予者などぞ除けば、納付率は40%程度にすぎない)。

 (3)今回、制度改正への国民の協力を得ようというなら、何より年金記録問題の解決への明確な道筋を示すべきだった。ところが、年金官僚たちは、もうこれ以上は無理とばかり、年金記録問題の幕引きにとりかかっているかのようだ。
 そして、年金記録問題の元凶だった旧社会保険庁の後継組織、日本年金機構は、記録問題よりも、自分たちの処遇改善に熱心なのが実情だ。しかも、呆れたことに、彼らは、国民の目をごまかし、こっそりと有給休暇を増やそうとしているのだ。
 日本年金機構の発足にあたり、当時の設立委員会は、社会保険庁時代のいくつかの休暇制度を見直している。<例>「災害援助等へのボランティア休暇」や「父母の法事休暇」など6種類は廃止し、「子の看護休暇」など8種類は、存続させるものの有給の支給額を減額させた。
 当時は、反省の態度で受け入れていたものの、今年になって、それら休暇の復活を画策しているのだ。

 (4)同機構の今年度の「年度計画」には、さりげなく、「休暇制度の充実」という文言が挿入されている。素直に読めば、「休暇」の消化率が悪いので、きちんと取るように奨励したものと解される。
 しかし、「社会保障審議会年金事業管理部会」で、「休暇制度の充実とは、休暇の日数を増やすことなのか」との質問に対して、担当理事は否定することなく、いかにも困ったという顔で頷いた。
 改めて断るまでもなく、年金記録問題は、まだ解明の途上にある。5,000万件の持ち主不明の年金記録のうち、2,800万件が解決したにすぎない。残りの2,200万件をどう解明するか。それに向けて全力で対処すべき時に、休暇を増やそうと巻き返しに汲々としているのだ。その存在意義が問われるだけでなく、制度の信頼をさらに失わせることにしかならない。

□岩瀬達哉「国民の目をごまかして「有給休暇」増を目論む年金官僚たちの厚顔さ ~ジャーナリストの目 第210回~」(「週刊現代」2014年6月28日号)
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【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~

2014年07月06日 | 社会
 (1)2月の政変以降、暫定政権はこれに反対する東部への制圧作戦を開始。
 3月、ネット上で、東部の都市ドネックに外国人傭兵と目される戦闘員が完全武装で路上を走り回っている映像が流された。
 この戦闘員は、米国民間軍事会社「アカデミア」(←「ブラックウォーター」)の傭兵だとする指摘がある。【3月8日付け英紙「デイリー・メール(電子版)」】

 (2)旧「ブラックウォーター」は、SEALsなど米国特殊部隊出身者を中心に構成される。2007年にはバグダッド(イラクの首都)で無防備の市民に発砲し、17人を殺害。イラク内外で悪評を招いた。遺族は、米国で同社を相手どり、損害賠償を求める訴訟を起こした。
 かかる悪評を意図的に隠すためか、「ブラックウォーター」は2009年に「Xe」と改名し、2011年から「アカデミア」という名称を使っている。
 ウクライナ政府は、「アカデミア」傘下の警備会社「グレイストーン」の戦闘員300人を東部に投入している。【3月25日付け露紙「タス通信」】

 (3)4月8日、セルゲイ・ラブロフ・ロシア外務大臣は、「『グレイストーン』社の米国人傭兵150人が、ウクライナ警察特殊部隊の制服を着用して東部住民の制圧作戦に参加しているのを憂慮する」との声明を発表した。
 ウクライナ内務省筋の情報によれば、同省の部隊に、ネオナチの民兵とともに「グレイストーン」の要員が加わっている。【4月10日付け露紙「ノーボスチ・ロシア通信」】
 4月29日、ドイツ諜報機関の連邦情報庁(BND)はメルケル首相に対し、ウクライナ政府の東部鎮圧作戦に外国の傭兵が参加しているとの情報を伝えた。その情報によれば、傭兵は「アカデミア」に所属する400人で、これに加え、首都キエフではウクライナ政府の「治安局」に、米国のCIAとFBIの要員十数名が「制圧作戦のアドバイザー」として配置されている。【5月4日付け独紙「ビルト」】
 6月6日、セルゲイ・リャブコフ・ロシア外務省次官は、米国に対し、ウクライナ政府の同国東部に対する攻撃に「外国からの傭兵が参加している」として、こうした戦闘員の介入を阻止する「効果的な措置」を取るよう強く要望した。
 
 (4)一連の報道、露政府の発表では、投入されているという傭兵の所属、人数、活動に係る内容がまちまちで、さらに現在まで実際に傭兵に資金を出している側についても不明だ。
 これについて、米国ホワイトハウスや、「アカデミア」「グレイストーン」両者は、いずれも「根拠のない噂」としてウクライナへの関与を否定している。
 だが、2013年4月、エリック・プリンス・「ブラックウォーター」創設者/元SEALsは、「ブラックウォーター」は改名した現在も「実質的にCIAの延長」で、CIAの指揮系統にある事実を、米国インターネット新聞「デイリー・ビースト」のインタビューに応じて告白した。さらに、「CIAができず、する意思もない危険な工作も依頼されている」と。
 
 (5)一方、ジョン・ブレナン・CIA長官は、4月12日、異例にも名前を隠してウクライナ政府「治安局」を極秘訪問しているが、「東部の軍事制圧を命じたのは米国だ」(ヤヌコビッチ前大統領)との批判に対して、これまで訪問目的を明らかにしていない。
 このため、伝えられる傭兵の存在が、ウクライナ政府による東部鎮圧作戦への米国諜報機関の関与と無縁ではない、との憶測が依然として消えていない。
 事実、(3)のリャブコフ次官の声明では、「過去10日間だけでも650人の諜報要員が殺傷されるか捕虜になった」とされ、「うち70人は外国人で、これには13人のCIAとFBIの要員が含まれている」とされている。

 (6)4月にジュネーブで開催された米露とウクライナ、EUの四者競技で、「当事者はいかなる暴力も避ける」という点が合意された。
 だが、米国が東部の軍事制圧を優先し、介入しているのは確かだ。

□成澤宗男(編集部)「ウクライナ内戦に米国の傭兵が関与か CIAの指揮系統との指摘も」(「週刊金曜日」2014年6月27日号)
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 【参考】
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~

2014年07月05日 | ●佐藤優
 (1)国際法上、国家は次の2要件を満たさねばならぬ。
  (a)国家がその全領域を実効支配している。
  (b)当該国家が国際法を順守する意思を有する。
 イラクのヌーリ・マリキ政権は、(b)は満たしているが、(a)は達成できていない。マリキ政権は、客観的に見れば、国家としての要件を備えていない。
 イラクは、宗教、民族、部族の対立を克服できず、単一の統一機構が存在しない「破綻国家」だ。
 かかるイラク現政権が国連への加盟を認められ、国際社会で国家として認められている理由はただ一つ、米国がマリキ首相を強く支持しているからだ。
 
 (2)ヌーリ・マリキは、イスラム教シーア派(12イマーム派)に属する。
 マリキ政権下、スンニー派イラク人【注1】とクルド人【注2】は、差別されている。

 (3)12イマーム派はイランの国教だ。
 宗教が同じなので、マリキ政権はイランの支持も得ている。
 米国とイランは敵対している。外交関係もない。
 マリキ政権はしかし、米国とイランの双方と良好な関係を維持している。
 
 (4)6月3日、シリアで大統領選挙が行われ、バッシャール・アサド大統領が再選された。
 その結果、首都ダマスカスから、アサド大統領の出身地=シリア北西部にかけては現政権が実効支配していることが可視化された。
 しかし、シリアとイラクの国境地帯にアサド政権の実効支配は及んでいない。かつ、当該地域のイラク側は、マリキ政権の統治が及んでいない無法地帯になっている。
 かかる状況に目をつけたのが、イラクとシリアのイスラム国(ISIS)だ。
 シリアの大統領選後、ISISはイラクに攻勢をかけている。彼らの目的は、
  ・イラクの油田地帯の一部を占領し、
  ・財源を確保した上で、
  ・イスラム革命を世界的規模で実現する拠点国家を建設することだ。

 (5)6月14日、米国は、空母、巡洋艦、駆逐艦をイラク近海に派遣した。しかし、軍事攻撃は躊躇している。
 ISISはスンニー派に属している。米軍が無人機やミサイルでISISを攻撃すると、スンニー派イラク人が強い反感を米国とマリキ政権に対して抱くようになり、同政権が弱体化し、イラクをまったく統治できなくなる可能性がある。それを米国は恐れている。
 そもそも、テロリストの掃討は地上軍を派遣しなくては不可能だ。現時点でオバマ・米国大統領は、地上戦に踏み切るつもりは全くない。
 
 (6)ISISが油田地帯を確保することを、米国はいかなる対価を支払ってでも阻止するつもりだ。
 このとき、日本に国際貢献が求められる。
 安倍政権は、憲法解釈を変更することによって、集団的自衛権を行使できるようにしたい、と考えている。
 自民党の政治家たちは、事態を甘く見ている。彼らは腹の中では「近未来に日本が集団自衛権を行使して、自衛隊を海外に派遣する可能性はない」と考えている。
 だが、SISが油田地帯を含むイラクの一定地域を支配するような事態を防ぐために、近未来に、米国が日本に軍事貢献を求める可能性が、大いにある。
 
 【注1】アラブ人。
 【注2】非アラブ人で、イラク、イラン、トルコにまたがって住む。近年クルド民族意識を強めている。

□佐藤優「近未来、日本が「軍事貢献」を要求される日 ~佐藤優の人間観察 第73回~」(「週刊現代」2014年7月12日号)
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 【参考】
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
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【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~

2014年07月04日 | 社会
 (1)東京都議会のセクハラ暴言問題。
 女性の妊娠、出産などに関する塩村美夏・都議(みんなの党)の質問中に、議席から
  「早く結婚した方がいい」
  「自分が産めよ」
  「産めないのか」
 などの暴言が浴びせかけられた。

 (2)当初、鈴木章浩・都議も自民党もセクハラ発言を完全否定するかに見えた。しかし、批判が世界中に広がったことから方針を転換。
 鈴木都議は、「結婚しろ」発言を認めて自民党会派から離脱し、その上で塩村都議に謝罪した。しかし、議員辞職は拒否。
 同時に、鈴木都議と吉原修・都議会幹事長は、大々的な記者会見パフォーマンスを演じた。

 (3)以下、仮説。
 鈴木都議の席は自民党席後方。幹事長席は、その斜め後ろだ。
 塩村都議は、一連の発言は自民党席後方からだ、と明言した。発言は、かなり大声で、録音もされている。
 にもかかわらず、幹事長は気づかなかった。幹事長が自民党都議をヒアリングしても、全員が聞いてない、と言う。いかにも不自然だ。
 後方は、幹部の席。つまり、自民党幹部が問題発言をした可能性が高い。それをかばうために、みんなで「聞いてない」という嘘をついた。
 途中、石破茂・自民党幹事長などが、「名乗り出て謝罪せよ」と発言したが、これも、「自ら名乗り出て謝罪すればよい」という相場感を先に作り、鈴木都議の謝罪に、「勇気を出してよくやった」「これにて一件落着」というシナリオだった。

 (4)(3)の仮説は、都庁記者クラブにいれば誰でも思いつく。その確認もできる。
 彼らは、日常的に都議会を傍聴している。この日も同様。録音までして発言者を知っている記者もいる。
 彼らは、日ごろから飲み会などで自民党議員とべったりだから、懇意の議員10人に「この人ですね」と当たれば全員が嘘をつき通す、ということはあり得ない。
 にもかかわらず、自民党がこのまま幕引き可能と考えたのは何故か。
 吉原幹事長や鈴木都議の会見を見て、非常に歯がゆい思いをした人は多いはずだ。都庁記者クラブは遠回しの質問に終始し、同じ答えを聞いて引き下がる。厳しい質問をするのは、テレビ局のリポーターとスポーツ紙の記者だけ。
 都庁クラブの記者は、日ごろから議員や役人との付き合いで癒着関係を築き、そのよしみで情報をもらって東京都関連記事を書いている。与党幹部相手に一人だけ厳しい追及をしたら、あとで情報をもらえなくなる。だから、阿吽の呼吸で談合し、適度な「厳しさ」で質問するのだ。
 
 (5)自民党は見切っている。
 「これだけの暴言だから、記者たちは批判せざるを得ないが、それもほどほど。議員辞職を強く要求するような記事は出ない。謝罪パフォーマンスをして、面白い記事ネタを提供し、あとはアッサリと幕引きする。熱しやすく冷めやすい国民は、時がたてば忘れてしまう」
 鈴木都議は生け贄にすぎない。
 その裏で、「産めないのか」発言をした党幹部は、逃げ延びる。
 それに手を貸す記者クラブ・・・・という図式だ。

 (6)こんな制度(記者クラブ)は即刻廃止せよ。
 自民党、自民党都議、自民党国会議員、新聞社・テレビ局にメール、電話、ファックスで怒りの声を届けよ。
 ツイッターやフェイスブックもある。
 デモもできるし、盛り上げってきたらリコール運動だってできる。
 逃げ回る自民党幹部たちが特定されて、議員辞職するまで続けよう。
 都民、国民は馬鹿ではない。
 
□古賀茂明「都議会「暴言問題」と記者クラブ ~官々愕々第115回~」(「週刊現代」2014年7月12日号)
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 【参考】
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~
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【リストラ】ひた隠しにされた首切りの全貌 ~武田薬品工業~

2014年07月03日 | 社会
 (1)武田薬品工業は、2011年、研究部門(医薬研究本部PRD)の機能と人材を大阪とつくばから湘南の1か所に集約した。
 2013年6月28日・・・・武田の定時株主総会から2日後、湘南研究所(神奈川県)の講堂に研究所所属の管理職258人が招集された。PRD1,200人(国内)のトップ丸山哲行・本部長は、社内の名称「幹部社員」に対してプレゼンテーションを始めた。
 話の大半は、革新的な新薬を創出するには組織改革が必要で、適材適所の体制にしたい、というもので、「幹部社員」には想定内のものだった。しかし、プレゼンの最後に「マネジメントのポストを約20%削減する」と伝えられた瞬間、会場に緊張が走った。現258ポストのうち50ポストを減らす・・・・。

 (2)マイクをバトンタッチされた人材開発室長が詳細な説明に入った。
 幹部社員ポストについてジョブポスティング(社会公募)を実施する。この会議終了後、席に戻るとパソコンにメールが届いている。メールには幹部社員しかアクセスできないURLが張り付けられていて、クリックすると新しい組織図を見ることができる。幹部社員は組織図にあるポストから自分が希望するポストに応募する。選考は夏のうちに終了し、11月から新組織体制が開始される、うんぬん。
 Q:あぶれた者はどうなるのか?
 A:PRD以外でポジションを探します。
 
 (3)(2)と同じ日、PRD所属の全社員に「強靱な新組織体制」を年内に始動するというメッセージをしたためた文書2枚が配布された。
 幹部ポスト削減については、「幹部社員ポジションの再配置による組織効率化」とボカした文言が記されていた。幹部社員による椅子取り合戦が始まることを知る一般社員は、少なかった。

 (4)PRD所属社員が異変に気づいたのは8月ごろだ。毎年数人が退職する頃だ。この年は、ジョブポスティングにおける第一弾の選考結果が出た頃だ。
 第一弾は6月28日に始まった。7月4日までに、副部長級のリサーチマネージャー(RM)やグループマネージャー(GM)の公募申請が受理された。
 書類選考、面接を経て、7月18日までに選考結果が応募者に通知され、8月1日に選考結果に伴う人事異動が発令された。
 RMは個室を与えられることが多く、新任者へ個室を明け渡す旧RMの姿を目にした社員たちに動揺が走った。

 (5)7月18日から、第二弾として、200数十人(RMやGMの選考に漏れた幹部社員を含む)を対象に、課長級の主席研究員と主席部員のポスト公募が始まった。選考結果は、9月9日以降に通知された。

 (6)(5)でもあぶれた幹部社員には、異動先候補となる他部署のポストが提示された。しかし、そのほとんどが厳しい条件付きだった。特定の専門知識や経験が求められ、全員が異動できるだけの十分なポストは用意されていなかった。
 異動もかなわない彼らに提案されたのは、割増金を受け取る早期退職だった。
 社外に行くあてのある幹部社員たちは、続々と会社を去って行った。
 行き先のない者には、年内まで引き継ぎと称する席が維持された。ただし、年明け以降は会社からの要請がない限り出社するに及ばない、と告げられた。通勤のための定期券も与えられなかった。在籍期限の3月末までは転職活動を行うよう指示された。

 (7)人員削減は、当初の目標以上の「成果」をあげた。この1年間にPRDを去った社員数は100人超だ(推定)。
 人員削減を盛り込んだ組織最適化プロジェクトが内々に始動したのは、2012年後半のこと。外資系製薬会社出身の日本人が中心になって、PRDの各所に対して食事会などを通じたヒアリングが幾度となく行われた。情報収集を通じて上層部は、終了すべきプロジェクト、リストラ対象となる幹部社員を絞り込んでいったらしい。「削減したポストと幹部社員の選別は的を射ていた」【PRD所属社員】

 (8)それまでにも、研究の生産性を向上させるために組織が改革されていた。
  (a)2011年、疾患領域ごとに予算やリソースを持たせて意思決定の責任を明確化した「ドラッグ・ディスカバリー・ユニット(DDU)」を創設した。
  (b)2012年、外部の研究機関から優秀な研究者を招いて共同研究する「湘南インキュベーションラボ」を始めた。

 (9)(8)が具体的な成果を出すまでには時間がかかる。もっと切り込んだ組織改革が必要であった。
 ジョブポスティングは組織を硬直化させずにチャレンジ精神を生む手法の一つだ。結果を出せないプロジェクトの打ち切りや人員削減も経営にすれば当然考えられる選択肢だ。早期退職者に対する割増金は最大で給与60か月分と十分に手厚かった。
 それら一つ一つは妥当だった、とも言える。
 しかし、やり方に問題があった。ジョブポスティングに絡ませて首切りし、その行為をひた隠しにした。ために、「会社で何か問題を起こしたのではないかと疑われ、転職活動がままならなかった幹部社員(ポスト喪失)もいる。

 (10)「人員削減を目的とした取り組みは、PRDを含めて国内では実施していないし、今後も予定していない」と武田広報はいう。
 PRDにおける人員削減プロジェクトで実働部隊となったのはPRDの人材開発室だった。
 製造部門(医薬製造本部)にも、2013年7月、人材開発室が新設された。
 なぜ公明正大に早期退職募集を行わないのか。
 他部門の社員も、人事異動の情報を通じて人員削減に気づいているが、詳細不明のため不信感がつのるばかり。
 公に人員を削減して社内のモチベーションを落としたくない、という思いが働いたとすると、目論見は大ハズレ。別の理由があるならば、それこそ問題だ。

□白井真粧美・大矢博之・佐藤寛(本誌)「研究所で管理職が大量に退職 ひた隠しにされた首切りの全貌 ~新薬が生めない国内基盤の弱体化~」(「週刊ダイヤモンド」2014年6月28日号)
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【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~

2014年07月02日 | ●佐藤優
 (1)6月に入ってから、イラクでアルカイダ系過激派(イスラム教スンニー派)攻勢を強めている。
 これに対して、米国とイランが強い懸念を表明している。

 (2)6月17日、「イランラジオ」(イラン国営)が次のような論評を報じた。
 <テロ組織「イラクとシャーム【注1】のイスラム国」は、1週間前から、イラクであらゆる犯罪を行っています。彼らによるイラクの人々の殺害、破壊行為に、今、国連からも非難の声が上がっています。国連人権高等弁務官は、「イラクとシャームのイスラム国や、彼らとつながりのあるグループは、イラクで戦争犯罪を行っている」と強調しました。
 (中略)イラクとシャームのイスラム国は、目的を果たすためなら、あらゆる犯罪に手を染めるテログループです。このテロ組織が制圧した地域では、男女や子供の大量殺戮が行われています。しかし何よりも悲惨なのは、女性たちが、このテロ組織のメンバーによって性的暴行を加えられていることです。
 (中略)サウジアラビアとカタールは、この3年間、シリアでのこのテロ組織の活動を支援してききました。そして現在もこのテロ組織は、彼らの支援によって、シリアとイラクでのテロや戦争を拡大しています。こうした中、このテロ組織が持つ過激な考え方により、遅かれ早かれ、彼らの犯罪がその支援国にまで及ぶことは間違いないでしょう。この問題に真剣に対処しなければ、その戦火は地域全体に及ぶ可能性があるのです>

 (3)サウジアラビアとカタールが、シリアとイラクの反体制派を支援している。
 その反体制派に、アルカイダの影響が及んでいる。
 その反体制派を排除するための国際連帯をイランが呼びかけている。
 ここでイランが念頭に置いているのは、米国との協力だ。

 (4)6月14日、ハサン・ロウハニ・イラン大統領は、
 <イラクの要請があれば支援する用意があると表明した。国交のない米国との協力についても、「検討することができる」と発言した>【注2】
 米国とイランの間には外交関係がない。イランのハメネイ師・イラン最高指導者は、イスラエルが小サタン、米国が大サタンである、という立場を変えていない。
 そんな状況の中で、ロウハニ大統領は、「敵の敵は味方」という論法で、米国との連携を訴えている。

 (5)イラクのマリキ現政権は、12イマーム派のイスラム教シーア派(イランの国教)を母体とする。
 この政権は、米国、イラン両国の支援によって成り立っている。
 イランは、イラク国内のシーア派武装集団に影響力を行使することができる。
 この武装集団を用いてアルカイダ系を駆逐することで、米国に恩を売り、オバマ政権のイランに対する感情を改善しているものと目される。
 イラクに本格的な軍事介入をするつもりがないオバマ政権としても、イランがこのような動きをすることは、望ましいシナリオだ。

 (6)とはいえ、イラクにおけるイランの影響力拡大をサウジアラビアは望まない。
 スンニー派のアルカイダよりも、シーア派のイランの方が悪い、というのがサウジアラビアの率直な認識だ。
 ロウハニ大統領は、米国とサウジアラビアの間に楔を打ち込むことに成功しつつある。
 
 【注1】シリアの意。
 【注2】6月14日付け日本経済新聞電子版。

□佐藤優「イランがイラク情勢を懸念する理由 ~佐藤優の人間観察 第72回~」(「週刊現代」2014年7月5日号)
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 【参考】
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
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