語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~

2017年09月11日 | 批評・思想
★スコット・セーガン、ケネス・ウォルツ(川上高司・監修、斎藤剛・訳)『核兵器の拡散 終わりなき論争』(勁草書房 3,500円)

 (1)トランプ米大統領の一連のツイッター発言から、東アジアにおける緊張が高まっている。むろん、直近の問題は、北朝鮮に対する米国の攻撃があるかどうかだ。しかし、その背後に国際的にも非常に重くて深刻な問題が横たわる。核兵器の存在だ。

 (2)1945年夏、広島と長崎で使われた核兵器は数多くの議論を巻き起こした。幸運にもその後使われないまま東西冷戦は幕を降ろした。ところが、冷戦後に新たに浮上したのが、核兵器の「拡散」という問題だ。
 これについて国際政治学の泰斗の2人が真正面からディベートを行い、それをまとめたのが本書だ。
 著者は、次の二人。
  (a)「核拡散は抑止論の論理から安定に寄与する」という立場で、国際関係の理論家として名高い故ケネス・ウォルツ(米カリフォルニア大学バークレー校の元教授)
  (b)「国家は組織的に合理的に動けないので核拡散は危険だ」という立場のスコット・セーガン(米スタンフォード大学教授)

 (3)本書の特徴を三つ挙げてみたい。
   ①当然だが、ここで交わされている議論が、現在の北朝鮮をめぐる情勢にもそのまま当てはまる。〈例〉核拡散に楽観的な立場を取るウォルツ氏によれば、米ソ両国の冷戦時代の経験から、「核武装国家は双方いずれかの主要な価値に関わる問題がある場合には最大限の慎重さを見せた」と主張する。言い換えれば、米朝対立の安定の鍵は、双方が何を「自国にとって死活問題か」と感じるかによる。
   ②国際社会をめぐる問題の核心には心理面が大きく作用していることを実感させてくれる。日本のメディアで何げなく使われる「抑止力」という概念は、実はかなりあやふやな人間の感情に立脚したものであり、決して理性的な計算ではない。そのことが議論から浮かび上がる。逆に言えば、このような大量破壊兵器の破壊力に対する「恐怖」という感情によって世界の平和が成り立っている「逆説」に気付けるところが本書の利点であろう。
   ③日本にはほとんどない、学者同士の正面からの本気のディベートが見られる。日本の学者の間には、相手を批判することが即、人格否定につながるという意識があり、専門誌では議論になることは(でき)ないが、本書は論点に対する議論の応酬が明快であるため読みやすい。

 (4)やや残念なのが、訳文に硬さが感じられ、専門用語が多い点だ。
 ただし、英語圏の安全保障関係の学生たちが授業で読まされる副読本となっていることからも分かるように、高度で本気の知的な議論が味わえる良書である。

□奥山真司(IGIJ(国際地政学研究所)上席研究員)「核兵器は世界を平和にするか/著名学者2人がガチンコ対決  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月16日号)
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【南雲つぐみ】サンマの栄養価 ~9月10日は目黒のさんま祭り~

2017年09月10日 | 医療・保健・福祉・介護
 東京・目黒区では、古典落語「目黒のサンマ」にちなんで、例年「目黒のさんま祭り」が開催されている。今年は10日。7千匹のサンマが岩手県宮古市から目黒駅前に運ばれ、無料で炭火焼きや生のサンマが振る舞われる。
 落語では、お殿様が鷹狩りの途中で食べたサンマの味が気に入って、お城でも所望する。家来たちは、サンマの脂がよくないと考え、十分に蒸して脂を抜き、さらに小骨をていねいに抜いてお出しした。ぱさぱさになったサンマに殿はがっかりして「サンマは目黒に限る」とこぼすという話だ。
 言うまでもなく、サンマの味と栄養価は脂があってこそ。DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)は、不飽和脂肪酸の一つで、血液や血管の老化を防ぎ、さまざまな生活習慣病に役立つと考えられている。ビタミンB2、B6、B12、Dなども多い。皮の焦げにはヘテロサイクリックアミンという物質が含まれ、発がん性物質があると考えられているが、通常の量の焦げを食べる場合はまったく問題がないそうだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「サンマの栄養価 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年9月10日)を引用
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【佐藤優】北朝鮮は日米と同じく「現状維持派」 ~北朝鮮の目的は「金王朝」の維持~

2017年09月10日 | ●佐藤優
 (1)北朝鮮の核開発の目的は、米国と対話することだが、むろん、それで満足するわけではない。最終的には体制の保障だ。今、米国と北朝鮮の間にあるのは朝鮮戦争の停戦協定だ。その協定を平和条約にして、さらに相互不可侵を約束する、と。
 平和条約を締結して、相互不可侵を約束しておいて、それをなにか理由をつけて破る、というのは、相当にハードルが高い。北朝鮮も国連加盟国だからだ。
 しかし、それで北朝鮮が核開発計画を放棄するかといえば、しない。米国は、核保有をしたままの北朝鮮と平和条約を締結して、相互不可侵を約束することになる。国交を結ぶわけだ。
 米国は民主化しろ、とかうるさい国だが、国交を結んでいる国のなかには、北朝鮮程度の乱暴な独裁国家はいくらでもある。中東やアフリカあたりに。
 つまり、米国は、核保有国の北朝鮮と付き合うわけだ。北朝鮮は核を使って、自分たちのやりたいことをごり押ししてくることになるだろう。ただ、韓国との統一、赤化統一は考えていないだろう。北朝鮮にそんな体力はない。とにかく、あの国の目的は、金王朝の維持だ。
 その意味で北朝鮮という国は、じつは日米と同じ、現状維持派なのだ。

 (2)北朝鮮が核保有国として公に認められるようになったら、韓国はどうするか。核開発を始める可能性はある。
 ただし、韓国と北朝鮮には、決定的な違いがある。北朝鮮は自国にウランがある。一方、韓国にはウランはない。だから、米国と調整して、ウランを入手しないことには、韓国は核開発できない。
 では、米国がそれを認めるか。
 米国は日本にはウランの濃縮と、プルトニウムの抽出を認めている。日本は六ヶ所村で、それをやっている。しかし、韓国には濃縮と抽出、どちらも認めていない。韓国はもらった燃料を原発で燃やすだけだ。自前ではできないようになっている。
 これは朴正煕(パクチョンヒ)大統領時代に、韓国が核開発を始めようとして、それを米国がむりやり止めた、ということがあったからだ。米国はそのことを忘れていない。
 つまり、韓国が核開発しようと思っても、米国は協力しない。だから、韓国としては北朝鮮の持っている核兵器を手に入れようと狙う。・・・・こういうシナリオになる。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第3章 地政学から読み解く北朝鮮の戦略」の「じつは北朝鮮は、日米と同じ「現状維持派」である ~とにかくあの国の目的は、金王朝の維持~」
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 【参考】
【佐藤優】米国は金正恩を暗殺する能力がある ~金正男「暗殺の謎」の背景~
【佐藤優】北朝鮮の核開発はソ連を信用していないから ~他国からいつでも捨てられる可能性~
【佐藤優】演説からわかる北朝鮮経済の実態 ~驚愕の『金正恩著作集』~
【佐藤優】中国には北朝鮮核問題に係るビジョンがない ~北朝鮮への対応がフラフラしている理由~

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【佐藤優】米国は金正恩を暗殺する能力がある ~金正男「暗殺の謎」の背景~

2017年09月09日 | ●佐藤優
 (1)北朝鮮が何をしたら米国が軍事行動を起こすか。このレッドラインが見えない。これは、言わないようにしているのではなくて、決まっていないのではないか。それに、言ってしまうと、やらざるを得なくなる。シリアの場合は毒ガスだったが、オバマ前大統領は、結局できなかた。
 また、北朝鮮の場合だと、例えば米国が核実験をするな、というと、作るのはいいんだな、と受け取りかねない。核兵器を全部廃棄しろ、といったら、これは聞かないだろう。廃絶しなければ、ただちになにかやるのか、という話になる。そういうわけで、レッドラインの引き方はものすごく難しい。
 普通に考えれば、核の小型化と米国に届く弾道ミサイルの開発の中止だが、そうはっきり言ってしまうと、北朝鮮という国は、「じゃ、ほかのことは何をしてもいいんだな」と考えて行動に移すからだ。

 (2)米国は、北朝鮮のレジームチェンジ(その国の政治体制を根本的に変えること)はめざさない、と言っている。
 しかし、それはわからない。するかもしれない。それは、どういうことかというと、レジームチェンジを狙わない前提は、北朝鮮が米国にとって脅威にならないことだ。
 ところが、今の北朝鮮を見ていると、いずれの日にか、米国の脅威になる。しかも、今だったら北朝鮮を解体できる、という考え方もある。
 2月にあった金正男の暗殺も関連している。あの暗殺計画は、公開情報ベースでは2016年12月から始まっている。その頃、国際社会で何があったか。トランプ大統領の誕生だ。2017年1月1日に、金正恩が演説をしている。間もなく、米国を射程に収めたICBMを発射する、と。
 すると、すぐ3日に、トランプがツイッターで、そんなことは起こらない、と書いている。
 どうやって起こさないようにするのか。二つの方法がある。
  (a)今、北朝鮮は地下で核開発をしているから、そこをピンポイントで叩く。ただ、そのためには北にスパイを送って、場所を確認する。ヒューミントで情報を取って、そこにバンカーバスター(地中貫通爆弾)を撃ち込むのだ。2017年4月13日、米軍はアフガニスタンにある「イスラム国」の地下施設に、バンカーバスターの一種であるGBU43-Bを投下したが、これは北朝鮮への索制である、ともいわれている。
  (b)金正恩を殺す。米韓合同軍事演習では平壌に突入して、金正恩を殺す訓練をやっていた。斬首作戦だ。あれは十分に可能だ。大事なのは、居所をつかむことだ。これも、ヒューミント。金正恩の居所を知っていそうな奴は誰だ、と探して、誰かに接触する。で、次の奴を捕まえて、より知っていそうなのは誰だ、と聞く。5、6人追っていけば、必ず行きつく。そうすれば、斬首作戦は実行できる。

 (3)ただ、殺したあとにどうするか。北の統治をどうするか。金正男を持ってくればいい。彼だって白頭(ペクトウ)の血筋だ、と。亡命政権構想だ。
 おそらく、誰かが耳打ちしたのだ、金正恩に。米国のCIAは、おそらく北朝鮮と秘密裏に協議しているから。そのプロセスのなかで、「お前、そんなことをやっていたら、どうなるかわかっているな。べつにお前だけが白頭山の血筋じゃないからな」・・・・こういうようなメッセージを出したのではないか。暗殺、政権転覆もあるんだから、これ以上の核開発はやめろ、と。
 それにタイして、金正恩は過剰反応した。政権転覆を防ぐためには、同じ血筋の奴を消せばいいんだ、と。そう考えると、あの暗殺の謎は、矛盾なくまとまる。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第3章 地政学から読み解く北朝鮮の戦略」の「アメリカには金正恩の首を取る能力がある ~金正男「暗殺の謎」はこれで説明がつく~」
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 【参考】
【佐藤優】北朝鮮の核開発はソ連を信用していないから ~他国からいつでも捨てられる可能性~
【佐藤優】演説からわかる北朝鮮経済の実態 ~驚愕の『金正恩著作集』~
【佐藤優】中国には北朝鮮核問題に係るビジョンがない ~北朝鮮への対応がフラフラしている理由~


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【佐藤優】北朝鮮の核開発はソ連を信用していないから ~他国からいつでも捨てられる可能性~

2017年09月09日 | ●佐藤優
 結局、北朝鮮は中国もソ連も信用していなかった。もしも信用していたら、北朝鮮は中国かソ連の核の傘の下に入っていた。
 中国でもソ連でも、核の傘に入ると、どうしても従属国になってしまう。すると、中ソの他国との取引で、いつでも捨てられる可能性がある。
 キューバ危機のときの態度を見て、ソ連を絶対に信用しなくなった、という説があるが、それも十分な理由だろう。あのとき、ソ連はキューバからあっさり引いたのだが、同時にトルコにあった米国のミサイル基地を撤去させた。ソ連は取引したわけだ。
 キューバはそれでバカを見た。米国との関係を正常化できなくなってしまった。2016年まで関係が悪かった。ミサイルを持ち込んだソ連のほうは、とっくに関係を正常化していたのに。それを、北朝鮮は見ている。あの国が核開発に走ったのは、結局、中国とソ連を信用していなかったからだ。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第3章 地政学から読み解く北朝鮮の戦略」の「ソ連を信用していないから、北朝鮮は核開発を始めた ~他国との取引で、いつでも捨てられる可能性~」
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 【参考】
【佐藤優】演説からわかる北朝鮮経済の実態 ~驚愕の『金正恩著作集』~
【佐藤優】中国には北朝鮮核問題に係るビジョンがない ~北朝鮮への対応がフラフラしている理由~
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【佐藤優】演説からわかる北朝鮮経済の実態 ~驚愕の『金正恩著作集』~

2017年09月08日 | ●佐藤優
 (1)北朝鮮の国民が金正恩にカリスマ性を感じているか、といえば、感じているだろう。
 北朝鮮という国家は、そのシステムを完全に使って、国民に金正恩のカリスマ性を教育しているからだ。
 また、北朝鮮には「偉大な風格」という概念がある。風格とは、体格のことで、思想は体格に現れる。金正恩は、伊達や酔狂で肥っているわけではない。
 見た目の風格を、祖父の金日成に似せているわけだ。金正恩はストレスで肥っている面もあるだろうが、そもそも肥っていた。祖父に似てないといけないからだ。

 (2)北朝鮮の国家目的は、金王朝の生き残りだ。あの国は、あの一家の幸福のためにある。しかも、それで人民も幸せだ、ということになっている。戦前の天皇制、国体といっしょだ。
 権藤成卿の君民共治論のような感じで、天皇が幸せなら国民も幸せ。北朝鮮では、人民福首領福という言い方をしている。
 こんな人民を持った首領は幸せで、こんな立派な首領を戴いた人民は幸せだ、という。そういうことを金日成時代には言っていた。
 すると、金王朝が生き残ることが、国民の幸せだ、ということになるわけだ。そういうフィクションで成り立っている国が北朝鮮なわけだ。

 (3)カリスマ性はあるが、北朝鮮にとっての問題は、やはり経済だ。『金正恩著作集』(白峰社)全2巻を読むと分かる。金正恩の演説をまとめた本で、面白い。北朝鮮に不満がいかに多いかを、正直にいっている。
 食料に関して、農地を改良すべきだ、とか、田畑にまく種子を研究すべきだ、とか、食糧がらみで「べきだ」「べきだ」という話がやたらに多い。
 これは何を意味しているかというと、いまだに飢饉が起きている、ということだ。額面どおりに受け取れば、国民をお腹いっぱい食べさせることさえできていない国だ、ということだ。
 農地も種子も全然ダメだ、ということだ。それが北朝鮮経済の実態だと、そういうところから分かる。食糧の確保に苦労しているから、演説の多くの部分をそのことに割かなければならないわけだ。
 また、道路にはガードレールをつけるべきだ、ともいっている。ガードレールもない、ということをだ。インフラが決定的に不備なのだ、ということが演説から分かってしまう。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第3章 地政学から読み解く北朝鮮の戦略」の「金正恩の演説から、北朝鮮経済の実態がわかる ~演説をまとめた『金正恩著作集』驚愕の中身とは?」
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 【参考】
【佐藤優】中国には北朝鮮核問題に係るビジョンがない ~北朝鮮への対応がフラフラしている理由~
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【佐藤優】中国には北朝鮮核問題に係るビジョンがない ~北朝鮮への対応がフラフラしている理由~

2017年09月07日 | ●佐藤優
 (1)中国の北朝鮮政策には、ビジョンがない。北朝鮮をどうしたい、などということは考えていなくて、ただ、いうことを聞かないヤツをどうするかと困っていた。そうしたら米国に、お前の責任でなんとかしろ、といわれたってことだろう。場当たり的対応だったのだ。

 (2)中国には、北朝鮮をなんとかする手段、つまり制裁する手段はある。パイプラインで送っている石油、それをとめればいいだけだ。本当の制裁になる。しかし、それをやると北朝鮮は暴発する。それは避けたいわけだ。
 暴発されるとなにが困るのか。まず、難民だ。それから、宝探しだ。
 宝とは何か? 北朝鮮の核弾頭と弾道ミサイルだ。北朝鮮が暴発したあと、崩壊したら、韓国、中国、米国の三者でこの宝を探し始めることになる。で、いちばん最初に見つけた者のものになる。そんなとき、北朝鮮人は自分たちの核を、同胞の韓国人に渡す。
 つまり、北朝鮮が暴発したら、結局は韓国が北朝鮮を併合するのは目に見えている。そのとき、韓国は核保有国になる。朝鮮半島に核保有国ができるのを、中国は望んでいないはずだ。
 日本だって大変だ。竹島問題、慰安婦問題、歴史認識問題。それらの問題について日韓でもめたとき、韓国は核兵器で圧力をかけてくる。
 しかも、そうなると米国は何もできない。南北分断が終わったら、韓国にとって、もう米軍は必要なくなる。出ていけ、って話になるだけだ。
 すごく嫌な時代が来る。

 (3)今、中国は米国にいわれて北朝鮮を説得しているわけだが、難しい。完全に説得することはできないだろう。そうなると、問題は中国が北朝鮮に対して、外科療法を取れるかどうかだ。金王朝を、なんらかの形で転覆させられるかどうか。
 しかし、中国にそこまでする腹はない。だから、あの国の北朝鮮への対応はフラフラしている。
 そうなると、今度は米国がしびれを切らして軍事介入するかもしれない。それによって混乱が生じることも考えられる。

 (4)中国は北朝鮮に困っているわけだが、北朝鮮のほうも中国とロシアの、どっちも信頼していない。中露については、自分たちの生き残りのために利用するだけだ。それは彼らが主体(チュチュ)思想というイデオロギーを持っているからだ。
 主体思想とは何か。それは、中国やロシアから主体性を持つ、ということだ。
 中国と北朝鮮の間には、中朝友好協力相互援助条約がある。だから、条約の上では、中国は北朝鮮が攻撃を受けたら自動的に参戦する義務を負っている。しかし、中国は参戦しないだろう。その意味で北朝鮮の対中不信は正しい。
 しかし、それは中朝間に限ったことではない。日本にも、日米安保条約で本当に米国は日本を守ってくれるか、と疑問を持つ人はいる。これと一緒だ。 

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第3章 地政学から読み解く北朝鮮の戦略」の「中国には北朝鮮核問題について、なんのビジョンもなかった だから北朝鮮への対応は、フラフラしている」
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 【参考】
【佐藤優】トランプ大統領はなぜ平気でウソをつけるのか ~フェイク蔓延の米国社会~
【佐藤優】2050年までに終末が来ると信じる国民がトランプを生んだ
【佐藤優】トランプ政権では少数派が多数派になっても発言権が増えない ~そのカラクリ~
【佐藤優】トランプの政策はじつは中道 ~大統領に当選した理由~
【佐藤優】商売人トランプは儲かる戦争をする ~軍事費1割増は経済政策~
【佐藤優】大使館が引っ越すと第三次世界大戦の引き金になる ~地獄の釜の蓋が開く~
【佐藤優】トランプを理解する二つ目のカギ ~「イスラエル中心主義」~
【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~
【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか

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【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』

2017年09月06日 | 批評・思想
★アナスタシア・マークス・デ・サルセド(田沢恭子・訳)『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』(白揚社、2017/2,808円) 
  スーパーで買い物中、携帯にメールが届いた。
 「私、ミリーさん。今、あなたの後ろ30メートルのところにいるの」
 何のいたずらだろう。無視して食パンをカゴに放り込む。また着信音が鳴る。
 「私、ミリーさん。アメリカ生まれなの。今、あなたの後ろ20メートルよ。
 ご存知(ぞんじ)かしら、その食パンはパンじゃないの。ほんとは半日かかるイースト菌の発酵を50分で打ち切って、かわりにかさ増しと老化防止の酵素をぶち込んで1週間以上保つよう加工した『非老化性パン様食品』ね。2度の世界大戦で効率化を求めて普及したのよ」
 うるさいなあ。お菓子の棚で、また着信音が鳴る。
 「私、ミリーさん。ご存知かしら、アメリカ陸軍では第2次大戦で前線への輸送コストを減らすため、ポテトや卵やチーズを片っ端から乾燥させて実験したの。チーズパウダーをまぶしたスナック菓子は、そのときの開発の余禄なのよ。
 あ~でも気温50℃のバグダッドでも溶けないチョコレートの開発はまだなの、くやしいわ」
 へえ、そうなんだ。そうそう、夜食用にレトルトカレーを補充しとこう。
 「私、ミリーさん。もち、ミリタリーの略称よ。
 レトルトパウチって、すごい発明よね。プラスチックを包装材に。陸軍20年の苦心の賜物(たまもの)よ。でも、フタル酸エステルが食品に溶け出して人体に悪さするって研究もあるわ。頑健な兵士ではない、赤ちゃんなんかは避けたほうがいいかも」
 じゃ、やめとこ。あ、サラダも買わなくちゃ。
 「私、ミリーさん。今、あなたの後ろ5メートル。生鮮青果の保存は最難題、エチレン除去装置を輸送コンテナに設置するの」
 がんばってね。
 「私、ミリーさん。もうあなたの胃の中よ。自分は何を食べてるのか、正体を見きわめたければ、この本、読むといいわ」
 今日もどこかで着信音が鳴る。

□山室恭子(東京工業大学教授・歴史学)「(書評)『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』」(朝日新聞デジタル 2017年8月27日)を引用
(書評)『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
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【南雲つぐみ】オイスターソース

2017年09月05日 | 医療・保健・福祉・介護
 オイスターソースの発祥は中国。カキの発祥は中国。カキの煮汁などのエキスに砂糖、小麦粉などを合わせたものだ。カキを調理するときに出た煮汁を煮詰めて、偶然発見されたという説もある。独特のうまみに加えて甘みと粘度が強く、少しくせも感じられる。
 私は青椒肉絲(チンジャオロース)などの中華の炒め物や煮込み料理などに使うものだと思っていた。全部使いきらないうちに、賞味期限を過ぎて処分してしまうこともよくあった。
 実はいろいろな素材となじみやすく、和食や洋食メニューでも味を引き立ててくれるのだ。たとえばカレーライスの隠し味に使うと、辛さに深みが出てくる。オムライス、スパゲティナポリタン、焼きそば、おでん、から揚げの漬け込み汁にもオイスターソースを加えるといい。火を通すとくせもなくなり、優しい甘みやうまみが引き出される。こくの深いまろやかな味わいに仕上げてくれる。
 ゆでたチンゲンサイやクウシンサイには、オイスターソースと暖めたごま油をかけるだけでもおいしい。

□南雲つぐみ(医学ライター)「オイスターソース ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年8月27日)を引用
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【保健】活動格差が肥満を招く ~72万人に対する調査で判明~

2017年09月05日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)座りっぱなしで歩かない習慣は、「肥満」という健康リスクを誘発するとして、近年、世界的に問題視されている。
 歩行に関する基礎データを集めるべく、米スタンフォード大学の研究チームが、スマートフォンのアプリケーションを介して膨大なデータを収集した(世界111カ国、約72万人分)。合計6,800万日分、平均95日間の歩行を調査し、さらに、46の国と地域のデータを詳細に分析した。

 (2)その結果、世界の人々・・・・スマホを持てる生活水準の人の1日の平均歩数は4,961歩、と判明した。
  (a)歩数が最も多かったのは香港で、6,880歩、最も少なかったのはインドネシアの3,513歩だった。
  (b)日本は6,010歩で、中国6,189歩、ウクライナ6,107歩に次ぐ第4位だった。この四つの国・地域において「体格指数30以上」の肥満率は、香港5.6%、中国3.7%、ウクライナ8.6%、日本は5.5%だった。
  (c)逆に肥満率から歩数をみると、肥満大国である米国の肥満率は27.7%(3人に1人!)、1日の平均歩数は4,774歩だった。
  (d)米国のお隣のメキシコは、4,692歩と、米国との歩数の差はそれほどないが、肥満率は18.1%にとどまった。

 (3)研究者は、「平均歩数そのものより“よく活動する人”と“活動しない人”との間にある“活動格差”がその国や地域の肥満率に大きく影響する」と指摘している。
 活動格差が大きいほど、肥満が増える・・・・平たくいえば、「活動貧困者」が各国の肥満率を押し上げているわけだ。
 実際、米国とメキシコでは米国の活動格差の方が大きい。また、(2)-(a)のインドネシアも活動格差は米国より小さく、平均歩数が最も少ないにもかかわらず、肥満率は11.2%だった。自家用車や簡単・便利の普及度の違いが背景にあるのだろう。活動格差が大きい国では、特に女性の活動量がどっと減る傾向がみてとれる。

 (4)幸い、日本は活動格差、肥満率ともに低く、まずまず健康的な国らしい。男女とも勤勉に歩き回り働く姿は時に奇異に映るようだが、活動格差が健康格差=肥満として表出するよりマシかもしれない。

□井出ゆきえ(医学ライター)「活動格差が肥満を招く/72万人に対する調査で判明 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.363~」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月2日号)
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 【参考】
【保健】認知症の発症を予防する/10代から意識すべき9因子
【保健】10代の望まない妊娠を防ぐ ~長期間効果がある避妊法を選択~
【保健】糖尿病網膜症リスクを軽減 ~26メッツ・時/週以上の運動~
【保健】ヒアリにどう対処する? ~アナフィラキシーに注意~
【保健】鬱に効くボルダリング ~悲観的な自動思考を解消~
【保健】主食をしっかり食べると公平な判断ができる
【保健】梅雨明け~お盆は熱中症の季節 ~危ない人、予防と対応法~
【保健】塩分過剰で空腹に ~高血圧どころかメタボに~
【保健】満腹より栄養素に目を向けて ~収入が低い世帯は主食頼み~
【保健】だるいときほど階段昇降を ~カフェインより効果的~
【保健】成人ADHDの予備診断 ~六つの質問でクリーニング~
【保健】“ベンゾ系薬剤”に注意 ~常用量でも薬物依存を形成~
【保健】ギャンブル依存症ってなに? ~最新の定義は「プロセス依存」~
【保健】グルテンフリー食の功罪 ~結局、2型糖尿病に?~
【保健】アジア系2型糖尿病でも全がん死リスクが上昇
【保健】「男の更年期」改善効果に疑問符 ~テストステロン補充療法~
【保健】狩猟・採集民族のチマネの人々に学ぶ ~現代的な生活は健康リスク~
【保健】玄米でカロリー消費! ~30分程度の運動に匹敵~
【保健】1日あたり0.5合程度が上限 ~認知症を予防する飲酒量~
【保健】電子たばこで禁煙補助? ~英米で見解の相違~
【保健】二つの睡眠時無呼吸症候群 ~閉塞性か中枢性かで違い~
【保健】不安やうつはがんの初期症状? ~結腸・直腸、膵臓などで関連~
【保健】赤身肉は魚や鶏肉に置き換えて ~大腸憩室炎の発症リスクを軽減~
【保健】学会監修の防災セットが限定発売 ~心臓を守るリストも~
【保健】前立腺癌の手術で優れているのは ~ダ・ヴィンチvs人の手~
【保健】サウナで認知症リスクが低下 ~本場フィンランドの報告~
【保健】ポケモンGOで運動量up! ~仲間でワイワイの効果~
【保健】「過剰診断」か「見落とし」か ~マンモグラフィー検診のリスク~
【保健】悪性腫瘍ばりの「足の狭心症」 ~運動・喫煙で早期に対応を~
【保健】ワクチンを接種し損ねても ~インフル予防に補中益気湯~
【保健】高齢者は健康な生活、他方、若い世代は生活習慣に課題
【保健】子供の感染性急性胃腸炎に ~家庭でできる経口補水療法を~
【保健】痛風発作の薬は低用量で/米国のガイドラインが推奨
【保健】社会文化的伝統は肥満のもと ~年末~春は危険だらけ~
【保健】サルコペニア肥満で糖尿病!? ~筋肉減でインスリン分泌低下~
【保健】子どもの砂糖摂取量は1日25g以下に ~肥満症対策のため清涼飲料より水~
【保健】偽薬効果は学習効果? ~慢性的な腰痛が軽減~
【保健】中高年の性行動と認知機能
【保健】揚げ物はレジリエンス(心の弾力・回復力)に悪影響?
【保健】カロリー制限か運動療法か、どちらか一つじゃダメか?
【保健】遺伝子検査で再発リスクを評価 ~乳癌、抗癌剤治療の回避も~
【保健】慢性疲労症候群に関係か ~腸内細菌叢~
【保健】脳トレに有酸素運動をプラス ~認知機能と記憶力が向上~
【保健】標準体重なのに2型糖尿病?/BMIが「1」増加しただけで
【保健】受動喫煙は確実に癌、脳・心疾患、乳幼児突然死症候群を生む
【保健】嫌な気分の時こそ、動く ~うつ病治療に行動活性化療法~
【保健】孤独リスクも欧米化する?/宴会文化が廃れた後は
【保健】茶カテキンによる肝障害でノルウェーがサプリメント含有量規制へ
【保健】学んで4時間後に運動すると記憶が定着 ~記憶術~
【保健】飲む抗癌剤で生存率改善へ ~膵臓癌の再発を抑制~
【保健】恐竜も腫瘍を患う ~癌は進化の宿命~
【保健】高血圧にはモーツァルト ~安静に寝ているより効果的~
【保健】塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い
【保健】悲しいと食べすぎる ~食べ放題は幸せなときに~
【保健】「夏の蚊対策国民運動」 ~ジカ熱対策~
【保健】2型糖尿病発症にも民族差/アジア系は「BMI23」でリスク
【保健】ジャガイモに高血圧リスク/ノンオイルでも要注意 
【保健】ADHDに「ゲーム療法」?/2製品が臨床試験へ
【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~
【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~
【保健】眼底検査で何がわかるか ~眼疾患だけではない~
【保健】弾性ストッキングが効果的 ~エコノミークラス症候群対策~
【保健】マインドフルネスで腰痛改善 ~認知行動療法と同じ効果~
【保健】歯磨きが心血管疾患を予防 ~毎食後で発症リスクを軽減~
【保健】ガン=生存時代の就労支援 ~治療と仕事の両立に指針~
【保健】糖尿病患者の降圧目標値 ~140mmHgでよい?~
【保健】睡眠不足でスナック菓子を渇望、体重増加 ~大麻並みの快楽
【保健】コーラ1缶で薬の吸収率がアップ ~抗癌剤の薬効~
【保健】その一言で妻の2型糖尿病リスクが減少 ~「先に寝ていて」~
【保健】先進国では認知症が減少? ~予防の鍵は生活習慣の改善~
【保健】生活設計は長期戦か短期決戦か ~癌の臓器別・病期別生存率~
【保健】イチゴとオレンジはEDに効く ~米国の研究報告~
【保健】高齢者の服薬適正化にGL ~容易な多剤併用に警鐘~
【保健】朝食抜きに脳卒中リスク 阪大など調査 大規模調査で1.18倍高
【保健】下剤は脳・心血管疾患リスク> ~背景にストレスや運動不足~
【保健】高脂肪食でシナプスが消失? ~動物実験~
【保健】2型糖尿病とフライド・ポテトとの関係 ~ポテトは煮物で~
【保健】世帯の所得と健康リスクの関係 ~食習慣と飲酒習慣~
【保健】抗がん剤の価格差は最大4倍以上 ~WHOの調査~
【保健】より危険な睡眠時無呼吸 ~脳・心疾患のリスク増~
【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~
【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~
【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~
【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~
【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~
【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~
【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・
【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~
【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~
【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~
【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~
【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~
【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?
【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~
【保健】長時間労働は脳卒中リスク ~週41~48時間でも上昇~
【保健】ほぼ毎日食べると、死亡リスクが14%減少 ~唐辛子~
【保健】水族館でリラックス効果 ~血圧・心拍数に好影響~
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【朝日俳壇抄】つむじ風空蝉そらを飛びにけり ~9月4日~

2017年09月04日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<稲畑汀子選>
 ①包丁の抜き差しならぬ西瓜(すいか)かな (東かがわ市)桑島正樹
 ②一瞬に満開となる水中花(神戸市)森岡喜恵子
 ⑥一生とはまこと短かし魂迎 (北海道鹿追町)高橋とも子
 ⑨他人(ひと)事のやうな白寿や生身魂(高崎市)山口博
 【評】一句目。大きな西瓜に包丁を入れたものの、切ることも抜くことも出来なくなった作者の困惑。二句目。ガラスの器の水に沈めた水中花。一瞬で満開になるとは妙。(後略)

<金子兜太選>
 ①戦記もの読む渾身(こんしん)の夏休み (横浜市)本多豊明
 ④夾竹桃(きょうちくとう)原爆の死は続きをり (浜松市)北河覚
 ⑤潮時と思ふ一事や髪洗ふ (横浜市)渡辺萩風
 ⑦探し得ぬまま迎火を焚(た)けるかな (大阪市)今井文雄
 【評】時節柄戦争を詠む句が多かった。本多さん、忘れないぞの意気込み。(後略)

<長谷川櫂選>
 ①捨て石の三百万や敗戦忌(福島県伊達市)佐藤茂
 ⑤原爆の日を刻み打つ時計かな(和歌山県上富田町)中松健
 ⑧鮎とどく然(しか)も長良の香して(愛西市)小川弘
 【評】戦争の秀句が並ぶ。一席。一個の捨て石も生まぬ外交と国造りを、と願う。(後略)

<大串章選>
 ①つむじ風空蝉(うつせみ)そらを飛びにけり (横浜市)守屋雅
 ③揚花火終焉の美を教へけり (岡崎市)米津勇美
 ④原爆忌気温三十七度なり(横須賀市)海老名さつき
 【評】第一句。つむじ風のおかげで、初めて空を飛ぶことができた。空蝉の喜び。第二句。敗戦後七十二年経った今も、マッカーサー元帥のサングラスとパイプが忘れられない。第三句。フィナーレの美しさ、人生もかくありたい。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年9月4日)
朝日俳壇
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 【参考】
【朝日俳壇抄】蟻地獄あなたの帰り待つてます ~8月28日~
【朝日俳壇抄】八月や骨で還れの骨さへも ~8月21日~
【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~
【朝日俳壇抄】渾渾と泉湧きくる日野原忌 ~8月7日~
【朝日俳壇抄】天の川鳴門の渦に流れ入る ~7月31日~
【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~



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【佐藤優】ハプスブルク帝国史の「もし」、最新の進化論、神童の軌跡

2017年09月04日 | ●佐藤優
 ①岩﨑周一著『ハプスブルク帝国』(講談社現代新書 1,000円)
 ②カール・ジンマー、ダグラス・J・エムレン(更科功、石川牧子、国友良樹・訳)『進化の教科書 第3巻 系統樹や生態から見た進化』(講談社ブルーバックス 1,800円)
 ③小林哲夫『神童は大人になってどうなったのか』(太田出版 1,500円)

 (1)①を読むと、この帝国の面白さに引き付けられる。例えば1948年の革命だ。
 <プラハでは知識人と小市民層が革命の担い手となり、チェコ諸邦の共通議会の設立、チェコ語とドイツ語の同権化などを認めさせた。その指導者となったのは、「チェコ民族を死から蘇らせる」ことを目指した歴史研究から出発し、徐々に政治への関与を深めていったフランティシェク・パラツキーである。彼は、ハプスブルク君主国を自由で平等な中欧の諸民族よりなる連邦制国家に再編し、ドイツとロシアに伍そうとする「オーストリア・スラヴ主義」を掲げ、注目を集めた>
 チェコ人のナショナリズムが独立ではなく、ドイツとロシアから小民族であるチェコ人を守るというリアリズムからハプスブルク帝国の再編強化に向かうところが面白い。第1次世界大戦でハプスブルク帝国が勝利していたならば、多元性の中での一致を実現するヨーロッパ合衆国ができ、ナショナリズムの暴走を抑え、第2次世界大戦を避けることができたかもしれない。

 (2)②は、生物学の専門知識がない読者でも最新の進化論が学べる丁寧な作りの本だ。
 <行動は遺伝する。ある個体がどのくらい好奇心旺盛か、あるいは臆病かは、両親に似る傾向がある。行動に関与する遺伝子の候補は同定されつつあるし、同じ遺伝子でも発現パターンが異なれば、行動も異なる場合があることがわかってきた。行動は選択に素早く応答するので、対立遺伝子が行動に影響を与える場合は、研究室での実験によって確認することができる>
 という指摘が興味深い。評者が好奇心旺盛なのも両親からの遺伝があるからかもしれない。

 (3)③は、成績が傑出して優秀な神童の軌跡を丹念に追っている。
 <頭のよさを構成するポイントとして、自分の力を冷静に分析できる、それを磨く方法を知っている、そこから結果を示せる--ことがあげられよう。膨大な知識や技術を有し斬新なアイデアを次から次へと生み出す学者や技術者、リーダーシップや統率力などを発揮する政治家や社長、そして官僚や法曹人。ほか、さまざまな分野で活躍する逸材たち。彼らのようになるために必要な資質や能力が身につくのであれば早期教育、英才教育はおおいに意味はある>
 という指摘はその通りと思う。社会にはエリートが必要だ。嫉妬心から神童の足を引っ張るのではなく、この人たちの能力を社会に還元できるような環境を整えることが必要だ。

□佐藤優「ハプスブルク帝国史の「もし」 ~知を磨く読書 第213回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月9日号)
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 【参考】
【佐藤優】知識を本当に身に付けるには、テロ戦争におけるドローンの重要な役割、帰宅恐怖症
【佐藤優】北朝鮮との緊張の高まりに対して必要な姿勢、時間管理と量子力学、時間がかかるのは損
【佐藤優】川喜田二郎『発想法』 ~総合的思考と英国経験論哲学~
【佐藤優】日本の思想状況の貧しさ、頑丈にできている戦闘機、東方正教会に関する概説書
【佐藤優】資本主義の根底にある「勤勉さ」という美徳の淵源 ~『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』~
【佐藤優】手ごわいフェイクニュース、国を動かす政治エリートの意志、欧州内部における紛争
【佐藤優】×奥野長衛『JAに何ができるのか』
【佐藤優】『戦争論』をビジネスに活かす、現実社会の悪と闘う、ロシア人の意識と使命感
【佐藤優】面白い数学啓発書、日本人の思考の鋳型、攻める農業への転換
【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学(2) ~川喜田二郎『発想法』~
【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学 ~川喜田二郎『発想法』~
【佐藤優】保守論客が見た明治憲法、軍事産業にシフトしていく電機メーカー、安全と安心を強化する過程に入り込む犯罪者
【佐藤優】就活におけるネット社会の落とし穴、裁判官の資質、象徴天皇制と生前退位問題
【佐藤優】痛みを無視しない、前大戦で「前線」と「銃後」の区別がなくなった、情報を扱う仕事の最大の武器
【佐藤優】海上権力を維持するために必要な要素 ~イギリスの興亡の歴史を通して~
【佐藤優】女性の貧困を追跡したノンフィクション、師弟関係こそ教育の神髄、イランは国際基準から逸脱した国
【佐藤優】2000年の時を経て今なお変わらないインテリジェンスの「真髄」 ~孫子~
【佐藤優】財政から読みとく日本社会、ラジオの魅力、高校レベルの基礎の大切さ
【佐藤優】嫌韓本と一線を画す韓国ルポ、セカンドパートナーの実態、日本人の死生観
【佐藤優】人間にとって「影」とは何か ~シャミッソー『影をなくした男』~
【佐藤優】文部省の歴史と現状、経済実務家のロシア情勢分析、中国の対日観
【佐藤優】学習効果が上がる「入門書」、応用地政学で見る日本、権力による輿論のコントロールを脱構築
【佐藤優】大川周明『復興亜細亜の諸問題』 ~イスラーム世界のルール~
【佐藤優】女性と話すのが怖くなる本、ネット情報から真実をつかみ取る技法、ソ連とロシアに共通する民族問題
【佐藤優】ヨーロッパ宗教改革の本質、相手にわかるように説明するトレーニング、ロシア・エリートの欧米観
【佐藤優】なぜ神父は独身で牧師は結婚できるのか? 500周年の「革命」を知る ~マルティン・ルター『キリスト者の自由』~
【佐藤優】政界汚職を描いた古典 ~石川達三『金環蝕』~
【佐藤優】生きた経済の教科書、バチカンというインテリジェンス機関、正しかった「型」の教育
【佐藤優】誰かを袋だたきにしたい欲望、正統派の書評家・武田鉄矢、追い込まれつつある正社員
【佐藤優】発達障害とどう向き合うか、アドルノ哲学の知的刺激、インターネットと「情報犯罪」
【佐藤優】後醍醐天皇の力の源 「異形の輩」とは--日本の暗部を突く思考
【佐藤優】実用的な会話術、ユーラシア地域の通史、宇宙ロケットを生んだ珍妙な思想
【佐藤優】キブ・アンド・テイクが成功の秘訣、キリスト教文化圏の悪と悪魔、理系・文系の区別を捨てよ
【佐藤優】企業インテリジェンス小説 ~梶山季之『黒の試走車』~
【佐藤優】中東複合危機、金正恩の行動を読み解く鍵、「型破り」は「型」を踏まえて
【佐藤優】後世に名を残す村上春樹新作、気象災害対策の基本書、神学の処世術的応用
【佐藤優】地学の魅力、自分の頭で徹底的に考える、高等教育と短期の利潤追求
【佐藤優】日本人の特徴的な行動 ~日本礼賛ではない『ジャパン・アズ・ナンバーワン』~
【佐藤優】知を扱う基本的技法、ソ連人はあまり読まなかった『資本論』、自由に耐えるたくましさ
【佐藤優】後知恵上手が出世する? ~ビジネスに役立つ「哲学の巨人」読解法~
【佐藤優】トランプ政権の安保政策、「生きた言葉」という虚妄、キリスト教の開祖パウロ
【佐藤優】「暴君」のような上司のホンネとは? ~メロスのビジネス心理学~
【佐藤優】物まね芸人とスパイの共通点、新版太平記の完成、対戦型AIの原理
【佐藤優】トランプ側近が考える「恐怖のシナリオ」 ~日本も敵になる?~
【佐藤優】弱まる日本社会の知力、実践的ディベート術、受けるより与えるほうが幸い
【佐藤優】トランプの「会話力」を知る ~ワシントンポスト取材班『トランプ』~
【佐藤優】「不可能の可能性」に挑む、言語の果たす役割の大きさ、NYタイムズ紙コラムニストの人生論
【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~
【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教
【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議
【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所
【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~
【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国
【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~
【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化
【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築
【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品
【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~
【佐藤優】組織の非情さが骨身に沁みる ~新田次郎『八甲田山死の彷徨』~
【佐藤優】プーチン政権の本質、2017年の論点、ロシアと欧州
【佐藤優】国際人になるための教科書、ストレスが人間を強くする、日本に易姓革命はない
【佐藤優】ロシアでも愛された知識人の必読書 ~安部公房『砂の女』~
【佐藤優】トランプ当選予言の根拠、猫の絵本の哲学、人間関係で認知症を予防
【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口
【佐藤優】トランプを包括的に扱う好著、現代日本外交史、独自の民間外交
【佐藤優】デモや抗議活動のサブカルチャー化、グローバル化に対する反発を日露が共有、グローバル化に対する反発が国家機能を強化
【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
【佐藤優】住所格差と人生格差、人材育成で企業復活、教科書レベルの知識が必要
【佐藤優】数学嫌いのための数学入門、西欧的思考にわかりやすい浄土思想解釈、非共産主義的なロシア帝国
【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
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【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築
【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~
【佐藤優】未来の選択肢二つ、優れた文章作法の指南書、人間が変化させた生態系
【佐藤優】+宮家邦彦 世界史の大転換/常識が通じない時代の読み方
【佐藤優】人びとの認識を操作する法 ~ゴルバチョフに会いに行く~
【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~
 
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【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』

2017年09月04日 | 歴史
★アナスタシア・マークス・デ・サルセド(田沢恭子・訳)『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』(白揚社、2017/2,808円) 
  スーパーで買い物中、携帯にメールが届いた。
 「私、ミリーさん。今、あなたの後ろ30メートルのところにいるの」
 何のいたずらだろう。無視して食パンをカゴに放り込む。また着信音が鳴る。
 「私、ミリーさん。アメリカ生まれなの。今、あなたの後ろ20メートルよ。
 ご存知(ぞんじ)かしら、その食パンはパンじゃないの。ほんとは半日かかるイースト菌の発酵を50分で打ち切って、かわりにかさ増しと老化防止の酵素をぶち込んで1週間以上保つよう加工した『非老化性パン様食品』ね。2度の世界大戦で効率化を求めて普及したのよ」
 うるさいなあ。お菓子の棚で、また着信音が鳴る。
 「私、ミリーさん。ご存知かしら、アメリカ陸軍では第2次大戦で前線への輸送コストを減らすため、ポテトや卵やチーズを片っ端から乾燥させて実験したの。チーズパウダーをまぶしたスナック菓子は、そのときの開発の余禄なのよ。
 あ~でも気温50℃のバグダッドでも溶けないチョコレートの開発はまだなの、くやしいわ」
 へえ、そうなんだ。そうそう、夜食用にレトルトカレーを補充しとこう。
 「私、ミリーさん。もち、ミリタリーの略称よ。
 レトルトパウチって、すごい発明よね。プラスチックを包装材に。陸軍20年の苦心の賜物(たまもの)よ。でも、フタル酸エステルが食品に溶け出して人体に悪さするって研究もあるわ。頑健な兵士ではない、赤ちゃんなんかは避けたほうがいいかも」
 じゃ、やめとこ。あ、サラダも買わなくちゃ。
 「私、ミリーさん。今、あなたの後ろ5メートル。生鮮青果の保存は最難題、エチレン除去装置を輸送コンテナに設置するの」
 がんばってね。
 「私、ミリーさん。もうあなたの胃の中よ。自分は何を食べてるのか、正体を見きわめたければ、この本、読むといいわ」
 今日もどこかで着信音が鳴る。

□山室恭子(東京工業大学教授・歴史学)「(書評)『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』」(朝日新聞デジタル 2017年8月27日)を引用
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【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』

2017年09月03日 | 批評・思想
★梅原猛『梅原猛の授業 仏教』(朝日新聞社、2002年)

 本書は、仏教を中学生に講義した内容をまとめたものである。著者の梅原猛は、道徳を基礎付けるのは宗教であるという信念に基づき、あとがきに(この講義が生徒の生き方を左右するかもしれないとの思いから)「難しい学問や思想をわかりやすくどのように生徒に伝えるか、改めて学者の力量が試される」と熱意を記した。
 梅原は、現代日本に足りないのは道徳で、それを正すには日本の宗教である土着の仏教を学ぶべきだと説く。語り口からは、哲学者でありながら、古代学や日本学を提唱し、歴史学者や僧侶との論争を物ともせず、自由な“梅原学”を生んだ自信が漲る。最澄と空海、法然と親鸞を比較し、自利利他の日本仏教を簡潔に説明する。中学生だけに聞かせるのはもったいない。

□庄司太郎(元アラビア石油取締役、オイルアナリスト)「梅原仏教で利他の心を知る ~名著未読・再読~」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月9日号)を引用
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【南雲つぐみ】飲み残しのビールで美味な料理を

2017年09月03日 | 医療・保健・福祉・介護
 ワインや日本酒はまだしも、一度栓を開けたビールを翌日飲む気はしないものだ。
 ある日ビールが残ってしまったが、ビールに含まれる酵母が肉の繊維を柔らかくして、高級な煮込み料理に変身させてくれると聞いたので、早速試してみた。
 豚のかたまり肉を、スープとビール1カップとで煮込んだところ、1時間ほどで柔らかく美味に仕上がった。鶏もも肉でも調理してみたら、まさに「箸でほろりと崩れるほど」という形容詞が当てはまる出来栄え。カレーの下煮などに使ってもよさそうだ。そのほか、残ったビールを天ぷらの衣に少し入れるとサクッとなり、漬物や炊き込みご飯に加えても風味が増しておいしくなるという。なお、余った缶ビールは保存容器に移して冷蔵庫に入れ、1~2日で使い切るようにしよう。
 ビールはリンが含まれるので観葉植物や植木の肥料になるそうだ。気の抜けたビールを5倍くらいに薄めてプランターの土にまいてもいいし、布に含ませて、葉の厚い観葉植物の表面をふくと汚れ取りとツヤ出しの効果が期待できる。

□南雲つぐみ(医学ライター)「飲み残しのビールで ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年7月14日)を引用
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